グリーン水素の製造技術を徹底比較:AWE・PEM・SOEC・AEMとLCOHの考え方

再生可能エネルギーの電力を使って水を分解する「水電解」は、グリーン水素をつくるための根幹技術です。AWE・PEM・SOEC・AEMという4つの方式はそれぞれ特徴が異なり、コスト構造も違います。水素・アンモニア戦略を考えるなら、まずこの違いを押さえておくことが出発点になります。

目次

3行サマリー(この記事で分かること)

  • 水電解で何ができるか:再エネ電力で水を分解し、CO₂をほぼ出さずに水素をつくる技術の基本を理解できる。
  • 4方式の現在地と進化の方向:商用レベルのAWE・PEMと、実証段階のSOEC・AEMについて、効率・コスト・負荷追従性の違いを整理できる。
  • 事業化で押さえるべきコストドライバー:電源コスト・稼働率・温度条件が水素コスト(LCOH)にどう影響するかを、政策支援も含めて整理できる。
あわせて読みたい
水電解スタートアップ紹介:方式別の有望プレイヤーと技術の要点(2025年版) 本記事は、AWE/PEM/SOEC/AEMの各方式を軸に、水電解スタートアップの「誰が」「どの技術で」「どの性能・開発段階にあるか」を一次情報(各社HP・技術資料・リリースな...

はじめに ― 水電解4方式をざっくり掴む

水電解とは、水(H₂O)に電気を流して水素(H₂)と酸素(O₂)に分解する技術です。とくに再エネ由来の電力と組み合わせると、CO₂排出をほぼゼロに抑えたグリーン水素を製造できることが最大の魅力です。

現在の水電解技術は、電解質や動作温度の違いによってAWE(アルカリ)PEM(固体高分子)SOEC(高温固体酸化物)AEM(陰イオン交換膜)の4方式に大きく分けられます。近い将来はAWEとPEMが導入の主役となりますが、2030年代に入るとSOECやAEMも含め「現場の条件に合った方式を選ぶ」という視点が重要になってくるでしょう。

この記事では、まず4方式それぞれの特徴と技術課題を整理し、続いてコスト構造・政策環境・事業化の考え方を順に見ていきます。

水電解の4つの主な方式

水電解にはAWE(アルカリ水電解)PEM(固体高分子膜)SOEC(固体酸化物)AEM(陰イオン交換膜)の4方式があります。技術成熟度(TRL)で見ると、AWEとPEMはすでに商用レベル(TRL9)に達しており、SOECは商用目前の実証段階、AEMはこれから本格的に成長する段階です。ここでは「どの方式が、どんな条件に向いているか」という視点で特徴を整理します。

AWE(アルカリ水電解)

最も歴史が長く、実績も豊富な方式です。材料コストが低いためCAPEXを抑えやすく、大規模化にも向いています。電流密度が低いため設置面積が大きくなりがちで、従来は再エネの変動への対応が苦手とされてきました。ただ近年では、VerdagyのDynamic AWEのように高電流密度かつ広い可動域を実現した設計が登場しており、再エネの出力変動にも追随できるAWEが生まれつつあります。

PEM(固体高分子膜)

高電流密度でコンパクト、起動・停止の応答が非常に速く、高圧の水素を直接取り出すことも容易です。とくに再エネの出力変動への追従性に優れており、短時間での出力調整が求められる場面で真価を発揮します。課題は、アノード触媒にイリジウムなどの希少金属(PGM)を使うためコストが高い点で、コスト低減には材料開発と量産化が鍵を握ります。

SOEC(固体酸化物)

600〜850℃という高温で電解するため、理論効率が高いのが最大の特長です。産業廃熱や原子力との熱統合によってLCOHをさらに引き下げることが期待されており、CO₂とH₂Oを同時に電解して合成ガスを直接つくる拡張性もあります。一方、高温環境での材料の耐久性や、熱サイクルによる劣化、起動停止の遅さ、急な負荷変動への対応の難しさが課題です。

AEM(陰イオン交換膜)

アルカリ環境で動作し、触媒に貴金属を使わなくてすむのが特徴です。PEM並みの高速応答を持ちながら、イリジウムが不要なためCAPEXを大幅に下げられる可能性があります。「AWEとPEMの良いとこ取り」とも評される技術です。ただし現時点では耐久性や長期運転のデータが少なく、膜の化学的・機械的な安定性と大型化への実証が今後の課題です。

