海外で電力システムを支える大規模蓄電池への投資が、本格的に動き始めています。2026年1月、九州電力グループが米国テキサス州の合計200MW・400MWhの蓄電池プロジェクトに初出資し、Spearmint Energyと組んで事業運営に乗り出しました。
3行サマリー
- 2026年1月、九電グループのキューデン・インターナショナルが米Spearmint Energyの蓄電池事業に出資しました。
- テキサス州2地点に100MW/200MWhずつ、合計200MW/400MWhの蓄電池システムを導入し、ERCOT市場で運用します。
- 九電グループ初の米国蓄電池案件として、2025年末の運転開始後に得られる運用ノウハウを日本の再エネ拡大にも生かす計画です。
今回の発表の位置づけと概要
今回の発表は、九州電力グループの海外事業会社であるキューデン・インターナショナルが、米国テキサス州で進む蓄電池事業に参画するという内容です。対象は、出力100MW・容量200MWhの蓄電池システムを2か所に設置する案件で、合計200MW・400MWhクラスの大規模バッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)になります。
この案件は、九電グループにとって初めての「米国における蓄電池事業」への出資です。再生可能エネルギーの導入が急速に進む米国市場で、電力の安定供給や需給調整に蓄電池がどのように使われているのかを、プレーヤーとして体験しにいく一手と言えます。
九電グループは「経営ビジョン2035」や「カーボンニュートラルビジョン2050」の中で、再エネ拡大と海外事業の強化を掲げています。今回の出資は、その両方にまたがる位置づけであり、海外で得た運用データやビジネスノウハウを、日本の電力システムや新サービスの設計にも持ち帰る狙いがあります。
Spearmint Energyとテキサス蓄電池プロジェクトの特徴
Spearmint Energyは、蓄電池事業とエネルギー取引に特化した米国の新興エネルギー企業です。同社は、開発・保有・運用を一体で手がけるビジネスモデルを採用し、米国内で複数の蓄電池プロジェクトを展開しています。今回、九電グループはこのSpearmint Energyが開発するプロジェクトにエクイティ出資という形で参画します。
対象となるのは、テキサス州デルリオ近郊の「Tierra Seca」と、ラレド近郊の「Seven Flags」という2つのプロジェクトです。どちらも出力100MW・容量200MWhの蓄電池システムで、テキサスの独立系統運用機関であるERCOT(Electric Reliability Council of Texas)の市場に参加し、需給調整や価格変動の吸収に活用されます。
建設は米Mortenson社がEPC(設計・調達・建設)を担当し、蓄電池システムにはSungrow社の最新プラットフォームが採用されています。プロジェクトファイナンスもすでに組成済みの案件であり、九電グループは「これから動き出す計画」ではなく、「すでに走っている現場」に入り込む形になります。
商用運転開始は2025年末を想定しており、運転開始後は日内の価格差を活かした電力取引や、周波数調整などの系統サービスを組み合わせて収益を上げるモデルです。この仕組みの中で、再エネ由来の電力価値を引き出しつつ、ピーク時の火力発電の稼働を抑える役割も期待されています。
テキサスERCOT市場と蓄電池ビジネスの文脈
テキサス州は、風力発電と太陽光発電の導入が全米でもトップクラスに進んでいる地域です。一方で、猛暑や寒波で需要変動が大きく、電力不足や価格高騰が社会問題になることもあります。そのため、短時間で出力を調整できる蓄電池は、系統運用上の重要なオプションとして存在感を増しています。
ERCOT市場では、電力スポット価格が時間帯によって大きく変動し、短時間での上げ下げが頻繁に起こります。この価格変動を前提に、数百MWhクラスの大規模蓄電池が次々と導入されており、安い時間帯に充電して高い時間帯に放電するアービトラージや、周波数調整サービスの提供がビジネスの柱になっています。
日本でも再エネ比率の上昇に伴い、需給変動の吸収や周波数維持のための「調整力」が話題になりますが、これまでは揚水発電や火力発電の追従力に依存する部分が大きい状況でした。九電グループが、蓄電池が市場参加主体として機能しているERCOTに参画することで、容量市場や需給調整市場を含む日本の制度設計に、より具体的な知見を持ち込める可能性が高まります。
