三菱自、MCリテール、英Kaluzaらが連携|アウトランダーPHEV160世帯でV2H・V2G実証

三菱自動車とMCリテールエナジー、ニチコン、英Kaluzaが、東京都のGX支援を受けて160世帯規模のV2H・V2G実証を始めました。電気自動車を「走る蓄電池」として活用し、系統安定化と家庭の電気料金削減をどこまで両立できるかを探る国内最大級の取り組みです。

目次

3行サマリー

  • 三菱自動車・MCリテールエナジー・ニチコン・Kaluzaが、東京都のGX支援を受けて160世帯規模のV2H・V2G実証に取り組む。
  • アウトランダーPHEVとニチコン製V2H、HEMSを組み合わせて、電気料金削減と再エネの有効活用、系統安定化の効果を定量的に評価する。
  • EV販売、電力小売、V2Hをセットにした「EV+電気プラン+制御サービス」のビジネスモデルが、集合住宅や郊外戸建てへ広く展開される可能性がある。

東京都GX支援で始まった家庭向けV2H・V2G実証の全体像

三菱自動車とMCリテールエナジー、ニチコン、Kaluzaは、東京都の「GX関連産業創出へ向けた早期社会実装化支援事業」に採択され、家庭向けのV2H・V2G実証を開始しました。対象は東京電力エリアの一般家庭で、最大160世帯まで拡大する計画です。

実証では、三菱自動車のアウトランダーPHEVを中心に、MCリテールエナジーの電気料金プラン、ニチコンのV2H機器、Kaluzaの制御プラットフォームを組み合わせます。東京都は補助と制度面の枠組みで後押しし、民間4社が役割を分担する構図です。

ここで使われる「車から家へ電気を送る仕組み」が、Vehicle to Home(ビークル・トゥ・ホーム:Vehicle to Home: V2H)=EVから家庭に給電する仕組みです。また、Vehicle to Grid(ビークル・トゥ・グリッド:Vehicle to Grid: V2G)=EVから系統全体へ電気を戻す仕組みも組み合わせます。

私は、このような実需家レベルの実証が今後さらに重要になると感じます。理由は、机上のシミュレーションだけでは見えない「生活パターン」と「系統の変動」が、実際のデータとして蓄積されるからです。

機器構成:アウトランダーPHEV+ニチコンV2H+HEMS

今回の実証の中心となる車両は、三菱自動車のアウトランダーPHEVです。アウトランダーPHEVは、約20kWhクラスの駆動用バッテリーを搭載し、1台で一般家庭の1〜2日分の電力をまかなえるとされています。停電時の非常用電源としても実績がある車種です。

V2H機器には、ニチコンの「EVパワー・ステーション」シリーズが使われます。代表的な機種であるVCG-666CN7は、最大6kW程度の充放電に対応し、停電時にも家庭へ給電できる仕様です。ここに、家庭内の電力を見える化・制御するホームエネルギーマネジメントシステム(Home Energy Management System: HEMS)が接続されます。

HEMSは、家庭内エネルギー管理システム=家の「電気の家計簿」のような存在です。例として、スマートメーターや太陽光発電、V2Hをつないで、いつ・どこで・どれだけ電気を使っているかを一元管理します。

一方で、V2H導入には200V配線工事や屋外設置スペースの確保が必要です。戸建てでは比較的進めやすいものの、分譲マンションや賃貸住宅では管理組合やオーナーとの調整が課題になります。この点は、実証を通じて「どの住宅タイプで導入しやすいのか」という現場感のある知見が蓄積されることが期待されます。

何を検証するか:電気料金・ピークカット・系統価値

今回の実証が狙うポイントは、大きく3つに整理できます。

  • 家庭の電気料金削減効果
  • 再エネの有効活用と需要ピークの抑制
  • 系統サービス(調整力)としての価値とビジネス性

MCリテールエナジーは、電力市場価格に連動する料金プランを提供し、30分ごとに変わる電気料金をKaluzaの制御プラットフォームへ連携します。電気自動車の充放電は、「安い時間帯に充電し、高い時間帯に放電する」方向に最適化されます。ここで家庭の電気料金と系統安定化を同時に狙う点が、従来の単純な時間帯別料金とは異なる点です。

