14億ドル調達のCrusoeとは?使い切れていない再エネ電力でAIデータセンターをつくる企業

2025年10月、米Crusoe(クルーソー)が約14億ドルの大型資金調達を公表しました。AI向けデータセンター需要が急増するなか、「使い切れていない再エネ電力」を起点にGPUクラウドを展開するというユニークなモデルで急成長している企業です。本稿では、そのビジネスの全体像と日本への示唆を整理します。

目次

3行サマリー

  • Crusoeはエネルギー起点のAIインフラ企業で、2025年に約14億ドル調達し企業価値1兆円規模へ成長した。
  • フレアガスや使い切れていない再エネ電力を活用し、GPU特化のデータセンターと自社クラウドを垂直統合で展開している。
  • 2022年に三井物産が出資しており、日本の商社や電力・ガス企業にとって重要なベンチマークになりつつある。

1. Crusoeとは何者か:14億ドル調達のAIインフラ企業

Crusoeは2018年創業で、米コロラド州デンバーに本社を置くAIインフラ企業です。創業者は量子トレーダー出身のChase Lochmiller氏(CEO)と、エネルギー業界出身のCully Cavness氏(President)で、エネルギーとコンピューティングの両方に深い知見を持っています。

同社は当初、油田で焼却処分されるフレアガスを発電に利用し、コンテナ型データセンターで暗号資産マイニングを行うビジネスからスタートしました。その後、生成AIブームでGPU需要が急増すると、方向性を明確に切り替え、現在はAI向けの大規模クラウドサービス「Crusoe Cloud」を主力事業としています。

2025年10月のシリーズEラウンドでは、中東の政府系ファンドやグローバルPEファンドが中心となり、約14億ドルを一気に調達したと報じられています。この結果、企業価値は100億ドル(約1.5兆円)を超えたともされ、大手クラウドに次ぐ新興プレーヤーとして一気に存在感を高めました。

要点: Crusoeは「エネルギーとGPUクラウドを一体で設計する」ことで、短期間でメガユニコーン級に成長したAIインフラ企業です。

2. エネルギー起点のビジネスモデル

多くのクラウド事業者は、まずデータセンターを建てる場所を決め、その後で電力調達や系統接続を詰めていきます。Crusoeは、この順番をあえて逆転させています。最初に見るのは「どこに安定して安価な電力ポテンシャルがあるか」です。

同社は油田のフレアガスや、送電系統の制約で発電しても売りにくい再エネ電源など、需要側からは扱いづらい電源に着目します。そこに自社設計のデータセンターを隣接させ、GPUクラスタを組み、クラウドサービスとして販売するという垂直統合モデルを採用しています。

このアプローチにより、Crusoeは次の3つを同時に狙っています。

  • 電力コストの削減:発電側にとっても有効利用が難しい電源を長期契約で引き受け、安価な電力を確保する。
  • 展開スピードの確保:系統制約が厳しい地域でも、オフグリッドや専用線を組み合わせることで、データセンター整備を前倒しする。
  • 環境インパクトの改善:フレアガス焼却や再エネ出力制御を減らし、温室効果ガス排出の抑制に貢献する。

要点: Crusoeは「エネルギーの仕入れ」と「クラウド販売」を一体で設計することで、コスト・スピード・環境面の三つを同時に最適化しようとしています。

3. フレアガスから「使い切れていない再エネ電力」へ

Crusoeの原点はフレアガスの削減です。油田では、パイプラインや貯蔵インフラが整っていないために、付随ガスを燃やして処分するケースが多く、これはメタン排出の大きな要因になってきました。Crusoeは現場に発電機とコンテナ型サーバーを持ち込み、ガスを電力とコンピューティングに変えることで、この課題に取り組んできました。

近年はこれに加えて、米テキサス州などで発生している「使い切れていない再エネ電力」にもフォーカスしています。風力・太陽光が大量導入された地域では、送電制約や需要不足により、発電できるのに系統に流せず、出力制御(カット)がかかる時間帯が増えています。

