大阪ガスが2025年11月28日、bpグループのArchaea Energyと米国産バイオメタンの調達契約を公表しました。約2.6万Nm³(約20t)のランドフィル由来バイオメタンを米国で液化し、関西のLNG基地まで運び、関西エリアの都市ガスとして使う取り組みです。
3行サマリー
- 大阪ガスの子会社OGTXが、Archaea Energyの米国ランドフィル由来バイオメタン約2.6万Nm³(約20t)を調達し、Freeport LNGで液化して関西へ輸送します。
- このバイオメタン由来の環境価値を付与した都市ガスを、関西のお客さま施設で利用し「グリーンな都市ガス利用」を可視化します。
- 都市ガス業界が掲げる「2030年度にe-メタン・バイオガス1%導入」目標に向け、海外バイオメタンをLNGチェーンで輸入する初の試金石となる案件です。
米国ランドフィル由来バイオメタンをLNGで関西へ
最初のポイントは、米国で生産したバイオメタンを、既存のLNGバリューチェーンに乗せて関西まで運ぶスキームを実際に動かすことです。
大阪ガスの発表によると、100%子会社Osaka Gas USA Corporation(OGUSA)の子会社であるOsaka Gas Trading and Export LLC(OGTX)が、bpグループのArchaea Energyとバイオメタン調達契約を締結しました。Archaeaが米国内のゴミ埋立地由来バイオメタン製造施設で生産するバイオメタン約2.6万Nm³(約20t)を購入し、テキサス州のFreeport LNG基地で液化したうえで出荷し、大阪ガスが関西に保有するLNG基地で受け入れるとしています(。
バイオメタンは、生ごみや下水汚泥などから発生するバイオガス(メタン+CO₂)を精製し、メタン濃度を高めたガスです。今回の案件では、ゴミ埋立地(ランドフィル)由来のバイオガスを原料としている点も特徴です。
要点:新設インフラではなく、既存のLNGターミナルと導管をそのまま活用して「グリーンガス輸入」を試すのが今回の肝です。
環境価値付き都市ガスとして関西の顧客に供給
次のポイントは、物理的なガスだけでなく「環境価値」をセットで管理し、関西の顧客に提供するモデルを試していることです。
大阪ガスは、当該米国バイオメタン製造事業から生じる環境価値を付与した都市ガスを、関西のお客さま施設で利用する予定と説明しています。ここでいう環境価値とは、バイオマス由来であること、メタン回収による排出回避などの属性情報を意味し、将来的には「クリーンガス証書」のような形で取引されることが想定されています。
実務上は、導管に流れるガスは他のLNG由来ガスと混ざりますが、「どれだけの量をどの源泉(バイオメタン)から調達したか」を証書やトラッキングシステムで管理し、特定顧客のScope1削減に紐づける設計です。再エネ電力における「非化石証書」に近い考え方と言えます。
要点:分子は混ざっても、環境価値を証書として追跡することで「グリーンな都市ガス利用」を企業の脱炭素戦略に組み込めるようにする取り組みです。
都市ガス1%グリーンメタン目標と今回の位置づけ
中長期の文脈では、日本の都市ガス業界が掲げる「2030年度にe-メタンやバイオガスを1%供給」という目標の中で、今回の案件をどう位置づけるかが重要です。
日本ガス協会は「ガスビジョン2050」「アクションプラン2030」(2025年6月3日公表)で、2050年のガスカーボンニュートラル化に向けて、2030年度にe-メタンやバイオガスの供給比率1%を目指す方針を示しました。また、経済産業省資料やガス事業制度検討WGでは、大手都市ガス3社に対して2030年度にe-メタン・バイオガス1〜5%利用を求める方向性が議論されています。
Daigasグループ(大阪ガス)は、e-メタンの社会実装に向けて「2030年度にe-メタン1%導入」に挑戦することを、カーボンニュートラル戦略の中で公表済みです。そこに今回の米国産バイオメタン輸入が加わることで、e-メタン+バイオメタンの“グリーンガス1%”ポートフォリオの具体像が少しずつ見えてきます。
要点:今回の調達量は小さいものの、「海外バイオメタンを加えた1%達成のパズルの1ピース」として理解しておくと全体像が整理しやすくなります。
e-メタンとバイオメタンのポートフォリオ戦略
大阪ガスは、今回のバイオメタン輸入に先立ち、ネブラスカ州でのe-メタン製造事業(Live Oakプロジェクト)など、海外での合成メタンプロジェクトにも参画しています。電力系統や水素のコストを踏まえると、e-メタン単独ではなく、バイオメタンを含むポートフォリオで都市ガスを脱炭素化していく発想が現実的です。
2025年12月2日のプレスリリースでは、大阪ガス・TotalEnergies・TES・東邦ガス・伊藤忠商事が、ネブラスカ州で年間数万トン規模のe-メタン(e-NG)製造を目指すLive OakプロジェクトのFEED契約締結を公表しています。一方で、今回の米国産バイオメタンは約20tと小ロットですが、柔軟に積み増しや拡張がしやすい選択肢です。
e-メタンは「大規模・長期」の柱、バイオメタンは「比較的小規模で早期導入しやすい足元の選択肢」という役割分担で捉えると、Daigasグループが描くグリーンガス戦略の輪郭が見えてきます。
要点:ネブラスカのe-メタン大型案件と、米国産バイオメタンの小ロット輸入は、スケールと柔軟性の異なる2本柱として、都市ガス脱炭素を支える可能性があります。
LNG基地・導管をグリーンガスのハブに変える意義