削減効果のイメージを、あくまで概算の例として考えてみます。アウトランダーPHEVのバッテリー容量を約20kWh、そのうち10kWhを「電気のタイムセール」で活用できると仮定します。安い時間帯と高い時間帯の単価差が10円/kWhであれば、1日あたり最大で100円程度の差額になります。これが1か月続けば、3,000円前後の削減ポテンシャルです。

もちろん、実際には走行で使う分や天候、家庭の負荷パターンが影響します。そのため、160世帯規模で「現実的にはどこまで削減できるのか」を定量的に示すことが、この実証の大きな価値と言えます。

私は、もし家計の目線で分かりやすい削減額が提示されれば、V2H・V2Gへの関心は一段と高まると思います。理由は、「月にいくら浮くか」が具体的に見えると、機器導入の初期費用についても判断しやすくなるからです。

英Kaluzaの役割:アルゴリズムとスケールの輸入

Kaluza(カルーザ)は、英国OVO Energyグループ発のエネルギーソフトウェア企業です。電気自動車や家庭用蓄電池、ヒートポンプなどの分散エネルギーリソースを束ねて制御するプラットフォームを提供し、英国ではV2G実証やスマート充電サービスの実績を積んできました。

具体的には、電力市場価格や再エネ出力、系統状況といったデータに加え、EVのバッテリー残量(State of Charge: SoC)やユーザーが設定する出発時刻などを踏まえて、充放電を自動で最適化します。数十台から数万台規模のデバイスを一括制御することを前提に設計されている点が特徴です。

今回の実証では、このような海外で実証済みの制御アルゴリズムと運用ノウハウを、日本の電力制度や料金メニューに合わせて活用します。「海外で動いている仕組みを、日本の実需家と系統にそのまま適用できるか」を試す機会と言い換えることもできます。

私は、日本でも同様の仕組みがフィットすれば、他メーカーのEVや蓄電池にも横展開しやすくなるのではないかと感じます。一度プラットフォームが整えば、対応機器を増やすことでスケールメリットが出てくるからです。

EV販売+電力小売+V2Hパッケージという新しいビジネスモデル

事業開発の観点から見ると、今回の実証は「車両メーカー×電力小売×機器メーカー×ソフトウェア企業」という構図を具体的に示した点が重要です。ここから、いくつかのビジネスモデルの芽が見えてきます。

  • EVディーラーが、「V2H機器+専用電気料金プラン+アプリ」をセットで販売するモデル
  • 電力会社が、EVディーラーやリテール網を通じて家庭向けV2Hを拡販するモデル
  • アグリゲーターが、複数メーカーのEV・V2H・家庭用蓄電池を束ねて系統サービスを提供するモデル

これらはいずれも、EV購入のタイミングで「家の電気料金も一緒に見直す」提案につながります。「車の燃料代と家庭の電気代をセットで最適化する」という視点が、EV販売の新しい訴求ポイントになる可能性があります。

家計のイメージで言うと、「車を買い替えたら、同時に電気代が下がる仕組みもついてきた」という状態です。私は、数年後には「EVの本体価格」だけでなく、「V2Hと電気代まで含めた総額」で比較する家庭が増えるのではないかと思います。理由は、エネルギー支出全体を見ると、車と家を分けずに考えた方が合理的だからです。

筆者の視点

今後、V2H・V2Gを広く普及させるには、技術以外の論点も整理が必要です。なかでも注目されるのが、集合住宅での導入と制度設計です。

まず、集合住宅では共用部への配線やスペース確保、コスト負担ルールが大きな課題になります。とくに分譲マンションでは、管理組合の合意形成に時間がかかるケースが多く、個人の判断だけでは前に進みにくい構造です。このため、共用部にV2H設備を置き、複数戸で共有するモデルなど、建物単位でのスキーム設計が重要になります。

次に、電力市場や系統運用のルールとの整合も欠かせません。需要側のリソースを需給調整市場や容量市場でどう評価するか、逆潮流分の計量や精算をどう扱うかなど、実務的な論点が多く残っています。ここを丁寧に設計できれば、家庭のEVが「正式な系統リソース」として認められる道が開けます。

最後に、ユーザー体験の設計も大きなポイントです。利用者にとって理想的なのは、「アプリで出発時刻と最低限の残量を一度設定すれば、あとは自動で最適化してくれる」状態です。私は、生活者の手間を増やさずにメリットを実感できる仕組みを作れるかどうかが、普及の成否を左右すると考えます。どれだけお得でも操作が複雑だと、日常的に使われなくなるからです。

出典・参考情報

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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