自動車向け再生プラスチック拠点をめざす富山県 AI配合と機械クラスターで「リサイクルといえば富山」に

自動車と日本地図の富山県を組み合わせた再生プラスチック拠点のイメージ図(AI配合とリサイクル機械クラスターを表現)

自動車向けに使う再生プラスチックの供給網づくりで、国と自治体の動きが一段と具体的になっています。富山県では丸喜産業や三井化学などがAIを使った配合技術で製造時間を従来比25%削減することをめざし、環境省が検討する全国約10カ所の集約拠点の候補地として官民連携を本格化させています。

目次

3行サマリー

  • 2025年10月、丸喜産業・三井化学・萩原工業・NECの4社が、AIを活用した再生プラスチック製造の協業を開始しました。
  • 粘度をリアルタイム計測する押出機とAI解析で配合を自動最適化し、タンブリング工程を省略することで製造時間の25%削減と品質の安定化をねらいます。
  • 環境省の「自動車向け再生プラスチック市場構築アクションプラン」と全国約10カ所の集約拠点構想が進むなか、EUの新車プラスチック25%再生材義務化への対応が焦点になっています。

再生プラ拠点づくりの概要と国の方針

環境省の「自動車向け再生プラスチック市場構築アクションプラン」は、自動車で使うプラスチックを再生材に置き換え、国内に安定した供給基盤をつくることを目的とした枠組みです。使用済み自動車からのルート(Car to Car)と、容器包装などその他の廃プラから車向けに戻すルート(X to Car)の両方で、再生プラ供給量を増やすことを掲げています。

このアクションプランでは、2031〜2035年に新型車で使うプラスチックの15%以上を、2036〜2040年には20%以上を再生プラなどのサステナブルプラスチックにする供給目標を示しています。自動車工業会の自主目標とも連動し、日本で生産される新型乗用車のプラスチックを段階的に置き換えていくイメージです。

自動車向け再生プラスチック市場構築の全体像を示す概念図
自動車向け再生プラスチック市場構築アクションプランの「目指す姿」イメージ
(出典:環境省「自動車向け再生プラスチック市場構築 アクションプラン【概要版】」)

一方でEUでは、廃車規則(End-of-Life Vehicles Regulation)案の中で、新車に使うプラスチックのリサイクル材比率を6年後に15%、10年後に25%とする方向で制度設計が進んでいます。日本の自動車メーカーもグローバルサプライチェーンの中で、同程度の水準に対応できる再生プラ調達体制づくりが急ぎのテーマになっています。

こうした背景を受けて、環境省は自動車向け再生プラの供給網をつくるために、全国でおおむね10カ所程度の「再生プラ集約拠点」を整備する構想を掲げています。国が補助金や実証事業で後押しするなかで、どの地域が拠点候補として存在感を出すかが論点になっており、富山県はその一つとして名乗りを上げている状況です。

丸喜産業らの協業と技術的な特徴

丸喜産業は富山県高岡市に本社を置く樹脂原料販売会社で、自社で再生プラスチックのコンパウンドも手掛けています。同社は2025年10月、三井化学、萩原工業、NECとともに、AIを活用したマテリアルズ・インフォマティクス(Materials Informatics、MI)技術による協業を発表しました。

この協業では、萩原工業と三井化学が開発した「製造中に溶融粘度を計測しながら添加剤投入量を自動調整できる押出機」を活用します。丸喜産業の工場で取得した粘度データをNECのMI技術で分析し、廃プラや添加剤の配合条件をリアルタイムに制御することで、品質のバラツキを抑える仕組みです。

従来は、フレコン内でのバラツキを減らすため、大きなドラムで原料を撹拌する「タンブリング工程」に熟練者の経験が欠かせませんでした。新しい仕組みでは、この工程を省きつつ、粘度を見ながら配合を自動補正することで、再生プラ製造全体の時間を従来比で25%削減することをめざします。作業者の勘と経験に依存していた部分を、データとアルゴリズムに置き換えるイメージです。

