スマトラ島豪雨と森林破壊:丸紅の植林事業が示した防災と脱炭素の接点

「スマトラ島豪雨と森林破壊 丸紅の植林事業が示した防災と脱炭素の接点」というタイトル文字が中央に配置されたイラスト。左半分は激しい雨の下、山肌が崩れ土石流に飲み込まれる集落が暗い色調で描かれ、右半分は整然と並ぶ緑豊かな植林地と、その奥にCO₂削減を示す葉のアイコンが浮かぶ工場が明るい色調で描かれている。森林破壊による災害と、持続可能な森林管理による防災・脱炭素の対比を表現した画像。

東南アジアで、大規模水害と森林破壊の関係があらためて議論になっています。2025年11月のスマトラ島豪雨では死者・行方不明者が1,000人超となり、その一方で丸紅グループが約29万ヘクタールを運営する植林地が大きな被害を免れたことから、計画的な森林管理の意味が注目されています。

目次

3行サマリー

  • 2025年11月のスマトラ島豪雨で北部を中心に洪水・土砂崩れが発生し、死者・行方不明者は1,000人超となりました。
  • 森林破壊が被害拡大要因との指摘が強まるなか、丸紅子会社ムシ・フタン・プルサダは短伐期植林と再植林を組み合わせた管理で、自社植林地の被害を抑えてきました。
  • 同社の約29万ヘクタール事業は国際森林認証やバイオエネルギー・炭素回収・貯留(Bioenergy with Carbon Capture and Storage、BECCS)構想とも連動し、2030年以降の防災と脱炭素を両立させる林業ビジネスの試金石になりつつあります。

スマトラ島豪雨と森林破壊の概要

スマトラ島では2025年11月下旬、まれに見る強い熱帯低気圧に伴う豪雨が発生し、アチェ州・北スマトラ州・西スマトラ州を中心に洪水と土砂崩れが相次ぎました。インドネシア国家防災庁の集計では、死者・行方不明者は1,000人超、住宅被害は数十万戸に達し、2018年のスラウェシ島地震以来最大級の自然災害と位置づけられています。

現地環境団体のインドネシア環境フォーラム(Wahana Lingkungan Hidup Indonesia、WALHI)は、アチェ州・北スマトラ州・西スマトラ州の3州で2016〜2025年に約140万ヘクタールの森林が失われたと推計しています。これは首都圏と同程度の面積にあたり、パーム油プランテーションや鉱山開発、伐採道路の拡張で山の保水力が落ち、斜面崩壊や鉄砲水を起こしやすい地形になっていたと警鐘を鳴らしています。

今回の水害は、気候変動で極端化した降雨と、長年の森林破壊が重なって起きた「人災の側面もある災害」と受け止められています。ここから、どのように森林を守りながら産業を維持していくかが、インドネシア全体の課題として浮かび上がりました。

丸紅・ムシ・フタン・プルサダの植林事業と特徴

丸紅は、子会社のPT Musi Hutan Persada(ムシ・フタン・プルサダ、MHP)を通じて、スマトラ島南部・南スマトラ州で大規模な植林事業を展開しています。事業エリアは約30万ヘクタール(東京都の約1.3倍)で、そのうちおよそ13万ヘクタールがパルプ原料となる早生樹の植林地、残りは保全林や保護区として区分されています。

植林地ではユーカリなどの広葉樹を短伐期で育てており、毎年伐採した面積とほぼ同じ規模を再植林するサイクルを回しています。これにより森林全体の面積と樹冠のカバー率を一定に保ちつつ、パルプ工場向けの木材供給と防災機能の両方を維持する設計です。

森林認証では、インドネシア森林認証協議会IFCC(Indonesian Forestry Certification Cooperation)および、その国際的承認スキームである森林認証制度PEFC(Programme for the Endorsement of Forest Certification、PEFC)の認証を取得し、定期的に第三者監査を受けています。社内でも現地スタッフによるパトロールや衛星画像のチェックを行い、不法伐採や違法占拠、焼畑による火災リスクを抑える仕組みを整えています。

丸紅グループは同地域でパルプ工場PT. Tanjungenim Lestari Pulp and Paper(TEL)も運営しており、植林地からの木材は主にこの工場に供給されています。植林・製造・輸送まで一体で管理することで、コスト面だけでなく、CO₂排出や生物多様性への影響も把握しやすくしている点が特徴です。