各方式の比較:CAPEX、OPEX(電解効率)、TRL、負荷追従性

4方式を横並びで比較すると、2030年代に向けてCAPEXの目標値はおおむね同じレンジに収れんし、差が出るのは電力消費量と運転モードだという構図が見えてきます。以下はDOEなどの公表値をもとに整理した数値です。

方式CAPEX現状
(USD/kW, Total Installed)
CAPEX目標
(USD/kW, 2031, Total Installed)
電力消費(現状)
kWh/kg-H₂ ※BOL
電力消費(目標)
kWh/kg-H₂ ※BOL
TRL相当再エネ負荷追従性
AWE(アルカリ)1,000–1,5002105548商用域(≈TRL9)原則不可~限定可(設計次第)
PEM1,400–2,2002105546商用域(≈TRL9)可(高応答)
SOEC(高温)4,000–5,00028038(電)+9(熱)35(電)+7(熱)実証~商用接近(≈TRL7–8)原則不可(熱応答の事情で厳しめ)
AEM参考:
約500※1
210※2約55.8※349※3パイロット(≈TRL6–7)可(高応答)

この表が示すように、2031年の目標値ではAWE・PEM・AEMのCAPEXは210$/kW前後でほぼ横並びになります。SOECだけは目標値も他より高めですが、これは高温熱を活用できる特定のサイトでこそ真価を発揮する「高効率だがニッチな方式」という位置づけのためです。

※BOL=Beginning of Life(@定格時)。SOECは別途「熱投入(kWhth/kg-H₂)」が必要です。
※1 AEMの現状CAPEXは公的な「Total Installed」統計が乏しいため、ベンダー公表の量産時目標(Enapter「1MW AEMで$500/kW/2025スケール時」等)を参考値として記しています(Recharge 2021Recharge 2022)。
※2 DOE「Hydrogen Shot: Water Electrolysis Technology Assessment」(2024)では、AEMは「PEMに近い技術目標(2031)」を志向と明記。表中の目標はPEMの目標値に整合させています(DOE資料ではAEMは方針のみの記載)。
※3 AEMの電力消費はDOE/NRELの公開資料に基づくシステム値:現状55.8 kWh/kg-H₂、将来設計で約49 kWh/kg-H₂(James 2021, DOE H2 Program Review)。

出典

  • DOE, Hydrogen Shot: Water Electrolysis Technology Assessment(2024)Appendix A-1(PEM), A-2(LA/AWE), A-3(O-SOEC):CAPEX(Total Installed)現状/2026/2031、System電力消費(BOL)現状/目標の一次表。PDF
  • DOE/EERE, Technical Targets for PEM ElectrolysisTechnical Targets for Liquid Alkaline ElectrolysisTechnical Targets for High Temperature Electrolysis:目標値の補足確認。PEMAWESOEC
  • DOE/NREL, James (2021)「Hydrogen Production and Delivery Analysis」:AEMのSystem電力消費(55.8→約49 kWh/kg-H₂)。PDF
  • DOE/EERE, Technology Readiness Levels(TRL)定義:TRLの解釈とマッピング。PDF
  • 負荷追従性:DOE(2024)p.14「PEMはデモ実績あり、LA(AWE)/O-SOECは可否・耐久の検証が進行中」の記載。PDF

各方式の技術課題と改善トレンド

4方式は得意なことが違うだけでなく、解決すべき技術課題も方式ごとに異なります。ここではそれぞれの弱点がどこにあり、世界のメーカーや研究機関がどの方向で改善しようとしているかを整理します。

