Google「ムーンショット」、Microsoft「マラソン」──AIデータセンターが気候目標を破壊する

Google「ムーンショット」、Microsoft「マラソン」──AIデータセンターが気候目標を破壊する

Google、Microsoft、Meta──。AI時代をリードするBig Tech企業が、揃って気候目標の達成に苦しんでいる。原因は明確だ。AIデータセンターの爆発的な電力需要が、CO2排出量を押し上げているのだ。

2026年3月29日、AP通信の取材をもとにしたFortune報道が、その実態を改めて浮き彫りにした。各社のサステナビリティ報告書を見ると、気候目標を掲げた2020年頃からの約5年間で、Googleの排出量は約50%増、Amazonは33%増、Microsoftは23%超増、Metaに至っては60%超の増加となっている。

Big Tech 4社のCO2排出量増加率を示す横棒グラフ。Meta60%超、Google約50%、Amazon33%、Microsoft23%超。2020年頃から2024年までの変化。
Big Tech 4社のCO2排出量増加率(2020年頃〜2024年)。Metaの60%超増が最大で、4社すべてが排出増となっている(出典:各社サステナビリティ報告書 / Fortune 2026年3月29日)
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「ムーンショット」と「マラソン」──後退する目標表現

象徴的なのは、各社が自らの目標に対するトーンを明らかに変えていることだ。

Googleは6年前、2030年までに全事業の電力をクリーンエネルギーで賄い、排出量と同量のCO2を除去する目標を掲げていた。しかし現在、その目標を「ムーンショット(=実現困難な大目標)」と表現している。事実上の後退宣言だ。

Microsoftも、2030年までに排出量よりも多くのCO2を除去する「カーボンネガティブ」を目指すと明言していたが、今では「マラソンであり、スプリントではない」と表現を変えた。ブラッド・スミス社長はAP通信に対し「達成する力があると確信している」と述べつつも、原子力・太陽光・水力など新たなカーボンフリー電源への投資が必要だと認めている。

GoogleとMicrosoftの気候目標の表現変化を示すタイムライン図。2020年の目標設定時は前向きな宣言だったが、現在はGoogleが「ムーンショット」、Microsoftが「マラソン」とトーンダウンしている。
Big Techの気候目標──当初の宣言と現在の表現。2020年の「力強い約束」から、2025〜2026年にかけて明らかにトーンが後退している(出典:Fortune / AP通信 2026年3月29日)

Wood Mackenzieのシニアアナリスト、パトリック・ファン氏はこう指摘する。「公式に目標を修正していなくても、各社は『予定通りにはいかないかもしれない』と認め始めている」。

天然ガス依存が加速する構図

では、膨大な電力はどこから来ているのか。国際エネルギー機関(IEA)のデータによると、2024年時点で米国データセンターの電力の40%超を天然ガスが供給し、世界全体では石炭が30%を占めている。

テック各社は2024年と2025年にクリーンエネルギーの購入量を過去最大にしている。だが、それでもAI向けデータセンターの電力需要の伸びには追いつかない。米国ではデータセンターが2024年の総電力消費の約4.6%を占めたが、政府の推計では2028年までにこの比率が約3倍に膨らむ可能性がある。今後10年で米国全体の電力使用量が最大20%増加するとの予測もあり、データセンターがその主因だ。

各社の具体的な動きを見ると、天然ガスへの依存は鮮明だ。Microsoftはウィスコンシン州でデータセンター向けに天然ガス発電所2基の新設を計画しており、別途太陽光への投資で相殺する方針。Metaはルイジアナ州の大規模データセンターに天然ガス発電所3基を充てている。Googleも天然ガスに依存しつつ、風力・水力・蓄電池・次世代原子力への投資を進めている。

世界資源研究所(WRI)の米国エネルギープログラム・ディレクター、ロリ・バード氏は「企業はできるだけ早く、できるだけ多くの電力を確保しようと奔走している」と述べている。

IRA税控除の打ち切りが追い打ち

状況をさらに悪化させているのが、米国の政策転換だ。

トランプ政権は太陽光・風力プロジェクトの許認可や補助金を打ち切り、退役予定だった石炭火力発電所の運転継続を命じた。そして決定打となったのが、2022年のインフレ削減法(IRA)で導入されたクリーンエネルギー税控除の実質的な終了だ。

2025年7月4日に成立した「One Big Beautiful Bill Act(OBBBA)」により、太陽光・風力プロジェクトについてはクリーン電力生産税控除(45Y)およびクリーン電力投資税控除(48E)の適用要件が大幅に厳格化された。2026年7月5日以降に着工する風力・太陽光プロジェクトは、2027年末までに稼働しなければ税控除を受けられない。事実上、新規の再エネプロジェクトに対する連邦レベルの税制支援は急速に縮小する。

Clean Energy Buyers Association(CEBA)のリッチ・パウエルCEOは、多くの企業がIRAの税控除を前提に気候目標を設定していたと語る。その前提が崩れた今、各社は「柔軟な対応」──つまり化石燃料を含むあらゆる電源の活用──を迫られている。

懸念されるのは、新設される天然ガス発電所の投資回収にはおよそ30年かかるという点だ。その間、クリーンエネルギーへの本格的な転換が遅れることになる。独立系調査機関Rhodium Groupによれば、2025年の米国化石燃料由来のCO2排出量は前年比2.4%増となったが、その要因の一部はAI関連需要だと指摘されている。

日本にとっての機会──2,100億円補助と「脱炭素DC」の可能性

翻って日本はどうか。実は、このBig Techの苦境は日本にとってチャンスでもある。

日本政府は2025年12月のGX実行会議で、脱炭素電源を100%活用する工場やデータセンターへの投資を最大50%補助する方針を決定。2026年度から5年間で約2,100億円を充てる。「GX戦略地域」として選定された地域への進出や、再稼働した原発の電源活用には、さらに手厚い支援が用意されている。

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米国でクリーンエネルギーの税制優遇が縮小する一方で、日本がデータセンター向け脱炭素電力を国策として推進している構図は、Big Tech企業のアジア拠点戦略に影響を与える可能性がある。もちろん、日本には再エネの絶対量不足という課題がある。だが、原子力の再稼働と再エネを組み合わせた「24時間365日カーボンフリー電力(24/7 CFE)」の供給体制を整えられれば、それ自体が有力なビジネスモデルとして成立する段階に入っている。

まとめ──問われるのは電力の「質」

Big Tech企業はAI覇権争いを止められない。データセンター投資はこれからも増え続ける。問題は、その電力をどう調達するかだ。

米国では天然ガスへの依存が深まり、気候目標の達成は一段と遠のいた。クリーンエネルギーの税制支援も後退した。一方で、テック企業は大量のクリーンエネルギーを必要としており、それを安定的に供給できる国や地域の価値は確実に高まっている。

電力の「量」だけでなく「質」で勝負できるかどうか。それが、AI時代のデータセンター誘致における最大の差別化要因になりつつある。

参考リンク集

本記事の主要ソース

米国IRA・OBBBA関連

日本のデータセンター脱炭素政策

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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