AIの電源は原子炉へ Valar Atomicsが$450m、海底送電に$804m、合計$4.51B|クライメートテック資金調達 #031

AIの電源は原子炉へ Valar Atomicsが$450m、海底送電に$804m、合計$4.51B|クライメートテック資金調達 #031

今週は、〔スタートアップ資金調達〕に$1,246m、〔M&A / Exit〕に$2,464m、〔プロジェクト・デット〕に$806mが集まりました(合計$4,516m、非開示は集計外)。

目次

3行サマリー

スタートアップ資金調達動向:
小型モジュール炉のValar Atomicsが$450mのSeries Aで主役。ニッケル水素蓄電のEnerVenue($300m)、ニュージーランド発の家畜管理Halter($220m)と、データセンター電源と物理AIへの資金集中が鮮明。

プロジェクト資金調達動向:
英ScottishPowerが英国National Wealth Fundから$804mのグリーンファイナンスを確保し、スコットランド〜イングランドを結ぶ海底送電線「Eastern Green Link 4」の建設に充当します。

政策動向:
米EPAがバイデン政権期のメタン排出規制の見直しに着手し、併せて2026–2027年のRFSバイオ燃料混合義務量を過去最高水準で確定しました。

今週の資金調達動向

サマリー(USD概算)

グループ件数開示額合計主な資金種別代表案件
スタートアップ/コーポレート(エクイティ/研究助成等)14$1,246mSeed〜Growth/Series A–EValar Atomics $450m
M&A / Exit4$2,464m(2件非開示)戦略買収LeidosによるENTRUST買収 $2.4bn
プロジェクト系(PF/デット/資産売買)3$806m(1件非開示)PFデットScottishPower $804m

— 注:合計は概算・非開示を除く。為替目安:£→$1.33、A$→$0.68、€→$1.10、C$→$0.74、¥→$0.0067(端数は$0.1m未満切り捨て)。通貨併記は一次発表に準拠。

A. スタートアップ / コーポレート

企業/国金額/ステージ概要主な投資家
Valar Atomics/US$450m/Series Aデータセンター・産業用電源・合成燃料向け小型モジュール炉開発John Donovan, Palmer Luckey, Shyam Sankar
EnerVenue/US$300m/Series Bニッケル水素定置用蓄電システム量産Full Vision Capital, Hong Kong Investment Corporation
Halter/NZ$220m/Growth(Series E)バーチャルフェンス型牛群管理プラットフォームFounders Fund, BOND, Bessemer, Blackbird, DCVC
EPG/SG$100m/Series Bモジュール型プレハブ式データセンター基盤Decarbonization Partners, Alibaba Cloud
Euler Motors/IN$47m/Growth(Series E)インド向け商用電動三・四輪車製造Lightrock, Blume Ventures, Hero MotoCorp
Standing Ovation/FR$35m/Series B精密発酵によるアニマルフリーカゼイン開発Bpifrance, Crédit Mutuel Innovation, Astanor, Bel Group
Voltify/US$30m/Seed貨物鉄道向け蓄電池駆動エネルギーシステムAleph, Fortescue, E44 Ventures, J-Impact
ThinkLabs AI/US$28m/Series A送電網運用向けAIデジタルツインEnergy Impact Partners, Edison International, GE Vernova
Helix Earth Technologies/US$12m/Seed 2商業用HVAC向け先進除湿・省エネ装置Veriten, Carnrite Ventures, Rua Ventures
Foreverland/IT$7m/Seedカカオ不使用チョコレート等持続可能素材Maia Ventures, Kost Capital, CDP Venture Capital
TerraSpark/LU$6m/Pre-seed宇宙太陽光発電と地上への無線電力伝送Daphni, Sake Bosch, better Ventures, LBAN
Nature Robots/DE$5m/Seed自律型農業ロボット向けソフトウェアBayern Kapital, Climentum Capital, Planetary Impact Ventures
Bacancy Systems/IN$4m/Series Aeモビリティ・EV充電・鉄道向け組込電源Sabre Partners, Greenstone Capital
Jay&Joy/FR$2m/Seed発酵型ヴィーガンチーズ製造Beyond Impact VC, Demeter, Mindstone

Valar Atomics — 特集

会社の概要

Valar Atomicsは米カリフォルニア州エルセグンド(El Segundo)を拠点とする小型モジュール炉(Small Modular Reactor、SMR)開発のスタートアップで、データセンター、産業用プロセス熱、合成燃料(synthetic fuel)の3領域を主戦場に据えています。今回のSeries A調達額は$450mと、Q1 2026のVC/Growthラウンドでも最大級で、投資家にはPalantirのShyam Sankar氏、Anduril共同創業者Palmer Luckey氏らエンジェルが名を連ねています。

何ができるのか
Valar AtomicsのSMRが高温熱を介して電力・プロセス熱・合成燃料の3用途に同時供給するマルチユース価値提案図
Valar Atomicsのマルチユース価値提案。
高温ガス炉から取り出した約750℃以上の熱を、AIデータセンター向け電力、産業用プロセス熱、合成燃料製造の3用途に同時分配する構想を示す
(公開情報を基に作図)。

同社が掲げる中核コンセプトは、従来の大型原発のように「電気だけを作る」のではなく、高温の熱を産業・燃料製造・電力の三用途に同時供給するモジュール炉の量産です。とくに、核熱を用いて空気中のCO2や水から炭化水素系の合成燃料を生み出すeFuel/合成燃料製造と、急成長するAIデータセンターのオンサイト電源供給を狙っています。

