熱水がなくても、熱い岩盤さえあれば発電できる――。従来の地熱発電が抱えてきた「立地の制約」を技術で外す「次世代型地熱」の本格支援が動き出した。資源エネルギー庁は2025年4月に「次世代型地熱推進官民協議会」を立ち上げ、10月31日に中間取りまとめを公表。従来型の23.5GWに加え、77GW超の潜在資源を狙い、官民でロードマップを策定した。事業者の参入をどう促すのか、その設計図を読み解く。
この記事のポイント
- 第7次エネルギー基本計画(2025年2月閣議決定)が次世代型地熱を「地熱ポテンシャルを現状の4倍以上に拡大する可能性がある技術」と明記。これを受け官民協議会が設置された。
- ポテンシャルは従来型23.5GWに次世代型77GW超が上積み。ただし2050年の開発目標は「7.7GW」で、ポテンシャルの経済性上位10%を仮置きした数字。桁が近いが役割が異なる。
- 発電コスト目標は12〜19円/kWh。ここに乗れば地熱は「立地依存の高コスト電源」から「競争力あるベースロード」に転じ得る。
- 律速は技術ではなく、温泉法・自然公園法の規制整理と地域共生。事業機会の大きさはここでの制度設計に依存する。
なぜ今か──第7次エネ基本計画と官民協議会の設置
起点は2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画だ。同計画は次世代型地熱を「地熱ポテンシャルを現状の4倍以上に拡大する可能性がある技術」と位置づけ、2030年代早期の実用化を目指して研究開発・実証を進めるとした。これを具体化するため、2025年4月14日に「次世代型地熱推進官民協議会」(座長:藤光康宏・九州大学教授、事務局:資源エネルギー庁)が発足。地熱発電事業者や掘削事業者など約100社・団体が協議メンバーとして参加し、環境省・林野庁・JOGMEC・NEDOがオブザーバーに名を連ねた。
協議会は計4回の会合を経て、2025年10月31日に中間取りまとめを公表した。ここで示されたのが、ポテンシャルの再定義と長期ロードマップである。背景には、日本の地熱発電が世界第3位(2,347万kW=23.5GW、150℃以上)の資源量を持ちながら、発電電力量に占める割合が2024年時点で約0.3%にとどまるという長年のギャップがある。政府見通しでは2030年度に1%(約150万kW)、2040年度に2%へ引き上げる計画だが、現状の導入量は約60万kW規模で、従来型の延長線だけでは目標到達が難しいのが実情だ。
「次世代型地熱」の3つの技術
協議会が取り上げるのは、いずれも従来の「熱・水・亀裂がそろった地熱貯留層」に依存しない3方式だ。
- 超臨界地熱:従来型が地下2〜3kmから200〜350℃を取り出すのに対し、より深い3〜6kmのマグマ上部から400〜600℃の超臨界状態の熱水を生産する。エネルギー密度が高く、坑井1本あたり1.5〜5万kW、1地域で10〜20万kW規模の大出力が見込める。
- クローズドループ:熱水がなくても熱い岩盤さえあれば発電できる。地下に人工的なループ(配管)を構築し、地上から流体を循環させて岩盤で温める閉ループ方式。発電規模は2〜5万kW級を想定。
- EGS(Enhanced Geothermal Systems):シェールガス開発で確立したフラッキング(水圧破砕)技術を応用し、高温岩盤を割って人工的に貯留層を造成、水を循環させて発電する。同じく2〜5万kW級。
クローズドループとEGSに共通する要点は、「掘ってみないと熱水があるか分からない」という地熱最大の不確実性を、原理的に切り離せることにある。石油・天然ガス開発の掘削・貯留層造成技術がそのまま応用できる領域でもあり、掘削産業やO&Gプレーヤーにとっては地続きの事業機会となる。

77GWの中身と、7.7GWとの違い
ここで数字の整理が要る。中間取りまとめが示すポテンシャルの内訳は次のとおりだ。
- 従来型地熱:23.5GW(2,347万kW)
- 高温岩体(クローズドループ・EGS):66GW
- 超臨界地熱:11GW+α
