2026年4月、日本の電力市場に静かだが決定的な転換点が訪れる。需給調整市場において、家庭用蓄電池やEVなどの「低圧リソース」の活用が本格的に解禁される。これまで火力発電所や大規模蓄電池など高圧・特別高圧接続のリソースに限られていた電力の需給調整に、一般家庭や中小事業所の分散型電源が参加できるようになる。VPPプラットフォーム大手のShizen Connectが2026年の年頭所感で「低圧VPP元年」と宣言した通り、DER(分散型エネルギーリソース)アグリゲーション市場が実質的に立ち上がる年となる。

家庭に分散するエネルギー機器をIoT/AIで束ね、電力市場に「ひとつの発電所」として参加する
何が変わるのか──制度の全体像
需給調整市場とは、電力の需要と供給をリアルタイムで一致させるために必要な「調整力」を取引する市場だ。電力広域的運営推進機関(OCCTO)が運営し、一般送配電事業者が調整力を調達する仕組みである。
資源エネルギー庁は2022年11月に「次世代の分散型電力システムに関する検討会」を設置し、2023年3月の中間とりまとめで2026年度から低圧リソースの需給調整市場参加と「機器個別計測」の適用開始を決定した。従来は受電点(建物全体)単位での計測が求められていたが、蓄電池やEVなど個々の機器レベルでの計測が可能になることで、需要変動の影響を受けにくい、より精度の高い調整力の供出が実現する。

低圧リソースへの市場開放は日本の電力システムにとって大きな転換点となる
2026年4月からの主な制度変更は以下の通りだ。
| 変更項目 | 内容 |
|---|---|
| 低圧リソースの市場参加 | 家庭用蓄電池・EV・エコキュート等がアグリゲーターを通じて需給調整市場に参加可能に |
| 機器個別計測の導入 | 受電点計測に加え、機器単位での調整力供出を可能にする計測方式を導入 |
| 取引の前日化・30分コマ化 | 一次〜三次①の週間商品が前日取引に移行し、取引単位が30分コマに細分化 |
| 上限価格の見直し | 一次・二次②・複合商品の上限価格が大幅に引き下げられる見込み |
配電系統の末端に分散する数百〜数万台規模の低圧リソースを「ひとつの調整力」として束ね、アグリゲーターを通じて市場に供出する──この仕組みが、制度として正式に動き出すことになる。
Shizen Connectの戦略──「全市場対応」への布石
この制度変更を最も積極的に事業機会として捉えているのが、DR・VPPプラットフォーム市場で法人契約数シェアNo.1(富士経済調べ、2023年度実績・約25%)を持つShizen Connectだ。同社は2026年1月の年頭所感で、今年の事業方針として3つの柱を打ち出した。
① 低圧VPPの全市場対応とリソース拡大
2026年中に低圧リソースによる容量市場の実需給開始、および需給調整市場の一次オフライン枠での実需給開始を目指すとしている。これが実現すれば、卸市場・容量市場・需給調整市場の「全市場対応」が完成する。同社のプラットフォームを採用する電力小売事業者の低圧電灯市場シェアは合計36%に達しており、東京ガス、東京電力エナジーパートナー、東北電力、北陸電力などの大手が名を連ねる。
② 系統用蓄電池制御のSaaS拡大
系統用蓄電池の運用代行で3件の商用運用を開始済み。大手発電事業者やアグリゲーター向けのSaaS提供先は2026年初頭に10社に達する見込みだ。
③ 24/7カーボンフリー電力の実証
データセンター事業者などを対象に、1時間単位で需要と再エネ供給を一致させる「Hourly Matching向け制御」の商用化に向けた実証を進める。
注目すべきは、同社の連携済み家庭用蓄電池メーカーが9社に拡大し、国内家庭用蓄電池市場における出荷台数ベースのシェア約80%をカバーしている点だ。蓄電池メーカーとの連携基盤が整った状態で制度開始を迎えることは、立ち上がり期のスピードに直結する。
なぜ「今」なのか──3つの制度が同時に動く2026年
2026年度は需給調整市場の低圧開放だけでなく、複数のエネルギー制度が同時に変わる。省エネ法の改正、排出量取引制度の本格稼働、建築物省エネ法の基準強化が重なり、電力を「使う側」が主体的に動く時代が到来する。
特にZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やGX-ZEHといった次世代住宅の普及と連動する点が重要だ。これらの住宅には太陽光パネルと蓄電池が標準的に搭載されるが、今回の制度変更により、その蓄電池は単なる自家消費・停電対策の設備から、需給調整市場で収益を生む「調整力資産」へと位置づけが変わる。Shizen Connectも年頭所感で、ZEH・GX-ZEH向けの補助金対応を強化する方針を明言している。
住宅メーカーやHEMSベンダーにとっては、蓄電池の提案ロジックそのものが変わることを意味する。設備の経済性を「電気代削減+BCP対策」だけでなく「市場収益」も含めて説明できるようになり、導入の投資回収年数が短縮される可能性がある。
事業開発の示唆──DERアグリゲーターの収益化が本格フェーズに
これまでDERアグリゲーション事業は実証段階にとどまっていた。経済産業省の「VPP構築実証事業」や「DERアグリ実証事業」を通じて技術検証は進んでいたものの、低圧リソースが正式に市場参加できなかったため、収益モデルは限定的だった。
2026年4月以降、アグリゲーターは以下のような複数の収益源を組み合わせた事業モデルを構築できるようになる。

