都市ガスの脱炭素化に向け、水素とCO₂からつくる合成メタン(eメタン)を支える触媒の量産体制づくりが進んでいます。カナデビアが2026年夏ごろに年産20トン規模のeメタン用触媒の量産を開始し、製造プラントと一体で国内外に展開する計画です。
3行サマリー
- カナデビアは2026年夏ごろから、eメタン生成用触媒を年産20トン規模で量産し、従来の約20倍に引き上げる計画です。
- ニッケル系触媒を用い、約200℃から反応が立ち上がる低温活性と長寿命を武器に、eメタン製造プラントとセットで提供します。
- オマーンの年産7,400トン級パイロットなど海外案件も見据え、2030年以降の普及期に間に合う供給能力とコスト水準の確保を狙います。
今回の発表の位置づけ
今回のカナデビアの発表は、eメタンの「量産フェーズ」を見据えた触媒サプライチェーンの整備という位置づけです。これまで実証規模だった触媒供給を、年産20トンという商用寄りの水準に一気に引き上げることで、国内外のプラント案件に対応しやすくなります。
eメタンは、水素と二酸化炭素から合成されるメタンで、都市ガスとほぼ同じ性状を持つ再生可能ガスです。既存のパイプラインやLNG受入基地、ガス機器を大きく変えずに利用できるため、「インフラを活かしたままガスをカーボンニュートラルに近づける」手段として注目されています。
日本のエネルギー政策では、2030年頃に都市ガス需要の数%をeメタンに置き換える方向性が示されてきました。特にガス事業者のロードマップでは、2030年前後の「1%レベルの注入」を起点に、2050年に向けて注入比率を高める構想が語られています。今回の触媒量産は、その初期需要を実際に支える供給基盤づくりと見ることができます。
カナデビアの触媒とメタネーション装置の特徴
カナデビアは、旧・日立造船の流れを汲む企業として、廃棄物発電や水処理で培ったプロセス技術を背景にメタネーション装置と触媒を開発してきました。同社は「HiMethz(ハイメッツ)」ブランドで、CO₂と水素からメタンを合成するメタネーションシステムと触媒を一体で提供しています。

同社の触媒はニッケル系を主成分としながら、CO₂転換率99%以上、メタン選択率ほぼ100%という高い性能と、75〜80%のエネルギー変換効率を特徴とします。温度200℃台から反応が立ち上がる低温活性と、2万時間クラスの寿命を両立し、再エネ由来水素の変動にも追従しやすい設計です。
今回量産する触媒は、ニッケル系の高活性触媒をベースに、200℃前後からの立ち上がりと300℃程度での高い生成量を意識した設計と報じられています。年産能力は最大20トンで、従来比20倍という大幅な増強です。原材料の混合と焼成、成型までを国内の複数の化学メーカーの設備で行い、最後の還元工程だけをカナデビア専用装置で行う「分業型の量産体制」を構築します。
触媒還元に使う水素を再利用することで、製造コストを従来の半分以下に抑える計画も示されています。これにより、欧州メーカーなど競合と同等か、それ以下の価格帯で触媒を供給しつつ、自社のメタネーション装置とセットでプラント案件に提案する戦略です。
オマーン実証と海外展開の文脈
カナデビアは、触媒だけでなくeメタン製造プラントそのものも手がけており、その象徴的な案件がオマーンLNGとの共同プロジェクトです。両社は2025年、eメタン生産量1,200Nm³/h(年産約7,400トン)のパイロットプラントに向けたPre-FEEDと、将来の商業プラントのコンセプトスタディ契約を締結しました。
将来の商業プラントは、eメタン生産量18,000Nm³/h(年産約11万トン)という世界有数の規模を目指す構想です。再エネ電力を用いた水電解装置、CO₂回収設備、メタネーション装置を一体で設計し、既存のLNGインフラと接続する「グリーンLNG」的な位置づけが想定されています。
今回の触媒量産は、まずこのオマーン案件向けに数トン規模の供給を行うことが念頭に置かれています。そのうえで、欧州やインドからもeメタンプラントの引き合いが出ていると報じられており、中東案件で実績を積みながら、ガスインフラが整った他地域への展開を狙う構図です。
他の選択肢との比較・棲み分けと企業・人材への影響
eメタン用の触媒・メタネーション技術は、カナデビアだけの領域ではありません。国内ではIHIが標準メタネーションユニット(12.5Nm³/h)や500Nm³/h級の中規模実証を進めており、CO₂から燃料をつくる「カーボンリサイクル技術」の一つとして位置づけています。
大阪ガスも、INPEXとの長岡ガス田での実証や、大阪湾岸でのバイオメタン・メタネーションの取り組みを通じて、eメタンによる都市ガスの脱炭素化を進めています。さらに、SOEC(水蒸気とCO₂を同時に電解する固体酸化物電解セル)を用いたメタネーションの研究も加速しており、将来の高効率なeメタン製造技術の候補です。
一方で、脱炭素の選択肢はeメタンだけではなく、電化、グリーン水素の直接利用、バイオメタンなど多岐にわたります。企業にとっては、例えば「高温が必要で電化しづらい工場炉はeメタン」「中低温プロセスは電化」「燃料電池や移動用途は水素」など、現場ごとに最適な組み合わせを考えることが重要です。eメタンは「既存ガス設備を活かしたい領域」を中心に出番が増えそうです。