このうち次世代型の合計が77GW超で、これは日本地熱学会の文献等が推定した「基盤岩上面から深度1kmの範囲の地熱資源量」をベースに算出したもの。技術革新が進めばさらに上積みが期待され、IEAは日本のEGSの技術的ポテンシャル(発電ベース、深度8km未満)を約2〜3TWと桁違いに大きく見積もっている。

注意したいのは、「77GW(ポテンシャル)」と「7.7GW(開発目標)」は別物だという点だ。ポテンシャルはあくまで「潜在的な可能性」であり、実際の開発量を意味しない。協議会は投資促進や技術革新を前提に、2035〜2050年にかけて約7.7GW(77GW超のうち経済性に優れる上位10%を仮置き)の開発を目指すとした。うち2040年までに約1.4GWを先行的に着手する段取りだ。ただし7.7GWは2050年のキャップではなく、2050年カーボンニュートラル達成には地熱の最大限導入が必要として「さらなる高み」を目指す姿勢も明記されている。
次世代型が外す4つの制約
従来型地熱が抱えてきた課題を、次世代型は以下の4点でクリアし得る。
- 開発エリアの拡大:熱水が必須の従来型に対し、熱い岩盤さえあれば開発できるため、対象エリアが大きく広がる。需要地近傍や調査済み未開発エリアでの展開も視野に入る。
- 規制の回避可能性:従来型資源は火山地域に偏在し、国立・国定公園(自然公園法)や温泉法の規制対象と重なることが多かった。クローズドループ・EGSは熱水を直接使わず、超臨界はより深部の熱水を使うため、温泉法上の「温泉」とは別と整理できる可能性があり、環境省が有識者検討会で判断基準を議論中だ。
- 発電コストの低減:従来型は出力が1.5万kW程度にとどまり高コストになりがちだが、大出力が見込める超臨界などはコスト低減の余地が大きい。
- リードタイムの短縮:規制の適用範囲外として整理できれば、開発に要する時間の圧縮につながる。
ロードマップと発電コスト目標
ロードマップは3フェーズ構成だ。フェーズ1(〜2030年)はグリーンイノベーション基金などを活用した国内先行導入。フェーズ2(2030年代早期)は次世代型地熱発電所の運転開始。フェーズ3が普及拡大期で、2040年に約1.4GW、2050年に約7.7GWの開発を目指す。技術別には、超臨界がNEDO調査済みの4地域(八幡平・葛根田・湯沢南部・九重)を軸に、事業規模は1件あたり最大100億円(第1段階)〜300億円(第2段階)を想定する。
コスト目標は明確だ。まず従来型と同等の13.8〜36.8円/kWhを早期に達成しつつ、将来的には他のベースロード電源と競争可能な12〜19円/kWh(2025年時点)を狙う。参考までに米エネルギー省(DOE)は「Enhanced Geothermal Shot」でEGSのコストを2035年までに90%削減し45USD/MWh(約6.5円/kWh)に下げる目標を掲げており、コスト低減競争は国際的なフェーズに入っている。
経済波及効果とCO2削減
協議会は7.7GW開発を仮定した試算も示した。建設および10年間の操業コストに伴う経済波及効果(生産誘発額ベース)は約29.5兆〜46.7兆円、必要投資額は発電コスト12円/kWhで13.4兆円、19円/kWhで21.2兆円と見込む。CO2削減量は火力発電平均との比較で年3,654万トンと試算された。いずれも前提を単純化した暫定値だが、地熱を「ニッチな再エネ」から国産・内製化のベースロード電源へと格上げする経済的インパクトの大きさを示している。
日本の接点──JOGMEC支援、規制、タービン7割シェア
事業化を支える国内インフラは既に動いている。JOGMECは2026年4月28日、令和8年度の地熱資源量調査事業費助成金の第1回公募で6件を採択。地表調査や坑井掘削への助成を通じて、地下資源特有の開発リスクを軽減する枠組みだ。同機構が助成した松尾八幡平(岩手)、南阿蘇湯の谷(熊本)、南茅部(北海道)はすでに運転中で、かたつむり山・木地山(いずれも秋田)が建設段階にある。初期調査への助成と債務保証は、次世代型でも参入障壁を下げる役割を担う。
