ケーススタディ|浮体式PV×揚水×水電解!?——出力抑制率が高くてもLCOE半減、効率61%

目次

まず結論

太陽光の発電量が余って系統に流せない“出力抑制”が増えると、売上が落ちます。

以下の原著論文では、水面に並べる浮体式太陽光(FPV)揚水式蓄電(PHES)AEM水電解を足し、余った電気を水素に変えて売る作りにすると、研究モデルでは発電効率が24%→61%へ改善、発電単価(LCOE)は$280→$145/MWhまで下がったとのことです。

要は、“電力として売れない分を水素に逃がして稼ぐ”という発想です。

原著論文:Green hydrogen generation for mitigating the impact of curtailment in floating photovoltaic – pumped hydro energy storage (FPV-PHES) systemsJournal of Energy Storage, 2025)

何が新しい?

  • 電力と水素の二刀流:売れない電力を電解に回し、水素として販売。
  • 出力抑制に強い:抑制が大きいほど電解の稼働率が上がり、全体の採算が安定。
  • 場所との相性:水面(ダム湖など)を使えるFPV+PHESのサイトに合う。

仕組みはこの3択だけ

  • ① ためる(PHES):余った電気で水をくみ上げ、必要な時に発電。
  • ② 作る(AEM電解):余った電気で水素を製造(後で販売・貯蔵)。
  • ③ 流す(系統):流せるなら電力として売る。

研究モデルでは、余剰電力の優先順位を「PHES → 電解 → 系統」に設定。これだけで“売れない電気”の価値化が進みます。

なぜコストが下がるの?(ビジネスの勘所)

  • 稼働率の底上げ:出力抑制時も電解が動くので、設備の“遊び”が減る。
  • 収益源が増える:電力販売に加え、水素販売がもう一本の収益柱になる。
  • 固定費の薄まり:電解設備は高いが、高稼働CAPEXを希釈できる。

どんな時に特に効く?

  • 出力抑制が大きい地域:昼に太陽光が重なる・送電線が細い・系統混雑が慢性化。
  • 水面や高低差が使える場所:ダム湖・調整池など、FPVとPHESのサイト条件がそろう地域。
  • 水素の使い道がある圏域:産業需要、非常用エネルギー、燃料電池用途などオフテイクが見込める所。

数字の目安(今回モデルの結果)

  • 発電効率:24%(電解なし)→ 61%(電解あり)
  • LCOE:$280/MWh$145/MWh(出力抑制が大きい条件)
  • 規模感:FPV 25MW、AEM電解 約15MW(検討レンジ0–20MW)
  • 水素コスト:$8.5/kg(モデル算出)
  • 運用の優先度:PHES → 電解 → 系統

用語ミニ辞典(1分でわかる)

  • 出力抑制:発電できても系統の都合でわざと絞ること(売上が減る)。
  • FPV:水面にパネルを浮かべる浮体式太陽光。用地制約を回避。
  • PHES:揚水式の“水の電池”。余剰電力で水を上げ、必要時に落として発電。
  • AEM電解:電気で水を分解し水素を作る装置の方式の一つ。
  • LCOE:発電所の一生平均の発電単価。プロジェクト比較の共通物差し。

筆者の視点

本研究は机上検討としては面白い示唆に富む内容で、「売れない電力を水素へ逃がす」考え方は一定あり得ると思います。一方で、実装に踏み出すなら考慮すべきポイントを冷静に押さえる必要があります。

  • 技術前提:AEMの実証実績と保証条件(連続稼働データ、寿命・交換費)を確認。方式はAEMに固定せず、PEM/AWEと比較前提で。
  • 需要前提:アンカー需要のLOI/Term(量・価格・期間)を先に固め、電力+水素の二刀流で収益を設計。
  • 物流前提:近距離の水素輸送はローリーが現実的。遠距離はキャリア化で追加コストが嵩むため、具体の輸送フローと原価を積算する必要があります。

要するに、論文の結論を否定する意図はなく、「机上では有望」だからこそ、技術・需要・物流の三点を現場条件で詰めてから投資判断を行う——このステップが必要だと考えます。

「出力抑制を前提に設計する」こと自体は妥当ですが、技術・需要・水素輸送の三点が“揃って初めて”投資妥当性が判断できる、というのが今の私の考えです。

主要ソース

本記事で取り上げた「FPV×揚水+電解」の数値(効率61%、LCOE $145/MWh など)は、以下の論文とその紹介記事に基づきます。必要に応じてリンク先をご確認ください。

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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