2026年11月1日、託送料金が変わる。系統用蓄電池のスプレッド収益、FIP電源の売電収支、コーポレートPPAの価格前提——これらのモデルはすべて、託送料金単価を「与件」として置いている。その与件が動く。
2026年7月10日、一般送配電事業者8社が「託送供給等に係る収入の見通し」の変更承認申請を行った。合計8,844億円。7月17日の第76回料金制度専門会合で審査が始まった。
数字だけ見れば、第1規制期間(2023〜2027年度)の収入上限に対して4%程度の上乗せにすぎない。だがこの8,844億円は、2026年11月から2028年3月までのわずか1年5か月で回収される。年換算では東京電力パワーグリッドで約12%、関西電力送配電で約15%の収入増だ。託送料金を固定パラメータとして置いた計画は、前提から組み直す必要がある。
8社で8,844億円——申請の全体像と、申請しなかった2社
今回申請したのは、北海道電力ネットワーク、東北電力ネットワーク、東京電力パワーグリッド、中部電力パワーグリッド、関西電力送配電、四国電力送配電、九州電力送配電、沖縄電力の8社である。北陸電力送配電と中国電力ネットワークは申請していない。
この2社が「値上げを見送った」わけではない。制度上、物価・金利上昇分の反映は翌期調整(2028年度から反映)が原則で、期中調整はそれを前倒しする任意の選択肢にすぎない。2社は原則どおりの時期を選んだということだ。時期が違うだけで、方向は同じである。
申請額の内訳は、物価等の変動に伴う費用の影響額が6,478億円(73%)、金利上昇を反映した事業報酬が2,265億円(26%)。残りは容量拠出金やブラックスタート電源確保費用など市場の約定結果確定に伴う調整で、減額項目も含む。
ここで制度上の注意点をひとつ。今回の申請は収入上限枠の変更承認であって、託送料金単価の改定そのものではない。単価は、承認後に各社が託送供給等約款を変更することで初めて確定する。したがって「収入上限が12%増える」ことと「自社の託送料金が12%上がる」ことはイコールではない。増額分が低圧・高圧・特別高圧、基本料金と電力量料金にどう配分されるかは、約款を見るまで確定しない。
算定ロジック——何を、どの指標で、どこまで上乗せできるのか
期中調整は、事業者が自由に費用を積み増せる仕組みではない。2026年5月29日改正の算定省令が、適用範囲を細かく限定している。
対象年度は2026・2027年度の2年間に限定される。2023年度まで遡ると消費者負担が過大になるとの議論を踏まえた設計だ。対象費用はOPEX、CAPEX、その他費用、次世代投資費用の4区分。制御不能費用・事後検証費用・控除収益はもともと翌期調整の対象であるため外れる。廃炉等負担金や除却損など物価の影響を受けない項目も対象外だ。
適用指標は2つに分かれる。人件費や委託費などの費用項目には消費者物価指数(総合)、CAPEXや次世代投資費用といった投資項目には建設工事費デフレーター(電力)を適用する。基準年度は2021年度で、対象年度の前年度までの変動率を反映する。たとえば2026年度分であれば、2021年度を起点に2025年度までの4年分の変動率が乗る。
この方式が採られた経緯も、水準感を読む上で意味がある。2024年度実績で比べると、消費者物価指数一本なら+6.3%、国内企業物価指数なら+12.2%。採用された併用方式は+6.8%(費用項目+6.3%、投資項目+7.8%)で、消費者負担を抑えつつ電気工事事業者の賃上げ原資を確保する中間解として選ばれている。送配電網協議会の自社試算(+9.6%)より低い水準だ。
事業報酬については、算定式のうち「公社債利回り実績率」だけを、対象年度の直近5年平均に置き換える。事業報酬率は自己資本報酬率30%と他人資本報酬率70%の加重平均で、他人資本報酬率は同利回りにリスクプレミアム1.5%を加えたものだ。ここを実績に合わせることで金利上昇分が反映される。β値や自己資本比率には手を付けておらず、時限措置と整理されている。
もうひとつ重要なのは、この上乗せが投資量の見直しとセットである点だ。関西電力送配電は5か年計で鉄塔を802基から630基へ、東京電力パワーグリッドは柱上変圧器を12.7万台から5.5万台へ削減している。単価上昇を物量削減で一部相殺する構造であり、審査でも「当初計画を上回る投資量」は厳正に確認するとされている。