技術面での日本の強みも見逃せない。地熱発電所の心臓部であるタービンは、東芝エネルギーシステムズ・富士電機・三菱重工業の日本3社で世界の約7割のシェアを握る(日本地熱協会)。高温・高腐食環境に耐える設計技術は他国の追随を許さず、次世代型でもFervo(EGS、三菱重工が出資)やEavor(クローズドループ、中部電力・鹿島が出資)といった海外先行企業への資本参加を通じて、日本勢はサプライチェーンの要所に食い込んでいる。さらに大成建設らはCO2を熱媒体とするカーボンリサイクルCO2地熱(クローズドループ型)をJOGMEC支援で開発中で、2026年度の現場実証、2036年以降の事業化を目指す。CCSと地熱を接続する派生技術として注目される。

事業開発の示唆
整理すると、次世代型地熱の投資命題はこうだ。EGS・超臨界・クローズドループで「立地の制約」を外せれば、開発対象エリアは従来型の火山地域から需要地近傍まで一気に広がり、市場は数倍規模に化ける。データセンターの24時間電源需要という追い風もあり、Fervoが米GoogleのDC向けにEGS電力3,500kWの供給契約を締結したように、ワット・ビット連携の文脈でも地熱の戦略価値は上がっている。
一方で、律速は技術そのものよりも制度と地域である。温泉法の掘削許可の取扱い、資源の取り合い(隣接開発による熱供給の競合)、そして従来型と変わらず求められる地域との共生――これらの整理と合意形成のスピードが、7.7GWという控えめな目標にすら到達できるかを左右する。事業者にとっては、資源量調査の助成や債務保証を早期に押さえつつ、規制整理の議論(環境省の検討会、資源エネルギー庁の「次世代型地熱資源の適切な活用に向けた検討会」)の動向を注視することが、参入タイミングを見極める鍵になる。ポテンシャル77GWという看板の裏で、実際に開けるのは制度設計次第――そこにこそ商機と不確実性が同居している。
参考リンク集
一次ソース(政府・公的機関)
- 資源エネルギー庁「地熱発電も『次世代』へ!課題をクリアし日本の地熱を最大限に活用」(エネこれ、2026年6月5日更新)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/geothermal_power2026.html - 資源エネルギー庁「次世代型地熱推進官民協議会」(全4回の配布資料・議事要旨・中間取りまとめを掲載)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/resources_and_fuel/geothermal/nextgeneration/ - 次世代型地熱推進官民協議会「中間取りまとめ」(本文PDF/2025年10月31日公表、11月18日一部差替)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/resources_and_fuel/geothermal/nextgeneration/data/4_4.pdf - JOGMEC「令和8年度 地熱発電の資源量調査事業費助成金交付事業の採択結果について(第1回公募)」(2026年4月28日)
https://www.jogmec.go.jp/news/release/release_01302.html
関連資料・解説
- 日本地熱協会「世界の地熱発電」(日本製タービンの世界シェア約7割など)
https://www.chinetsukyokai.com/information/sekai.html - JOGMEC 地熱資源情報「地熱を知る・学ぶ」
https://geothermal.jogmec.go.jp/information/ - 日本エネルギー経済研究所(IEEJ)大森嘉彦・碇井良平「日本の次世代型地熱発電の導入促進に向けて―海外動向からの示唆―」(2025年7月、PDF)
https://eneken.ieej.or.jp/data/12621.pdf
※本文中の数値は各ソースの公表時点のもの。ポテンシャル77GW超および開発目標7.7GW・1.4GWは次世代型地熱推進官民協議会「中間取りまとめ」に基づく。国内導入量・シェアは資源エネルギー庁および業界団体の公表値による。リンク先は最終アクセス時点で有効。

