AIデータセンターは宇宙へ?グーグルとSpaceX、OpenAIが描く軌道上クラウドの将来像

宇宙空間に浮かぶ青い地球と、その周囲を網の目のように取り囲む多数の人工衛星ネットワークを描いたホログラム調のイラスト。中央に「AIデータセンターは宇宙へ? グーグルとSpaceX、OpenAIが描く軌道上クラウドの将来像」という白いタイトル文字が配置されたアイキャッチ画像。

AI向けデータセンターの電力・用地不足が深刻になるなか、「いっそ宇宙に出そう」という構想が現実味を帯びてきました。グーグルの宇宙データセンター構想「Project Suncatcher」と、2027年初頭までのプロトタイプ衛星2基の打ち上げ計画には、SpaceXやOpenAIの動きも重なり、大規模AIの次のインフラ像として注目されています。

目次

3行サマリー

  • 2025年11月、グーグルが宇宙データセンター構想「Project Suncatcher」を公表し、TPUと光通信リンクの実証を目的とするプロトタイプ衛星2基を2027年初頭までに打ち上げる計画を示しました。
  • SpaceXは今後のIPOで調達する資金の一部を宇宙データセンター事業に投じる可能性があると報じられ、OpenAIのサム・アルトマンCEOもロケット新興企業との提携・投資を通じて宇宙インフラへの関与を検討してきたと伝えられています。
  • 軌道上でAI計算を行う構想については、Starcloud社など一部事業者が「電力コスト9割減」や「5ギガワット級クラスター」といった試算・構想を公表しており、一方で打ち上げ費用・通信遅延・スペースデブリ対策などが今後10年の主要な論点になりそうです。

宇宙データセンター構想の概要

宇宙データセンターは、地球周回軌道上の人工衛星群を1つの分散型データセンターのように使う構想です。衛星は太陽光パネルで発電し、衛星同士はレーザー通信などの高速リンクでつなぎ、地上のクラウドと連携しながらAIの学習や推論を行うイメージです。

地上のAIデータセンターは、電力・用地・冷却水という3つのボトルネックが目立ち始めています。とくに数百メガワット級の施設では、地域の送電網や水資源に与える影響が大きく、許認可や住民調整のハードルが上がっています。

一方で宇宙空間では、曙暮光軌道などを選べば、ほぼ一日中太陽光を受けられます。天候の影響を受けずに安定的に発電でき、廃熱も深宇宙に放射できるため、冷却設備を簡略化できる余地がありますが、通信遅延や放射線、打ち上げコストといった別の制約も抱えることになります。

グーグル「Project Suncatcher」のねらい

Project Suncatcherは、グーグルが発表した「宇宙でAI計算をスケールさせる」ための研究プロジェクトです。自社のAI向け半導体TPU(Tensor Processing Unit)と光通信リンクを搭載した小型衛星を多数打ち上げ、衛星群全体を将来のAIインフラの一形態として検証するねらいがあります。

一次情報の論文では、81機の衛星を半径約1キロメートルのクラスターとして編隊飛行させる設計例が示されています。各衛星に搭載したTPUを高帯域の光リンクで結びつけることで、地上のGPU/TPUクラスターに近い構成を宇宙空間で再現する構想です。

Googleが構想する宇宙AIデータセンター「Project Suncatcher」の概念図。
軌道上に配置された81機の小型衛星が光通信で連携し、半径約1kmのクラスター全体で一つの巨大な計算基盤として機能する様子を描いている。
(Geminiで作成)

実証フェーズとしては、Planet社との協業で2027年初頭までにプロトタイプ衛星2基を低軌道に投入し、宇宙空間でのAI推論や学習のテストを行う計画が示されています。処理そのものは軌道上で行い、地上には結果データだけを返すことで、地上側の電力・冷却負荷を減らす構成が検討されています。

背景には、AIデータセンターの電力需要が爆発的に増え、再エネや送電網の整備だけでは追いつかないという危機感があります。グーグル自身も、このプロジェクトを「今すぐの商用化ではなく、10年以上先の可能性を探るムーンショット」と位置づけている点が特徴的です。

SpaceXとOpenAIが見る「宇宙×AIインフラ」の可能性

SpaceXは、ロケット打ち上げと衛星インターネット「Starlink」ですでに宇宙インフラの中核プレイヤーです。報道によると、今後のIPOで調達する資金の一部を宇宙データセンター事業に投じる可能性があると関係者が語っているとされ、正式な確定発表ではないものの、事業の選択肢のひとつとして意識されていることがうかがえます。

SpaceXにとって宇宙データセンターは、「再使用ロケット+衛星通信+クラウド」を垂直統合するためのピースになり得ます。Starshipで低コスト打ち上げを繰り返し、Starlinkで通信網を確保し、その上にAI用データセンター衛星群を載せることで、フルスタックの宇宙インフラを構築するシナリオが描かれています。

