鉄鋼の脱炭素で、エネルギー会社と商社が組んだ「低炭素鉄鋼」の新しい供給網づくりが進んでいます。2025年12月に東京ガスと伊藤忠丸紅鉄鋼が、ウインファースト向け初号案件を含む低炭素鉄鋼製品の開発・販売支援サービスを立ち上げ、非化石電力やカーボンオフセット都市ガスを活用してGHG排出量7割削減をめざします。
3行サマリー
- 東京ガスと伊藤忠丸紅鉄鋼が2025年12月に、鋼材・加工メーカー向け低炭素鉄鋼製品の開発・販売支援サービス開始を共同発表しました。
- 非化石電力やカーボンオフセット都市ガスとCFP算定・第三者検証支援を組み合わせ、製品開発から販売までを一体で支援します。
- 初号案件のウインファーストでは電炉鋼のGHG排出を約7割削減し、2026年5月ごろの低炭素鉄鋼製品の販売開始をめざします。
今回の発表の位置づけと概要
今回のサービスは、鉄鋼製品のライフサイクルで発生する温室効果ガス排出量を従来品より大きく減らした「低炭素鉄鋼製品」を増やすための枠組みです。東京ガスと伊藤忠丸紅鉄鋼が連携し、エネルギー供給と排出量算定・販売支援をワンパッケージで提供する点が特徴です。
東京ガスは、非化石電力やカーボンオフセット都市ガスなどの「環境価値付きエネルギー」を供給し、製造時の排出量を実質的に抑える役割を担います。一方で伊藤忠丸紅鉄鋼は、鉄鋼流通で培った顧客基盤と脱炭素ソリューションを活かし、CFP(Carbon Footprint of Products)算定や第三者検証取得、販路開拓を支援します。
エネルギー企業と鉄鋼総合商社が組んで低炭素鉄鋼を包括支援するのは国内でも初の枠組みとされており、「エネルギー×素材」をセットで扱う動きが一段と前に出た事例といえます。低炭素鉄鋼製品の定義には、日本鉄鋼連盟のカーボンフットプリント算定ガイドラインに沿ったライフサイクルの考え方が使われています。
東京ガス×伊藤忠丸紅鉄鋼のサービスの中身
東京ガスは、自社の環境コンサルティングサービスと、非化石電力やカーボンオフセット都市ガスに関する知見を活かして、本サービスの中核を担います。対象となる工場設備のエネルギー使用量を整理し、どれだけGHG排出を実質削減できるかを一緒に設計していくイメージです。
伊藤忠丸紅鉄鋼は、脱炭素トータルソリューション「MIeCO2(ミエコ)」を通じて、CO₂排出量の可視化やCFP算定、環境製品宣言(EPD)取得などを支援します。鉄鋼サプライチェーンの知見を持つ商社として、顧客企業と一緒に「どの製品を低炭素ラインとして打ち出すか」を組み立てていきます。

(出典:東京ガス プレスリリース)
両社の役割を組み合わせることで、①環境価値付きエネルギーの供給、②CFP算定と第三者検証取得支援、③低炭素鉄鋼製品ラインナップの構築、④制度上の位置づけや市場での認知向上──という、一連のプロセスをまとめて支援する形になっています。電力・都市ガスの販売は、東京ガス100%子会社の東京ガスエンジニアリングソリューションズが担います。
初号案件:ウインファーストと電炉由来の低炭素棒鋼
初号案件となるウインファーストは、三興製鋼と向山工場が出資する共同販売会社で、細物小棒などの鋼材販売を手がけています。両社は鉄スクラップを原料とした電気炉メーカーであり、この電炉プロセスに環境価値付きエネルギーを重ねることで、低炭素製品のラインナップをつくります。
具体的には、鉄スクラップを溶解する電気炉の稼働や、その後の圧延・加工プロセスで、東京ガスが供給する非化石電力やカーボンオフセット都市ガスを活用します。サービス導入により、従来の電炉鋼と比べてGHG排出量を約7割削減できる見込みとされており、その削減効果をCFPとして「見える化」した上で低炭素鉄鋼製品として販売する計画です。
ウインファーストによる低炭素鉄鋼製品の販売開始は2026年5月ごろが予定されています。まずは建設・土木向けなど既存の顧客基盤に向けて展開し、その実績をてこに他の用途への広がりも期待されます。
鉄鋼業界の脱炭素文脈と導入スキーム
鉄鋼業界では、自動車・建設・家電など需要家側のScope3削減ニーズが強まり、「どの鋼材がどれだけ低炭素か」を数字で示すことが求められています。欧州のCBAM(国境炭素調整措置)への対応も視野に入れると、輸出入に関わる企業ほど「製品単位の排出量データ」を整える必要が出てきます。
