電力不要の水素製造に$100m:Utility Global Series DとFervo地熱PF $421m、合計$5.7B|クライメートテック資金調達 #029

電力不要の水素製造に$100m:Utility Global Series DとFervo地熱PF $421m、合計$5.7B|クライメートテック資金調達 #029

今週は、〔スタートアップ資金調達〕に$339m、〔M&A / Exit〕は全件非開示、〔プロジェクト・デット〕に$5,417mが集まりました(合計$5,756m、非開示は集計外)。

目次

3行サマリー

スタートアップ資金調達動向:
産業脱炭素のUtility GlobalがSeries D で$100mのファーストクローズを達成し、電力不要の水素製造技術H2Genの商用展開を加速。電動フェリーのCandela $35m、電動タグボートのArc Boats $50mなど海事電動化案件が目立った。

プロジェクト資金調達動向:
AirTrunkが東京TOK1キャンパス向けに日本最大のデータセンター融資$1.24Bのグリーンローンを組成。Fervo Energyが次世代地熱EGSとして初のノンリコースPF $421mをクローズし、セクターのバンカビリティを証明した。

政策動向:
米上院でHickenlooper・Daines両議員が超党派の「Geo POWER Act」を提出し、DOEによる次世代地熱への革新的ファイナンス支援を提案。

今週の資金調達動向

サマリー(USD概算)

グループ件数開示額合計主な資金種別代表案件
スタートアップ/コーポレート(エクイティ/研究助成等)15$339mSeries C/D, Seed, GrowthUtility Global $100m Series D
M&A / Exit3全件非開示M&AAI&P → Nscale
プロジェクト系(PF/デット/資産売買)11$5,417mPF Debt, Green LoanAirTrunk $1,240m グリーンローン

— 注:合計は概算・非開示を除く。為替目安:£→$1.33、A$→$0.68、€→$1.10、C$→$0.74、¥→$0.0067(端数は$0.1m未満切り捨て)。通貨併記は一次発表に準拠。

A. スタートアップ / コーポレート

企業/国金額/ステージ概要主な投資家
Utility Global/US$100m/Series D産業オフガスから電力不要で水素とCO₂を生成するH2Gen技術の商用展開Ara Partners, APG Asset Management
Solugen/CA$50m/Growth豚糞由来の有機液体窒素肥料Azogenの生産拡大Idealist Capital, Canada Growth Fund
Arc Boats/US$50m/Series C電動タグボートの設計・製造Eclipse, a16z, Menlo Ventures, Lowercarbon Capital
Candela/SE$35m/Series C水中翼型電動フェリーの量産拡大Beneteau, CalPERS, EQT Ventures, IFC
WayCool/IN$23m/Growth農産物・食品サプライチェーンプラットフォームLightrock India
GridBeyond/IE$14m/Series DAIベースの電力最適化・デマンドレスポンス基盤Samsung Ventures, ABB, Act Venture Capital, EDP Ventures
WeSort.AI/DE€10m≒$11m/SeedAI廃棄物選別による重要鉱物回収Green Generation Fund, Infinity Recycling, SPRIND
Mantis Space/US$10m/Seed宇宙太陽光発電コンステレーション構築Rule 1 Ventures, Montauk Climate
AgZen/US$10m/Series BAI精密散布による農薬使用量削減DCVC, Astanor Ventures, Material Impact, Syngenta Group Ventures
Wikifarmer/GR€7.1m≒$8m/Series A農産物取引デジタルプラットフォームBrighteye Ventures, Piraeus Bank, Metavallon VC, Point Nine Capital
Euler Motors/IN$8m/Series D電動商用車の製造BlackSoil
Rubi Laboratories/US$8m/SeedCO₂をテキスタイル原料に変換する技術AP Ventures, FH One, CMPC Ventures, H&M Group, Talis Capital
Level Nine/DE€4m≒$5m/Seedバイオナノ触媒によるグリーンケミカル製造Visionaries Tomorrow, IBB Ventures, better ventures
Sequestra/AT€3m≒$4m/Seed産業廃棄物を活用したCO₂鉱物化技術VSE Beteiligungs
Elea & Lili/FI€2.5m≒$3m/Seedセルロース系吸収材でマイクロプラスチック代替Lifeline Ventures

