JSEと川崎重工が4万m³液化水素船を発注 2030年度までの国際サプライチェーン実証の中身

JSEと川崎重工が発注した4万m³級液化水素運搬船と川崎LH₂ターミナルをイメージした国際水素サプライチェーンの概念イラスト

世界の水素サプライチェーンづくりで、海外から液化水素を大量に運ぶためのインフラ整備が次の段階に入りつつあります。日本水素エネルギー株式会社と川崎重工業株式会社が2026年1月、容量約40,000m3の液化水素運搬船の造船契約を結び、2030年度までの商用化実証に向けて船舶側の準備が具体化しました。

目次

3行サマリー

  • 2026年1月、日本水素エネルギーと川崎重工が40,000m3型液化水素運搬船の造船契約を締結しました。
  • 本船はNEDOグリーンイノベーション基金事業「液化水素サプライチェーンの商用化実証」で使用され、川崎重工坂出工場で建造されます。
  • 2030年度までに川崎LH2ターミナルと組み合わせた実証運航を行い、将来の水素輸入と水素コスト低減につながる要件を確認します。

今回の発表の位置づけと液化水素サプライチェーンの概要

「液化水素サプライチェーンの商用化実証」は、国立研究開発法人NEDOのグリーンイノベーション基金事業の一つで、液化から輸送、貯蔵、利用までを一気通貫で検証する枠組みです。この事業では、商用規模に近い設備を使って、性能や安全性、耐久性、経済性などを数字で確かめることを目的としています。

日本水素エネルギー株式会社(JSE)が事業主体となり、川崎重工とともに、基地と船舶を組み合わせた国際サプライチェーンの姿を検証します。商用化実証は2030年度までの期間で計画されており、その中で今回の40,000m3型液化水素運搬船が「本番スケールの輸送インフラ」として活躍する想定です。

日本政府の水素基本戦略では、水素を将来のエネルギー供給の柱の一つと位置づけ、水素供給コストを2030年ごろに30円/Nm3程度まで下げる目標を掲げています。こうした目標を踏まえると、大型の液化水素運搬船と受入基地の実証は、コストと安全性の両面で「本当に使える幹線インフラかどうか」を確かめる段階に入ったという意味があります。

40,000m3型液化水素運搬船とJSE・川崎重工の役割

今回造船契約が結ばれた40,000m3型液化水素運搬船は、完成すれば世界最大クラスの容量を持つ液化水素専用船です。本船は川崎重工の坂出工場で建造され、全長約250m、貨物タンク容量約40,000m3という仕様で、パイロット船「すいそ ふろんてぃあ」(1,250m3)の輸送能力を大きく上回ります。

貨物タンクには、高性能の断熱システムが採用されます。外部からの侵入熱を抑えることで、極低温の液化水素から発生するボイルオフガス(BOG)を減らし、大量輸送でも損失を抑えながら運べる設計です。推進機関には従来の油を燃料とする発電用エンジンに加えて、水素と油の二元燃料エンジンを搭載した電気推進システムを採用し、BOGを圧縮・熱交換した水素ガスを船の燃料として有効活用します。

さらに、本船では大量の液化水素を安全かつ効率的に積み降ろしするための貨物運用システムを備え、陸上設備から船内タンクまでを真空二重配管でつなぎます。液化水素の比重が軽いことを踏まえて船型や喫水を設計し、必要な推進馬力を抑えて推進効率を高める工夫も盛り込まれています。水素燃焼システムや燃料供給システム、貨物運用システムについてはリスク評価を行い、安全対策を施すことで、乗員や環境、船体構造への影響を抑える設計です。

JSEは、水素サプライチェーンの企画・運営・投資を主な役割とする事業会社で、今回のプロジェクトでは事業主体として全体構想と運用を担います。川崎重工は、これまでの液化水素運搬船とLNG船の設計・建造で培った技術を生かし、大型タンクや貨物システム、推進システムを含むハード面の中核として位置づけられています。

川崎LH2ターミナルと政策・市場の文脈

川崎市川崎区扇島で建設が進む「川崎LH2ターミナル」は、この商用化実証の主要設備として整備される液化水素基地です。世界最大級となる貯蔵容量5万m3の地上式液化水素貯蔵タンクに加え、出荷・受入の両方に対応する海上荷役設備、水素液化設備、水素送ガス設備、ローリー向け出荷設備を備える計画です。

商用化実証では、川崎LH2ターミナルと40,000m3型液化水素運搬船を組み合わせて運用し、2030年度までに国際水素サプライチェーンとして求められる性能や安全性、耐久性、経済性などを国内で確認していきます。実証段階では国内調達の水素も活用しつつ、その後は海外から製造した液化水素を輸入し、同ターミナルで受け入れて国内需要家に供給する構想が示されています。

