携帯基地局の蓄電池が「調整力」に? 北海道電力とドコモのDR連携とは

携帯基地局と蓄電池コンテナが電力グリッドとつながるDRイメージ図

分散型エネルギーリソースを束ねて需給調整力として活用する動きが、日本の電力システムで本格化しています。

北海道電力とNTTドコモ北海道支社は2026年2月、北海道内の携帯電話基地局に設置された蓄電池を使ったデマンドレスポンス(DR)の運用を開始し、電力ひっ迫時に負荷を抑える新しい仕組みを実運用に乗せました。

目次

3行サマリー

  • 2026年2月、北海道電力とNTTドコモ北海道支社が道内の携帯電話基地局の蓄電池を活用したDR運用を開始しました。
  • 電力需給がひっ迫したときに北海道電力がEMS基盤へ指令を出し、複数基地局の蓄電池を一斉に遠隔放電して系統からの受電を減らす仕組みです。
  • 再生可能エネルギーの出力制御が発生しそうなタイミングで蓄電池へ充電する運用も検討されており、北海道で増える再エネ制御の抑制にもつなげたい考えです。

今回の発表の位置づけとDRの概要

デマンドレスポンス(Demand Response、DR)は、需要側で電力使用量を調整して、電力の需給バランスをとる仕組みです。発電側だけでなく需要側も「仮想的な発電所」として扱い、必要に応じて電力の使用を減らしたり、設備を蓄電池に切り替えたりします。

今回の取り組みでは、NTTドコモが北海道内の携帯電話基地局に設置している蓄電池を、北海道電力のDRリソースとして活用します。北海道電力は分散したエネルギーリソースを束ねて価値を提供する「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス(Energy Resource Aggregation Business、ERAB)」を進めており、その一部として基地局蓄電池を組み込む形です。

具体的には、電力の需給がひっ迫した際に、北海道電力がNTTドコモのエネルギー・マネジメント・システム基盤(Energy Management System、EMS基盤)へDR指令を送信します。EMS基盤は遠隔制御信号により複数の基地局蓄電池を一斉に放電させ、系統からの受電を減らすことで、エリア全体の電力負荷を下げる仕組みです。

携帯基地局の蓄電池を用いたデマンドレスポンスの運用イメージ図
携帯電話基地局の蓄電池を活用したデマンドレスポンス運用のイメージ
(出典:北海道電力「NTTドコモと北海道電力による携帯電話基地局の蓄電池を活用したデマンドレスポンス運用の開始について」、2026年2月2日)

NTTドコモは四国電力とも同様の取り組みを進めており、2019〜2021年度のVPP(バーチャルパワープラント)構築実証事業に共同参画した実績があります。今回の北海道での本格運用は、こうした実証から得られたノウハウを別エリアに横展開する取り組みと位置づけられます。

北海道電力とNTTドコモの取り組み内容

NTTドコモはこれまでも、災害時の通信維持を目的に、北海道内の携帯電話基地局に蓄電池を配備してきました。停電時には基地局のバックアップ電源として機能する設備であり、その充放電を一括して制御できるEMS基盤を自社で開発・運用しています。

一方で、北海道電力は、分散するエネルギーリソースを束ねて制御・管理するERABを推進しており、需要側リソースを活用したDRメニューの拡充を進めています。今回、両社は基地局蓄電池を「仮想発電所」としてERABの一部に組み込むことで、需給ひっ迫時の新たな調整力として使える体制を整えました。

運用フローとしては、まず北海道電力が電力需給のひっ迫を予見した段階で、DR発動の要否や必要な調整量を判断します。そのうえでNTTドコモのEMS基盤にDR指令を送り、EMS側が複数の基地局の蓄電池に対して放電指令を出します。各基地局は一定時間、系統からの受電を蓄電池電力に切り替えることで、エリア全体の負荷を下げる形です。

活用する蓄電池の総容量や対象基地局の箇所数は、公表情報や報道ベースでも明示されていません。一方で、NTTドコモはDRの実績(放電量や応答度合いなど)に応じて報酬を受け取る仕組みとされており、通信インフラとして保有してきたバックアップ電源を「調整力サービス」として貨幣化するモデルになっている点が特徴です。

さらに、今後は太陽光発電など再生可能エネルギーの出力が増加し、出力制御(発電抑制)が発生しそうなタイミングで、基地局蓄電池に優先的に充電する「上げDR(需要造成)」としての活用も検討されています。四国エリアではすでに再エネ出力制御時の需要造成に蓄電池を活用する取り組みが始まっており、その延長線上で北海道でも同様の使い方が視野に入っている形です。

