欧州VC史上最大:Nscale $2Bと蓄電池Nighthawk $920m、合計$4B超|クライメートテック資金調達 #028

クライメートテック資金調達 #028のアイキャッチ画像。左半分に青く光るサーバーラックが並ぶ未来的なデータセンター、右半分にカリフォルニアの夕景を背景とした大型蓄電池施設が描かれ、対角線上のエネルギーフローで両者がつながるイラスト。中央に「欧州VC史上最大 Nscale $2Bと蓄電池Nighthawk $920m、合計$4B超 クライメートテック資金調達 #028」の文字。

今週は、〔スタートアップ資金調達〕に$2,266.3m、〔M&A / Exit〕に$106.9m、〔プロジェクト・デット〕に$1,684mが集まりました(合計$4,057.2m、非開示は集計外)。

目次

3行サマリー

スタートアップ資金調達動向:
英Nscaleが欧州史上最大のSeries Cとなる$2Bを調達し、AIインフラ・ネオクラウド領域への巨額資本流入が続く。中国のZeron Truckが自律走行EVトラックで1.2B CNY($175m)を獲得し、重量車電動化への投資家の関心の高さを示した。

プロジェクト資金調達動向:
Arevon EnergyがカリフォルニアのNighthawk蓄電池プロジェクト(300MW/1,200MWh)向けに$920mのファイナンスパッケージを組成。Envision Energyは$600mのサステナビリティ連動ローンを香港でクローズした。

政策動向:
欧州委員会がクリーンエネルギー投資戦略を発表しEIB€75Bの融資枠を設定、米DOEは送電網近代化に$1.9Bの助成機会を公示した。

今週の資金調達動向

サマリー(USD概算)

グループ件数開示額合計主な資金種別代表案件
スタートアップ/コーポレート(エクイティ/研究助成等)13$2,266.3mSeries C, Series A/B, Seed, Pre-Series ANscale $2,000m、Zeron Truck $175m
M&A / Exit4$106.9m(2件非開示)買収Wildcat Discovery $73m、Protean Electric ¥5.07B
プロジェクト系(PF/デット/資産売買)5$1,684mPFデット/エクイティ, SLLローン, デットArevon $920m、Envision $600m

— 注:合計は概算・非開示を除く。為替目安:£→$1.33、A$→$0.68、€→$1.10、C$→$0.74、¥→$0.0067(端数は$0.1m未満切り捨て)。通貨併記は一次発表に準拠。

A. スタートアップ / コーポレート

企業/国金額/ステージ概要主な投資家
Nscale/UK$2,000m/Series CGPU・データセンター・オーケストレーションを垂直統合するAIインフラ基盤の世界展開Aker ASA, 8090 Industries, NVIDIA, Citadel, Dell, Jane Street, Nokia, Point72
Zeron Truck/CN$175m(1.2B CNY)/Series B自律走行対応の新エネルギー大型EVトラックの開発・量産Puquan Capital(CATL系), Momenta, NIO Capital, Anhui Lingtong Group, Blue Lake Capital
Heliup/FR$19m(€17.2m)/Series A太陽光パネル製造・設計の統合ソリューションSupernova Invest, BNP Paribas Développement, Crédit Agricole Alpes Développement
Seprify/CH$16m/Series Aセルロースベースの酸化チタン代替配合素材の開発Una Terra, Cambridge Enterprise Ventures, IKEA, Kickfund, Zürcher Kantonal Bank
MGA Thermal/AU$12m(A$17.6m)/Series A蓄熱ブロックによる産業用熱エネルギー貯蔵技術IP Group Australia, Main Sequence Ventures
Coral/US$8m/Seed住宅省エネ改修向けリベート先払いファイナンスプラットフォームResilienceVC, Accion Ventures, Blackhorn Ventures, Floating Point, New Climate Ventures
Newtrace/IN$6.3m/Pre-Series Aグリーン水素向けアルカリ水電解用高性能電極の開発。日本のMSIVCが共同リードHDFC Bank, MSIVC(三井住友海上キャピタル), Surge, Aavishkaar Capital, Speciale Invest
Hyperscale Power/CH$6m/Seed固体変圧器技術によるデータセンター・EV充電向け高密度電力変換Vsquared Ventures, World Fund
Amelia/ES$6m(€5.4m)/Seed太陽光発電所建設の品質管理自動化AIActyus, Sabadell Venture Capital, CDTI
Airmo/DE$6m(€5.4m)/Seed衛星ベースのメタン等温室効果ガス排出モニタリング技術Ananda Impact Ventures, Antler, Desai Ventures, E2MC, Findus Ventures
Cytotrait/UK$4m(£3m)/Seedゲノム編集による作物の遺伝形質改良技術Northern Gritstone, Northern Universities Venture Fund, UKI2S
Dat Bike/VN$4m/Series Bベトナム市場向け電動バイクの設計・製造Thien Viet Securities JSC
Cellva Ingredients/BR$4m/Seedコーヒー残渣等を原料とした細胞農業ベースの食品素材DigiBoard, Air Capital, Rubens Pereira