他の選択肢との比較と、日本企業への示唆
系統レベルで調整力を確保する方法は、蓄電池だけではありません。揚水発電やデマンドレスポンス(需要側の制御)など、既存の選択肢も引き続き重要です。ただ、これらの手段は大規模設備や需要家との契約を前提とするため、細かい時間単位での調整や、新規再エネの高速な立ち上がりに合わせた運用には限界もあります。
その点で、数百MWhクラスの蓄電池は、設置場所や容量を比較的柔軟に選びながら、分単位での出力調整ができるという特徴があります。今回のように、蓄電池そのものを市場参加主体とするモデルは、「再エネの付属設備」から一歩進んで、独立した事業として成立させる方向性を示しています。
日本の電力会社や商社、インフラ投資家にとっては、「どの市場で、どのタイミングで、どのリスクプロファイルの蓄電池案件に参画するか」が今後の検討テーマになります。九電グループのテキサス案件は、開発リスクがある程度整理された段階で海外の専門プレーヤーと組むケースであり、他社にとっても参考になるパターンの一つです。
また、国内外の装置メーカーやソフトウェア企業、需給予測や最適運用アルゴリズムを持つスタートアップにとっても、こうした案件は連携のチャンスになります。日本発の技術やサービスが、海外の蓄電池案件との共同検討や実証を通じてグローバル展開していく流れも、今後意識しておきたいポイントです。
筆者の視点
クライメートテックや電力ビジネスを追っている立場では、今回まず「いつ、どの市場に入ったのか」というタイミングに目が行きます。建設やファイナンスの大きなリスクはかなり整理されつつあり、一方で運用ノウハウの重要性が増している局面で、代表的なストレージ開発企業の一つに出資した形だからです。
次に気になるのは、日本の電力会社の中で蓄電池事業をどこまで「本業に近い事業」として位置づけるか、という点です。系統用、再エネ付帯、データセンター向けなど用途ごとにビジネスの性格は変わりますが、いずれもキャッシュフローの設計とリスク管理に高度な知見が求められます。その意味で、今回のような海外案件は、社内人材の育成やノウハウ蓄積の場としても価値が大きいと感じます。
周辺プレーヤーの視点では、電池セルやPCS、変圧器だけでなく、エネルギーマネジメントシステム(EMS)や需給予測・制御ソフトウェアの価値が一層高まりそうです。九電グループとSpearmint Energyの枠組みに、日本発の技術やサービスがどう入り込めるかを考えることは、多くの企業にとって現実的な事業テーマになりそうです。
最終的には、国内の電力・脱炭素ビジネスをどう組み立てるかという議論に、この案件の経験が効いてきます。海外の最前線で蓄電池の実戦経験を積み、その知見を持ち帰ることで、日本でも「蓄電池を含めた電力インフラの新しいかたち」が少しずつ具体的になっていくのだと思います。
参考リンク集
- 九州電力「米国における蓄電池事業に参画しました-九電グループ初の米国における蓄電池事業-」(2026年1月8日)
九州電力プレスリリース - Kyuden International「Kyuden Group’s First BESS Project in the U.S.」(2026年1月8日)
Kyuden Internationalニュースリリース - Spearmint Energy「Spearmint Energy Secures Investment from Kyuden International Corporation for 400 MWh Battery Energy Storage Across Two Projects in ERCOT」(2026年1月7日)
Business Wire記事 - Energy Global「Spearmint Energy secures over US$250 million financing for 400 MWh of BESS」(2025年4月17日)
Energy Global記事 - Renewable Energy World「More battery storage is coming to Texas, Spearmint and Sungrow team up again」(2024年8月26日)
Renewable Energy World記事 - Enerdatics「Kyuden moves into ERCOT storage just before the risk drops off」(2026年1月ごろ)
Enerdatics分析記事

