脱炭素先行地域が累計102件に──第7回選定の全容と、実装フェーズの歩き方

「脱炭素先行地域が累計102件に 第7回選定の全容と、実装フェーズの歩き方」と書かれたアイキャッチ画像。太陽光パネルや風力発電機のある地方都市の街並みをグリーンとブルー基調のイラストで描いた背景に、白文字のタイトルを中央配置している。

2026年2月13日、環境省は「脱炭素先行地域」の第7回選定結果を公表した。新たに12件が加わり、2022年の制度開始以来の累計は102件。政府が掲げていた「2025年度までに少なくとも100か所」という目標を超えたことで、新規募集はこの回をもって終了となった。

ここからは選定のフェーズから、実装と横展開のフェーズへ移る。本稿では、制度の仕組みをあらためて整理したうえで、第7回で選ばれた地域の具体像と、企業や自治体が押さえておきたいポイントを見ていく。

目次

そもそも「脱炭素先行地域」とは何か

脱炭素先行地域とは、住宅やオフィス、店舗、公共施設といった民生部門の電力消費に伴うCO2排出を、2030年度までに実質ゼロにすることを目指す地域のことだ。電力だけでなく、運輸や熱利用についても国全体の2030年度目標と整合する削減を求められる。

単なる宣言ではなく、再エネの導入容量、断熱改修の戸数、EVの台数といった物理量とスケジュールを伴う事業計画である点が特徴で、「ゼロカーボン・シティ宣言」のような目標宣言とは性格が異なる。

財政面では「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」が用意されており、再エネ設備、蓄電池、自営線、ZEB・ZEH化、EV導入などを包括的に支援する。補助率は原則3分の2、1計画あたりの上限は50億円という規模感で、自治体はこれを使って複数年度にわたるまち全体のエネルギー改修をパッケージで進められる。

7回にわたる選定の全体像

第1回(2022年4月)から第7回(2026年2月)までの選定は、以下のように推移してきた。

選定時期選定数応募数
第1回2022年4月26件79件
第2回2022年11月20件50件
第3回2023年4月16件58件
第4回2023年11月12件54件
第5回2024年9月9件46件
第6回2025年5月7件15件
第7回2026年2月12件18件

累計102件、対象市町村を含む都道府県は45道府県に広がった。第7回では、それまで選定地域がなかった7都県のうち石川県・和歌山県・徳島県・香川県・大分県の5県で初の選定が実現しており、地理的な広がりも進んだ形だ。

なお、第7回の選定率(12件/18件)は過去最高となった。評価委員会の総評によれば、地方環境事務所による伴走支援が充実し、提案の水準自体が底上げされたことが背景にあるという。

第7回で選ばれた12件──地域課題と脱炭素の掛け合わせ

第7回の特徴は、脱炭素の取り組みによって解決したい地域課題が明確に描かれた提案が多かった点だ。以下、いくつかの事例を紹介する。

脱炭素先行地域第7回選定マップ。2026年2月に選定された12地域を日本地図上にプロットし、青森県中泊町(漁業×風力)、茨城県笠間市(伝統工芸×再エネ)、千葉県銚子市(水産業×風力)、石川県(防災×温泉熱)、京都府福知山市(子育て×複業モデル)、兵庫県豊岡市(観光×自然共生)、和歌山県和歌山市(空き家×断熱PPA)、徳島県徳島市(農業×バイオマス)、香川県高松市(港湾×おもてなし)、熊本県荒尾市(跡地再開発×スマートタウン)、大分県(広域防災×給湯)、大分県大分市(医療×レジリエンス)の各テーマを示している。
第7回で選定された12地域と、それぞれの「地域課題×脱炭素」テーマ
(出典:環境省公表資料をもとに筆者作成)

青森県中泊町:漁業と風力の組み合わせ

小泊港周辺の戸建住宅483戸、民間施設76施設、公共施設9施設を対象に、地域エネルギー会社を軸とした計画。旧牧場跡地に国産中型風力(約1,000kW)、学校跡地に太陽光(約900kW)を導入し、その電力で陸上養殖を省CO2化する。養殖したマツカワガレイのブランド化・販路拡大で外貨獲得を目指すという、漁業振興と一体の設計だ。青森県が小規模自治体をサポートする体制も評価された。

茨城県笠間市:伝統工芸「笠間焼」と栗農業の脱炭素

笠間焼のギャラリーロード周辺を対象エリアに、戸建住宅777戸、民間施設145施設で再エネと省エネを進める。農業用ため池2か所にフロート式太陽光(合計約2,300kW)を設置するほか、栗の剪定枝を燃料とするバイオマスボイラを給食センターに導入する。このボイラの副産物である灰を笠間焼の釉薬に活用するという資源循環の仕掛けが組み込まれている。再エネ切替に対してモンブランの食事券など地域資源を活用したインセンティブを付与し、合意形成と地域産業への貢献を同時に図る仕組みも特徴的だ。

千葉県銚子市:港湾都市の風力と水産業

戸建住宅1,056戸、民間施設185施設を対象に、大型陸上風力発電を導入。漁港周辺の卸売市場や冷蔵倉庫など電力消費の大きい施設に再エネを供給しつつ、冷凍・冷蔵設備のデマンドレスポンスで風力発電の効率的運用を実現する。風力関連産業の人材育成や発電収益の地域還元を通じて、水産加工中心から新たな産業モデルへの転換を図る内容だ。