Utility Global — 特集

会社の概要

Utility Globalはテキサス州ヒューストンに本社を置く産業脱炭素プラットフォーム企業です。2016年設立、CEOはParker Meeks。PE大手Ara Partnersのポートフォリオ企業として、鉄鋼・石油精製・化学など削減困難セクターに向けた水素・CO₂ソリューションを提供しています。2025年にはArcelorMittalブラジル拠点での実証契約やKyocera Internationalとの製造パートナーシップを締結し、商用化フェーズに移行しました。

何ができるのか

独自のH2Gen技術により、電力を一切使わずに水から高純度水素を生成できます。同時に、オフガス中のCO₂を70%超の高濃度で回収するため、CCS/CCUSのコストと複雑性を大幅に低減します。鉄鋼の高炉ガスやバイオガスなど多様な原料ガスに対応し、水素は燃料・原料としてプロセス内に再循環でき、CO₂は貯留・利用に直結します。つまり「脱炭素しながら経済的にも成り立つ」ソリューションを、既存設備に後付けする形で実現します。

従来方式とH2Gen導入後の比較図:従来はSMRによるグレー水素製造と別途CCS設備が必要だったのに対し、H2Genは1台で水素生成とCO₂回収を同時達成
図1:従来方式 vs H2Gen® ― 従来は水素製造(SMR)とCO₂回収(CCS)に別々の大型設備が必要だったが、H2Genは既存プラントのオフガスを原料に、電力ゼロで水素と高純度CO₂を1台で同時生成する
(筆者作成)
技術のしくみ

H2Genの心臓部は、独自の混合イオン電子伝導体を使った管状電気化学セルです。管の内側に水蒸気、外側に産業オフガスを流すと、オフガス中のCOが酸化されてCO₂になる際に電子を放出します。この電子が電解質を通じてカソード側に移動し、水蒸気を還元して水素と酸素イオンに分解します。酸素イオンはアノード側に移動してCOの酸化を促進するという循環反応が自発的に続くため、外部電力は不要です。従来の電気分解が大量の電力と新規インフラを必要とするのに対し、H2Genは工場が既に排出しているオフガスのエネルギーだけで駆動する点が根本的に異なります。

H2Gen管状電気化学セルの断面図:管内側に水蒸気を流しカソードで水素を生成、管外側にオフガスを流しアノードでCO₂に変換、MIEC電解質を介して酸素イオンと電子が循環する仕組み
図2:H2Gen® のしくみ ― 管状セルの内側に水蒸気、外側に産業オフガスを流すと、電解質(MIEC)を介して酸素イオンと電子が自発的に循環し、外部電力なしで水素とCO₂が同時に生成される
(一次情報をもとに筆者作成)
料金・導入の進め方

具体的な料金は非公開ですが、電力コストがゼロで既存インフラに統合できるため、従来の化石由来水素と同等以下の総保有コストを実現するとしています。モジュール式・工場プレハブ製造のため、小規模バイオガス案件からメガスケール製鉄所まで柔軟にスケーリング可能です。導入はフィジビリティスタディからエンジニアリング設計、据付・試運転まで一貫して提供され、Rockwell Automationの制御プラットフォームによる自動運転に対応しています。

他社との違い
  • 電力ゼロ:従来の電解槽が大量のグリーン電力を前提とするのに対し、H2Genは産業オフガスの化学エネルギーだけで水素を生成。再エネ電力や送電網の制約を受けない。
  • デュアルプロダクト:水素だけでなく95%超の高純度CO₂を副産物として回収でき、カーボンキャプチャのコストを劇的に引き下げる。競合の多くは水素のみの生産に特化。
  • 既存設備へのレトロフィット:モジュール式設計で既存の製鉄所・製油所に後付け設置が可能。新規インフラ建設を必要とする大型電解設備と比べ、導入リードタイムが短い。
どこで効果が出やすいか/日本での示唆