今回のスキームは、そのニーズに応える形で、エネルギーとデータをセットにした支援メニューになっています。導入企業は、対象設備のエネルギー使用量や操業条件を整理し、東京ガスとMIeCO2の支援を受けながらCFPを算定し、第三者検証を取得します。その上で、低炭素鉄鋼製品として位置づけたラインを、顧客への提案資料や入札条件に組み込んでいくイメージです。
このように、中堅規模の電炉メーカーや加工業者でも取り組みやすい「低炭素製品の第一歩」として設計されている点は、実務担当者にとっても重要です。いきなり大規模投資ではなく、特定ラインから段階的に低炭素化を進められるため、現場の負荷も抑えやすくなります。
他の低炭素鉄鋼オプションとの比較と企業への影響
低炭素鉄鋼と聞くと、水素還元製鉄やCCUS(CO₂回収・貯留)のような大型プロジェクトを思い浮かべる方も多いと思います。これらは物理的な削減効果が大きい一方で、設備投資額も期間も大きく、すぐに採用できる企業は限られます。
今回の枠組みは、既存の電炉設備を前提に、「既存設備+環境価値付きエネルギー+CFPの見える化」という組み合わせで低炭素化を進める選択肢です。物理的な排出強度の改善と、カーボンクレジットや非化石証書の活用をどうバランスさせるかという論点は残りますが、「まずは数字を出して市場と対話を始める」ステップとして意味があります。
企業側にとっては、調達・営業・サステナビリティの連携がより重要になります。調達は価格と品質だけでなく、CFPや環境価値の条件を含めてサプライヤー選定を行うようになりますし、営業は顧客に対して低炭素鋼材のメリットをどのように伝えるかが問われます。サステナビリティ担当や経営企画は、こうした個別案件を中長期の脱炭素戦略や情報開示ストーリーにどう組み込むかを考える必要があります。
筆者の視点
エネルギーと素材の両方を追いかけている立場から見ると、まず印象的なのは、カーボンオフセット都市ガスや非化石電力の販路が、「エネルギーメニュー」から「製品の付加価値づくりのツール」へとシフトしつつある点です。ガスや電力を売るだけでなく、その環境価値を鉄鋼製品にひもづけて、需要家のGHG削減やScope3対応に直結させる発想が前面に出てきました。
もう一つは、「大規模な設備更新を待たずにできること」を具体的なサービスとして示している点です。水素還元製鉄やCCUSのような長期テーマと並行して、電炉メーカーや加工業者が今すぐ着手できるレベルのオプションが増えると、サプライチェーン全体の脱炭素のスピードは上げやすくなります。
さらに、この枠組みは鉄鋼だけでなく、鋳造品、非鉄金属、セメント、化学製品など、排出強度の高い他の素材にも応用しやすい構造です。「エネルギーと素材の環境価値を束ねた提案」が広がれば、素材メーカーとエネルギー会社、商社、金融機関が組んだ新しいビジネススキームが増えていくはずです。
読者の皆さんの立場では、自社が鉄鋼ユーザーかどうかにかかわらず、「低炭素素材をどこでどのくらい使うのか」「そのときに必要なデータや認証は何か」を今のうちに整理しておくと動きやすくなります。こうしたスキームをうまく活用できる企業ほど、脱炭素対応をコストではなく競争力強化のストーリーとして語りやすくなっていきます。
参考リンク集
- 東京ガス「東京ガス・伊藤忠丸紅鉄鋼が低炭素鉄鋼製品の開発・販売支援サービスを開始 ~初号案件となるウインファーストとの契約を締結~」(2025年12月9日)
東京ガス プレスリリース - 伊藤忠丸紅鉄鋼「東京ガス・伊藤忠丸紅鉄鋼が低炭素鉄鋼製品の開発・販売支援サービスを開始 ~初号案件となるウインファーストとの契約を締結~」(2025年12月9日)
伊藤忠丸紅鉄鋼 プレスリリース一覧 - MIeCO2「東京ガス・伊藤忠丸紅鉄鋼が低炭素鉄鋼製品の開発・販売支援サービスを開始 ~初号案件となるウインファーストとの契約を締結~」(2025年12月9日)
MIeCO2 ニュース一覧 - CarbonCredits.jp「東京ガス・伊藤忠丸紅鉄鋼、オフセットガス活用で『低炭素鉄鋼』供給網を構築 エネ・商社連携で製品価値化を支援」(2025年12月10日)
CarbonCredits.jp 記事 - 環境新聞「低炭素鉄鋼製品の開発・販売 新サービス開始、導入計画も 東ガス、伊藤忠丸紅鉄鋼」(2025年12月18日掲載)
環境新聞 オンライン記事

