データセンター電力インフラに巨額:Firmus PF $10bnとHeron Power $140m|クライメートテック資金調達 #025

未来的なデジタルイラスト。左上に光るAIの脳、中央下にサーバーラックが並ぶデータセンターと巨大なエネルギー貯蔵バッテリーパック。AIからインフラへ、緑色のドル紙幣のような光の束が流れている。背景には送電鉄塔、風力タービン、ソーラーパネルがある。中央に黄色と白の文字で「データセンター電力インフラに巨額:Firmus PF $10bnとHeron Power $140m | クライメートテック資金調達 #025」というテキスト。データセンターの施設に「Firmus PF $10bn」、バッテリーに「Heron Power $140m」のラベルがある。

今週は、〔スタートアップ資金調達〕に$435.8m、〔M&A / Exit〕に$644.0m、〔プロジェクト・デット〕に$11,539.5mが動きました(合計$12,619.3m。非開示案件は集計に含まず)。

目次

3行サマリー

スタートアップ資金調達動向:
2026年2月の開示ベースでは、Heron Powerの$140mがトップ。送配電インフラの更新を支えるソリッドステート変圧器が、いよいよ資金規模の面でも存在感を示してきました。

プロジェクト資金調達動向:
AIデータセンター関連の案件が圧倒的なボリュームを占め、Firmus TechnologiesのPFデット$10bnを筆頭に、NscaleがGPU担保ローン$1.4bnを相次いで公表しました。

政策動向:
米ホワイトハウスが「Maritime Action Plan」を公表しました。港湾・物流コストの設計次第では、再エネ設備のサプライチェーンにも波及する可能性があり、今後の動向が注目されます。

今週の資金調達動向

サマリー(USD概算)

グループ件数開示額合計主な資金種別代表案件
スタートアップ/コーポレート(エクイティ/研究助成等)10$435.8mSeries A–D、SeedHeron Power $140m Series B
M&A / Exit16$644.0mIPO、買収、資産売却SOLV Energy $589m IPO
プロジェクト系(PF/デット/資産売買)7$11,539.5mPFデット、コーポレートデットFirmus Technologies PFデット$10bn

— 注:合計は概算・非開示を除く。為替目安:£→$1.33、A$→$0.68、€→$1.10、C$→$0.74、¥→$0.0067(端数は$0.1m未満切り捨て)。通貨併記は一次発表に準拠。

A. スタートアップ / コーポレート

企業/国金額/ステージ概要主な投資家
Heron Power/US$140.0m/Series Bソリッドステート変圧器の開発・量産体制の整備Andreessen Horowitz, Breakthrough Energy Ventures, Capricorn, Energy Impact Partners, Gigascale Capital
Utility Global/US$100.0m/Series Dブルー水素製造プラットフォームの商用展開を加速APG Asset Management, Ara Partners
DG Matrix/US$60.0m/Series AAIデータセンター向け電力変換用ソリッドステート変圧器Engine Ventures, ABB, Cerberus, Chevron Technology Ventures, Clean Energy Ventures
FYLD/GB$41.0m/Series B現場動画を起点に、インフラ業務全体をAIで効率化Energy Impact Partners, Partech
SatVu/GB$39.9m/Series A(£30.0m)衛星を活用した高解像度の熱データ提供サービスNATO Innovation Fund, Adara Ventures, British Business Bank, Lockheed Martin, Molten Ventures
Statiq/IN$18.0m/Series Aインド全土でEV充電ネットワークを拡大中Tenacity, RCD Holdings, Shell Ventures, Y Combinator
Zero Homes/US$17.0m/Series A住宅のエネルギー改修を評価・提案するソフトウェアPrelude Ventures, FJ Labs, Overture VC, SJF Ventures, VoLo Earth Ventures
Resurrect Bio/GB$8.1m/Series A病害に強い作物形質の探索と農業現場への実装Corteva, Calculus Capital, Pymwymic, SynBioVen, AgFunder
Kilter/NO$7.1m/Pre-Series B(€6.5m)自律型ロボットによる超精密スポット散布で農薬を最小化Kubota, SBG invest, Pymwymic, Nufarm, Halden Pensjonskasse
nuuEnergy/DE$4.7m/Seed(€4.3m)地域に密着したヒートポンプの普及と導入支援amberra, EnjoyVenture, HTGF, Vireo Ventures, better ventures

Heron Power — 特集

Heron Linkの製品イメージ
Heron Link(データセンター向け電力変換プラットフォーム)(出典:Heron Power公式サイト「For Data Centers」
会社の概要

Heron Powerは、電力会社が管理する配電網(中圧側)と、需要家側の設備との間にある「電力の変換・受け渡し」そのものを作り直すことをめざすハードウェアメーカーです。AIデータセンター向けには、中圧ACから800V DCへ変換する「Heron Link for Data Centers」を展開しています。

2026年2月に$140mのSeries Bを発表。量産に向けた製造体制の強化を最優先の資金使途として掲げており、データセンターをはじめとする重要インフラへの供給拡大を本格的に進める段階に入っています。

何ができるのか

データセンターが抱える厄介な課題の一つは、受電設備からラックに至るまでの間に「変圧・変換・配電・バックアップ」の機器が何層にも積み重なり、電気室が巨大化しやすいことです。機器点数が増えるほどスペースは圧迫され、据付や試験の工程も増えるため、開業や増設のスケジュールが読みにくくなります。

Heron Linkが狙うのは、この”段数の多さ”を削ることです。公式の製品説明によれば、設備の占有面積を70%削減し、受電からラックまでの変換効率を98.5%まで引き上げる設計を採用しています。

Heron Linkの性能指標(効率98.5%、4.2MW、70%省スペース)
Heron Linkの主要スペック:効率98.5%、800Vで4.2MW、設備フットプリント70%縮小(出典:Heron Power公式サイト「For Data Centers」

