ガソリンスタンドが“急速充電拠点”になる Terra Chargeの1号事例を読む

ガソリンスタンドが“急速充電拠点”になる Terra Chargeの1号事例を読む

EV(電気自動車)の普及が進むなかで、「どこで充電できるのか」は依然として大きな課題です。特に地方では、充電スポットが見つからない“空白地帯”がまだまだ残っています。

この問題に対して、ひとつ面白いアプローチが出てきました。すでに全国に広がっているガソリンスタンド(サービスステーション、以下SS)を、EV充電の拠点として使おうという動きです。

2026年2月、EV充電サービスを手がけるTerra Charge(テラチャージ)が、群馬県高崎市の「セルフ江木SS」に50kWの急速充電器を設置し、サービスの提供を開始しました。同社によれば、ガソリンスタンドへの急速充電器の設置はこれが初めてとのことです(自社調べ、2026年2月20日時点)。

目次

なぜガソリンスタンドなのか

充電インフラを増やすとき、いちばん手間がかかるのが「場所探し」です。土地の確保、電力の引き込み、利用者が来やすい立地かどうか──ゼロから条件を揃えるのは時間もお金もかかります。

その点、ガソリンスタンドにはもともと有利な条件が揃っています。幹線道路沿いに立地していることが多く、ドライバーにとっては「燃料を入れに寄る場所」として馴染みがあります。初めて訪れる土地でも、ガソリンスタンドなら迷わず入れるという人は多いのではないでしょうか。

つまり、新しく場所を開拓するのではなく、すでにあるインフラを”転用”するという発想です。これなら立地の確保にかかる時間やコストを大幅に抑えられますし、横展開のスピードも上がります。

セルフ江木SSで始まったこと

今回の導入内容はシンプルです。赤尾商事が運営するセルフ江木SSに、出力50kWの急速充電器を1基・1口設置。利用にはTerra Chargeの公式アプリが必要で、すでにサービスは稼働しています。

注目したいのは、施設側の費用負担がゼロとされている点です。初期費用も維持費も運用費もかからないとTerra Chargeは説明しており、これはSS側にとって導入のハードルを大きく下げる要素になります。また、充電器には日本製のハードウェアを採用し、コールセンターによるサポート体制も整えているとのことです。

Terra Chargeとしては、この第1号を「SS転用モデルの入口」として位置づけたい意図が見えます。

国の政策と充電インフラの現在地

国はEV充電インフラの整備を強力に後押ししています。経済産業省が公表している情報によると、充電・充てんインフラ等導入促進補助金として、令和6年度補正・令和7年度当初の枠で460億円が確保されています。さらに、2030年までに充電口数を30万口に増やすという目標も掲げられています。

EV充電インフラの主要数字。補助金460億円、国の目標2030年までに30万口、Terra Charge累計設置数35,269口(うち急速充電1,005口)。目標に対する進捗は約12%
国の目標30万口に対して、業界最大手でもまだ約12%。充電インフラの拡大余地は大きい

ただし、数を増やすだけでは十分ではありません。大切なのは「使われやすい場所」に設置すること。いくら充電器があっても、行きにくい場所にあったり、存在自体が知られていなかったりすれば、利用は進みません。

その意味で、日常的にドライバーが立ち寄るガソリンスタンドは、充電インフラの設置場所として理にかなっています。

他の充電スポットとの違い

EV充電にはいくつかのタイプがあり、それぞれ得意な場面が異なります。

EV充電スポットのポジショニングマップ。横軸が滞在時間、縦軸が利用シーン。ガソリンスタンドは短時間×移動経路上、高速道路SAは経路充電、商業施設・ホテルは目的地充電に位置する
ガソリンスタンドは「短時間で寄れる経路上の充電」という、他にない立ち位置を持つ

高速道路SA・PA

長距離移動の途中で使う「経路充電」に向いている。走行中の継ぎ足しが主な用途。

商業施設・ホテル

買い物や宿泊の時間を活かす「目的地充電」が中心。滞在中にゆっくり充電するスタイル。

ガソリンスタンド

その中間で「短時間で寄れる」設計。給油と同じ感覚で使え、心理的ハードルが低い。

ガソリンスタンドは、長時間滞在する場所ではありませんが、移動の途中でさっと立ち寄れます。給油と同じ感覚で使えるので、EV充電に慣れていない人にとっても入りやすい場所です。

横展開のカギは何か

この第1号事例が本当に意味を持つのは、同じモデルを他のSSにも広げられるかどうかにかかっています。

課題になるのは、設備そのものよりも「受電容量」と「工事の難易度」です。十分な電力を引き込めるか、工事にどれくらいの時間とコストがかかるか。この条件はSSごとに異なるため、導入の可否やスピードにばらつきが出ます。

逆に言えば、この部分をテンプレート化できれば、石油販売会社側の意思決定はぐっと軽くなります。「うちのスタンドでもできるのか?」という問いに、すぐ答えられる状態をつくれるかが勝負です。

また、SS単体で動くよりも、自治体や地域の電力会社と連携して「どこに置くと効果的か」を一緒に考えるほうが、導入はスムーズに進むでしょう。観光ルートや通勤路線など、実際の利用シーンから逆算して候補地を決めるアプローチが有効です。

Terra Chargeの現在の規模感

Terra Chargeは別のリリースで、2026年2月時点の累計設置数が35,269口(サービスイン前のものを含む)に達していると発表しています。このうち急速充電器(50kW以上)は1,005口。すでに相当な規模を持っており、SSのような新たな拠点タイプへ展開する余力が出てきたともいえます。

まとめ

今回の事例は、ニュースとしては地味に映るかもしれません。充電器1基の設置ですから。

しかし、「ガソリンスタンドを充電拠点に転用する」という発想には、EV充電インフラの拡大を加速させる可能性があります。全国に約2万4千か所あるとされるSSのネットワークを、充電ネットワークとして読み替えることができれば、地方の充電空白を一気に埋める手段になり得ます。

第1号はあくまで入口です。ここから先、どれだけのSSに同じモデルを展開できるか。それが、ガソリンスタンドの「次の役割」を決めることになりそうです。

参考リンク集

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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