今週の気になったニュース(2025/08/25–08/31)──欧州・北欧において、小型原子力(SMR)に関するニュースが多数見られました。特に今週はSMRを電源ではなく、熱源として地域熱等に活用する動きに関するニュースが多く見られました。
※ 小型原子力/先進炉について解説した記事はこちら
ポーランド Orlen×Synthos|小型原子炉の初号サイトをWłocławekに決定
何が起きた?
ポーランドのエネルギー大手Orlenが、化学メーカーSynthosと組んで、GE日立の小型原子炉BWRX-300(発電出力300MWe)の初号サイトをWłocławekに決めたと発表しました。国の審査や規制の手続きが段階的に進む中で、2030年代前半の稼働を狙う計画です。海外メディアも「欧州で最初のBWRX-300」として注目しています。
何が面白い?
場所が決まった=実行フェーズに入ったということ。
これで、工期の具体化、資金調達(PF等)、主要機器の調達・製造、建設体制の組成といった実務が一気に動きやすくなります。
さらにポーランドは複数サイトでの展開を想定しており、同じ設計を繰り返し建てることで学習効果が働き、コストや工期の短縮が見込めます。“系列展開”の成否を実地で試せる、欧州SMRの行方を占う試金石と言えます。
仏CEA×Calogena|SMRを地域熱暖房に使う取り組み
何が起きた?
フランスの原子力・代替エネルギー庁(CEA)とCalogenaが、研究拠点Cadaracheで30MWt級の小型原子炉(SMR)「CAL30」を“街の暖房専用”として導入できるかを一緒に調べる覚書(LoI)を結びました。
ねらいは、地域熱(District Heating:地下の太い配管でお湯を配る仕組み)に直接つなげること。低い圧力・温度で安全側に振った設計で、2030年ごろの導入を視野に入れています。
なにが面白い?
ポイントは「原子力=発電」に縛られない使い方です。
CAL30は電気を作る前に“熱のまま”供給する設計。イメージとしては、街全体を温める巨大な給湯器を1台置く感じです。これなら送電線を増強しなくても、配管で運べる約100℃のお湯で、ビルや施設のガス・重油ボイラをそのまま置き換えられる。
結果としてCO₂排出をガツンと減らせるし、冬のピーク需要にも強い。欧州の“熱転換”の本丸に、SMRという新しい選択肢が本気で入り始めたシグナルです。
ノルウェーGrenland・Svalbardほか|極地の電力+地域熱をSMRで置換
何が起きた?
ノルウェーのNorsk Kjernekraftは、南部の産業集積地・GrenlandでSMR発電所の評価プログラムをエネルギー省に提出し、正式な検討プロセスに入りました。
北極圏のSvalbard(ロングイヤービーエン)では、石炭火力の停止後に暫定で使っているディーゼル発電の高コストが課題となる中、既存の電力網と地域熱(DH:配管で温水・蒸気を配る仕組み)に小型のSMRを直接つなぐ構想が動き出し、運営主体となる事業体も立ち上がっています。
さらに、浮体式(洋上)SMRや周辺産業との協調といった選択肢も報じられています。
何が面白い?
送電が弱く、気象条件が厳しい“端の地域”ほど、電気と熱を同時にまかなえるSMRのメリットが際立ちます。
SMRならひとつの小さなプラントから電力は系統へ、熱は配管で街へという二段構えにできるため、ディーゼル依存からの脱却が一気に現実味を帯びます。
しかもSvalbardは地政学的にも、「エネルギー安全保障×脱炭素」の観点から注目度が高い立地です。エネルギー安全保障と脱炭素を両立できるかを世界が見る“試金石”になりつつあり、現地メディアも継続的に追いかけているテーマです。
筆者の視点
この数週間、SMRの「実装フェーズ」へ踏み込むニュースが明確に増えています。
仏CAL30(30MWt)のような暖房直結の試み、ノルウェーGrenland/Svalbardの電+熱の同時確保という現実的ニーズ、そしてポーランドのBWRX-300初号サイト選定のような意思決定の座標が入る動き。
いずれも2030年前後の商用化を見据えたもので、次の12〜24か月でサイト確定・標準契約(PPA/熱供給)・供給網の固めが一気に進むはずです。
一方で、許認可の時間軸・社会受容・建設リスク・初号機(FOAK)以降の後続機(NOAK)のコスト削減は依然として要注目課題です。
参考リンク集
- 暖房用SMR(仏CEA×Calogena@Cadarache)
ENS:CadaracheでのCAL30実装可能性(LoI) / World Nuclear News:CAL30の概要(30MWt・低温低圧・2030目標) - ノルウェー(Grenland/Svalbard)
World Nuclear News:Grenlandで評価プログラム提出 / World Nuclear News:SvalbardのSMR計画進展(既存電力・DH接続構想) / Aftenposten:SvalbardでのSMR検討報道(現地紙) - ポーランド(BWRX-300/Włocławek)
Reuters:Orlen×Synthos、初号サイトをWłocławekに決定 / World Nuclear News:ポーランド初のSMRサイト選定 / Notes from Poland:OSGEの計画背景 / Reuters(2023/12):複数サイト・系列展開の政府方針 - DC廃熱×地域熱(北欧)
Microsoft:フィンランドDC地域・廃熱転用の発表 / Fortum:DC廃熱を地域熱へ(プロジェクト発表) / Fortum:Espoo/Kirkkonummiの計画概要(将来的に地域熱の約40%) / Copenhagen Centre:StockholmのOpen District Heating解説 / Stockholm Exergi:District Heating概要 / AFRY:Fortumの廃熱回収プロジェクト解説
略語集
- SMR:Small Modular Reactor(小型モジュール炉)。工期短縮・系列展開によるコスト逓減を狙う原子炉。
- DH:District Heating(地域熱供給)。配管で温水・蒸気を供給する都市インフラ。
- BWRX-300:GE日立の小型改良型沸騰水型原子炉(約300MWe)。
- MWt / MWe:熱出力(MWt)/電気出力(MWe)の単位。
- LoI:Letter of Intent(基本合意・覚書)。詳細検討に入るための文書。
- PPA:Power Purchase Agreement(電力購入契約)。長期の価格・供給条件を定める契約。
- ODH:Open District Heating(オープン型地域熱市場、主にストックホルムの仕組み)。余熱の売買を可能にする制度設計。
- PUE:Power Usage Effectiveness。データセンターのエネルギー効率指標。
- PF:Project Finance(プロジェクト・ファイナンス)。事業収益を返済原資とする資金調達手法。
- BECCS/CCS:バイオマス起源CO₂/化石由来CO₂の回収・貯留(Carbon Capture and Storage)。