米AvnosがShell・三菱商事から$17M調達、DAC+水回収のFOAKを建設へ

米スタートアップAvnosがShellと三菱商事から最大1,700万ドルを調達し、水を生むDAC初号機「Project Cedar」をカリフォルニアで建設します。日本企業のCDR戦略と技術輸入を左右し得る案件です。

目次

3行サマリー

  • AvnosはShell Venturesと三菱商事から最大1,700万ドルを調達し、DAC+水回収の初号機「Project Cedar」を建設する計画です。
  • 新設備は年間3,000tのCO₂除去と6,000t超の淡水生産を両立し、外部熱源や用水に依存しない点が特徴です。
  • 三菱商事は日本向けCDRクレジット調達とHDAC技術導入のハブ候補となり、日本企業のDACポートフォリオ形成に影響します。

AvnosとハイブリッドDAC(HDAC)の特徴

Avnosは米ロサンゼルス拠点の炭素除去スタートアップで、「水を生みながらCO₂を回収する」ハイブリッドDAC技術(Hybrid Direct Air Capture: HDAC)を開発しています。炭素除去(Carbon Dioxide Removal: CDR)は「大気中のCO₂を取り出し、長期間固定する取り組み」です。

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従来の直接空気回収技術(Direct Air Capture: DAC)は、吸着材にCO₂を捕まえ、高温の熱で再生する方式が主流でした。この方式は熱と水を多く消費し、エネルギーコストと用水制約が課題でした。一方、AvnosのHDACは「湿度スイング法」という発想で、外部からの加熱をほぼ不要にし、水を消費するどころか淡水を生産できる点が大きな違いです。

仕組みとしては、特殊な吸着材が空気中の水分とCO₂を同時に取り込み、条件を変えることで水とCO₂を分離します。この仕組みにより、Avnosは他のDAC方式に比べてエネルギー消費を50%以上削減できると説明しています。

Avnosはすでにカリフォルニア州ベーカーズフィールドで「Project Alpine」と呼ばれるパイロット設備を稼働させています。この設備は年間約30tのCO₂を除去し、約150tの水を生産しており、CO₂1tあたり5tの水を生み出す計算です。乾燥地域でも成立しやすいDACとして、次の商用ステップに進みつつあります。

Project Cedar:FOAK案件のスケールと資金調達

今回発表された「Project Cedar」は、Avnosにとって初の商用規模設備であり、FOAK(First-of-a-kind=商用スケール初号機)に位置づけられるDACプロジェクトです。場所は米カリフォルニア州で、具体的なサイトは今後公表予定とされています。

資金面では、Shell US Gas & Powerと三菱商事アメリカが最大1,700万ドルを拠出し、設備の設計・建設・立ち上げに充てます。投資スキームは段階的な資金投入で、プロジェクトの進捗とリスク管理を両立させる形です。AvnosはシリーズAなどで既に数千万ドルを調達しており、今回のFOAKにより資本調達からプロジェクトファイナンスレベルへ一歩進む構図です。

設備の計画能力は、年間3,000tのCO₂除去と6,000t超の淡水生産です。複数のHDACモジュールを組み合わせる構成となる見込みで、将来のスケールアップ時には「モジュールの数を増やす」形で能力拡大を図る設計です。このサイズ感は、世界全体から見れば中規模ですが、FOAKとしては技術・運転・金融の三要素を検証するのに適した水準だと考えられます。理由は、実運転に近い条件を持ちながら、失敗した場合の損失を制御しやすいからです。

商用展開スケジュールとして、Avnosは2026年末頃の稼働開始を目標にしています。CO₂回収量3,000t/年規模でも、クレジット単価が数百ドル/tCO₂であれば、数百万ドル規模の年間売上が見込めます。AvnosはCDRクレジット販売に加えて、水ビジネスや産業向け用途との組み合わせも視野に入れているとみられます。

水ポジティブDACがもたらすインパクト

Project Cedarの最大の特徴は、CO₂除去と同時に大量の淡水を生み出す「ウォーターポジティブ(純生産)」なDACである点です。多くのDAC方式はCO₂1tを回収するのに5〜10tの水を消費すると言われますが、Avnosは逆に水を生産します。

Cedarでは年間3,000tのCO₂を除去し、6,000t超の水を供給する計画です。これはCO₂1tあたり2tの水をプラスで生み出す計算です。乾燥が進む地域では、産業やデータセンターが水ストレスに直面するケースが増えています。そうした地域で「排出削減のオフセット」と「水資源の補給」を同時に提供できる点は、他方式にはない価値です。

HDACは加熱用の燃料や蒸気を必要とせず、主に電力で運転します。再生可能エネルギー(Renewable Energy: RE)と組み合わせることで、CO₂除去のために排出される追加CO₂を抑えやすくなります。電力市場の安い時間帯に集中的に運転し、高価な時間帯は止めるといった柔軟な運用も視野に入ります。