既存のLNG基地や都市ガス導管を、カーボンニュートラルなガスも扱う「グリーンガスのハブ」に変えていく発想も、今回の案件から読み取れる重要な視点です。
日本ガス協会や経産省の資料では、e-メタンの価値として「既存インフラ・燃焼機器をそのまま活用できること」が繰り返し強調されています。バイオメタンも同様に、都市ガス導管に注入できる高カロリーガスとして扱えるため、大掛かりな配管・機器更新なしにCO₂削減を進められます。
今回の大阪ガスの取り組みでは、Freeport LNG〜関西のLNG基地〜既存パイプラインという、従来のLNGサプライチェーンをそのまま活かしつつ、中身の一部をバイオメタン起源に切り替えています。これは、LNG基地を「化石ガス専用設備」からグリーンガスもさばける多目的ハブへ転換するための実証とも言えます。
要点:インフラを作り直すのではなく、「既存のLNGチェーンをどう活かしてグリーンガスを流すか」を示した事例として、今回のスキームは参考になります。
事業開発の視点:契約スキームから見える論点
最後に、事業開発の観点から、今回の案件を参考にしたい論点を整理します。
① 調達契約の構造
OGTXは、Archaea Energyが米国内に保有する複数のランドフィル由来バイオメタン製造施設から生産されるガスを束ねて調達します。契約期間や価格フォーミュラは公表されていませんが、比較的小ロットからスタートし、日本側の需要に応じて拡張しやすいモデルだと考えられます。
② 環境価値の取り扱いと証書スキーム
経産省や日本ガス協会の資料では、e-メタンやバイオガスの環境価値を「クリーンガス証書」として移転する仕組みが検討されています。今回の案件も、将来的な証書取引・デジタルプラットフォーム(CO₂NNEXなど)と連動させやすい形で設計されているかどうかが、今後の注目ポイントです。
③ 顧客向け商品の設計
工場や商業施設などScope1排出が大きい顧客に対して、「都市ガスの●%をグリーンガスにする」オプションメニューをどう設計するかが次の課題です。価格プレミアム、水準の違う期間(1年・3年・5年など)、レポーティングに使える証明書の形式などは、再エネ電力PPAと同様に検討が必要です。
④ 国内バイオガスや他社案件との組み合わせ
国内でも下水処理場・農業系バイオガスのアップグレードや、コージェネ実証などが進みつつあります。今後は、国内バイオガス・海外バイオメタン・海外e-メタンをどう組み合わせ、供給安定性とコスト・環境価値を両立させるかが、ガス事業者共通のテーマになりそうです。
要点:今回の案件は「小さな実証」ですが、調達契約・環境価値・顧客向け商品設計・国内外サプライチェーンの組み合わせなど、今後のグリーンガス事業を設計するうえで検討すべき要素が一通り含まれています。
筆者の視点
約2.6万Nm³(約20t)という量だけを見ると、日本全体の都市ガス需要に比べてごくわずかです。ただ、
- 海外バイオメタンをLNGチェーンに乗せて輸入するスキームを実際に動かしたこと
- 環境価値付き都市ガスとして顧客までトレースするモデルを試していること
- e-メタンとバイオメタンを組み合わせた「グリーンガス1%」への現実的な道筋を示したこと
といった点で、日本のガス業界全体にとって意味のあるプロジェクトだと感じます。今後、他の都市ガス会社や海外のe-メタン・バイオメタン案件が出てくる中で、今回の大阪ガス×Archaea Energyの事例は、契約・インフラ活用・環境価値の扱いを考える際のベンチマークになっていきそうです。
参考リンク集
- 大阪ガス「米国産バイオメタンの調達契約の締結について」(2025年11月28日)
https://www.osakagas.co.jp/company/press/pr2025/1796443_58389.html - Osaka Gas Co., Ltd. “Osaka Gas Reaches Procurement Deal for U.S.-Produced Biomethane”(英語プレスリリースPDF, 2025年11月28日)
https://www.osakagas.co.jp/en/whatsnew/__icsFiles/afieldfile/2025/12/02/251128.pdf - Daigas Group「2025年発表 プレスリリース一覧」(2025年11月28日 米国産バイオメタン関連リリース掲載)
https://www.daigasgroup.com/press/year/2025.html - Osaka Gas “News Releases”(英語サイト:バイオメタン調達やe-メタン案件の一覧)
https://www.osakagas.co.jp/en/ - Bioenergy News “Osaka Gas strikes deal to procure US-produced biomethane”(米国・欧州向けの二次報道)
https://www.bioenergy-news.com/news/osaka-gas-strikes-deal-to-procure-us-produced-biomethane/ - 日本ガス協会「ガスビジョン2050」「アクションプラン2030」(都市ガス業界のe-メタン・バイオガス1%目標など)
https://www.gas.or.jp/gas-life/vision/ - 日本ガス協会「アクションプラン2030」(PDF版:e-メタン・バイオガス1%供給方針やクリーンガス証書スキーム)
https://www.gas.or.jp/pdf/vision/plan2030.pdf