鉄鋼・石油精製・化学産業など高炉ガスや副生ガスを大量に排出する重厚長大産業で最も効果を発揮します。日本との関連では、Utility Globalは京セラのノースカロライナ工場で電気化学セルの量産を開始する計画を発表しており、京セラの先端セラミック技術とのシナジーが注目されます。日本の鉄鋼・化学産業は高いCO₂排出原単位を抱えつつ、電力制約も大きいため、電力不要型の水素製造技術は導入障壁が低い選択肢となりえます。

B. M&A / Exit

企業/国金額/資金種別・ステージ概要
American Intelligence & Power Corp./US非開示/M&AAIデータセンター電力インフラ開発。Nscaleが買収しエネルギーからコンピュートまで垂直統合
Talveg Wind/FR非開示/M&A風力タービン保守サービス企業。Nadaraが買収
Teleo/US非開示/M&A重機向け遠隔自律走行プラットフォーム。Havocが買収

C. プロジェクト系

企業/国金額/資金種別・ステージ概要
AirTrunk/AU¥191.6B≒$1,240m/グリーンローン東京TOK1ハイパースケールDCキャンパスのリファイナンスと拡張。日本最大のDC融資
ENERPARC AG/DE$1,150m/Debt欧州大規模太陽光・蓄電池プロジェクト群向けデットファシリティ
Primergy/US$760m/PF Debtネバダ州Gemini太陽光+蓄電池プロジェクトのリファイナンス
Digital Edge/SG$665m/PF DebtインドネシアAI対応ハイパースケールDCキャンパス向け融資
Hedley BESS LP/CACA$700m≒$512m/PF Debtオンタリオ州BESS。Aypa PowerとSix Nations of the Grand River開発公社の共同事業
Fervo Energy/US$421m/PF Debtユタ州Cape Station EGS地熱Phase 1。次世代地熱初のノンリコースPF
Nouveau Monde Graphite/CA$335m/PF Debtグリーン黒鉛一貫製造施設向けシニアデット
Clenera/US$304m/PF Debtアイダホ州Crimson Orchardユーティリティ規模太陽光
Heritage Energy Storage/US$29m/Debtテキサス州分散型太陽光+蓄電池
Smartsolar/VN$1m/Debtベトナム太陽光開発。累計調達額$3.15mに
Viridi Energy/US非開示/PF EquityMarathon RNG施設向けストラクチャードエクイティ。HASIから出資
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政策・規制動向

米上院で3月17日、Hickenlooper議員とDaines議員が超党派の「Geo POWER Act」を提出しました。同法案はDOEに対し、地熱発電が未整備の州で30MW以上の発電を目指すプロジェクトに革新的ファイナンスを提供する権限を付与するもので、Fervo・Eavor・XGS Energyなど業界主要プレーヤーが支持を表明しています。マイルストーン達成を条件とする段階的資金提供により、財政規律を維持しながら次世代地熱の商用化を後押しする設計です。

参考文献・出典リンク一覧

一次情報・企業プレス・公的資料

CTVC

CTVC Issue 288(本稿は同号の「Deals of the Week(2026/3/16–3/23)」を起点に、一次情報で裏取りし独自に要約・分析しました。先週号は #287)。

略語集

略語正式名称・説明
EGSEnhanced Geothermal Systems — 人工的に地下貯留層を造成する次世代地熱技術
PFProject Finance — プロジェクトのキャッシュフローを返済原資とするファイナンス手法
BESSBattery Energy Storage System — 蓄電池システム
DCData Center — データセンター
PPAPower Purchase Agreement — 電力購入契約
DOEU.S. Department of Energy — 米エネルギー省
CCUSCarbon Capture, Utilization and Storage — CO₂回収・利用・貯留
CCSCarbon Capture and Storage — CO₂回収・貯留
MIECMixed Ionic Electronic Conductor — 混合イオン電子伝導体
RNGRenewable Natural Gas — 再生可能天然ガス
LCOELevelized Cost of Electricity — 均等化発電コスト
M&AMergers and Acquisitions — 合併・買収

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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