4社はこのシステムを丸喜産業の工場で実証し、粘度制御の自動化・最適化を早期に実用化する計画です。環境省が描く再生プラ集約拠点の構図の中では、再生プラの品質を安定させて自動車メーカーや部品メーカーに供給する「ハブ」となる事業者が重要になります。地域のコンパウンド企業が大手素材メーカーやIT企業と組んで中核技術を持つことは、富山が拠点候補としてアピールするうえで大きな材料になりそうです。

富山のリサイクル機械クラスターとASR・アルミ循環

富山県には、再生プラの前工程を支えるリサイクル機械メーカーも集まっています。エムダイヤは富山県滑川市に拠点を置き、金属と樹脂を分けて破砕する「分離破砕機」を得意とするメーカーです。使用済み家電や自動車の破砕くずから金属と樹脂を選別する設備を、国内外に提供してきました。

自動車の解体後には、自動車破砕残さ(Automobile Shredder Residue、ASR)と呼ばれる細かい破砕くずが残ります。ASRにはさまざまな種類のプラスチックに加えて、ワイヤ片などの微細な金属も多く含まれており、そのままでは自動車部品向けの再生材として使いにくい状態です。エムダイヤは刃と刃の間に隙間を持たせた破砕機を使い、金属から樹脂をそぎ取るようにして分離する技術を提案しており、ASRから樹脂分だけを回収して再生材に高める用途を想定しています。

自動車破砕残さ(ASR)から金属と樹脂を分離するクロスフローシュレッダの概念図
(Geminiで作成)

こうした前処理機械を束ねる動きとして、エムダイヤ、プラントエンジニアリングのリョーシン、破砕機メーカーの佐藤鉄工の3社は、2025年6月に一般社団法人リサイクル機械工業会を設立しました。この団体は、3社それぞれの製品を共同販売し、人材交流を進めながら、増えていくリサイクル需要への対応力を高めることを目的としています。富山発の機械クラスターとして、ASRを含めたさまざまな廃棄物の選別・破砕ニーズに一体で応えようとする動きです。

さらに富山県は、アルミ産業の集積でも知られています。三協立山をはじめとするアルミ押出メーカーが集まり、国内アルミ押出製品の大きなシェアを富山で生産していると紹介されることもあります。近年は、ビル解体で出たアルミ建材を回収し、新たな建材として再利用するプロジェクトも動き始めており、竹中工務店など大手ゼネコンも参画しています。金属リサイクルで培ったネットワークに、プラスチックやASRのリサイクルが重なることで、「リサイクルといえば富山」というブランドづくりにもつながりやすくなります。

他地域との比較と企業への影響

富山県では、自動車向け再生プラの前段として、容器包装プラスチックを自動車内装部品に活用する取り組みも始まっています。トヨタ紡織と富山環境整備などは、環境省の「脱炭素型循環経済システム構築促進事業」の採択を受け、使用済み容器包装プラを原料にした自動車内装部品の技術検証を富山で進めています。これにより、地域の一般廃棄物から自動車産業への「X to Car」の流れをつくることをねらっています。

他地域でも、建設現場の廃プラや梱包材・土のう袋などを再生材として利活用する実証事業が増えています。ただ、自動車向けの再生プラは、強度や耐久性、安全性などの要求水準が高く、回収から前処理、コンパウンド、最終製品まで一気通貫で品質を担保できる地域はまだ限られます。富山は金属リサイクルやリサイクル機械といった既存の産業基盤に、廃プラの高度リサイクルとAIによる品質管理が重なることで、他地域との差別化を図りやすいポジションにいると言えます。

自動車メーカーや部品メーカーの側では、こうした地域拠点とどう付き合うかが次の論点になります。環境省のアクションプランでは、解体・破砕などの「静脈産業」と、自動車メーカーや素材メーカーといった「動脈産業」をつなぐ産官学コンソーシアムを整備し、長期の供給目標を共有することがうたわれています。メーカーの調達部門は、再生プラの採用比率だけでなく、どの地域のどの拠点から、どのグレードの材料をどれだけ中長期で受け取るかという設計が求められます。

