東京ガス×自然電力、家庭用蓄電池で一次調整力を実証|需給調整市場とVPPの次の一手

東京ガスと自然電力グループのShizen Connectは、2025年11〜12月に家庭用蓄電池を束ねて一次調整力の周波数応動制御を検証します。2026年度の低圧リソース解禁を見据え、家庭用蓄電池VPPの新たな収益源を占う実証です。

目次

3行サマリー

  • 東京ガスとShizen Connectが家庭用蓄電池を束ね、一次調整力オフライン枠向けの周波数応動制御を2025年11〜12月に実証する。
  • 2026年度の制度改定で低圧リソースが需給調整市場に参加可能となり、数百万kW・数百億円規模の新市場が開く。
  • 家庭用蓄電池ビジネスは機器販売中心から、市場収益を電力会社・アグリゲーター・家庭で分配するサービスモデルへの転換が鍵となる。

1. 一次調整力と需給調整市場:低圧VPPに開く新しい入口

一次調整力は、周波数変動に対して自動的かつ高速に応答する「最前線」の調整力です。日本では、一般送配電事業者の要件としておおむね10秒以内の応答・5分程度の継続が求められ、従来は大規模発電機が主な担い手でした。

一方、需給調整市場は2024年度に全商品(一次〜三次②)が出そろい、前日商品だけでも月あたり45〜250億円程度の調達費用が発生しています。年間では「数百億円クラス」の支出となり、ここに分散型リソースが参加できれば新たな収益機会となります。

検討資料では、日本全体で必要な一次調整力はおおよそ300〜400万kWと見積もられ、その数%を「オフライン枠」として新技術や分散リソースに開放する構想が示されています。家庭用蓄電池VPPは、このオフライン枠への参加を狙うポジションにあります。

要点: 一次調整力は高い応答性能が必要なぶん、容量単価が高くなりやすく、低圧VPPにとって“小さくても単価が高い”魅力的な市場になり得ます。

2. 東京ガス×Shizen Connect実証:家庭用蓄電池で何を試すのか

今回の実証は、東京ガスと自然電力グループのShizen Connectが共同で行うもので、家庭用蓄電池を低圧リソースとして束ね、一次調整力オフライン枠に対応できるかを検証します。一次調整力を想定した周波数応動制御の実現性と、実務フローの整理が主な目的です。

  • 実証期間:2025年11〜12月
  • 対象:家庭用蓄電池(複数台を束ねた低圧リソース)
  • 内容:周波数計測、高速応動制御、1秒データの取得・分析、受電点/機器点それぞれの構成での検証

東京ガスは「家庭用蓄電池+模擬負荷」を含む検証環境の提供や、成果検証・技術課題の抽出を担当します。Shizen Connectは自社のエネルギー管理システム「Shizen Connect」とエッジ端末「Shizen Box」を用い、周波数をトリガーにした蓄電池制御やデータ取得・運用フローを設計します。

プレスリリース(自然電力デジタル、2025年11月25日)では、1秒ごとのデータ取得や制御速度の確認を通じて、一次調整力として必要な応答性能と評価手順を整理することが示されています。

要点: 「周波数を見て10秒以内に動く家庭用蓄電池」を実運用に近い環境で試し、一次調整力としての技術要件を満たせるかを確認する実証です。

3. 2026年度の低圧リソース解禁とShizen Connectのポジション

今回の実証が注目される背景には、2026年度に予定されている制度改定があります。取引規程の改定により、低圧リソースが需給調整市場に参加可能となる見込みであり、家庭用蓄電池VPPにとって「本番」が始まるタイミングです。

Shizen Connectはすでに、小売電気事業者向けの「機器制御型DR支援サービス」を通じて、家庭用蓄電池やエコキュートを束ねた低圧VPPを運用しています。このサービスを採用する小売電気事業者の合計シェアは、低圧販売量ベースで約36%に達しており、すでに一定規模のプラットフォームを形成しています。

  • 経済DR(電力調達コスト最適化)
  • 再エネ出力制御低減のための需要創出DR
  • 需給ひっ迫時のDR(警報連動)
  • 容量市場向け制御(実証済/2026年春に実需給予定)
  • 需給調整市場向け制御(実証済/2026年春から実需給可能)