低圧リソースを束ね、卸市場・容量市場・需給調整市場・需要創出DRの4つの市場を横断して収益を最適化する
| 収益源 | 概要 |
|---|---|
| 経済DR | 卸市場価格の高騰時に需要を抑制し、電力調達コストを削減 |
| 容量市場 | 発動指令電源として供給力を確保し、容量市場からの報酬を獲得 |
| 需給調整市場 | 一次〜三次の調整力を供出し、取引報酬を獲得(2026年度〜) |
| 需要創出DR | 再エネ余剰時にエコキュート等の稼働を前倒しし、出力制御を抑制 |
DERアグリゲーターの事業モデルが、実証から収益化フェーズに移行する転換点だといえる。ただし、需給調整市場の上限価格引き下げや募集量の抑制も同時に進むため、単一市場に依存する「一本足打法」ではなく、複数市場を横断した収益最適化の技術力が問われることになる。
留意点──楽観だけでは語れない構造的課題
もちろん、課題も残る。需給調整市場の2026年度上限価格は大幅に引き下げられる見込みであり、蓄電池同士の価格競争が激化する懸念がある。一次調整力の想定応札量の約半分を蓄電池が占めるとの予測もあり、供給過多による単価下落リスクは無視できない。
また、低圧リソースのアグリゲーションには、数百〜数万台の機器を束ねてリアルタイムに制御する「群管理」技術が不可欠だ。制御の精度やレスポンスタイムの要件を安定的に満たすには、プラットフォーム側の技術成熟度が求められる。
さらに、一般家庭のユーザーにとって「自宅の蓄電池を外部から遠隔制御される」ことへの心理的ハードルも存在する。ポイント還元や電気代削減といったインセンティブ設計と、丁寧なコミュニケーションが普及の鍵を握る。
まとめ──「使う側」が「稼ぐ側」に変わる時代の始まり
2026年4月の需給調整市場における低圧リソース解禁は、日本の電力システムにおける構造的な転換を象徴する出来事だ。エネルギーを「使う側」が「稼ぐ側」へと変わる──その転換点が、まさに今年訪れる。
住宅蓄電池が調整力資産へと再定義され、DERアグリゲーターの収益化が本格化し、ZEH・GX-ZEH普及と連動した新たなエネルギーバリューチェーンが形成される。エネルギー事業に関わるすべてのプレーヤーにとって、2026年は戦略の再構築を迫られる年になるだろう。
参考リンク集
制度・政策関連
- 2026年度から低圧リソースも需給調整市場に参画へ、押さえておきたい制度の概要(スマートジャパン/ITmedia、2023年8月)──低圧リソースの需給調整市場参加と機器個別計測の制度設計について詳しく解説。
- 需給調整市場について(資料4)(資源エネルギー庁、2025年10月)──2026年度以降の需給調整市場の対応方針、前日取引化・上限価格の議論をまとめた審議会資料。
- 需給調整市場について(資料6)(資源エネルギー庁、2025年12月)──募集量の1σ相当への統一や上限価格水準の検討経緯をまとめた審議会資料。
- 需給調整市場の2026年4月からの制度対応に伴う算定諸元の見直しについて(中部電力パワーグリッド)──機器個別計測・低圧アグリ導入に伴う料金計算諸元の変更情報。
- 低圧リソースの活用をはじめとしたアグリゲーションビジネス拡大のための実証事業(エナリス/SII)──低圧リソースによる三次調整力②や一次調整力への参入可能性を検証した実証事業の報告資料。
業界動向・解説記事
- 2026年、日本の電力需要家に訪れる3つの大変革。需給調整市場を低圧リソースに開放(SOLAR JOURNAL、2025年12月)──省エネ法・排出量取引制度・需給調整市場の3つの同時改正を俯瞰する解説記事。
- 2026年エネルギー制度改正を徹底解説|排出量取引・省エネ法・FIP制度など7つの変更点(Borderless Law、2026年1月)──2026年度のエネルギー関連制度変更を網羅的に整理した解説記事。
- 【緊急解説】2026年度、需給調整市場の上限価格が半減!?系統用蓄電池ビジネスへの深刻な影響と対策(情熱電力、2025年12月)──上限価格引き下げが系統用蓄電池ビジネスに与える影響を分析した記事。
Shizen Connect関連
- 2026年 年頭所感──新しいエネルギーと電力システムの調和に向けた「低圧VPP」元年(Shizen Connect、2026年1月)──本記事の主要ソース。低圧VPPの全市場対応、系統用蓄電池SaaS拡大、24/7 CFE実証の3つの事業方針を発表。
- Shizen ConnectがDR・VPPプラットフォームの市場シェアNo.1を獲得(自然電力グループ、2025年3月)──富士経済調査に基づく法人契約数シェア約25%のNo.1獲得を発表。
- Shizen Connect、低圧VPPの連携対象に長州産業製蓄電池を追加(Shizen Connect、2025年12月)──連携蓄電池メーカー9社・出荷台数ベースカバー率約80%の情報。
- Shizen Connectの低圧VPPサービスが需要家ごとの個別制御に対応(Shizen Connect、2025年11月)──採用小売事業者の市場シェア合計36%、需要家個別制御ロジック導入の情報。
- Shizen Connect、関西電力との容量市場向け低圧VPP実証の実証報告書を公開(自然電力グループ、2025年6月)──家庭用蓄電池による容量市場参入に関する実証結果を一般公開。報告書PDFダウンロード可能。
- Crossing Insights 第3回 Shizen Connect 松村宗和氏に聞く「分散型エネルギーとVPP」の未来とは?(EY Japan、2025年12月)──Shizen Connect CEOへのインタビュー。約1万世帯の機器制御やユーザーインセンティブ設計の考え方について解説。