Nscale — 特集

会社の概要
Nscaleの資金調達タイムラインを示す横型インフォグラフィック。2024年12月Series Aで155M、2025年9月Series Bで1.1B(評価額3.1B)、2026年3月Series Cで2.0B(評価額14.6B)。18か月で累計4.5B超を調達。主な投資家はAker ASA、8090 Industries、NVIDIA、Citadel、Point72。
Nscaleの資金調達推移(2024年12月〜2026年3月)。
Series A $155Mから18か月でSeries C $2.0Bに到達し、累計調達額は$4.5B超、評価額は$14.6Bに拡大した。
出所:Nscale社プレスリリースをもとに筆者作成

Nscaleは2024年設立・ロンドン本拠のAIインフラ企業で、GPU計算資源からネットワーキング、データサービス、オーケストレーションソフトウェアまでを垂直統合した「ネオクラウド」を提供する。創業者Josh PayneのもとAWS・Azure・GCPといった既存ハイパースケーラーとは異なるAI特化型のクラウド基盤を構築しており、設立から18か月で累計$4.5B超の資金を調達。今回のSeries Cで評価額は$14.6Bに達し、欧州VC史上最大のラウンドとなった。

何ができるのか

Nscaleは企業向けにAIモデルの学習・ファインチューニング・推論をプロダクション品質で大規模に実行できるクラウドプラットフォームを提供する。英国・米国・ノルウェー・ポルトガル・アイスランドにデータセンターを展開し、NVIDIAのBlackwell GPUを大量配備している。Microsoftとの英国AI Campus共同開発、OpenAI・NVIDIAとのStargate UK/Norwayプロジェクトなど、大手テック企業との戦略的パートナーシップも強固である。

技術のしくみ
NscaleのAIインフラ垂直統合モデルと従来型ハイパースケーラーの構造比較図。左側のNscaleはエネルギー調達、データセンター建設、GPU計算基盤、ネットワーク、ソフトウェアの5層が一体化。右側の従来型は各層が外部電力会社、不動産デベロッパー、クラウド事業者、各種ベンダー、顧客側構築と分離している。
Nscaleの垂直統合モデルと従来型ハイパースケーラーの構造比較。
Nscaleはエネルギー調達からソフトウェアまで5層を一社で統合し、従来型では各層が別事業者に分離している。
出所:各社公開情報をもとに筆者作成

同社は「ファーストプリンシプル」設計思想に基づき、エネルギー調達からデータセンター建設、GPU配備、ネットワーク構築、ソフトウェアオーケストレーションまでをモジュラー型で一貫設計する。Nokiaとの提携によるネットワーク最適化、独自のファインチューニングサービスや推論API、AIスタジオなどのソフトウェアスタックも内製で開発している。設計上、再生可能エネルギー活用と廃熱再利用を標準とし、データセンターが所在する地域コミュニティへの長期的な投資・スキル開発を掲げている点が、エネルギー集約型のAIインフラ事業としてのサステナビリティ面の特色となっている。

料金・導入の進め方

NscaleはGPUaaS(GPU-as-a-Service)モデルで計算資源をオンデマンド提供しており、料金体系は個別契約ベースとされる。大規模AIワークロードを持つ企業やAIスタートアップ、各国政府のソブリンAI需要が主要ターゲットである。導入にあたってはNscaleのプライベートクラウド環境を利用する形で、GPUクラスター・ネットワーク・ストレージが統合されたインフラを一括で利用開始できる。IPOも視野に入れていると報じられている。

他社との違い
Nscale、CoreWeave、Nebiusの3社を比較するバブルチャート。横軸が商業化の成熟度、縦軸が欧州・ソブリンAI特化度。Nscaleは欧州特化度が高く評価額14.6B。CoreWeaveは売上5.1Bで商業化が最も進み米国中心。Nebiusは中間的位置でARR目標7から9B。
ネオクラウド3社のポジショニング比較。
横軸は商業化の成熟度(売上規模)、縦軸は欧州・ソブリンAI特化度。バブルの大きさは評価額の概算規模を示す。
Nscaleは欧州起点の主権AI戦略で差別化し、CoreWeaveは売上規模、Nebiusはグローバル展開速度で先行する。
出所:各社公開情報をもとに筆者作成
  • CoreWeaveやNebiusなど競合ネオクラウドと比べ、欧州を起点としたソブリンAIインフラへの特化と再生可能エネルギー戦略が差別化要素。ノルウェー・アイスランドなど北欧のクリーンエネルギー供給地にデータセンターを展開する。
  • エネルギー調達からソフトウェアまで垂直統合する設計により、顧客はGPU計算だけでなく電力コストやネットワーク遅延まで含めた総合最適化が可能。
  • 設立から18か月で$4.5B超の調達、$14.6Bの評価額到達という資本形成スピードは同カテゴリで異例であり、NVIDIA・Microsoft・OpenAIとの直接提携が参入障壁となっている。
どこで効果が出やすいか/日本での示唆