石川県:能登半島地震の教訓を防災×脱炭素に

県が主たる提案者となり、七尾市と連携。能登半島地震の経験を踏まえ、金沢港、のと里山空港、道の駅といった陸海空の基幹インフラに自立分散型電源を整備し、広域防災体制を強化する。加えて和倉温泉では、高温源泉を活かした温泉熱活用システムを導入し、旅館の経営負担軽減とサステナブルな温泉地としてのブランド化を同時に進める。

その他の注目事例

福知山市(京都府)は地域エネルギー会社と連携し、日中はエネルギー会社・夕方は部活指導者として働く「地域課題解決型複業」モデルを構築。少子化に伴う部活動の担い手不足と教員の負担軽減を、脱炭素の取り組みと掛け合わせた。養豚団地跡地への市民出資型太陽光や角度可変型営農型太陽光など、地域共生型の再エネ導入も特徴だ。

和歌山市は中心市街地の空き家問題に対し、改修費用を家賃に上乗せして回収する「断熱PPA」というスキームで、断熱・省エネ・耐震改修を一体推進する。商店街のまちづくりと連携し、建物とエリア双方の価値向上を目指す。

徳島市は未利用間伐材やしいたけ廃菌床を活用した木質バイオマス発電から電力・熱・CO2を園芸施設に供給する「トリジェネレーションモデル」を構築。大分市は医師会と連携し、医療機関の設備更新・防災投資と脱炭素を一体化するモデルを打ち出している。大分県は県が主導し3市と連携して防災拠点へのヒートポンプ給湯器導入を進める広域連携モデル、熊本県荒尾市は競馬場跡地の再開発を契機としたスマートタウン構想、兵庫県豊岡市はコウノトリの生態にも配慮した自然共生型営農型太陽光を導入する観光地域づくり、香川県高松市はサンポート高松エリアでの脱炭素×おもてなしプロジェクトと、地域の個性を活かした計画が並ぶ。

企業や自治体が押さえておきたいポイント

構成要素は共通、組み合わせが地域ごとに違う

どの地域も基本の「部品」は共通。地域産業との掛け合わせ方が、それぞれのモデルの個性をつくる
(筆者作成)

第7回の12件を含め、全102件の計画を見渡すと、構成要素には共通のパターンがある。「地域エネルギー会社+再エネ+ZEB・断熱改修+EV・モビリティ+地域産業」というブロックを、土地の事情に合わせて組み替えているイメージだ。中泊町では漁業、笠間市では陶芸と農業、石川県では防災と温泉というように表の主役は異なるが、裏側のエネルギーと金融の組み方は似ている。

地域PPA・ZEB・EV充電がほぼ標準装備に

多くの計画で、地域エネルギー会社が発電と小売を担い需要家に供給する地域PPA(電力購入契約)型のモデルが組み込まれている。ZEB化や既存住宅の断熱改修はほぼすべての計画に含まれ、EV充電についても防災拠点や大規模駐車場を対象に100基単位で導入を想定するケースがある。発電設備のEPC事業者だけでなく、長期の電力販売、需要家側のエネルギーマネジメント、契約スキーム設計など、多様なプレーヤーが関わる余地がある。

金融機関がハブとして前面に

第7回でも、地方銀行や信用組合が共同提案者として名を連ねるケースが目立つ。銚子市では千葉銀行・銚子信用金庫・銚子商工信用組合、笠間市では常陽銀行、荒尾市では肥後銀行といった具合だ。金利優遇付き融資や地域エネルギー会社への出資を通じてプロジェクトに参画しており、「どの金融機関と組むか」が自治体GXへの入口になりつつある。

「補助金」ではなく「地域GXロードマップの一部」

脱炭素先行地域の交付金は、国から自治体へ、さらに自治体から民間事業者へという流れに加えて、民間が主体となるマイクログリッド事業への支援メニューも用意されている。単なる受託工事ではなく、民間がリスクを取りながら地域電力やエネルギーサービス事業に参画する設計だ。企業としては、個別補助金の獲得ではなく、地域全体の脱炭素ロードマップの中で自社がどの「部品」を担えるかという視点で計画を読むと、提案の精度が上がる。

募集終了後の焦点──実装と横展開

今回で新規募集は終了した。これは計画の選定というフェーズが終わり、102件の計画を実際に動かして成果を出すフェーズに入ったことを意味する。

評価委員会の総評でも、今後は選定地域が成果を積み上げ、知見を全国へ還元していく段階に移行するという方針が明示されている。先行地域でモデルをつくり、その実績をもとに周辺自治体へ横展開する際には、別の補助制度やGX経済移行債などの金融スキームとの組み合わせが課題になってくる。

一方で総評は、事業性の検討が不十分な計画や、交付金への過度な依存が見られる計画があることにも釘を刺している。社会情勢や市場環境の変化を見据えた現実的な事業設計が求められるフェーズだ。

102件の計画が出そろったことで、いわば「自治体GXのカタログ」が完成した。自社の事業領域に近い先行地域をいくつかピックアップし、どの施策のどの部品になれるかを整理しておくことが、実装フェーズに乗り遅れないための第一歩になる。

参考リンク集

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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