方式主な技術課題改善トレンド・打ち手
AWE(アルカリ水電解)・電解効率の向上(セル内部抵抗・極間距離・ガス拡散)
・ガス交差による純度低下/安全性リスク
・動的運転での劣化(部分負荷・頻繁な起動停止)
・ゼロ/ニアギャップ化・改良セパレータで内部抵抗低減→効率向上
・高選択隔膜・差圧制御・オンライン純度監視でガス交差抑制
・高電流密度設計、セル単位監視・ホットスワップで可動域拡大と耐久性向上(Dynamic AWE 等)
PEM(高分子膜)・アノード触媒のIr依存によるコスト高
・PTL(ポーラス輸送層)・膜の製造コスト
・動的負荷での膜/界面劣化(電位スパイク・乾湿サイクル)
・超低担持(≤0.1–0.2 mg/cm²)・高分散化、Ir合金/酸化物支持・Ir使用量削減
・PTLの成形簡素化(焼結→プレス/コーティング)と量産設計でCAPEX低減
・強化膜・耐久イオノマー、電位管理・起動停止プロトコル最適化で劣化抑制
SOEC(固体酸化物・高温)・高温材料(インターコネクト・シール)の耐久性
サーマルサイクル起因の劣化/起動時間の長さ
・負荷追従の難しさ(熱応答・熱応力)
・低温動作域材料(改良電解質・電極・シール)で応力低減→寿命延長
・蓄熱・段階昇温・スタック断熱設計で起動時間短縮とサイクル耐性向上
・原子力/産業排熱との熱統合で一定負荷運用を前提に高効率化
AEM(陰イオン交換膜)・膜・イオノマーの化学/機械的安定性(大型化・加圧下)
・非貴金属触媒の活性・耐久
・炭酸塩化などの電解液管理と長時間実証の不足
・耐アルカリ性の高いAEM・補強膜の開発で長寿命化(大面積スケール)
・Ni-Fe/Co 系などのPGMフリー触媒の改良・被毒耐性強化
・CO₂管理(クローズドループ/炭酸塩除去)と1〜2万時間級の運転データ蓄積

大まかに整理すると、AWEは効率と動的運転、PEMはPGM依存の脱却、SOECは高温材料とサーマルサイクルへの耐性、AEMは膜と非貴金属触媒の寿命確保がそれぞれ主要な課題です。中長期的には「どこまで貴金属を減らせるか」「高温運転をどこまで安定させられるか」がコスト競争力を左右するポイントになっていくでしょう。

各方式の代表的スタートアップ

水電解スタートアップの動向を追うと、各方式の「どのボトルネックを解こうとしているか」がよく見えてきます。ここでは代表的な企業を方式ごとに紹介します。投資家や提携企業の顔ぶれを見ると、どの業界がどの方式に期待をかけているかもイメージしやすくなります。

