パナソニックとAGCが、国のグリーンイノベーション基金事業で「ガラス型ペロブスカイト太陽電池」の量産技術開発とフィールド実証プロジェクトを開始しました。都市部のオフィスビル外装を活用し、発電する窓としての性能と耐久性を検証し、ZEBビル普及に向けた実装モデルづくりを進めます。
3行サマリー
- パナソニックHD・AGC・パナソニック環境エンジニアリングがコンソーシアムを組成し、ガラス型ペロブスカイト太陽電池の量産と実ビル実証に着手した。
- NEDOグリーンイノベーション基金の次世代型太陽電池事業として採択され、都市部ビル外装を使ったフィールド実証が始まりつつある。
- 発電する窓によるCO₂削減とテナント価値向上を同時に狙うビジネスモデルが現実味を帯びてきている。
なぜいま「発電する窓」が重要なのか
エネルギー消費が大きいオフィス・商業ビルでは、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギービル)の実現が政策面でも企業経営面でも重要になっています。一方で、都市部の高層ビルは屋根面積が限られ、屋上だけの太陽光発電では必要な再エネ量を賄いにくい状況です。
建物一体型太陽光発電(Building Integrated Photovoltaics: BIPV=建材そのものを発電部材にする技術)が注目されるのは、この制約を乗り越える手段になるからです。特に窓ガラス部分に太陽電池を組み込む窓一体型は、日射を受ける面積が大きく、都市部ビルでのポテンシャルが高い領域です。
日本政府や東京都のロードマップでは、次世代型ソーラーセルを活用したBIPV普及が、ZEBと温室効果ガス削減の鍵と位置づけられています。「屋根に乗せる太陽光」から「建物全体で発電する」方向への転換が、本格的に議題に上り始めた段階といえます。
プロジェクトの概要:ガラス型ペロブスカイト太陽電池×実ビル
本プロジェクトでは、パナソニック ホールディングス(パナソニックHD)、AGC、パナソニック環境エンジニアリングの3社がコンソーシアムを組成し、NEDOが運営するグリーンイノベーション基金(Green Innovation Fund=脱炭素向け2兆円規模の支援枠)の「次世代型太陽電池実証事業」に採択されています。
テーマ名は「ガラス型ペロブスカイト太陽電池の量産技術開発とフィールド実証」です。ここで扱うペロブスカイト太陽電池(Perovskite Solar Cell: PSC=ペロブスカイト結晶を用いる薄膜型太陽電池)は、印刷技術でガラスやフィルム上に発電層を形成できる点が特徴です。
プロジェクトの主な柱は次の2点です。
- 量産技術開発:出力・信頼性・製造プロセスを最適化し、安定品質で大量生産できるガラス型PSCモジュールを確立する。
- フィールド実証:都市部の建築物外装や窓として施工し、長期発電性能や施工・運用方法を実環境で検証する。
実証対象としては、オフィスビルや公共施設などが想定されており、外装ガラスの一部をガラス型PSCに置き換える構成が中心になると考えられます。ビルの外観デザイン、テナントへの採光、室内の熱負荷なども合わせて評価する計画です。
技術の中身:ガラス型ペロブスカイト太陽電池とは
ペロブスカイト太陽電池の基本
ペロブスカイト太陽電池(Perovskite Solar Cell: PSC)は、ペロブスカイト構造を持つ有機無機ハイブリッド結晶を発電層に用いる太陽電池です。インクジェット印刷などの塗布プロセスで形成できるため、製造プロセスが比較的低温・短時間で済みます。
パナソニックHDは、ガラス基板にPSC層を形成する「ガラス型PSC」を開発し、実用サイズモジュールで高い変換効率を報告しています。例えば、面積800cm²程度のモジュールで18%超の変換効率を達成したと公表しており、大型化と高性能を両立した技術に育ちつつあります。
PSC層は非常に薄く、透明電極と組み合わせることで光を透過させながら発電させることも可能です。これにより、窓ガラスとして視界や明るさを確保しつつ、一定の発電が期待できます。
建材ガラスと一体化するBIPV