系統用蓄電池:充電側にフルヒットする非対称構造
託送料金の変動が系統用蓄電池の収益に効く経路は、一般に思われているより非対称だ。
系統用蓄電池は、充電時には需要家として接続送電サービス料金(基本料金kW+電力量料金kWh)を負担する。一方、放電時には2024年4月導入の発電側課金(系統連系受電サービス料金)の対象となるが、揚水発電と蓄電池については電力量料金が課金されず、基本料金のみが適用される。他電源との公平性を踏まえた整理だ。
つまり、kWhに比例する託送コストは充電側にしか発生しない。サイクル数を増やすほど託送費用が積み上がるのは充電側だけであり、託送単価の上昇はスプレッドの下限を直接押し上げる。JEPXの安値帯で買い高値帯で売るモデルでは、必要スプレッドの底上げは稼働可能なコマ数の減少を意味する。
感応度を試算してみる。以下はすべて仮定を置いた簡易試算であり、実際の影響は各社の託送供給等約款の変更内容によって変わる。
出力10MW・容量40MWh(4時間)、年間365サイクル、充電電力量14,600MWh/年、特別高圧接続の案件を置く。年間の託送関連費用(充電側の基本料金+電力量料金、放電側の発電側課金基本料金)が9,000万円だとしよう。収入上限の年換算増加率と同水準の13%が単価に転嫁されると、年間コストは約1,170万円増。年間EBITDAが3億円規模ならEBITDAは約4%減となり、初期投資60億円・運転20年・一般的なPF条件を想定するとエクイティIRRへの影響はおおむね0.2〜0.4%ポイントの低下となる。
0.3%ポイントは、単独では投資判断を覆す幅ではない。問題は重複だ。容量市場の約定価格、需給調整市場の価格上限、系統接続費用——蓄電池の収支前提はすでに複数の制度変数が同時に動いている。そこに、これまで比較的安定していた託送料金という変数が加わる。
再エネ側も無縁ではない。発電側課金の基本料金単価も同じ収入上限を原資としており、FIP電源やコーポレートPPAの売り手側収支に効く。2024年3月31日以前の既認定FIT/FIPは調達期間終了までは課金対象外だが、新規案件や非FIT電源は転嫁の巧拙が収益性を左右する。長期PPAを交渉中なら、託送料金改定に関する費用転嫁条項の有無を確認しておきたい。
国民負担とレジリエンス投資、そして第2規制期間へ
制度の趣旨に立ち返れば、今回の措置は高度経済成長期に整備された設備の更新、再エネ主力電源化に対応した系統形成、レジリエンス強化といった投資を継続するための原資確保である。物価と金利の上昇を反映できなければ、必要な投資量も工事施工会社への賃上げも確保できず、安定供給に跳ね返る——という論理だ。地域間連系線の増強や再エネ接続のための系統整備は、この原資の上に成り立っている。
一方で、消費者は物価高に直面している。会合では遡及適用のハードルの高さや、理解と納得感を伴う対応の必要性が繰り返し論点となった。対象年度を2年に絞り、指標も国内企業物価指数ではなく併用方式としたのは、このバランス論の産物である。投資量の見直しと効率化を申請の前提条件としているのも、国民負担抑制の担保として機能している。申請内容は7月10日から8月8日まで「国民の声」の意見募集にかけられた。
より大きな論点は第2規制期間(2028年度〜)である。今回の事業報酬の見直しは公社債利回り実績率のみを対象とした時限措置であり、自己資本比率やβ値を含む算定方法そのものは、各社の分社化後の財務方針を確認した上で抜本的に見直すことが予告されている。
加えて、北陸電力送配電と中国電力ネットワークの分は2028年度から翌期調整として反映される。第2規制期間の初年度は、2社の翌期調整と事業報酬率の枠組み見直し、新規制期間の収入上限設定が同時に走る。
2030年代前半までの運転開始を想定する蓄電池・再エネ案件にとって、託送料金はもはや固定パラメータではない。2026年11月と2028年4月、少なくとも2回の改定を織り込んだ感応度分析が標準になる。まずは11月適用に向けた託送供給等約款の変更内容を、料金区分ごとの単価まで追いかけておきたい。

