住友重機械工業は2025年12月、広島ガス廿日市工場で液化空気エネルギー貯蔵(Liquid Air Energy Storage: LAES)の商用実証プラントを稼働させました。5MW・20MWh規模の長時間蓄電として再生可能エネルギーの出力変動を吸収し、日本の電力市場に新たな調整力をもたらします。

3行サマリー
- 住友重機械工業は広島ガス廿日市工場に5MW・20MWhのLAES実証プラントを稼働させました。
- この設備は空気を液体化して貯蔵し、気化時の膨張エネルギーで発電して再エネ余剰を長時間ためます。
- 住友重機械工業は容量市場なども活用し、2030年までにLAESで約500億円の受注獲得を目指します。
1. 広島ガス廿日市工場で始まったLAES商用実証
住友重機械工業は広島ガス廿日市工場内に、出力5MW・蓄電容量20MWh(4時間)の液化空気エネルギー貯蔵プラントを建設しました。この設備は2025年12月に商用運転を開始し、日本の卸電力市場や需給調整市場、容量市場で電力取引を行っています。一言でまとめると、数時間単位で再エネをためて売電できる「長時間蓄電プラント」です。
広島ガスとの協業により、この設備は卸電力市場向けに2MW、需給調整市場向けに3MW、容量市場向けに4.99MWを提供する設計になっています。住友重機械工業はID&EグループのKoeiエナジーとアグリゲーター契約を結び、2027年度容量市場への入札も視野に入れています。つまり、このプラントは電力量だけでなく、容量・調整力といった複数の収入源を組み合わせるモデルです。
このプラントは広島ガスのLNG基地に隣接し、マイナス約160℃の液化天然ガス(LNG)の冷熱を空気液化プロセスに再利用して効率を高めています。LDES Councilは、廿日市の設備をLNGターミナルと一体となった世界初の商用LAESプラントと位置付けています。要約すると、既存LNGインフラの未利用冷熱を長時間蓄電に活用する、日本発のショーケースです。
2. 液化空気エネルギー貯蔵(LAES)のしくみ

液化空気エネルギー貯蔵(Liquid Air Energy Storage: LAES)は、空気を冷やして液体にし、必要なときに再び気体に戻す際の膨張エネルギーでタービンを回して発電する長時間蓄電技術です。この技術は大型タンクとタービンを組み合わせた機械式蓄電であり、化学反応を用いる電池とは構造が異なります。平たく言えば、空気そのものを「燃料代わりの蓄電媒体」にする仕組みです。
LAESは「充電」「貯蔵」「放電」の三つのプロセスで構成されます。充電では、夜間や再エネ余剰時の安価な電力で空気を圧縮・冷却し、およそ−190℃まで冷やして液体空気をつくります。貯蔵では、液体空気を断熱タンクに低圧でため、放電時にポンプと熱交換器を通して気化・膨張させ、タービン発電機を駆動します。
液体空気は気体の約700分の1の体積になるため、大容量を比較的コンパクトにためられます。また、機械式システムとして長寿命のインフラ設備を前提に設計できる点が特徴で、数十年単位の運転を想定する事例も出ています。日単位の長時間蓄電と、10秒レベルでの出力制御を両立できる点が、一般的なリチウムイオン電池との大きな違いです。
3. 再エネ主力電源化とLAESの役割

日本の電力システムは、太陽光・風力の増加により「昼に余る・夜に足りない」という需給の偏りが課題になっています。第6次エネルギー基本計画では2030年に再エネ比率36〜38%を掲げており、この水準では長時間蓄電や需要側調整なしに安定運用することが難しくなります。簡単に言えば、再エネが主力になるほど「ためて使うしくみ」が必須になっています。
LAESは数時間〜十数時間レベルの長時間蓄電に向き、出力制御や需給調整市場での調整力として活用できます。廿日市プラントは同期発電機として系統に接続され、慣性力・無効電力・短絡容量など、従来は火力発電所が担ってきた系統安定化サービスも提供します。電力量のタイムシフトだけでなく、電力系統の「質」を支えるインフラとして機能する点が、LAESの重要なポジションです。
一方、短時間の周波数調整や分散型バックアップには、リチウムイオン電池や家庭用蓄電池が引き続き重要です。実務上は、数分〜1時間を電池、数時間以上をLAESや揚水で分担する「複数技術の組み合わせ」が現実的な姿になります。読者の視点では、「電池だけでは不十分で、長時間蓄電の新しい選択肢が必要になっている」と押さえておけば十分です。
4. ビジネスの狙い:500億円受注とスケール戦略
住友重機械工業は、2030年までに国内外の電力会社などからLAES関連で約500億円の受注獲得を目標に掲げています。同社はイギリスのHighview Enterprisesへ出資し、50MW・300MWh級の商用LAESプロジェクトにも関与しています。要するに、廿日市は日本市場向けの「ショーケース」であり、その知見を大型案件や海外案件に横展開する構想です。
廿日市プラントは、卸電力市場での電力売買に加え、容量市場・需給調整市場からの収入を組み合わせるビジネスモデルを想定しています。将来的には、系統安定化サービスやデータセンター向けバックアップ電源としての提供も検討対象になり得ます。複数の市場・用途から収益を積み上げることが、LAESの資本集約型ビジネスを成立させる鍵になります。
競合としては、大規模リチウムイオン電池(BESS)、揚水発電、他の長時間蓄電(Long Duration Energy Storage: LDES)技術が存在します。LAESは立地制約が小さく、既存の火力発電所跡地や産業団地にも設置しやすい点で、揚水発電とは異なるポジションを狙えます。投資家の視点では、「立地の自由度×長時間蓄電」という組み合わせが、今後の事業ポテンシャルを左右します。

5. 今後の論点:コスト・効率・制度の三つのハードル
LAES普及の最大の課題は、依然として初期投資コストとラウンドトリップ効率の水準です。揚水発電や大規模リチウムイオン電池と比べ、現時点ではkWhあたりコストの競争力が十分とは言いにくいという指摘もあります。我々としては、「技術コンセプトは有望だが、まだコスト曲線を下げる必要がある段階」と理解しておくとよい状況です。
次に重要なのが制度設計であり、容量市場・需給調整市場が長時間蓄電の価値をどこまで正しく評価するかが問われます。長時間蓄電が慣性力や無効電力などを提供しても、その価値を収益として回収できなければ、大型投資は進みにくくなります。技術開発と並行して、市場設計・制度改革をどう進めるかが、日本の長時間蓄電ビジネス全体の成否を左右します。
今後数年は、廿日市プラントの運転データと英国Carringtonなど海外案件の実績が、LAESの実力を測る重要な材料になります。住友重機械工業が掲げる500億円受注の達成度と、追加案件の有無も、日本市場での商用化スピードを占う指標になります。事業開発の担当者にとっては、「どの地域・用途ならLAESが電池や揚水より合理的か」を見極める視点が重要になります。
出典
- 住友重機械工業「Joint Implementation of LAES Commercial Demonstration with Hiroshima Gas Co., Ltd.」(2023年1月18日)
- 広島ガス「『LAES商用実証プラント』の建設工事開始について」(2023年10月20日)
- Long Duration Energy Storage Council「Powering the Japanese grid with clean air」(2025年)
- Sumitomo Heavy Industries「Highview Enterprise Limited Completed Funding for LAES Plant in England」(2024年6月19日)