建物一体型太陽光発電(Building Integrated Photovoltaics: BIPV)は、外壁パネルや窓ガラスなど建材そのものを発電デバイスとして使う考え方です。従来のシリコン系モジュールでは、厚みや重量、外観の制約が大きく、高層ビルの窓用途には馴染みにくい面がありました。
ガラス型ペロブスカイト太陽電池は、建築基準法に適合する強度・厚みのガラスをベースにしつつ、サイズや透過率、模様のカスタマイズが可能です。AGCが持つ建築用ガラス・カーテンウォールのノウハウと組み合わせることで、意匠性と発電性能を両立したBIPVガラスとして設計できます。
ビルオーナーにとっては、「外装ガラスの更新タイミングで、通常ガラスをBIPVガラスに一部置き換える」という導入パターンが、現実的な選択肢になっていくと考えられます。
実証で焦点となる3つの検証ポイント
1. 実ビルでの発電性能と年間発電量
最初のポイントは、実ビル環境での発電性能です。ビルの外装は、方位・階数・周辺ビルの影響・反射光などの条件が複雑で、単純な屋上設置と比べて発電量の予測が難しくなります。
フィールド実証では、面ごとの日射条件や時間帯別の発電量を計測し、どの面にどの程度の面積を配置すると最も効果的かを検証します。また、透過率(どの程度透けるガラスにするか)によって発電量と室内環境が変わるため、複数パターンを比較することも想定されます。
この結果は、将来の設計指針(例えば「南面の何%をBIPVにすると、年間需要の◯%が賄える」といった目安)の基礎データになります。
2. 高温多湿環境での長期耐久性
二つ目のポイントは耐久性です。PSCは水分や酸素に弱いとされてきた歴史があり、日本の高温多湿環境で長期安定して動作させることが大きな課題でした。
今回のプロジェクトでは、ガラス基板とガラス封止、封止材の設計によって水分・酸素の侵入を抑え、長期使用に耐える構造を目指しています。加速試験や屋外曝露試験の結果を踏まえ、保証年数や性能劣化の想定カーブを整理することが求められます。
ビル外装ガラスとしては20〜30年程度の使用が前提になるため、太陽電池としての寿命とガラス建材としての寿命をどこまで近づけられるかが、事業性を左右する重要な論点になります。
3. 施工方法・メンテナンス性・交換性
三つ目は施工とメンテナンスです。外装ガラスの交換には、高所作業車やゴンドラを使う大規模な工事が必要になる場合があります。BIPVガラスでは、これに加えて配線・パワーコンディショナとの接続も考慮しなければなりません。
AGCは既に建築用ガラスおよびBIPVガラスの施工実績を持ち、パナソニック環境エンジニアリングはビル設備工事に多くの経験があります。この組み合わせを活かし、既存の外装ガラス更新工事と大きく変わらない負担で施工・更新できるパッケージを確立できるかが焦点になります。
ビル管理会社視点では、「故障時にどの程度のコストと時間で交換できるか」「清掃・点検と一体で運用できるか」など、運用フェーズの負担感が導入判断の鍵になります。
都市ZEBと不動産価値へのインパクト
都市部の再開発プロジェクトでは、ZEB Readyや国内外の環境認証(CASBEE、LEED、BELSなど)の取得が一般的になりつつあります。しかし屋根だけでは必要な発電量を確保しきれないビルも多く、外装・窓の活用が重要な論点になっています。
外装ガラスをBIPV化することで、次のような効果が期待できます。
- ビル全体の年間CO₂排出の削減(自家消費再エネの拡大)
- 共用部やテナント部の電気料金の一部削減
- 環境認証取得やESG評価の向上による不動産価値のプレミアム化
テナント企業は、SBTやRE100などの気候目標に対応するため、自社のオフィス選定時に再エネ調達のしやすさを重視する傾向が強まっています。「自ら発電するオフィスビル」は、そのニーズに直接応える手段となり得ます。
デベロッパーやリートにとっては、BIPV化による追加投資と、賃料プレミアム・稼働率向上・将来の炭素コスト回避効果を一体で評価することが、次世代ビルの収益モデル設計のポイントになります。
ZEBデベロッパーにとっての事業開発の示唆
事業開発の視点から見ると、このプロジェクトは次のような示唆を与えてくれます。