要点: すでにDR・容量市場で実績を持つ低圧VPP基盤が、次のステージとして一次調整力に踏み込む動きであり、プラットフォーム拡張の「次章」に入ったといえます。

4. 一次調整力市場の規模感と家庭用蓄電池のポテンシャル

抽象的に言えば、一次調整力市場は「数百万kWの容量」と「数百億円規模の年間支出」を扱う大きな池です。日本全体で必要な一次調整力はおおよそ300〜400万kWとされ、そのうち数%がオフライン枠として新技術や分散リソース向けに開放される方向で議論が進んでいます。

一方、需給調整市場全体の前日商品だけを見ても、2024年4〜9月の実績で月45〜250億円程度の調達費用が発生しており、商品全体・年間ベースでは「数百億円クラス」の市場規模になります。このうち一次調整力オフライン枠に分散リソースが本格参入すれば、家庭用蓄電池VPPにも意味のある収益源となります。

家庭用蓄電池VPPの規模はまだ発展途上ですが、長期的には「数万〜数十万kW」オーダーで一次調整力オフライン枠の一部を担うシナリオも見えてきます。台数ベースでは、5kWクラスの蓄電池が1万〜数万台というイメージです。

要点: 数十万kW規模のオフライン枠に家庭用蓄電池VPPが食い込めれば、蓄電池1台あたりの売電・節電効果に加え、系統サービス収入という「第3の収益」が積み上がる可能性があります。

5. 家庭用蓄電池ビジネスにとっての意味:販売から「収益シェア」へ

家庭用蓄電池ビジネスはこれまで、機器販売と電気料金削減が主な価値提案でした。今後は、容量市場・需給調整市場からの収益も組み込んだサービスモデルへの転換が重要になります。

  • これまでの収益構造: 蓄電池本体・工事売上+自家消費・ピークカットによる電気料金削減+DR参加報酬
  • これから加わる収益源: 容量市場収入(kW対価)+需給調整市場収入(ΔkW・kWh対価)+緊急時DR・系統サービスの追加報酬

ここで鍵となるのが、「家庭の蓄電池オーナー」「小売電気事業者」「VPPアグリゲーター」の三者で、市場収入をどのように分配するかです。例えば、次のような分配イメージが考えられます。

  • 家庭:蓄電池の基本料金割引やポイント還元、VPP参加インセンティブ
  • 小売電気事業者:調達コスト削減+新サービス収入
  • アグリゲーター:制御・システム提供に対するフィー

加えて、初期費用ゼロのサブスク型や、機器買取+市場収入シェア型など、顧客に分かりやすい料金設計も重要になります。蓄電池そのものの価値に、「市場参加によるキャッシュフロー」を上乗せできるかが勝負どころです。

要点: 機器販売中心のビジネスから、市場収入を三者で分け合うサービスモデルへの転換設計が、家庭用蓄電池ビジネスの勝ち筋になっていきます。

6. 筆者の視点:事業開発で押さえたいポイント

ここでは、電力小売・蓄電池メーカー・VPPアグリゲーターが事業開発の立場でチェックしておきたいポイントをコンパクトに整理します。

  • 技術要件へのフィット: 一次調整力の応答要件(10秒以内・5分継続)を、通信遅延や機器制約を踏まえて満たせるか。
  • 多目的利用の設計: 経済DRや容量市場向け制御と一次調整力を、どのような優先順位と容量アロケーションで同時運用するか。
  • データ価値の活用: 1秒値レベルの電力データを、性能評価・保守・新サービス設計にどう活かすか。
  • 契約・収益分配モデル: 初期費用ゼロのサブスク型や、機器買取+市場収入シェア型など、顧客にとって直感的な料金モデルをどう設計するか。
  • 制度・市場設計のフォロー: オフライン枠の募集量、技術要件、ΔkW価格のルールなど、今後の制度設計の細部を継続的にモニタリングする体制をつくる。

要点: 東京ガス×Shizen Connectの実証は、低圧リソースが一次調整力に本格参入する前に、技術・運用・収益モデルの“三つ巴”を事前に検証する動きであり、家庭用蓄電池VPPの次フェーズを見通すうえで注目すべきケースだと考えます(一次調整力のオフライン枠と低圧解禁時期が重なり、家庭向けVPPの収益構造に直接影響するため)。

参考リンク集

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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