2026年3月12日、ホンダは北米市場向けに開発していた3つのEVモデル——Honda 0 SUV、Honda 0 Saloon(セダン)、Acura RSX——の開発・発売を正式に中止すると発表した。さらに翌日にはAutomotive News等の報道により、GMと共同開発したHonda Prologueも2026年12月で生産終了となる見通しが明らかになった。
これにより、ホンダは2027年以降、北米市場でBEV(バッテリー式電気自動車)のラインナップを事実上ゼロにするという極めて異例の事態に陥ることになる。

自社開発の3モデルは開発中止、GM共同開発のPrologueも年内生産終了の見通し
(出典:Honda公式プレスリリース/Automotive Newsを基に筆者作成)
一次情報:ホンダ公式プレスリリースの全容
ホンダが3月12日付で発表した公式プレスリリース(Honda Global Newsroom)によれば、今回の決定は「自動車電動化戦略の再評価」の一環として行われたものだ。
同リリースでは、中止の理由として以下の3点が挙げられている。

個別の問題ではなく、3要因が同時に作用したことでホンダの意思決定に至った
(出典:Honda公式プレスリリースを基に筆者作成)
1. 米国の関税政策の変化
ホンダは、米国における関税政策の変更がガソリン車・ハイブリッド車事業の収益性を圧迫していると説明している。従来のICE(内燃機関)事業から得られる安定収益が、EV開発を支える原資だったが、その前提が崩れたという構図だ。
2. 米国EV市場の減速
化石燃料規制の緩和やEVインセンティブの見直しなどにより、米国でのEV市場の拡大が鈍化。ホンダは「EV需要が大幅に減少している現在の事業環境下で、これら3モデルの生産・販売を開始すれば、長期的にさらなる損失を招く」と判断した。
3. 中国市場での競争力低下
中国市場では、消費者が求める価値の軸が燃費や室内空間といったハードウェアから、ADAS(先進運転支援システム)やOTA(無線アップデート)などソフトウェア中心の機能へとシフト。短い開発サイクルとSDV(ソフトウェア定義車両)技術に強みを持つ新興EVメーカーが台頭する中、ホンダは公式に「新興EVメーカーよりもコストパフォーマンスの高い製品を提供できず、競争力が低下した」と認めている。
損失規模:最大2.5兆円、69年ぶりの赤字転落
ホンダの公式発表によると、今回の戦略転換に伴い、2026年3月期の連結業績で以下の損失を計上する見通しだ。