Nscaleの事業モデルはAIインフラの急拡大がエネルギー消費増大を招くというクライメートテックの文脈で注目される。日本でもデータセンター電力需要が急増しており、再エネ連動型のAIインフラ投資モデルは参考になる。Nscaleが北欧で展開する廃熱利用・地域還元の枠組みは、日本のGX戦略やデータセンター誘致政策とも親和性が高い。特記として、今回の調達では日本の直接的な関与は確認されていないが、AIインフラ×クリーンエネルギーの接合領域は日本企業にとっても重要な投資・提携先候補となりうる。

B. M&A / Exit

企業/国金額/資金種別・ステージ概要
Wildcat Discovery Technologies/US$73m/買収(by Holyvolt・SE)ハイスループット電池材料探索プラットフォーム。スウェーデンのHolyvoltが買収し材料発見から製造までを統合
Protean Electric/UK¥5.07B(≈$33.9m)/買収(by EXEDY・JP)インホイールモーター技術。日本のドライブトレイン大手EXEDYが取得し電動化ポートフォリオを拡充
InductEV/US非開示/買収(by ElectReon)商用車フリート向けワイヤレス充電。イスラエルのElectReonが買収しグローバル拠点を確立
Ozone Renewables/US非開示/買収(by Exus Renewables)再エネプロジェクト開発。Exusが初期開発能力を内製化

C. プロジェクト系

企業/国金額/資金種別・ステージ概要
Arevon Energy/US$920m/PFデット+優先株+税額控除移転カリフォルニア州Poway Nighthawkプロジェクト向け。300MW/1,200MWhの大型蓄電池。2026年春稼働予定
Envision Energy Group/CN$600m/SLLローン海外オフショア市場で最大のサステナビリティ連動シンジケートローン。再エネ・蓄電・グリーン水素事業の拡大資金
GridStor/US$120m/PFデットテキサス州Hidalgo County Gunnar Reliability Project向け。150MW/300MWhのBESS
Electra/US$30m/デット低炭素鉄製造の商業化資金。J.P. Morgan Asset Managementが供与
Hero Future Energies/UK・IN$14m(₹1.25B)/デットインドの太陽光発電子会社向けIL&FS MFによるNCD投資

今週の政策・規制動向

1. 欧州委員会:クリーンエネルギー投資戦略を発表(3月10日)
欧州委員会はClean Energy Investment Strategy(COM/2026/116)を採択し、民間資本の動員を加速する枠組みを示した。送電事業者へのエクイティ供給、ローン証券化、イノベーション・デリスク基金の設立を柱とし、EIBグループが今後3年間で€75B超の融資を提供する方針。EU全体で2030年まで年間約€660Bの投資が必要と試算されている。
一次:欧州委員会プレスリリース

2. 米DOE:送電網近代化に$1.9Bの助成機会を公示(3月12日)
米エネルギー省電力局はSPARKプログラムとして約$1.9Bの助成機会を発表した。既存送電線の高容量導体への更新(リコンダクタリング)等の先進送電技術を重点とし、新規用地取得なしで送電容量を拡大する迅速な手法を推進する。同省は別途、国内重要鉱物の加工・製造に$500mの助成も発表している。
一次:DOEプレスリリース

日本との関連

今週は2件の日本関連が確認された。インドのグリーン水素スタートアップNewtraceのPre-Series Aに三井住友海上キャピタル(MSIVC)が共同リードとして参画している。また、M&AではEXEDY(エクセディ)が英Protean Electricをインホイールモーター技術取得のため¥5.07Bで買収し、電動化戦略を加速させた。

参考文献・出典リンク一覧

一次情報・企業プレス・公的資料

CTVC

CTVC Issue 287(本稿は同号の「Deals of the Week(2026/3/9–3/16)」を起点に、一次情報で裏取りし独自に要約・分析しました。先週号は #286)。

略語集

略語正式名称・説明
PFProject Finance(プロジェクトファイナンス)
SLLSustainability-Linked Loan(サステナビリティ連動ローン)
BESSBattery Energy Storage System(蓄電池エネルギー貯蔵システム)
GPUGraphics Processing Unit(画像処理装置、AI演算にも使用)
GPUaaSGPU as a Service(GPU計算資源のクラウド提供モデル)
EIBEuropean Investment Bank(欧州投資銀行)
DOEU.S. Department of Energy(米エネルギー省)
SPARKSpeed to Power through Accelerated Reconductoring and other Key Advanced Transmission Technology Upgrades(DOEの送電網近代化助成プログラム名)
MSIVCMitsui Sumitomo Insurance Venture Capital(三井住友海上キャピタル)
NCDNon-Convertible Debenture(非転換社債)
EVElectric Vehicle(電気自動車)
GXGreen Transformation(グリーントランスフォーメーション)
IPOInitial Public Offering(新規株式公開)
M&AMergers and Acquisitions(合併・買収)

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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