森林減少とインドネシア政策・市場の変化

一方で、スマトラ島全体を見ると、パーム油プランテーションや鉱物資源開発、紙パルプ事業などが重なり、森林面積は長期的な減少トレンドにあります。今回被害が大きかったアチェ州などでは、急斜面の山地にまで道路とプランテーションが広がり、雨水が一気に下流へ流れ込む構造になっていたと報じられています。

2025年末には、インドネシア環境林業省が森林法令違反の疑いがある企業に対して操業停止などの行政処分を出し、森林利用許可22件・約100万ヘクタール分の取り消しを行ったと発表しました。これは今回の水害を契機に、過去の規制違反案件を含めて一気に見直す動きと位置づけられています。

金融分野でも、金融サービス庁(Otoritas Jasa Keuangan、OJK)が「スマトラ洪水により約4,000兆ルピア(約240億ドル)の融資が影響を受ける可能性がある」と公表し、被災地域向けの3年間の特別リスケジュール制度を導入しました。自然災害リスクが銀行のバランスシートを直撃する事例として、国内外の金融機関が注目しています。

こうした政策の流れは、森林管理をきちんと行う企業と、短期的な利益を優先して規制ギリギリの開発を進める企業の間で、資金調達環境や事業継続性に差がつく時代になりつつあることを示しています。防災・環境・金融規制が一体となって「自然と向き合う事業の品質」を問い始めている、と見ることができます。

他の植林・資源企業との比較と日本企業への示唆

スマトラ島の紙パルプ業界では、PT Toba Pulp Lestari(TPL)などが先住民族の土地権や森林破壊をめぐる国際NGOからの批判をたびたび受けてきました。2025年には、姉妹会社APRILの事業とあわせて、先住民族コミュニティへの暴力行為や土地紛争の激化が報告され、欧州の環境団体から投資家向けの警告書も出されています。

一方、丸紅グループのように国際認証やTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース、Taskforce on Nature-related Financial Disclosures、TNFD)のフレームワークに沿って自然関連リスクを開示する企業は、環境・社会リスクを資本市場の目線で評価・管理しようとしています。ただし、認証や開示があるからといってすべてのリスクが消えるわけではなく、現場での対話や紛争解決のプロセスが伴っているかどうかを継続的に見ていく必要があります。

日本企業の立場では、紙パルプやパーム油、鉱物資源などスマトラ由来の原料を使うサプライチェーンで、こうした違いをどう見極めるかが重要になります。単に「認証付きだから安心」とするのではなく、どの企業のどのコンセッションから調達しているのか、その地域で土地利用や水害をめぐる紛争が起きていないか、といったレベルまで踏み込んだデューデリジェンスが求められてきます。

人材面でも、森林・生態系の知識に加えて、災害リスクやカーボンクレジット、国際的なESG規制に通じた人材の必要性が高まっています。特に事業開発や投資の現場では、「防災×脱炭素×地域社会」を一体で設計できるチームをどうつくるかが、今後の競争力の差につながっていきそうです。

筆者の視点

気候変動や自然資本をテーマに事業開発をしている立場から見ると、今回のスマトラ島豪雨では「被害を受けた地域」と「持ちこたえた地域」のギャップにまず目が行きます。同じ島の中でも、長年の森林管理の違いが水害リスクとなって表面化した可能性があり、これは日本企業にとっても他人事ではありません。

日本では水害対策というと堤防やダムなどのインフラ整備がまず頭に浮かびますが、スマトラの事例は「どのような植林・農地利用を続けるか」も防災対策そのものになりうることを示しています。丸紅のケースは、パルプ原料の安定供給という経済性と、流域全体での水害リスクの抑制を両立させようとする一つの試みとして見ることができます。

また、南スマトラで検討されているBECCSプロジェクトは、植林とパルプ工場のCO₂排出を束ねて、ネガティブエミッションのカーボンクレジットまで視野に入れた構想です。もし実現すれば、防災・脱炭素・金融をつなぐ「森のインフラビジネス」として、他地域にも横展開される可能性がありますが、その分だけグリーンウォッシュを避けるための厳格なMRV(計測・報告・検証)と地域社会との対話も欠かせません。

読者のみなさんが投資や調達の場面でこうした案件を見るときは、少なくとも「どの流域のどの山で」「どのくらいの期間で」「地域コミュニティとどう利益を分け合う設計になっているか」という3点を確認しておくと判断しやすくなります。スマトラ島の豪雨は痛ましい出来事ですが、同時に、自然と向き合う事業の質を問い直すきっかけにもなっていると感じます。

参考リンク集

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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