もう一つ特徴的なのは、「短時間のつなぎ」を機器側に組み込んでいる点です。系統や設備の切り替えが発生した際に30秒のライドスルーを実現するとしており、ラック側の電源品質を安定させることも設計の狙いに含まれています。

技術のしくみ

Heron Link for Data Centersは、34.5kV AC → 800V DCの電力変換を担うモジュール型のソリッドステート変圧器です。中圧を直接扱える電力変換モジュールを組み合わせることで、ラック側に近いところまで直流のまま電力を届けられる構成になっています。

従来は低圧側に必要だった複数の機器をまとめて整理し、電力の流れをシンプルにすることが基本的な考え方です。構成がシンプルになるほど、設備の規模感や工期の見通しも立てやすくなるという発想です。

料金・導入の進め方

公式情報で現時点に確認できる範囲では、価格体系は公表されていません。仕様の詳細は技術チームとの個別協議を案内しており、データセンター側の受電電圧やラック設計(800V DC)に合わせて詰めていく進め方になるようです。

データセンター向けの出力は1台あたり4.2MWを掲げています。今回調達した資金は、需要増に対応するための製造能力拡張に充てられる予定です。

他社との違い
  • データセンター向けに「中圧AC→800V DC」を前提とした設計で、受電からラックまでの構成をまるごと整理し直す提案をしている点
  • 短時間バックアップを機器側に統合し、系統切替時の電源品質を設計レベルで織り込んでいる点
  • 低圧側の機器点数を減らすことで、設備スペースの削減と立ち上げ工程の簡素化を同時に狙っている点
どこで効果が出やすいか/日本での示唆

効果が発揮されやすいのは、AIデータセンターの新設・増設局面で、電気室の容量や受電設備まわりが制約になりやすい現場です。設備が大型化するほど工期の不確実性も高まるため、「受電からラックまで」をまとめて設計し直せる製品の価値は大きくなります。

国内でもデータセンターの増設が続く中、電力の受け渡しを「量産しやすい機器の形」に標準化するニーズは今後じわじわ広がっていきそうです。ただし、現時点の一次情報からは、日本企業や日本拠点との直接の関係は確認できておらず、特記すべき情報はありません。

B. M&A / Exit

企業/国金額/資金種別・ステージ概要
SOLV Energy/US$589.0m/IPO再エネのEPCとO&Mを手がける企業が上場で資金を調達
Global Uranium and Enrichment Limited/AU$30.0m/買収ウラン資産と濃縮技術を一体で取得・統合
Jaguar Uranium Corp/CA$25.0m/IPOウラン探鉱に特化した企業が上場で成長資金を確保
Sobre Energie/FR非開示/買収建物のエネルギー管理SaaSをグループに取り込む
Aerial PV Inspection/DE非開示/買収ドローンを使った太陽光パネル点検の技術・体制を統合
Smarter Power Solutions/AU非開示/買収電力分野のエンジニアリング機能を強化する買収
Wasaline/FI非開示/買収フェリー運航会社を傘下に収め、海運事業を拡大
Amos Power/US非開示/買収自律型の電動トラクター技術を農業プラットフォームへ統合
VoltStorage/DE非開示/資産売却長時間蓄電に関わる知財・資産を他社へ移管
FORTA/US非開示/買収建材補強用ファイバー技術を取得
Solstice/US非開示/買収コミュニティソーラーの運営基盤をグループへ統合
E-Z Recycling/US非開示/買収食品廃棄物の前処理・資源化事業を取り込む
Insight M/US非開示/買収メタン検知・解析の機能をポートフォリオに統合
ESG-X/DE非開示/買収ESG報告プラットフォームを取り込み、機能を拡充
Green4T/BR非開示/買収ブラジルのデータセンターインフラ企業を傘下に
Kratos Industries/US非開示/買収電力機器の製造能力を取り込む形での統合

C. プロジェクト系

企業/国金額/資金種別・ステージ概要
Firmus Technologies/AU$10.0bn/PFデット浸漬冷却を採用したデータセンターの大規模拡張に向けた調達
Nscale/GB$1.4bn/デットGPU資産を担保にした調達枠を設定し、設備購入を機動的に進める
European Energy/DK$70.9m/PFデット(€64.5m)稼働中の太陽光+蓄電池案件をリファイナンスし、長期安定運営へ
NewCold/NL$39.6m/PFデット(€36.0m)ルーマニア初の高度自動化コールドチェーン倉庫の建設資金
Bioo/BR$29.0m/PFデットバイオメタン製造設備の開発・建設に向けた融資
Eco-Pork/JP非開示/デット養豚の省資源化・効率化を支援するシステム事業向けの融資
SkyNRG/NL非開示/PFデット・エクイティ持続可能な航空燃料(SAF)の供給拡大に向けた資金調達

参考文献・出典リンク一覧

一次情報・企業プレス・公的資料

CTVC

CTVC Issue 284(本稿は同号の「Deals of the Week(2/16–2/23)」を起点に、各案件の一次情報を確認したうえで独自に要約・分析しています。先週号は #283)。

略語集

略語正式名称・説明
AIArtificial Intelligence:機械学習などを活用した自動化・推論技術の総称
EVElectric Vehicle:電気自動車
PFProject Finance:プロジェクトが生む将来収益を返済原資にする資金調達手法
IPOInitial Public Offering:新規株式公開
GPUGraphics Processing Unit:AI計算に広く用いられる半導体チップ
SAFSustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料
ESGEnvironment, Social, Governance:企業評価における非財務指標の枠組み
LDESLong-Duration Energy Storage:長時間にわたって電力を貯蔵できる蓄電技術

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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