日本のDACスタートアップ最前線 CRRA・Planet Savers・Carbon Xtract・CaptureSmithを整理する

大気中のCO₂を直接回収するDAC(Direct Air Capture)に、日本発スタートアップが連続して参入しています。CRRA、Planet Savers、Carbon Xtract、CaptureSmithまで、主要4社の技術・狙う市場・事業ステージをまとめて整理します。

目次

3行サマリー

  • CRRAは累計1億円を調達し、中型DAC「ひやっしーパパ」でクリーンCO₂供給とCDRを両立するモデルを走らせています。
  • Planet Savers、Carbon Xtract、CaptureSmithは、それぞれゼオライト、ナノ分離膜、湿潤向け膜技術で異なるスケールと用途のDACを目指しています。
  • 4社を束ねて見ると、日本のDACは「小型分散」「中型産業用」「都市・農業」「湿潤気候対応」に役割分担しつつ、将来のCDRクレジット市場をにらんだ動きが始まっています。

日本のDACスタートアップの全体像

世界ではClimeworksやHeirloomなどが先行し、DACは長期的なカーボンリムーバル(CDR)の柱候補と見なされています。その中で日本発のDAC企業はまだ少数ですが、技術コンセプトと狙う市場が異なる4社が立ち上がりつつある点が特徴です。

本記事で扱う4社は次の通りです。①CRRA(アミン修飾メソポーラスシリカ×小型〜中型DAC)、②Planet Savers(ゼオライトDACCU×中〜大型プラント)、③Carbon Xtract(ナノ分離膜m-DAC®×小型分散)、④CaptureSmith(HumiDAC×湿潤気候向け超省エネDAC)です。

それぞれ技術方式、ターゲット顧客、事業ステージが異なるため、日本全体としては「ニーズと気候条件に合わせたポートフォリオ」が徐々に形になりつつあると言えます。

CRRA:中型DACとクリーンCO₂供給モデル

CRRAの小型DAC装置ひやっしーの外観写真
世界最小クラスのCO₂回収マシン「ひやっしー」。家庭やオフィスに設置できる日本発の小型DAC装置
(引用:CRRA)

CRRA(炭素回収技術研究機構)は、日本で最初期からDAC事業に取り組んできたプレーヤーです。2025年12月、プライム上場の東海理化など70名超の投資家からの出資とデットを合わせ、累計1億円超の資金調達を公表しました。

同社はスーツケースサイズの小型DAC「ひやっしー」に続き、年間約30t-CO₂/台を回収できる産業用中型モジュール「ひやっしーパパ」を開発しています。装置サイズは幅3m×奥行2m×高さ2.5m(目安)で、屋外に設置できるシンプルな直方体モジュールです。

中核技術は、独自開発の固体吸収剤「CXシリーズ(アミン修飾メソポーラスシリカ)」です。ナノレベルの多孔質シリカにアミン官能基を高密度に導入し、60℃程度の低温でCO₂を脱離できる点がポイントとされています。医療用途(麻酔時のCO₂吸収)などへの外販も計画されており、材料ビジネスと装置ビジネスの両輪を志向していることが読み取れます。

ビジネス面では、飲料・酒造・施設園芸・食品工場などCO₂需要を持つ産業を主要ターゲットに、「非化石由来のクリーンCO₂販売」と将来のCDRクレジット発行の両方を視野に入れています。装置売り切りではなく、自社利用とCO₂販売を組み合わせた「売炭素モデル」で投資回収性を高めようとしている点が特徴です。

事業ステージとしては、小型DACはすでに社会実装済みで、中型DACはPoC〜初期商用化に入るタイミングです。今回の累計1億円調達は、シード期の締めとポストシードへの橋渡しに位置づけられています。

Planet Savers:ゼオライトDACCUで中〜大型プラントを狙う

Planet Saversは、東京大学発のDACスタートアップで、「2050年に年間1ギガトンのCO₂回収」をビジョンに掲げています。NEDOのGXディープテック・スタートアップ支援事業に採択され、「DACCU実用化のための高効率大気中CO₂濃縮システム開発」を進めています。

大気中からCO₂を吸着するPlanet SaversのDACモジュールの概念図
Planet SaversのDAC装置のイメージ図
(引用:Planet Savers)

技術の柱は、ゼオライトをベースとした革新的CO₂吸着材と、その特性に合わせて最適化されたDACCUシステムです。目標は、500kg〜1t/日のCO₂回収が可能な初期モデル(商用初号機)を開発し、初号機で約400ドル/t-CO₂、量産機で100ドル/t-CO₂レベルまで濃縮コストを下げることです。

Planet Saversは、最初から中〜大型プラントを前提にした「本格CDR+CO₂利用インフラ志向」です。装置単体よりも、燃料合成や化学品製造など下流プロセスとセットになったDACCUチェーン全体をデザインしている点が特徴です。

事業ステージとしては、NEDO支援のもとでプロトタイプ開発と実証準備を進める「R&D+実証前半フェーズ」にあり、資金調達ラウンドはシード、ポストシードが中心です。

