太陽光や風力の導入が進むにつれて、「つくった電気をどう貯めるか」がますます切実な問題になっている。晴れた昼間に余った電力を夜まで持ち越す。風が止んだ数時間をしのぐ。こうした「数時間スケール」の蓄電ニーズに応える技術として、いま注目を集めているのがバナジウムレドックスフロー電池(VRFB)だ。
2026年2月、シリコンウェーハ再生で世界的シェアを持つRS Technologies(東証プライム・3445)が、福島県浪江町にVRFBの系統用蓄電所を建設する計画を発表した。経済産業省の補助事業にも採択され、出力2MW・放電6時間(蓄電容量12MWh)という、国内では珍しい長時間蓄電(LDES)案件が具体的に動き始めた。
何が決まったのか
RS Technologiesの2月10日付プレスリリースによると、同社は経産省の令和7年度「再生可能エネルギー導入拡大・系統用蓄電池等電力貯蔵システム導入支援事業費補助金」に採択された。建設予定地は、同社グループ会社であるLEシステムの浪江工場敷地内(福島県双葉郡浪江町)。総事業費の3分の1にあたる補助金3億8100万円が交付される。
蓄電池には、住友電気工業の新モデル「V40型」レドックスフロー電池が採用される。住友電工の同日付プレスリリースでは、RS Technologies案件を含む3件がこの補助事業に採択されたことが公表されている。残り2件は以下のとおりだ。
| 事業者 | 設置場所 | 電池容量 |
|---|---|---|
| RS Technologies | 福島県双葉郡浪江町 | 2MW・6時間 |
| 美樹工業/三井住友ファイナンス&リース | 兵庫県揖保郡太子町 | 2MW・4時間 |
| RYODEN/日本エネルギー総合システム | 鳥取県倉吉市 | 2MW・3時間 |
住友電工のVRFBだけで3案件が一度に採択されたことになる。
バナジウムレドックスフロー電池とは何か

電解液をタンクに貯め、セルスタックに循環させて充放電する。
タンクを大きくすれば容量が増え、セルスタックを増やせば出力が上がる。
そもそもVRFBとはどんな電池なのか。ごく単純に言えば、バナジウムを溶かした水溶液(電解液)を2つのタンクに貯めておき、それをポンプでセルスタックと呼ばれる装置に流して充放電する蓄電池だ。
リチウムイオン電池(LiB)が電極の中に活物質を閉じ込めるのに対して、VRFBでは活物質が液体の側にある。タンクを大きくすれば蓄電量が増え、セルスタックを増やせば出力が上がる。出力と容量を独立に設計できるので、「長時間の放電」に向いている。
もう一つの大きな特徴は寿命だ。電極で化学反応が起きても、液体側のバナジウムは劣化しにくい。住友電工はV40型で「30年クラスの運用」をうたっている。水溶液ベースなので熱暴走のリスクが低く、消防法上の危険物にも該当しない。安全面での規制対応が楽なことも、設置場所の制約が大きい日本では見逃せないポイントだ。
LiBと比べるとエネルギー密度が低く設置面積が大きい、初期コストが高い、といった課題もある。現時点では「1~2時間の短時間放電ならLiB、6時間以上ならVRFB」という棲み分けが大まかなコンセンサスだ。
RS Technologiesが手がける意味