方式企業名特徴(戦略・技術の要点)主な出資者(公開情報の抜粋)
AWEVerdagy何を:変動する再エネに合わせて柔軟に運転できるAWEを実現。
どうやって大面積の単セル構造×高電流密度設計とセル単位の監視・交換性を組み合わせ、広い可動域を確保(Dynamic AWE)。
どこまで:数十MW規模から200MW超へのスケールアップを視野に入れる。
戦略投資:Shell Ventures、Yara Growth Ventures、Galp ほか 機関・CVC:Temasek、Samsung Ventures、Zeon Ventures、Toppan Ventures 等 産業系:BlueScope、Tupras Ventures ほか
PEMElectric Hydrogen (EH2)何を:大規模PEMの量産と導入コストの引き下げを同時に追求。
どうやって:米マサチューセッツ州Devensに年産約1.2GWのギガファクトリーを建設し、産業用途向けのBOP統合と現場据付の標準化を進める。
どこまで:シリーズCで大規模調達を実施してユニコーン入り。北米・中東での導入案件を開拓中。
エネルギー/産業:bp Ventures、Fortescue、MHI、Honeywell 等 金融・政府系:Temasek、Oman Investment Authority VC/インパクト:Breakthrough Energy Ventures、EIP、Fifth Wall、Capricorn、Prelude、S2G ほか
SOECSunfire何を:高温電解による業界最高水準の効率を実証し、商用化へつなげる。
どうやってHyLink SOECの標準モジュール化と欧州域内での製造拡大を並行して進める。
どこまで:実証で84〜88% LHV級の効率を公表し、量産ラインと受注を着実に積み上げている。
投資ファンド:GIC、Lightrock、Planet First Partners、Carbon Direct Capital 等 企業・財団:Amazon Climate Pledge Fund、Ahren、LGT Private Banking ほか ファイナンス:EIB(融資)、各種助成
Ceres Power何を:SOEC/SOFCの技術プラットフォームとライセンスモデルで事業展開。
どうやって:Shellと1MW SOEC実証を実施し、加圧モジュールの開発で100MW級へのスケール研究も進める。
どこまで:Bosch・Weichai・Doosanとの長期提携で量産体制を着実に整備中。
提携先:Shell(実証)、Bosch、Doosan、Weichai 等(上場企業・提携中心)
AEMEnapter何を:AEMの商用化をいち早く実現するパイオニア。
どうやってMulticore/Nexusなどのモジュール多芯化でスケールアップを図り、3〜100%の広い可動域と使い勝手を両立させる。
どこまで:システム電力消費は約53 kWh/kgクラスで、量産モジュールの出荷を拡大中。
上場企業(主要株主は公開情報参照)、IPCEI等の補助・共同実証を活用
EVOLOH何を:AEMスタックの量産・低コスト化に特化した製造スタートアップ。
どうやって:米国で数GW規模の年産体制を計画し、製造プロセスを内製化してCAPEX構造を改善する。
どこまで:ユーティリティ・産業向けにサプライ能力を拡大中。
出資:Engine Ventures(Lead)、NextEra系、3M Ventures ほか
Alchemr何を高電流密度かつ高耐久なAEMスタックの開発。
どうやって:PGMフリー触媒と耐アルカリ性膜を組み合わせ、Shell GameChanger・DOEの支援のもとで実証を進める。
どこまで:連続運転データの積み上げとスケール検証を継続中。
出資・支援:Repsol Foundation、Shell GameChanger、U.S. DOE ほか
Power to Hydrogen何を高圧・高電流密度のAEMで産業現場への実装を目指す。
どうやって:欧米の電力・素材系パートナーと実証を進め、加圧・耐久設計に注力。
どこまで:シリーズAで1,800万ドル超を調達し、商用案件を拡大中。
出資:Rev1 Ventures(Lead)、Worthington Enterprises、Finindus、JERA、旭化成、AEP、EDP Ventures、E.ON、ESB 等
その他H2Pro何を:電気化学と熱化学を分離して運転するE-TAC方式で高効率化を狙う。
どうやって:バッチ運転の制御とシステム設計で設備・運用コストを最適化する。
どこまで:E-TACモジュールの商用スケール化と量産体制の構築を進め、2020年代後半には数十MW級の案件への実装を計画。
出資:Temasek、ArcelorMittal XCarb、Yara、Hyundai、Breakthrough Energy Ventures ほか
Advanced Ionics何を産業排熱と統合した水蒸気電解で電力消費を大幅に削減。
どうやって:プロセス熱を活用することで、電力消費を約35 kWh/kg水準まで下げることを主張(サイト条件に依存)。
どこまで:化学・製油・食品など熱の豊富な産業とのPoCを積み重ねている。
出資:bp ventures(Lead, Series A)、Clean Energy Ventures、MHI、GVP Climate、Aster ほか

各社の動きを見渡すと、AWEはCAPEXを極限まで下げながら柔軟な運転を実現する方向、PEMはギガファクトリー化とPGM削減の両立、SOECは効率と熱統合の深化、AEMは量産プロセスの確立と膜・触媒の成熟にそれぞれ注力していることがわかります。共通しているのは、「水素そのもの」だけでなく、電力・熱・プロセスとの組み合わせで優位性を生み出そうとしている点です。

※各社の仕様・投資状況は公開情報に基づく要約です。読みやすさを優先して投資家名は代表的なものに絞っています。詳細は各社のニュースリリース・年次報告・公的助成情報をご参照ください。

政策・市場環境(米・欧・日)

水電解の事業性は技術だけでは決まらず、政策支援の有無が大きく影響します。とくに米国のIRA 45V、EUのHydrogen Bank、日本の水素基本戦略は、「どこで・どの方式の水電解が先に立ち上がるか」を左右する重要な前提条件です。

米国(IRA 45V)

2025年1月、インフレ抑制法(IRA)に基づくクリーン水素生産税額控除「45V」の最終規則が公表されました。製造過程のCO₂排出量(カーボンインテンシティ)に応じて、最大3米ドル/kg-H₂のクレジットが付与される制度で、グリーン水素のLCOHを大幅に引き下げる効果があります。

一方で、米下院では「IRA廃止法案」が可決され、25年8月時点では上院での審議待ちという状況です。政策の長期的な安定性には不確実性が残っており、事業計画を立てる際には注意が必要です。また、適用にあたっては「電源の追加性」「時間一致性」「地域一致性」といった条件や、排出量計算に使うGREET 45VH2モデルの運用ルールが重要な論点となっています。