Carbon Xtract:ナノ分離膜m-DAC®で都市・農業向け分散DAC

Carbon Xtractは、九州大学発のナノ分離膜技術を軸にしたDACスタートアップです。九州大学と共同で、大気中のCO₂を直接分離・回収する膜技術「m-DAC®」を開発しており、従来のCO₂分離膜に比べて極めて高いCO₂透過性を持つ点が特徴とされています。

駅ビルや植物工場にm-DACを組み込んだ都市型CO₂回収システムのイメージ図
m-DACシステムのイメージ。分散設置でCO₂を回収し利活用する構想
(引用:Carbon Xtract)

m-DAC®は、空気をフィルターのようにろ過するイメージでCO₂を分離する技術であり、小型ユニットを多数分散設置する構想が前提になっています。駅ビルやオフィス、植物工場などへの実証導入が進められており、清水建設やJR西日本グループとの協業も報じられています。

ターゲットは、都市部の建物や植物工場、商業施設などで、空調負荷の低減や高CO₂濃度環境の提供といった付加価値と組み合わせる分散型モデルです。「ビルや施設に埋め込まれたインフラ型DAC」というポジショニングが見えてきます。

事業ステージは、複数のパートナー企業との実証プロジェクトが進行している「実証〜アーリー商用化フェーズ」と整理できます。すでに双日など大企業からの出資・事業参画も発表されており、事業会社との連携色が強い点も特徴です。

CaptureSmith:HumiDACで湿潤気候向け超省エネDACを狙う

CaptureSmithは、東北大学発の膜技術をベースとしたDACシーズから立ち上がったスタートアップ/事業プロジェクトで、各種ピッチイベントで注目を集めています。湿潤な気候でも低コストでDACを実現する「HumiDAC(ユミダック)」というコンセプトを掲げており、事業化に向けた準備と検証を進めています。

HumiDACは、東北大学・福島教授らが開発した「ユミフレクト膜」を活用し、「CO₂は透過させるが水は透過させない」という特性をDACの前処理に用いることで、加熱コストを大幅に下げる構想です。湿潤地域でも約250ドル/t-CO₂程度の回収コストを目指すと説明されています。

この技術は、湿度の高い日本やアジア地域に適したDACとしてのポテンシャルが高く、将来的には空気だけでなく排ガスからのCO₂回収にも展開可能とされています。現時点では研究・PoC構想段階にあり、アカデミア寄りのアーリーステージの取り組みと位置づけられます。

4社の比較:技術・スケール・ステージ

4社のポジショニングを簡潔に比較すると、次のように整理できます。

企業ポジショニング
CRRA固体吸収剤(アミン修飾メソポーラスシリカ)×小型〜中型DAC。小型は市販済み、中型はPoC〜初期商用化。
Planet Saversゼオライトベース吸着材×DACCU。500kg〜1t/日クラスの初号機開発中で、R&D+実証前半フェーズ。
Carbon Xtractナノ分離膜m-DAC®×小型分散。ビル・植物工場などで実証中のアーリー商用化フェーズ。
CaptureSmithHumiDAC(湿潤気候向け超省エネDAC)構想。研究〜PoC構想段階のアーリーステージ。

技術方式の面では、CRRAとPlanet Saversが「吸収・吸着」系、Carbon XtractとCaptureSmithが「膜」系とおおよそ分かれます。スケールの面では、CRRAとCarbon Xtractが小型〜中型・分散志向、Planet Saversが中〜大型プラント志向、CaptureSmithが湿潤地域向け広域展開志向と整理できます。

事業ステージは、CRRAが「シード完了〜ポストシード」、Planet Saversが「シード+NEDO実証」、Carbon Xtractが「実証〜アーリー商用」、CaptureSmithが「研究〜プレシード」という階段状の構図です。時間軸をずらして並ぶことで、日本全体のDAC技術ポートフォリオが厚みを増しているとも言えます。

日本発DACの共通課題とビジネスチャンス

共通課題としてまず挙がるのが、長期のCDRオフテイク契約と制度面の不確実性です。欧米では10年以上の高品質CDRクレジット購入契約が増えつつありますが、日本ではGX-ETSやJ-クレジットにおけるDAC由来CDRの扱いがまだ固まりきっていません。

一方でビジネスチャンスも明確です。CRRAやCarbon Xtractのように「飲料・植物工場・建物空調など既存のCO₂需要と結びついたクリーンCO₂供給モデル」は、CDRクレジットだけに依存しない収益源を作れる可能性があります。Planet SaversやCaptureSmithは、長期的にはCDRコストを押し下げる役割を担うポジションに立ち得ます。

日本企業・自治体にとっては、2050年カーボンニュートラル目標を達成する過程で「どの程度を国内DAC由来CDRで賄うか」を定量的に考える時期に入りつつあります。そこに対して、4社のような国産DACスタートアップと早期に対話し、PoCや長期オフテイクの選択肢を検討することが、将来のCDR調達リスクを下げる具体的な一歩になります。

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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