GX-ETS「第2フェーズ」直前 民間からのパブコメが示す“価格水準”の論点

日本の工業都市の遠景パノラマ夜景。エメラルドグリーンに発光するデジタルグリッドが重なり、グリッド上には上下の価格矢印とCO2分子アイコンが浮かんでいます。画像中央には、白文字の太めのゴシック体で「GX-ETS「第2フェーズ」直前」と「民間からのパブコメが示す"価格水準"の論点」というテキストがドロップシャドウ付きで中央揃えで配置されています。

日本の排出量取引制度「GX-ETS」が、いま大きな転換点を迎えています。2026年度から始まる第2フェーズでは、これまでの自主参加から一歩進んで、対象企業に排出枠の保有義務が課されます。つまり、制度がいよいよ”本番モード”に入るということです。

この節目に合わせて、環境価値ビジネスを手がけるバイウィルの社内シンクタンク「カーボンニュートラル総研」が、経済産業省にパブリックコメントを提出しました。その中身を読み解くと、企業が今後の投資判断で押さえておくべきポイントが浮かび上がってきます。

この記事のポイント
  • 2026年2月、バイウィル「カーボンニュートラル総研」がGX-ETS第2フェーズ案へパブコメを提出
  • 無償割当・上限/下限価格・繰越・クレジット上限の5つの論点を整理
  • 初年度の目安は上限4,300円・下限1,700円/t-CO₂、クレジット上限10%も焦点に
目次

そもそもGX-ETSとは何か

GX-ETS(Green Transformation Emissions Trading Scheme)は、企業に排出枠を割り当て、足りなければ市場で買い、余れば売れる——という仕組みで、CO₂の削減を経済的に促す制度です。

第2フェーズの対象になるのは、直近3年度の平均で直接排出量(Scope 1)が年間10万トン以上の企業です。毎年度の排出実績に見合う排出枠を保有し、それを「償却」する義務が生じます。簡単に言えば、「出した分だけ枠を持っていないとダメ」というルールです。

ここで重要になるのが、排出枠の価格。価格が乱高下すれば、企業は設備投資の判断がしづらくなります。そこで、制度には「上限価格」と「下限価格」というガードレールが設けられる予定です。

バイウィルが指摘した5つの論点

バイウィルのパブコメは、大きく5つのテーマに整理できます。どれも「制度を使う側」の目線から出された実務的な提案です。

① 無償割当枠の決め方を変えてほしい

現行案では、過去の排出実績をベースに無償枠が決まります。しかしバイウィルは、過去のトレンドではなく「今後5年間で達成すべき野心的な目標」を軸にすべきだと主張しています。

過去の延長線で枠を配ると、先に削減を進めた企業ほど不利になりかねない——という問題意識が背景にあります。

② 上限価格は”投資が報われる水準”に

排出枠の価格が一定以上に上がらない「天井」を設ける仕組みですが、その水準が低すぎると、脱炭素に先行投資した企業のリターンが薄くなります。

「攻めのGX投資」を後押しするなら、天井はそれなりの高さが必要だ——というのがバイウィルの考えです。あわせて、状況に応じた見直し条項も入れてほしいと求めています。

③ 下限価格はクレジットの採算ラインを意識して

逆に、価格が下がりすぎると困るのがクレジットの供給側です。J-クレジット(再エネや森林管理などで認証される排出削減・吸収量)を生み出すにはコストがかかります。下限価格がそのコストを下回れば、プロジェクトの採算が立たず供給が細ってしまいます。

④ 余った排出枠は”資産”として繰り越せるように

バンキング(繰越)と呼ばれる仕組みで、ある年度に使い切れなかった排出枠を翌年度以降に持ち越せるようにしてほしいという要望です。削減努力で生まれた余剰枠を将来に活かせるかどうかで、企業の投資判断は大きく変わります。

⑤ クレジット使用上限10%は、将来の緩和方針を見せてほしい

現在の案では、排出枠の不足分をクレジットで補える量が全体の10%までに制限されています。市場が未成熟な初期段階では妥当かもしれませんが、将来的に柔軟に緩和していく方針を今の段階で明記してほしい——というのがバイウィルの提案です。

初年度の価格レンジ:上限4,300円、下限1,700円

項目 価格(円/t-CO₂) 意味合い
上限価格 4,300 これ以上は上がらない「天井」。高すぎるコスト負担を防ぐ
下限価格 1,700 これ以下には下がらない「床」。クレジット供給の採算を支える

この価格帯は、企業にとって「この範囲を前提に計画を立ててください」というメッセージでもあります。電力会社や素材メーカー、物流企業など、エネルギーコストに敏感な業界では、この数字がそのまま予算や調達の前提条件になります。

また、クレジット使用上限の10%という数字は、供給側——つまり再エネ発電や森林管理、省エネプロジェクトの事業者——にとっても重要です。義務対象の企業がどれくらいクレジットを買ってくれるかが見えないと、自分たちの事業計画も立てられないからです。

他の炭素価格の仕組みとの違い

CO₂に値段をつける方法は、排出量取引だけではありません。炭素税、賦課金、社内炭素価格(インターナルカーボンプライス)など、さまざまなアプローチがあります。

排出量取引制度の特徴は、市場の需給で価格が動くことです。だからこそ、企業は「ピンポイントの予測値」ではなく「価格レンジ」で事業計画を組む必要があります。

制度 特徴
EU ETS(欧州) 世界最大の排出量取引市場。長い運用実績があり、近年は価格が上昇傾向
K-ETS(韓国) アジアの先行事例。無償割当の段階的縮小を進めている
GX-ETS(日本) 後発組。初期は上限/下限の価格安定化措置を手厚く設ける設計が特徴

企業が今やっておくべき2つのこと

制度の開始が近づくなかで、企業が今のうちに決めておきたいことは大きく2つあります。

社内炭素価格のレンジを設定する

「うちの会社では1トンあたりいくらで計算するか」という前提を持っておかないと、設備投資の判断もクレジット調達の判断も、そのつど一から議論するはめになります。上限4,300円・下限1,700円という制度の目安を出発点に、自社の事業構造に合ったレンジを定めておきましょう。

市場対応の責任者を決める

排出量取引が本格化すると、排出量の算定・報告・検証(MRV)に加え、調達担当が「排出枠コストの前提」をサプライヤーに説明する場面も出てきます。誰がこの役割を担うかが曖昧だと、社内の意思決定がどこかで止まります。

筆者の視点

バイウィルの今回の提言は、「制度の公平性を守る」だけで終わらず、「先に動いた企業がきちんと報われる」設計にしてほしいという要望でした。

上限と下限の考え方を、投資サイドとクレジット供給サイドの両面から押さえている点は、実務に根ざした視点だと言えるでしょう。GX-ETSの第2フェーズが動き出す前に、自社の「価格の前提」と「対応体制」を整えておくことが、これからの数年を左右する分岐点になりそうです。

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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