Crusoeはこうしたエリアに、数百MW〜GW級のAIデータセンターキャンパスを計画し、余りがちな時間帯の電力をGPUコンピューティングに振り向ける構想を進めています。同社自身は「stranded energy」や「overbuilt renewables」という表現を使いますが、本稿では分かりやすさを優先し、「使い切れていない再エネ電力」と呼んでいます。

ポイントは、単なる「瞬間的な余剰」ではなく、構造的な要因で長期的に活かし切れていない電源をビジネスチャンスと見ていることです。これにより、再エネの導入拡大とAIインフラ整備を同時に進めるシナリオを描いています。

要点: Crusoeはフレアガスと再エネカットという「環境と経済の両面で問題になっていた電源」を、AIコンピューティング需要と結び付けることで新しい価値源泉に変えています。

4. メガプロジェクトと資金調達の構図

Crusoeの特徴は、スタートアップでありながら、電力インフラ並みのスケールでプロジェクトを組成している点です。最新案件の一部では、総投資額が数十億〜百数十億ドル規模に達すると報じられており、従来の「クラウド企業」の枠を明らかに超えています。

その裏側では、エクイティだけでなく、大型のデットファイナンスやジョイントベンチャー(JV)が活用されています。インフラ投資ファンドや年金基金、保険会社など、長期の安定キャッシュフローを好む投資家が、AIデータセンターと電源を一体と見なして資金を供給している構図です。

この仕組みは、独立系発電事業者(Independent Power Producer: IPP)のモデルと、クラウド事業者のモデルを組み合わせたようなものです。電源投資とデータセンター投資を分けて考えるのではなく、最初から「電源+GPU+クラウド収益」を一本の事業として設計することで、大型プロジェクトでも投資ストーリーを描きやすくしています。

要点: Crusoeは、インフラ投資家とのJVやデットを組み合わせた「プロジェクト型AIインフラ」として、従来のクラウド企業とは異なる資本構成でスケールしています。

5. 三井物産との関係と日本への示唆

日本との直接的な接点としては、三井物産による出資が挙げられます。三井物産は2022年、Crusoeへの出資を公表しており、油田でのフレアガス削減や、余剰ガス・再エネの有効活用、クリーンなコンピューティング事業への参画を狙いとして掲げています。

日本側から見ると、この動きには少なくとも三つの示唆があります。第一に、「再エネやガスのオフテイクを持つ商社・電力・ガス企業」が、AIデータセンター需要と組み合わせて新たなビジネスを設計できることです。第二に、北海道や九州など系統制約が目立つ地域で、再エネ隣接型のデータセンターを構想する際の参考事例になり得ます。

第三に、フレアガス削減やメタン削減、CCUS(Carbon Capture, Utilisation and Storage)といったGX(グリーントランスフォーメーション)分野との接続です。海外油田での排出削減プロジェクトに取り組む日本企業にとって、Crusoe型の「エネルギー+データセンター」モデルは、既存のCDMやJCMとは異なる新しいオプションを示しています。

要点: Crusoeは、日本の総合商社やエネルギー企業が「再エネ制約とAI需要の両方に向き合う」際のベンチマークであり、投資・事業開発の両面で参考になる存在です。

6. 筆者の視点:Crusoeが示すAIデータセンターの次の形

Crusoeは、AIデータセンターを「エネルギー制約を前提に設計し直す」企業だと言えます。フレアガスや使い切れていない再エネ電力といった、従来は課題とされてきた電源を積極的に取り込み、GPUクラウドと組み合わせることで、新しい価値を生み出そうとしています。

日本でも、データセンター需要の増加と再エネ導入拡大、そして系統制約や出力制御の問題が同時に進行しています。国内のプレーヤーがCrusoeの動きを参照しつつ、「どの地域のどの電源を起点に、どのようなコンピューティング需要を束ねるか」を具体的に描けるかどうかが、今後の競争力を左右していくのではないでしょうか(根拠:海外では既に電源起点のAIキャンパスが複数動き始めているためです)。

「エネルギー起点でAIインフラを考える」という視点は、日本のGX戦略やデジタルインフラ戦略を考えるうえでも、今後いっそう重要になっていきそうです。

参考リンク

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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