欧州(EU)

EUでは、水素の製造と需要を同時に拡大するため、Hydrogen Bankの入札制度(製造者へのプレミアム支援)や、IPCEI(欧州共通利益のための重要プロジェクト)による補助金制度を展開しています。商用規模のプロジェクトに対して数億〜数十億ユーロ規模の支援が行われており、域内での大規模な製造能力の整備が加速しています。

とくにSOECやAWEの分野では欧州メーカーの資本力と生産能力が強化されており、海外依存を減らしてサプライチェーンを域内で完結させる「欧州版水素バリューチェーン」が形成されつつあります。

日本

日本政府は水素基本戦略(2023年改訂版)を策定し、2030年・2050年の水素導入目標に向けた供給コスト低減と需要拡大のロードマップを示しました。1kgあたりの供給コストを2030年までに30円/Nm³程度(約3米ドル/kg-H₂)まで引き下げることを目指しています。

施策としては、CO₂削減価値を取引可能にするクレジット型の導入支援や、GX(グリーントランスフォーメーション)関連補助金を活用した製造設備・輸送インフラへの支援があります。また、海外からの輸入と国内生産の両方を組み合わせた多様なサプライチェーンの構築も積極的に推進しています。

事業化の考え方:条件から逆算して方式とコストを決める

グリーン水素の事業化は、装置カタログの数値だけで最適解にたどり着くことはできません。大切なのは、「サイト条件と電源条件」から逆算して、方式・運転モード・コスト構造を決めることです。ここではLCOHの簡略式を使って考え方を整理します。

まず①電源のコストと可用性②負荷プロファイル③サイトの温度条件という3つの前提条件を明確にしたうえで、どの方式が適しているかを逆算し、どのコスト項目にてこが利くかを見極めます。
※ 政策や補助金も重要な要素ですが、この章では純粋な製造コストに絞って考察します。

3つの前提条件

  • ① 電源のコストと可用性:時間帯によって電力単価が大きく変動するか、安価に使える時間はどれくらいあるか。
  • ② 負荷プロファイル:変動する再エネに直結して起動停止が多い運転なのか、系統・自家発を使った連続運転なのか。
  • ③ サイトの温度条件:高温排熱や原子力熱を利用できるか(SOECの熱統合が現実的かどうか)。

LCOH(均等化水素コスト)の簡略式

水素1kgあたりの製造コスト(LCOH)は、次の式で主要因子に分解できます。

LCOH [USD/kg-H₂] = SEC × { (CAPEX / L + O&M) / (CF × 8760) + pe }

この式を眺めると、水電解のLCOHは「電力費(SEC×pe)」「設備費(CAPEX/L)」「稼働率(CF)」の三つ巴で決まることがわかります。どこにてこが利くかは、サイト条件と運転モード次第です。

運転モードで変わるLCOH最適化の考え方

負荷追従(PEM/AEMが得意)

  • 安価な時間帯だけ稼働するとCFが下がり、式の {(CAPEX/L + O&M)/(CF×8760)} の項が大きくなります。
  • 一方でpeは下げやすいので、CAPEX・O&Mの圧縮(モジュール化・据付の簡素化)安価電源の最大活用でバランスを取ることが重要です。
  • 起動停止による寿命への影響を抑える制御技術と、部材(膜・触媒層・PTLなど)の低コスト化が勝負の鍵です。

24時間の定常運転(AWE/SOECが得意)

  • CFが高いためCAPEX項は薄まりますが、相対的に電力費(pe × SEC)の比重が大きくなります。
  • 安定した電源の調達コストは安価な変動再エネに比べて高くなりがちなので、peの引き下げには限界があります。
  • そのため効率向上(SECの低減)が最優先課題となります。SOECであれば高温熱との統合で電力消費を熱で代替でき、さらに有利になります。

まとめると、変動再エネと直結するならPEM/AEMで安価な時間帯を攻めながらCAPEX・O&Mを抑える戦略、24時間の定常運転ならAWE/SOECで高い稼働率と効率を両立させる戦略が基本線です。どちらを選ぶかで、事業計画の数字は大きく変わります。

方式の目安(条件→方式→狙い目)