技術のしくみ
Valar AtomicsのSMRにおけるTRISO燃料から炉心・ヘリウム一次系を経て電力・産業熱・合成燃料へ分岐する技術フロー図
想定される技術プロセスフロー。
TRISO(Tristructural-Isotropic、被覆粒子)燃料を用いる高温ガス炉(HTGR)から約750℃級のヘリウム熱を取り出し、蒸気タービンによる発電、プロセス熱交換、そして高温電解やRWGS(Reverse Water-Gas Shift、逆水性ガスシフト)反応を介した合成燃料製造へと分岐させる構成
(公開情報を基に一般的なHTGR構成を参考に作図)。

公開情報の範囲では、高温ガス炉(High-Temperature Gas-cooled Reactor、HTGR)系の設計を採用し、工場量産が可能なコンパクトな炉心と受動安全設計を志向していると見られます。高温の出力熱を直接プロセス熱として取り出せるため、水素製造や合成燃料の逆シフト反応(Reverse Water-Gas Shift、RWGS)など、温度条件の高い化学プロセスとの親和性が高い可能性があります。商業炉の実稼働は米原子力規制委員会(NRC)の審査を前提とするため、今後数年の実証計画の進捗が鍵となります。

料金・導入の進め方

商用単価や契約モデルは現時点で非公表ですが、業界で一般化しつつあるのは、ハイパースケーラーとの長期PPA(電力購入契約)、産業需要家とのBTO(Build-Transfer-Operate)契約、あるいは合成燃料のオフテイク契約を組み合わせたプロジェクト型の商談構造です。初号機は許認可・サイト選定・建設を同時並行で進めるFOAK(First-Of-A-Kind)案件となるため、顧客側は早期のLOI(Letter of Intent)やMOU段階から関与することになる可能性があります。

他社との違い
出力規模とマルチユース志向の2軸で整理したSMR各社の競合ポジショニングマップ、Valar Atomicsが左上象限に位置
主要SMR開発企業の競合ポジショニング。
縦軸は「発電専用〜マルチユース志向」、横軸は「出力規模」。Valar Atomicsは小規模かつ熱・電・燃料の併産を狙う左上象限に位置し、大型の発電専用路線を採るNuScaleやRolls-Royce SMRとは異なる戦略軸を志向している可能性がある
(各社の公開情報を基に作成)
  • 発電単独ではなく、プロセス熱・電力・合成燃料を同一プラットフォームで狙う「マルチユース」設計思想
  • ハイパースケーラーのAI需要という成長市場を明確な初期顧客層として想定している点
  • Palmer Luckey氏やShyam Sankar氏ら防衛・データ系テック人脈を押さえた資本構成で、規制当局・国家安全保障系との距離が比較的近いと推測される点
どこで効果が出やすいか/日本での示唆

日本で類似ユースケースを考える場合、まずは工業団地・製油所・化学コンビナートへの熱電併給、次にハイパースケールデータセンターへのクリーンかつ安定な24時間電源の供給が有力候補となります。ただし日本では原子炉の新設審査や地元同意プロセスが長期化しやすく、短中期ではSMR本体よりもむしろ「合成燃料やeFuelを前提としたオフテイカー側の需要創出」や、海外FOAKへの投資・オフテイク参画という関わり方が現実的となる可能性があります。

B. M&A / Exit

企業/国金額/資金種別・ステージ概要
ENTRUST Solutions Group/US$2,400m/戦略買収Leidosがエネルギーインフラ特化のユーティリティ工学コンサルを取得
Plan A/DE$64m/戦略買収DiginexがAI活用のカーボン会計SaaSを取得
Bodhi/US非開示/戦略買収OneEthosが住宅太陽光の顧客体験プラットフォームを取得
Luzboa/PT非開示/戦略買収Nexus Energíaがポルトガル小売電気事業子会社を100%取得

C. プロジェクト系

企業/国金額/資金種別・ステージ概要
ScottishPower/UK$804m(£604m)/PFデット海底送電線Eastern Green Link 4向けグリーンファイナンス
Vyterra Renewables/CA$2m/PFデットノバスコシア州バイオマス由来低炭素燃料プラント開発資金
Nexus Energía/ES非開示/デットCOFIDES海外投資基金による子会社取得資金

参考文献・出典リンク一覧

一次情報・企業プレス・公的資料

CTVC

CTVC Issue 290(本稿は同号の「Deals of the Week(3/30–4/6)」を起点に、一次情報で裏取りし独自に要約・分析しました。先週号は #289)。

略語集

略語正式名称・説明
PFProject Finance、プロジェクトファイナンス。特定プロジェクトのキャッシュフローを返済原資とする融資形態
SMRSmall Modular Reactor、小型モジュール炉。工場量産と段階的導入を志向する次世代原子炉
HTGRHigh-Temperature Gas-cooled Reactor、高温ガス炉。ヘリウム等を冷却材とし高温熱を取り出せる炉型
PPAPower Purchase Agreement、電力購入契約。発電事業者と需要家の長期電力売買契約
FOAKFirst-Of-A-Kind、初号機案件。実証段階のプラントに特有の追加コスト・リスクを伴う
EPAUnited States Environmental Protection Agency、米環境保護庁
RFSRenewable Fuel Standard、再生可能燃料基準。米国のバイオ燃料混合義務制度
NRCNuclear Regulatory Commission、米原子力規制委員会
HVACHeating, Ventilation, and Air Conditioning、空調・換気・冷暖房設備
EVElectric Vehicle、電動車両





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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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