EV戦略転換に伴う損失により、営業損益は5,500億円の黒字予想から最大5,700億円の赤字へ大幅下方修正された
(出典:Honda公式プレスリリースを基に筆者作成)
- 営業費用として8,200億円~1兆1,200億円
- 持分法投資損失として1,100億円~1,500億円
- さらに翌期以降を含めた累計損失は最大2.5兆円(約157億ドル)に達する可能性
この結果、ホンダは通期の営業損益見通しを従来の5,500億円の黒字から、2,700億円~5,700億円の赤字へと大幅に下方修正した。通期の最終赤字となれば69年ぶり——つまりホンダが四輪事業に本格参入して以来、実質的に初の赤字転落となる。
なお、経営責任を明確にするため、三部敏宏 社長兼代表執行役員をはじめとする役員が月額報酬の20~30%を3カ月間自主返上し、代表執行役員2名は短期業績連動報酬(STI)の全額を返上する。
Honda Prologueも年内生産終了へ
3モデルの開発中止に続き、GMプラットフォームを使用しメキシコのGM工場で生産されているHonda Prologueについても、業界予測機関AutoForecast Solutionsの情報としてAutomotive Newsが2026年12月での生産終了を報じた。
Prologueは2025年に米国で約39,000台を販売したが、連邦EV税額控除(7,500ドル)の廃止後、2026年の販売台数は前年同期比74%減と急落。年間販売見通しも約17,900台に半減している。なお、Acura版のZDXは2025年9月にすでに販売終了済みだ。
ホンダの広報担当者はAutomotive Newsの報道について「純粋な憶測に基づくもの」とし、「PrologueはラインナップにBEVとして残っている」とコメントしたが、次世代モデルの計画については言及を避けた。
何が問題なのか:専門家・メディアの分析
TechCrunchのTim De Chant記者は3月14日の分析記事で、今回の決定がホンダにもたらす2つの致命的なリスクを指摘している。
EVの「学習機会」の喪失
EVの開発・製造を中止することで、ホンダはゼロからの設計・製造ノウハウ、新たなサプライチェーンの構築、そして何より顧客フィードバックという不可欠な「学習機会」を失う。De Chant記者はFordのMustang Mach-Eを例に挙げ、レガシーな設計判断がEVの競争力を損なうことを示している。Fordの場合、Mach-Eのワイヤーハーネスがテスラ車より約32kg(70ポンド)重いといった問題が、製品全体のコスト・効率に連鎖的な影響を及ぼしているという。
SDV(ソフトウェア定義車両)時代への対応遅れ
テスラ、リヴィアン、BYD、Xiaomiなどが提供するOTAアップデート、高度なインフォテインメント、ADASといったソフトウェア機能に対して、ホンダはいまだ有意義な進展を見せていない。EVの大容量バッテリーは高性能コンピュータの電源供給や駐車中のOTAアップデートを容易にするため、SDVとEVは密接に結びついている。ハイブリッド車でも技術的にはSDV化は可能だが、EV開発を避ける企業がSDVに積極的に取り組む動機は薄い。
ホンダの今後の方針
ホンダは公式リリースで、今後の方針として以下を表明している。
- ハイブリッド車の強化:次世代ハイブリッドモデルの開発にリソースを再配分
- インド市場への注力:市場拡大が見込まれるインドでのラインナップ・コスト競争力を強化
- 固定費構造の適正化:事業規模に見合った固定費体制の構築
- 長期的なEV戦略:収益性と市場動向のバランスを見ながら、柔軟に対応
中長期の自動車事業戦略の詳細については、2026年5月の記者会見で発表する予定としている。
自動車業界全体の潮流の中で
ホンダのEV撤退は孤立した事象ではない。Ford、GM、Volkswagen、Stellantis、Hyundai/Kia、日産、ボルボなど、多くのレガシーメーカーがEV計画を縮小・延期している。Fordは2025年にF-150 Lightningの生産を終了し、レンジエクステンダー搭載型への転換を発表。VolvoはEX30を中止、GMはBolt EVを再び廃止、日産はAriyaをキャンセルしている。
一方で、ホンダと同じ日本メーカーであるトヨタは2026年中に米国で4つの新型EVを投入予定であり、BYDやXiaomiなどの中国勢は引き続きEV市場でシェアを拡大している。EV市場が「消滅」しているのではなく、競争の構造が変化しているというのが実態だ。
まとめ:問われるホンダのアイデンティティ
ホンダはもともとエンジン技術の卓越性で知られる企業だ。しかし、自動車産業が電動化とソフトウェア化という二重の構造転換を迎える中、その強みは急速に陳腐化しつつある。
信頼性と手頃な価格、そして「走る楽しさ」——これらがホンダの核心的な価値だった。しかしEVは構造的にICE車より高い信頼性を持ち、バッテリー価格の低下に伴い車両価格も下がる傾向にある。さらに自動運転技術が進めば、「ドライバーズカー」の定義そのものが問い直される。
ホンダが中国市場で直面している競争力の低下は、時間の問題で他の地域にも波及する可能性がある。5月に発表される新たな中長期戦略が、ホンダの将来を左右する重要な転換点となるだろう。
主要出典:
・Honda Motor Co., Ltd. 公式プレスリリース(2026年3月12日)
・Automotive News「GM-built Prologue on chopping block as Honda drops EVs」(2026年3月13日)
・TechCrunch「Honda is killing its EVs — and any chance of competing in the future」(2026年3月14日)