1. 定量モデルの早期整備
まず、BIPV導入による効果を数値で示すモデルづくりが重要です。具体的には、ビルごとに以下を整理するイメージです。
- 外装ガラス面の面積・方位・日射条件
- ガラス型PSCの変換効率と透過率の組み合わせ
- 導入コスト・電気料金単価・CO₂排出係数
これらを基に、例えば「南面の外装ガラスの30%をBIPV化すると、年間発電量◯MWh、CO₂削減◯t、電気料金削減◯万円」という形で示すと、投資判断がしやすくなります。
2. テナント価値との“二重のリターン”整理
次に、エネルギー面だけでなくテナント価値への影響も言語化することが大切です。環境認証のランクアップや、ESG投資家からの評価、環境志向の強いテナント企業の誘致など、非エネルギー的なリターンも含めて整理する必要があります。
例えば、「ZEB Ready+BIPV外装のビルでは、標準的なビルと比べて平均賃料が◯%高い」といった形でデータが蓄積されれば、BIPV投資の説明力は大きく高まります。
3. 導入タイミングの設計
実際の導入タイミングとしては、大規模修繕や外装リニューアル、新築計画のフェーズが狙い目です。このタイミングで、外装ガラス更新の一部をBIPVに置き換える提案を行うと、追加投資を最小限に抑えつつ効果を得やすくなります。
長期的には、外装リニューアルの標準仕様の一つとして「ガラス型PSC」を位置付けられるかどうかが、市場の広がりを左右すると考えられます。
筆者の視点
ガラス型ペロブスカイト太陽電池は、変換効率・意匠性・軽量性など多くの利点を持つ一方、耐久性や量産プロセスなど解決すべき課題も残る技術です。今回のグリーンイノベーション基金事業は、ラボレベルから社会実装フェーズへ進むための重要なステップといえます。
パナソニックHDは2030年前後の実用化を視野に入れており、AGCは建築用ガラスとしての安全性・施工性・デザイン性を含めた製品化を進めています。これが軌道に乗れば、2020年代後半には再開発ビルや大型オフィスの外装で「発電する窓」を目にする機会が増えている可能性があります。
今後、実証結果として発電データや耐久性、経済性の情報が蓄積されれば、ZEBデベロッパーや不動産オーナーは、より具体的なビジネスモデルを描けるようになります。ペロブスカイトBIPVは、都市部のビルを「再エネを消費する場」から「再エネを生み出す場」に変える技術として、今後の展開が注目されます。
主な出典・参考情報
- パナソニック ホールディングス/AGC/パナソニック環境エンジニアリング「ガラス型ペロブスカイト太陽電池の量産技術開発とフィールド実証に関する発表資料」 (https://news.panasonic.com/jp/press/jn251114-1)
- パナソニック Glass-based Perovskite Photovoltaic 技術紹介ページ (https://tech.panasonic.com/global/pv/)
- 東京都環境局「次世代型ソーラーセル普及拡大に向けたロードマップ」 (プレスリリース:https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2025/03/2025032807.html) (PDF本体:https://www.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/tosei/20250328_54_01a.pdf)
- 建物一体型太陽光発電(BIPV)市場動向に関する国内外レポート各種(例)
・Global Market Insights「Building Integrated Photovoltaics Market」 (https://www.gminsights.com/ja/industry-analysis/building-integrated-photovoltaics-market)
・Fortune Business Insights「ビル統合型太陽光発電(BIPV)市場」 (https://www.fortunebusinessinsights.com/jp/…/100818)