北海道エリアの電力事情と政策・市場文脈

北海道エリアでは風力・太陽光などの再生可能エネルギー導入が進む一方で、本州との連系線容量や需要規模の制約から出力制御が増える傾向にあります。全国で再エネ出力制御の回数・日数が増加する中で、北海道はその影響が表れやすいエリアの一つです。

北海道電力が公表している資料によると、2025年度には北海道エリア(本土)で太陽光・風力の出力制御が複数日発生しています。火力発電の出力抑制や本州エリアへの送電、揚水発電や大容量蓄電池の充電など、さまざまな回避策を講じてもなお余剰電力が発生する場面が継続している状況です。

こうした環境では、再エネ導入量を増やすだけでなく、「調整力をどう確保するか」が事業開発や投資判断の前提になります。系統用大容量蓄電池や揚水発電などのハード投資に加え、今回のように既設の通信インフラ蓄電池をDRリソースとして束ねる手法は、比較的小さな追加投資で調整力を増やせる選択肢です。

自治体や企業にとっても、北海道電力とNTTドコモの取り組みは、BCP(事業継続計画)向けに導入した蓄電池などを、系統安定化や再エネ活用のビジネスにも活かせる可能性を示しています。将来的には、工場や商業施設、データセンターなどの蓄電池も含めた「マルチテナント型VPP」へと発展する余地があります。

他の選択肢との比較・棲み分けと、企業・人材への影響

調整力を確保する手段としては、大規模な系統用蓄電池の新設や、揚水発電所の増強、工場など大口需要家の負荷制御など、さまざまな選択肢があります。これらは一件あたりの調整量が大きい一方で、初期投資や工事負担、運転・保守体制の構築に時間とコストがかかりやすい面があります。

今回の基地局蓄電池DRは、すでに全国に張り巡らされている通信インフラを活用する点が特徴です。1拠点あたりの蓄電容量はそれほど大きくなくても、数多くの基地局を束ねることで、全体として意味のある調整力を確保できます。また、既存の設備の「二毛作」として活用するため、新たな設備投資が比較的小さく済む可能性があります。

NTTドコモは、四国電力との取り組みで、基地局やドコモショップに配備した蓄電池を活用したDRを本格運用しており、需要低減(下げDR)と再エネ出力制御時の需要造成(上げDR)の両方に取り組んでいます。北海道でのスキームは、四国電力との実績を寒冷地かつ再エネ比率の高い北海道エリアに展開した形と見ることができます。

企業や人材の観点では、「電力×通信」のように異業種のインフラを組み合わせる発想が求められる場面が増えそうです。エネルギー事業側では、再エネや系統の知識に加えて、ICTやデータ活用、DRプログラム設計のスキルが重要度を増します。一方、通信・IT側の担当者にとっても、自社インフラをエネルギーリソースとして第三者に提供するスキームを理解し、リスク管理や収益構造を説明できることが、新しい役割になっていきそうです。

筆者の視点

新規事業や技術戦略の立場でこのニュースを見ると、まず「既存インフラの二次利用」という切り口に目が行きます。NTTドコモにとって基地局蓄電池は本来、通信サービスのBCPのための設備ですが、北海道電力との連携により「調整力サービス」という新たな収益と社会的価値の源泉としても活用できるようになりました。

同じ発想は、データセンター、商業施設、物流倉庫など、さまざまな拠点に導入されつつある非常用電源や蓄電池にも広く当てはまります。特に再エネの出力制御が増えているエリアでは、「再エネ×蓄電池×DR」をセットで考えることが、今後の投資案件や長期の電力調達戦略を組むうえで大事になってきそうです。

また、四国エリアでのVPP構築実証から北海道での本格運用へとつながっている流れを見ると、「一つのエリアで検証し、別エリアへ水平展開する」という、再現性の高いスキームづくりのヒントにもなります。エネルギー事業者だけでなく、不動産、通信、モビリティなど、全国に拠点を持つ企業にとっては、自社インフラをDRやVPPに参加させることで、新たな収入源と脱炭素貢献を両立できる余地があります。

今の段階では、容量や拠点数は公表されておらず、全体のインパクトはまだ限定的かもしれません。ただし、「通信インフラ蓄電池を仮想発電所として束ねる」という今回の一歩は、今後の再エネ大量導入時代の電力調整力を考えるうえで、実務的にも示唆の多い事例になりそうです。

参考リンク集

ニュースレターを購読する

NetZero Insights Japanの新着・注目トピックを週1で配信します。更新情報を見逃したくない方は是非ご登録ください。

 

※ 時々メールマガジン限定の情報も配信するかもしれません。

 

 

このフォームで取得したメールアドレスは、NetZero Insights Japanのニュースレター配信にのみ利用します。

ニュースレターの購読を申し込むことで、プライバシーポリシーに同意したものとします。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

目次