また、再生プラだけではなく、化学リサイクル由来のプラやバイオプラスチックとのすみ分けも重要になります。車両ごとに、内装・外装・構造部材で求められる性能が異なるため、機械リサイクル由来の再生プラ、ケミカルリサイクル由来プラ、バイオプラを組み合わせながら、コストとCO₂削減のバランスを取ることが現場のテーマになります。富山のように機械リサイクルと地域クラスターを強みにする地域は、まず内装材や非構造部材などから着実に実績を積み上げていく動きになりそうです。

筆者の視点

事業開発や技術戦略の立場で見ると、今回のニュースでまず目を引くのは、「地域の中堅企業が、国のアクションプランとEU規制の間をつなぐハブ役を取りに行っている」という点です。丸喜産業やエムダイヤのような企業が、三井化学やNECと組みながら、自動車メーカーが求める品質水準に届く再生プラを地域単位で供給しようとしている構図は、今後の他地域の参考にもなりそうです。

企業戦略の観点では、自動車メーカーと素材メーカーが「どの地域のどのクラスターと組むか」が重要な意思決定になっていきます。環境省のアクションプランは2030年代にかけて供給量の目標を明示しており、それを実現するには、特定地域の集約拠点に対して長期契約や共同投資のような形でコミットする必要が出てきます。今のうちから、調達・設計・環境の担当が連携して、どの部品から再生プラに置き換えるかのロードマップを描いておくと、現場では動かしやすくなります。

周辺ビジネスの観点では、リサイクル機械メーカーやアルミ・鉄鋼など他素材のリサイクル事業者、そしてLCAやトレーサビリティを支えるソフトウェア事業者との連携余地が大きいと感じます。たとえばASRの前処理設備や、アルミ建材の水平リサイクルと再生プラ部品の組み合わせ、車両ごとのサステナブルマテリアル比率を見える化するソリューションなど、富山の取り組みは複数のプレーヤーが組み合わさって初めて価値を発揮するタイプの案件です。

企業としては、どの部品・どの車種から再生プラを導入するか、どの地域クラスターと中長期で組むか、社内で誰がそのテーマを引き受けるかという3点を早めに決めておくことが鍵になりそうです。富山のようなモデルケースがどれくらいのスピードで立ち上がるかが、自動車向け再生プラスチック市場全体の立ち上がり方を左右していきそうです。

参考リンク集

  • NEC「三井化学・萩原工業・丸喜産業・NEC、マテリアルズ・インフォマティクスの技術を活用し、再生プラスチックの品質安定化と製造工程の大幅な効率化に向けて協業を開始」(2025年10月)
    プレスリリースはこちら
  • 萩原工業「マテリアルズ・インフォマティクスの技術を活用し、再生プラスチックの品質安定化と製造工程の大幅な効率化に向けて協業を開始 ~製造時間の従来比25%削減を目指す~」(2025年10月)
    プレスリリースはこちら
  • 環境省「自動車向け再生プラスチック市場構築アクションプラン 関連資料」(2025年3月)
    資料一覧はこちら
  • 経済産業省「自動車向け再生プラスチック市場構築のための産官学コンソーシアム 背景・目的 資料」
    資料PDFはこちら
  • トヨタ紡織「容器包装プラスチックの自動車内装部品への活用を目指し、技術検証を開始 ~環境省の『脱炭素型循環経済システム構築促進事業』採択案件~」(2025年9月)
    プレスリリースはこちら
  • 佐藤鉄工「一般社団法人リサイクル機械工業会設立のお知らせ」(2025年6月)
    お知らせはこちら
  • 欧州議会「End-of-life vehicles: MEPs secure more re-use and recycling of materials in new cars」(ELV規則案関連ニュース)
    関連ニュースはこちら

ニュースレターを購読する

NetZero Insights Japanの新着・注目トピックを週1で配信します。更新情報を見逃したくない方は是非ご登録ください。

 

※ 時々メールマガジン限定の情報も配信するかもしれません。

 

 

このフォームで取得したメールアドレスは、NetZero Insights Japanのニュースレター配信にのみ利用します。

ニュースレターの購読を申し込むことで、プライバシーポリシーに同意したものとします。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

目次