日本の水素基本戦略では、水素導入量の大幅な拡大とあわせて、水素コストを段階的に引き下げる方針が示されています。その前提として、オーストラリアなど海外で製造した水素を液化して長距離輸送し、日本側の基幹基地で受け入れる仕組みが重要になります。川崎LH2ターミナルと40,000m3型運搬船は、この「輸入幹線ルート」の有力な候補を具体化するものです。

他の水素輸送手段との棲み分けと企業・人材への影響

水素の国際輸送手段としては、液化水素だけでなく、アンモニアや有機ハイドライド(メチルシクロヘキサンなどのLOHC:Liquid Organic Hydrogen Carrier)も候補に挙がっています。アンモニアは常温近くでも扱いやすく、大型発電用途などで注目されています。一方、LOHCは既存の石油インフラを活用しやすい反面、脱水素に高温の熱が必要になるなど、エネルギー効率の課題が指摘されています。

これに対して液化水素は、極低温での取り扱いが難しい一方、重量当たりのエネルギー密度が高く、燃料電池やタービンなどで直接利用しやすい特徴があります。特に、港湾や工業地帯に隣接した発電用途や、水素ステーション向けの供給、将来的な水素モビリティ向け燃料供給などでは、液化水素ルートの利点が生きやすいと見られています。

中長期的には、アンモニアやLOHCなど複数のキャリアが共存し、それぞれの得意分野を担う可能性が高いです。その中で、今回の40,000m3型運搬船と川崎LH2ターミナルは、液化水素ルートの「幹線輸送の本命候補」を実証する取り組みといえます。企業側では、自社の事業領域にとってどのキャリアが主な選択肢になりそうかを整理し、将来の燃料・原料調達の絵姿を描いておくことが重要になります。

また、この種のプロジェクトには、極低温機器や船舶工学だけでなく、港湾インフラ、法規制、安全評価、プロジェクトファイナンスなど、多様な専門性が必要です。重工メーカー、商社、電力・ガス会社、金融機関、港湾事業者などが連携するため、分野をまたいでリスクと収益性を整理できる人材へのニーズは今後も高まりそうです。

筆者の視点

技術戦略やカーボンニュートラルのテーマを扱う立場では、今回のニュースでまず目に入るのは「水素投資への期待と慎重論が交錯する中でも、基幹インフラ級の実証は着実に前進している」という点です。パイロットスケールではなく、世界最大級の40,000m3船と商用規模の基地をセットで動かす計画が具体化したことは、水素サプライチェーンの実現可能性を現場レベルで検証するうえで大きな意味があります。

とはいえ、40,000m3船を1隻運用しただけでは、将来想定される数百万トン級の水素需要を支えるにはまだ道半ばです。今回の実証で得られるデータをもとに、どのルートに何隻配備するのか、どの需要クラスター(発電、製造、モビリティなど)を優先してつなぐのか、といった「幹線と支線」の設計に踏み込めるかどうかが、次の論点になりそうです。

企業の立場から見ると、今すぐ液化水素を前提にした大型投資を行うというより、「2030年前後にこうした幹線インフラが立ち上がる可能性がある」という前提で、自社にとっての選択肢を整理しておく段階に近いと感じます。たとえば、どの拠点なら港湾インフラと連携しやすいか、どの設備なら水素を受け入れやすいか、といった具体的な候補を洗い出しておくと、実証結果が出たときに動きやすくなります。

周辺を見渡すと、アンモニア発電やLOHC関連プロジェクト、再エネ由来水素の地域プロジェクトなど、さまざまな水素ビジネスが同時進行しています。今回の液化水素サプライチェーンの実証は、その中で「どこまで輸入幹線に頼れるか」「どこをローカルな供給で賄うか」を考える判断材料になっていきそうです。一言でまとめると、今回の40,000m3型液化水素運搬船は、水素サプライチェーンの未来像を現実の選択肢に変えていくための大きな一歩だと受け止めておくと良さそうです。

参考リンク集

  • 川崎重工業「世界最大となる40,000m3型液化水素運搬船の造船契約を締結 ~商用規模の液化水素サプライチェーン構築に向けて~」(2026年1月6日、プレスリリース)プレスリリースPDF
  • 日本水素エネルギー・川崎重工業「液化水素サプライチェーン商用化実証の主要施設となる液化水素基地の起工式を開催」(2025年11月27日、プレスリリース)プレスリリースPDF
  • 日本水素エネルギー株式会社「会社概要・事業紹介」(JSE公式サイト)公式サイト
  • NEDO「グリーンイノベーション基金事業/大規模水素サプライチェーンの構築(液化水素サプライチェーンの商用化実証)」事業紹介ページ
  • 経済産業省「水素基本戦略(2023年改定)概要資料」(2023年6月6日、公表資料)概要資料PDF
  • NEDO「川崎LH2ターミナル起工式についてのお知らせ」(2025年11月28日、お知らせ)ニュースページ
  • Ammonia Energy「NH3 vs. MCH: Energy Efficiency of Hydrogen Carriers Compared」(2019年5月9日、解説記事)記事ページ

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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