線路と通信管路が「水素の道」になる──関西電力ら関西12社が描く輸送網構想

線路と通信管路が「水素の道」になる──関西電力ら関西12社が描く輸送網構想

2026年3月12日、関西電力やJR西日本、NTTなど異業種12社が、関西エリアを中心としたグリーン水素の大規模輸送・利活用に向けた基本合意書を締結した。鉄道の線路敷や通信用の地下管路といった「すでにあるインフラ」を水素輸送に転用するという発想が特徴的で、関西圏の産業脱炭素化を一気に加速させる可能性を秘めている。

目次

何が発表されたのか

NTTが2026年3月12日付で公表したニュースリリースによると、関西電力、JR西日本、JR貨物、NTT、NTTアノードエナジー、パナソニック、川崎重工業、川崎車両、北酸、井本商運、神戸製鋼所、日本通運の計12社が共同調査・実証に関する基本合意書を締結した。

目的は明快だ。既存インフラを活用した国内水素サプライチェーンモデルを、関西エリアから構築すること。水素の製造・貯蔵拠点を起点に、大規模かつ低コスト・低炭素な輸送体制を確立し、水素需要の創出と効率的な流通網の整備につなげるのが狙いだ。

関西グリーン水素サプライチェーンの全体フロー図。「つくる(再エネで水電解)」→「ためる(液化・圧縮して貯蔵)」→「はこぶ(パイプライン・鉄道・陸上・海上)」→「うけとる(受入設備)」→「つかう(燃料電池発電・工場利用)」の5ステップを矢印でつないでいる。
関西グリーン水素サプライチェーンの全体像──「つくる」から「つかう」まで(筆者作成)

12社の役割分担──「つくる」「はこぶ」「つかう」を一気通貫で

今回の枠組みが興味深いのは、水素の輸送から利活用、管理システムまでを一体的にカバーしている点にある。各社の担当領域を整理すると、その全体像が見えてくる。

参画12社の役割分担マップ。「パイプライン」にJR西日本・NTT・NTTアノードエナジー、「コンテナ輸送」にJR貨物・川崎車両・日本通運・井本商運、「設備製作・受入」に北酸・神戸製鋼所、「利活用・管理」に関西電力・川崎重工業・パナソニックを配置している。
参画12社の役割分担──4つのカテゴリに整理(筆者作成)

パイプライン(既存インフラの転用)

JR西日本は線路敷に水素パイプラインを敷設する実証を担う。線路沿いという直線的かつ広域に張り巡らされたインフラを水素輸送に活かす発想だ。一方、NTTとNTTアノードエナジーは、通信用の既存地下空間を活用したパイプラインの検討を進める。NTTグループは2025年の大阪・関西万博でも、地中通信用管路を使って約200メートル離れたパビリオン間で水素を輸送する実証を行っており、その知見をスケールアップさせる格好だ。

JR線路敷とNTT地下管路を水素パイプラインに転用するビフォーアフターのイメージ図。上段はJR線路の脇に水素パイプラインを敷設した断面図、下段はNTT地中管路の一部を水素パイプラインに転用した断面図。
既存インフラを水素輸送に転用するイメージ(筆者作成)※実際の構造とは異なります

コンテナ輸送(鉄道・陸上・海上)

パイプラインだけではカバーしきれないエリアには、コンテナによる複合輸送で対応する。川崎車両が液化水素コンテナの鉄道輸送実証を実施し、JR貨物が鉄道による水素輸送そのものの実証を担当。陸上輸送は日本通運、海上輸送は井本商運がそれぞれ受け持つ。輸送用の圧縮水素コンテナは北酸が製作し、液化水素コンテナの受入設備は神戸製鋼所が検討する。

利活用・管理システム

運んだ水素をどう使い、どう管理するか。関西電力は鉄道水素輸送の供給管理システム実証を担い、川崎重工業は環境価値管理システムの実証と自社工場での水素利活用を調査する。パナソニックは純水素型燃料電池を活用した利活用実証を行う。純水素型燃料電池とは、外部から直接供給された水素と空気中の酸素を化学反応させて発電・発熱を行うシステムで、パナソニックはこの分野で長年の実績を持つ。

なぜ「関西」なのか

このプロジェクトが関西を舞台にしているのには、いくつかの必然性がある。

まず、京阪神エリアには鉄鋼・化学・機械など重工業の集積地があり、水素の大口需要先が見込める。神戸製鋼所や川崎重工業の拠点が参画企業に含まれていること自体が、需要サイドの本気度を示している。

加えて、2025年の大阪・関西万博は水素技術のショーケースとなった。関西電力はNEDOのグリーンイノベーション基金を活用し、万博期間中に姫路第二発電所で水素混焼発電の実証を実施。NTTアノードエナジーとパナソニックは万博会場内で地中パイプラインによる水素サプライチェーンの実装を完了している。今回の12社連携は、万博で得られた実証知見を「レガシー」として関西圏全体に展開する動きと位置づけられる。

事業開発の視点から

関西圏の水素インフラ整備には、今回の12社以外にも参画の余地がある。

たとえば、大阪ガスをはじめとする地域エネルギー企業にとっては、既存のガス供給網と水素パイプラインの接続や、都市ガスへの水素混合といった切り口が考えられる。また、水素ステーションの整備や燃料電池車向けの供給インフラなど、モビリティ分野との連携も視野に入ってくるだろう。

欧州では「European Hydrogen Backbone」計画のもと、既存の天然ガスパイプラインを水素用に転換するプロジェクトが進んでいる。日本国内では新たなパイプラインを敷設するハードルが高いだけに、鉄道や通信インフラの転用という今回のアプローチは、日本型の水素輸送モデルとして注目に値する。

関西電力は2030年から姫路の火力発電所で水素混焼発電を開始する検討も進めており、国内の水素需要が本格化するまでの数年間が、サプライチェーン構築の勝負どころになりそうだ。

まとめ

今回の12社連携は、水素の「つくる・はこぶ・つかう」をワンストップで設計しようとする点に大きな特徴がある。個別企業の実証ではなく、サプライチェーン全体を一体的に構築する枠組みは、国内でもまだ珍しい。関西万博で蒔かれた種が、どこまで育つか。京阪神の産業インフラを水素で塗り替える挑戦が、静かに始まっている。

出典・参考
・NTT株式会社 ニュースリリース(2026年3月12日)「関西エリアを中心としたグリーン水素の大規模輸送・利活用に向けた共同調査・実証に関する基本合意書の締結
・スマートグリッドフォーラム(2026年3月13日)「関西でグリーン水素の大規模輸送網を構築へ、関西電力など12社が連携
・事業構想オンライン(2026年3月)「関西電力、JR西日本など12社 関西エリアのグリーン水素供給実証で合意

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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