RS TechnologiesとLEシステムは同一グループで、電解液の製造から蓄電所の保有・運営までを垂直統合している。
市場取引は外部アグリゲーターに委託し、容量市場・需給調整市場からの収入で投資回収を目指す。
今回の案件で興味深いのは、蓄電所を建てるのが電力会社でも重電メーカーでもなく、半導体ウェーハの再生加工を主力とするRS Technologiesだという点だ。
同社は2023年にVRFB用電解液メーカーのLEシステムを子会社化している。LEシステムの浪江工場はVRFB電解液の国内製造拠点であり、今回の蓄電所はまさにその敷地内に建つ。電解液をつくる工場のすぐ隣に、その電解液を使う蓄電所がある、という構図だ。
RS Technologiesのプレスリリースによれば、浪江第一蓄電所向けに約660㎥、美樹工業の案件向けに約440㎥、あわせて約1,100㎥の電解液出荷を見込んでいる。電解液の製造から蓄電所の保有・運営まで、一つのグループ内で垂直統合する。いわば「LDESのバリューチェーンを自分でつくる」という戦略だ。
蓄電池システムの供給は住友電工、施工は美樹工業が担い、市場取引は外部のアグリゲーターに委託する。RS Technologies自身はオーナーとして蓄電所を保有し、容量市場や需給調整市場からの収入で投資を回収する計画になっている。
なぜ浪江町なのか
設置場所として浪江町が選ばれた背景には、復興という文脈がある。東日本大震災と原発事故で大きな被害を受けた浪江町は、新産業の創出と雇用の確保を重要課題として掲げてきた。LEシステムの工場がすでに浪江町にあったことが直接のきっかけだが、電解液の製造・使用・将来的な回収までを同じ地域で完結させられるという地産地消型の蓄電サプライチェーンが構想できる点も、立地の合理性を高めている。
また、福島県は太陽光発電の導入が進むエリアでもある。晴れた昼間に発電量が需要を上回り、出力制御(発電の一時的な抑制)が行われるケースが増えている。蓄電所があれば、この余剰電力をいったん貯めて、需要が高い時間帯に放電できる。補助事業の公募要領でも、再エネの出力制御を減らすことが目的の一つに掲げられており、この蓄電所はその趣旨に沿った案件だ。
補助金だけに頼らないビジネスモデル
3億8100万円の補助金は初期投資の3分の1をカバーするが、残りは自己資金だ。それだけに、事業としてどう回すかが問われる。
RS Technologiesが想定しているのは、容量市場と需給調整市場という2つの電力市場からの収入だ。容量市場は「いざというときに電力を供給できる能力」に対価が支払われる仕組みで、蓄電池のように短時間で起動できる設備は相性がよい。需給調整市場は、電力の需給バランスをリアルタイムで調整するための市場で、充放電を柔軟に切り替えられるVRFBの特性が活きる。
もっとも、これらの市場はまだ制度設計の途上にあり、ルール変更や価格変動のリスクは残る。それでも、2MW・6時間という現実的なサイズで「まず始める」ことで実績データを積み、後続の案件や金融機関の判断材料をつくるという意図は明確だ。
「日本版LDESコンソーシアム」の萌芽
今回の補助採択で見えてきたのは、住友電工(蓄電池システム)、LEシステム(電解液)、美樹工業(施工)、アグリゲーター(市場取引)、そしてRS Technologies(蓄電所オーナー)という複数のプレイヤーが組み合わさる構図だ。住友電工のVRFBだけで3件が同時に動き出したことで、ゆるやかなコンソーシアムのような輪郭が少しずつ見え始めている。
「昼間の太陽光余剰のうち最初の1~2時間はLiBで吸収し、その先の4~6時間分はVRFBでシフトする」というハイブリッド構成が現実味を帯びてくる。どの時間帯をどの技術でカバーするか——時間軸ベースで蓄電のポートフォリオを描ける企業が、数年後のLDES案件で先手を打てるだろう。
この案件の「その先」
浪江第一蓄電所は国内2MW・6時間という小ぶりな案件だが、位置づけは小さくない。
LEシステムは海外にも電解液を出荷しており、この蓄電所は「国産VRFBが実際に系統に接続され、市場で収益を上げている」という実績のショーケースになりうる。風力や太陽光が豊富な海外市場ではLDESの需要が日本以上に大きいケースも多く、実稼働の実績は将来のパートナーシップ交渉において強力な材料になる。
国内でも、この案件から得られる運用データ——実際の充放電パターン、市場収入の実績、設備の経年変化——は、後続のLDESプロジェクトにとって貴重な参照点になるはずだ。「補助金があるから建てた」で終わらず、市場メカニズムの中で事業として成立するかどうか。その検証結果が、日本のLDES市場の行方を左右する一つの試金石になる。

一次情報
- RS Technologies(2026年2月10日)「RSテクノロジーズが計画する蓄電池事業が経済産業省の補助事業に採択されました」プレスリリースを見る
- 住友電気工業(2026年2月10日)「経産省の系統用蓄電池補助事業にレドックスフロー電池導入プロジェクト3件が採択決定」プレスリリースを見る
- 経済産業省 資源エネルギー庁(2025年4月)「令和7年度 再生可能エネルギー導入拡大・系統用蓄電池等電力貯蔵システム導入支援事業費補助金 公募要領」公募要領を見る
- 一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)「令和7年度 系統用蓄電池・水電解装置導入支援事業」事業ページを見る