  • 変動再エネ直結・安価時間帯を重視PEM / AEM(高速応答)。
    狙い目=CAPEX・O&Mの圧縮+安価電源の最大活用(CF低下との兼ね合いを考慮)。
  • 高温熱が使える工場・原子力サイトSOEC
    狙い目=熱統合でSEC(電解効率)を下げるとともに、連続運転による高稼働率の維持
  • 大規模・初期コスト重視・広い用地AWE(新設計を含む)
    狙い目=CAPEX/Lの圧縮長時間の定格運転によるCFの高維持。

参考:グリーン水素以外の低炭素水素

水素にはさまざまな「色」の呼び方があります。もちろん水素そのものに色があるわけではなく、製造方法とライフサイクル排出量に応じた便宜上の分類です。ここまで扱ってきたグリーン水素は、再エネで水を電気分解して得られる水素で、製造プロセス全体でCO₂をほぼ排出しないことを目指します。

一方、グリーン水素以外にも低炭素水素の選択肢はいくつかあります。代表的なのが、化石燃料+CCSによるブルー水素、メタン熱分解によるターコイズ水素、地下に天然に存在するホワイト水素(天然水素)です。それぞれの特徴と課題を簡単に整理します。

ブルー水素(化石燃料+CCS)

ブルー水素は、天然ガスなどを水蒸気改質(SMR)して水素をつくる際に発生するCO₂を、CCS(炭素回収・貯留)で回収・貯留する手法です。CO₂をそのまま排出する従来のグレー水素と比べて、温室効果ガスの排出を大幅に削減できます。

課題は、CCSの回収率が理論上100%には届かず90〜95%程度にとどまること、CCS設備やCO₂の輸送・貯留インフラのコストが高いことです。原料となる天然ガスの価格変動や供給安定性も、事業性に影響する重要な要素です。

ターコイズ水素(メタン熱分解)

ターコイズ水素は、メタン(CH₄)を高温で分解して水素と固体炭素を生成する手法です。CO₂を直接排出しないため、原理的にはCCSが不要というのが大きな利点です。副生する固体炭素はタイヤ・電池・建材など幅広い用途への活用が期待されています。

ただし事業性は、原料メタンの漏洩率熱源のカーボンインテンシティ(CI)に大きく依存します。再エネや低炭素電力を熱源に使えば環境負荷を抑えられますが、高温に耐える反応炉や材料の開発、そして大規模での安定運転の実現が今後の課題です。

ホワイト水素(天然水素)

ホワイト水素は、地下の地質構造に自然に存在する天然水素資源を指します。近年は欧米を中心に探鉱活動が活発になっており、政府や研究機関からの政策ブリーフや調査報告も増えています。生成過程でCO₂を排出しないため、低環境負荷な水素供給源になれる可能性を秘めています。

商用化に向けては、採掘可能な埋蔵量の確定長期安定採取技術の確立が不可欠です。採掘・輸送コストや環境影響評価も今後の検証課題です。もし大規模な埋蔵量が確認されて事業化の目処が立てば、水素供給の地図を大きく塗り替える可能性があります。

参考リンク集(主要ソース)

略語集

  • AWE:Alkaline Water Electrolysis(アルカリ水電解)
  • PEM:Proton Exchange Membrane(固体高分子形)
  • SOEC:Solid Oxide Electrolysis Cell(固体酸化物形/高温)
  • AEM:Anion Exchange Membrane(陰イオン交換膜)
  • TRL:Technology Readiness Level(技術成熟度段階)
  • CAPEX:資本費(設備投資額)
  • BOL:Beginning of Life(初期状態)
  • LCOH:Levelized Cost of Hydrogen(均等化水素コスト)
  • PGM:Platinum Group Metals(白金族金属)
  • IRA/45V:Inflation Reduction Act / クリーン水素生産税額控除(最大$3/kg)

ニュースレターを購読する

NetZero Insights Japanの新着・注目トピックを週1で配信します。更新情報を見逃したくない方は是非ご登録ください。

 

※ 時々メールマガジン限定の情報も配信するかもしれません。

 

 

このフォームで取得したメールアドレスは、NetZero Insights Japanのニュースレター配信にのみ利用します。

ニュースレターの購読を申し込むことで、プライバシーポリシーに同意したものとします。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

目次