人材面では、ガス会社や大口需要家の技術・企画部門に、メタネーションやeメタンの基礎を理解し、コスト構造と制度を踏まえて案件を比較検討できる人が必要になってきます。触媒メーカーやエンジニアリング会社でも、再エネ水素やCO₂回収と組み合わせたシステム設計・運転ノウハウが求められ、従来のガスプロセスに加えて「電解・CCUS・ガス変換」を横断的に見られる人材の価値が上がりそうです。
筆者の視点
筆者はエネルギー・クライメートテック分野を追っている立場ですが、このニュースでまず目を引いたのは、いきなり年産20トンという触媒供給規模を用意してきた点です。触媒そのものは目立たない部材ですが、メタネーション設備の心臓部であり、ここが「ボトルネックにならない状態」を早めにつくっておく狙いが透けて見えます。
また、国内の化学メーカーと組んだ分業型の量産体制は、地方・既存工場の設備を活かしながら脱炭素ビジネスを広げるモデルとしても興味深いです。今後、バッテリー材料や水電解用電極などでも同じような「専用プロセス+既存設備活用」の組み合わせが増えていくかもしれません。
一方で、eメタンのビジネス全体を見れば、鍵を握るのは触媒だけではなく、水素とCO₂の調達コスト、長期オフテイク契約、制度支援の設計です。eメタンのコストがLNG並みに近づくには、数十万トン規模までスケールさせつつ、カーボンプライシングやグリーンプレミアムの枠組みとうまく組み合わせる必要があります。今回の触媒量産は、その「コストダウンの前提条件を一つ満たした」と見ると分かりやすいです。
企業の立場では、今すぐeメタンを大量導入するというより、「どの設備ならeメタンがハマりそうか」を棚卸ししておく段階に近いと感じます。電化できない高温プロセスやガスインフラ前提の設備を洗い出し、将来のeメタン・バイオメタン・水素などの選択肢を比較できるようにしておくと、中長期の投資判断がしやすくなります。eメタンを自社の将来の選択肢に入れるかどうかを、今のうちに静かに見極めておくタイミングになってきました。
参考リンク集
- カナデビア「メタネーション装置(HiMethz)」:メタネーション技術の概要とeメタンの位置づけ(掲載サイト:カナデビア公式)
https://www.kanadevia.com/business/field/electrolytic-hydrogen/methanation.html - カナデビア「二酸化炭素のメタン化触媒・メタネーション装置」カタログ:触媒性能(CO₂転換率99%以上、エネルギー効率など)の技術データ(掲載サイト:カナデビア公式PDF)
https://www.kanadevia.com/business/field/electrolytic-hydrogen/pdf/methanation_01.pdf - Kanadevia「Methanation System and Water Electrolyzer」:HiMethz触媒の耐久性(2万時間)やエネルギー効率に関する資料(掲載サイト:TEAM E-Kansai)
https://team-e-kansai.jp/wordpress/wp-content/uploads/EN_kanadevia.pdf - カナデビア「オマーンLNGとeメタンプラント建設に向けた技術検証や設計業務等の契約を締結」:1,200Nm³/hパイロットと18,000Nm³/h商業プラント構想の概要(掲載サイト:カナデビア公式PDF)
https://www.kanadevia.com/newsroom/news/FY2025-36.pdf - Oman LNG「Oman LNG has signed an agreement with Kanadevia Corporation…」:メタネーションパイロットプラントのPre-FEED契約に関する現地側の発表(掲載サイト:Oman LNG公式)
https://omanlng.co.om/en/Media/Pages/news-detail.aspx?itemID=30 - バイオガステック「eメタン生成の高性能触媒を量産へ カナデビア」(2026年2月1日公開):触媒量産計画と戦略の整理(掲載サイト:バイオガステック)
https://biogas-tech.com/kanadevia-emethane-catalyst/ - 大阪ガス「CO₂-Methanation Technology Development to Decarbonize City Gas」:都市ガスの脱炭素に向けたメタネーション技術開発と実証の概要(掲載サイト:大阪ガスグループ公式)
https://www.daigasgroup.com/en/rd/topic/1768546_56103.html - IHI「Methanation System to Produce Fuel from CO₂ and H₂」:IHIによるメタネーションシステム・標準ユニットの紹介(掲載サイト:IHI公式)
https://www.ihi.co.jp/en/all_news/2022/resources_energy_environment/1198178_3488.html

