経産省「水素政策」をやさしく完全解説—目標、支援、サプライチェーン、使い道まで

本記事は、経済産業省(資源エネルギー庁を含む、以下「METI」)が公表している公式資料をもとに、日本の水素政策の「いま」と「これから」を整理した解説です。

数値目標や導入工程(どのくらいの量を、いつまでに使うのか)、制度(価格差を埋める支援やインフラ整備の考え方)、サプライチェーン(つくる・はこぶ・ためる・つかう)、そして事業化のポイントまでを、やさしい順序でまとめました。

要所には原典リンクを置いていますので、気になる箇所は一次情報で裏どりいただけます。

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目次

3行サマリー

  1. 日本は水素の供給コスト目標(2030年30円/Nm³、2050年20円/Nm³)と、導入量の工程(2030年300万t→2040年1,200万t→2050年2,000万t)を掲げています(H₂換算、アンモニア等を含む)。
  2. 水素社会推進法の枠内で、計画認定・価格差支援(差額補助に相当)・拠点整備支援・規制特例を束ね、供給と需要を同時に立ち上げます。
  3. 使い道は、産業熱・原料→発電(初期は混焼)→モビリティ(FCトラック・バスのクラスター導入)と、現実的な順番で広げていく方針です。

なぜ「水素」なのか——政策の全体像

日本は2050年カーボンニュートラルを掲げ、エネルギーの安定供給(Security)・経済効率性(Economy)・環境適合(Environment)・安全(Safety)を同時に満たす「S+3E」の原則で政策を進めています。

水素(およびアンモニアなどの「水素等」)は、鉄鋼・化学・セメントなどCO₂削減が難しい分野(hard-to-abate)での代替手段として、また発電やモビリティの脱炭素化にも直結する重要な選択肢です。

第7次エネルギー基本計画(2025年公表)でも、水素等の積極導入と供給体制の強化が方針として明記されています(資源エネルギー庁「エネ基2025 特集解説」)。

数値目標の整理:コストと導入量

政策を読み解くうえで、最初に押さえたいのがコスト目標導入量の工程です。これは「事業化の前提」になります。

ポイントは、「目標は投資判断のものさし」ということです。特にコスト目標は、化石燃料(LNGなど)との相対価格差を縮め、市場が自立的に回り出すための「到達すべき水準」を示しています。

使い道(用途)ごとの基本方針:どこから広げるか

水素は万能の魔法ではありません。用途ごとに「向き・不向き」「立上げ条件」が異なります。政策は次の順で現実的に広げていく考え方です。

  1. 産業熱・原料:石油精製・化学、製鉄の還元剤、アンモニア原料など、すでに大量のエネルギーや水素派生物が使われているプロセスから置き換えます。
  2. 発電:初期は混焼(石炭・LNGに水素やアンモニアを一部混ぜる)で導入。運用・保安・コストの実績を積みながら、将来的に専焼(100%)へ。
  3. モビリティ:FC(燃料電池)トラックやバスなどを、地域クラスターでまとめて導入。充填所・車両・運用の「面」を同時に整え、早期に実需を作ります。

制度の中核:水素社会推進法と「束ねる」運用

水素は立ち上がり期にコストが高くなりやすく、そのままでは民間投資だけで動きません。そこで水素社会推進法を中核に、計画認定・価格差支援・拠点整備支援・規制特例セットで運用する枠組みが用意されています(制度ポータル)。

  • 計画認定:サプライチェーンや需要創出に資する計画を認定し、支援の対象に。
  • 価格差支援(差額補助に相当):化石燃料との「価格差」に着目してギャップを補填。事業性の谷を埋めます。
  • 拠点整備支援:港湾・需要地のタンクや配管など、共用インフラの整備を後押し。
  • 規制特例:保安を前提に、実装を加速するルール整備を並走。

これらを案件単位で束ねることで、「供給だけ」「需要だけ」では成立しにくい初期導入を、両輪の立上げとして実現していきます。制度面の考え方は審議会資料でも繰り返し確認されています(例:基本政策分科会 資料)。

モビリティ分野のテコ入れ:FC商用車の重点地域と燃料支援

走行距離が長く、補給地点を絞り込みやすい商用車(トラック・バス)は、水素の初期実装に適しています。METIは重点地域を選定し、燃料費の価格差に対して約700円/kgの追加支援を示しました(2025年5月19日プレス)。クラスター導入により、車両・水素ステーション・運行のマッチングを高め、「使うほど単価が下がる」構造を目指します。

サプライチェーンの全体像:「つくる→はこぶ→ためる→つかう」

水素の実装は、製造(国内外)→輸送→備蓄・拠点→利用の一連の流れで考えると理解が進みます。

  • つくる(製造)
    再エネ電力で水を分解する水電解(AWE/PEM/SOEC等)と、天然ガスなどの改質+CCS複線で推進します。方式やコストの基礎比較は、当サイトの解説「水電解(AWE/PEM/SOEC)方式の基礎比較」もご参照ください。
  • はこぶ(輸送)
    液化水素・MCH・アンモニアなど、距離・量・設備条件に応じて最適なキャリアを使い分けます。海外の生産地と日本の受け入れ拠点を結ぶ「大規模サプライチェーン」構築が進みます(例:NEDO/GI基金案件など:NEDO「水素サプライチェーン」)。
  • ためる(備蓄・拠点)
    港湾・需要地周辺のタンク・配管などを整備し、保安(安全)と標準化を同時に前進させます。拠点整備は価格差支援とセットで考えるのが実務的です。
  • つかう(利用)
    2030年代前半は、混焼・代替・クラスターで実需を積み上げ、稼働率(使う時間の割合)とボリューム(使う量)を高めながらコストを下げる流れが王道です。

政策と産業政策の一体運用——第7次エネ基の位置づけ

第7次エネルギー基本計画では、エネルギー政策と産業政策の一体化(国内の関連産業・サプライチェーンへの波及)を強調しています。水素等は、単なる「燃料の置換」にとどまらず、国内製造業の新しい産業基盤(装置・部材・材料・エンジニアリング)づくりに直結するテーマです(エネルギー白書2025)。

国際との関係:足並みと競争のなかで

世界も水素に注目していますが、地域ごとにコスト・資源・送電網・産業構造が違います。日本の政策は、海外の生産地と連携しつつ、国内の製造・輸送・燃焼技術や装置産業にも波及する「産業戦略」の側面を持ちます。したがって、価格だけでない競争力(信頼性・安全・品質・運用実績)も、同時に積み上げるのが日本の勝ち筋です(エネルギー白書2025)。

筆者の視点

水素は、技術的にも制度的にも「積み木」を正しく積むと前に進むテーマです。

今回あらためて感じるのは、「用途ごとに現実的な入り口をつくり、価格差支援と拠点整備で“使う面”を広げる」という路線の堅実さです。FC商用車の重点地域のようにクラスターで面を張るアプローチは、装置産業・エンジニアリングの強みがある日本にフィットします。

次の勝負どころは、認定・支援の運用ディテールと、データに基づく学習速度です。KPIが見えるかたちで案件を回し、標準化とコストカーブを同時に進められるか——ここが日本の競争力に直結します。

原典リンク(METI・NEDOほか)

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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