三菱商事の狙いと日本への接点

三菱商事は、エネルギー・資源・インフラ・小売までを跨ぐ大きなポートフォリオを持ち、自社と顧客企業の脱炭素を同時に進める立場にあります。今回の投資で、三菱商事はDACという「高品質CDR」の商用案件に一定のリスクを取って入り込み、将来のクレジット調達権や技術導入のオプションを押さえた形です。

Shell Venturesと同じ案件に並ぶことで、両社は将来のビジネスモデルの選択肢を広げています。例えば、「再エネ電源+HDAC+CO₂貯留」あるいは「再エネ+HDAC+e-fuel製造」といった統合スキームが考えられます。その中で、三菱商事は日本市場への展開やアジアでの適用に強みを持つプレイヤーです。

日本の視点から見ると、三菱商事がProject Cedarに参画したことで、次のような可能性が生まれます。

  • 日本企業向けに、Avnos由来のDACクレジットをパッケージ化して供給するハブとなる
  • 日本国内やアジアにおけるHDAC適用候補地(工業地帯・港湾・データセンター集積地)を共同で探索する
  • GX-ETSや企業のネットゼロ戦略における「DACクレジットの位置づけ」を、実案件で得た知見にもとづき議論する

なお三菱商事は、South Poleと共同で技術系CDRクレジットの長期オフテイク枠を確保する「NextGen CDR Facility」を運営しており、需要側(NextGen)と供給側(Cedarのような投資案件)の両面から、高品質CDRの市場づくりを主導するポジションを狙っていると整理できます。

三菱商事の戦略の一つは、技術が成熟したタイミングで日本向け供給ハブとしてのポジションを押さえておくことだと考えられます。理由は、CDR市場では技術・サイト・オフテイク契約を早期に確保した企業が、後発プレイヤーに対して優位な交渉ポジションを取りやすいからです。

日本企業への示唆:DACクレジットをいつポートフォリオに組み込むか

今回の案件は、日本企業が「DAC由来クレジットをいつ、どれくらいポートフォリオに入れるか」を考える上で、重要な判断材料になります。現在、DAC由来のCDRクレジットは自然由来クレジットに比べて高価で、一般に250〜600ドル/tCO₂程度のレンジとされています。一方、森林など自然由来は7〜24ドル/tCO₂、他の技術系CDRは170〜500ドル/tCO₂程度と報告されています。

この価格差を踏まえると、日本企業は次のような三段階での導入を検討するのが現実的です。

  1. 2025〜2027年:少量の試験導入フェーズ
    まずは数百〜数千t規模のDACクレジットを「学習コスト」として購入し、MRV(測定・報告・検証)の実務や会計・開示上の取り扱いを確認します。FOAK案件に関与することで、社内外の理解を早期に深められます。
  2. 2028〜2030年:ポートフォリオのスパイスとしての位置づけ
    自然由来や廃棄物由来クレジットをベースにしつつ、全CDR量の5〜10%程度をDACなど高品質CDRで構成する段階です。コストは上がりますが、ポートフォリオの「信頼性」を高める役割を担います。
  3. 2030年以降:ネットゼロ達成に向けた「最後の数%」の担い手
    自社排出の削減努力を尽くしたうえで残る排出について、高耐久・高信頼のCDRで埋める段階です。このフェーズでは、価格以上に「耐久性」「計測可能性」「社会的受容性」が重視されます。

Project CedarのようなFOAK案件は、この三段階のうち「①少量試験導入フェーズ」の象徴的なケースになります。クレジットを直接購入しない企業にとっても、技術仕様やコストレンジ、資本構成、MRV方法などをウォッチすることで、将来の方針を具体化しやすくなります。

日本企業のCDR担当者は、今は自然由来クレジット中心であっても、2030年代に向けてDACなど技術系CDRを何%組み込むかを社内で議論し始める時期にきています。私は、まずは少量の技術系CDRをテスト導入するのが現実的だと思います。理由は、全体コストへの影響を抑えつつ、社内の理解と外部説明の経験値を早めに積めるからです。

筆者の視点

AvnosのProject Cedarは、Shell Venturesと三菱商事アメリカが支える「水を生むDAC」HDACの初号機プロジェクトです。年間3,000tのCO₂除去と6,000t超の淡水供給という規模は、世界的には中規模ですが、技術・運転・金融を一体で検証するFOAK案件として意味があります。

日本の事業会社や商社・金融機関にとって、この案件は次の三点で注目すべきです。

  • HDACという新しいDAC技術の実力とエネルギー・水資源への影響
  • 水ストレス地域におけるインフラとしての価値と応用可能性
  • 高品質CDRクレジットを自社ポートフォリオに組み込むタイミングと比率

CO₂削減と再エネ調達に続く「第三の柱」として、DACクレジットをどの段階で本格的に取り入れるか。Project Cedarは、その議論を具体的に進めるための生きたケーススタディの1つとなるはずです。

参考情報・出典

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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