OpenAIのサム・アルトマンCEOも、宇宙データセンターに強い関心を示しています。ウォール・ストリート・ジャーナルの報道を踏まえたGeekWireの記事では、同氏が再使用ロケットを開発するStoke Spaceへの投資・提携(提携または支配的持分の取得)を検討し、協議を行っていたとされています。ただし、その後この協議は「現在はアクティブではない」とも伝えられており、現時点では構想レベルにとどまっていると見るのが自然です。

興味深いのは、SpaceXとOpenAIが、単なるユーザーとクラウド事業者の関係を超えて「宇宙側のインフラそのもの」に踏み込もうとしている点です。AIモデルの巨大化で電力需要が見通しにくくなるなか、彼らは電力・冷却も含めたフルスタックのAIインフラを宇宙空間にまで延長しようとしています。

政策・市場文脈と導入シナリオ

宇宙データセンター構想は、地上の電力・送電インフラへの負荷を軽くする手段として語られることが多いです。米国ではAIデータセンターの新設が地域の送電網や水資源を圧迫し、住民の反発や規制強化につながる事例も増えており、インフラ側の制約がビジネスのボトルネックになり始めています。

一方で、宇宙インフラは各国の安全保障や宇宙法制とも直結します。衛星コンステレーションが増えれば、周波数割り当てや軌道の管理、スペースデブリ対策などで国際的なルール整備が不可欠になり、グーグルもProject Suncatcherの説明のなかで天文観測への影響やデブリ管理などを課題として挙げています。

導入シナリオとしては、まず地上データセンターと連携する「ハイブリッド型」が現実的です。電力コストが高いAI学習やバッチ処理を軌道側に寄せ、ユーザーに近いリアルタイム処理やデータ保管は地上施設で行う、といった役割分担から始まりそうです。特に大陸間のバックエンド計算や夜間バッチなど、遅延の影響が小さいワークロードが最初の候補になります。

他の選択肢との比較・棲み分けと企業への影響

AIインフラをどう増強しつつ脱炭素を進めるかについては、宇宙データセンター以外にもいくつかの選択肢があります。小型モジュール炉(SMR)の隣にデータセンターを建てる構想や、洋上風力と水冷を組み合わせた海上データセンター、砂漠地帯での大規模ソーラー一体型データセンターなどがその例です。

宇宙案は、土地利用や送電網の制約を一気に外せる一方で、衛星寿命や放射線対策、打ち上げ回数といった新たなコストが乗ります。GoogleのSuncatcher論文などでは、低軌道への打ち上げ費用が1キログラムあたり約200ドルを切る水準に近づくことが、特定の前提条件のもとで地上データセンターとのコストが拮抗し得る目安の一つとして示されており、こうした分析を紹介する記事も出てきています。

企業側から見ると、当面は「宇宙データセンターを直接使うかどうか」よりも、「AIワークロードをどこに置いても動かせるアーキテクチャにしておくか」が重要になりそうです。クラウドやオンプレに加えて、将来の軌道上インフラも選択肢になり得る前提で、データ主権やセキュリティ、ネットワーク構成を整理しておくと、技術進歩があったときに動きやすくなります。

とくにエネルギー企業やデータセンター事業者、宇宙関連企業にとっては、宇宙データセンターは「競合」であると同時に「新たな顧客」でもあります。高効率な放熱材料や軽量な電源モジュール、宇宙向け冷却技術などは、地上・宇宙の両方で需要が立ち上がる可能性があり、周辺市場への目配りも重要になってきます。

筆者の視点

事業開発や技術戦略の立場で見ると、今回の動きでまず目を引くのは、「AIインフラの議論がついに地球の外まで広がった」という点です。グーグルもSpaceXもOpenAIも、当面は地上のデータセンター投資を続けつつ、その先にある極端な電力制約のシナリオを宇宙でテストし始めたように見えます。

次に気になるのは、企業のインフラ戦略が「場所に縛られない設計」へとシフトし始めていることです。とくにAI計算のロケーションを柔軟に切り替えられるアーキテクチャは、多くの企業にとって共通のリスクヘッジになり、地上か宇宙かという二者択一ではなく、「どこでも動かせる」ことが価値になりつつあります。

また、宇宙データセンターの議論は、地上インフラのイノベーションも加速させるはずです。放熱や電源、冷却、耐放射線など、宇宙向けに磨かれた技術は、そのまま地上の高密度AIデータセンターにも還元され、「宇宙までは行かなくてもエネルギー効率を2倍に近づける」といった現実的な改善につながる可能性があります。

参考リンク集

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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