生成AI向けのデータセンター拡大を背景に、MicrosoftとGoogle(Alphabet)の温室効果ガス排出は近年増加傾向が続いています。両社は再生可能エネルギー調達や効率改善を進めつつも、残余排出への対応として「耐久型の炭素除去(Durable Carbon Dioxide Removal: Durable CDR)」の購入を拡大し、市場の価格形成や供給の立ち上がりに影響を与え始めています。
3行サマリー
- MicrosoftとGoogle(Alphabet)は、データセンター需要の拡大を踏まえ、耐久型CDR(DACや鉱物化など)の購入を拡大している。
- 耐久型CDRは1tあたり数百ドル規模が多く、調査・サーベイでは600ドル/tを上回るケースも示されている。
- 日本企業はGX-ETS本格化に向け、価格高騰・供給不足リスクを前提に、長期オフテイクや共同調達、投資を組み合わせた調達設計が重要になる。
1. 耐久型CDRとは何か——Big Techが狙う理由
1-1 CDRと「耐久型」の定義
まず用語を整理します。炭素除去(Carbon Dioxide Removal: CDR)は、大気中の二酸化炭素(CO₂)を取り除き、貯留(固定)する行為を指します。排出削減(出さない努力)とは異なり、「既に大気に出たCO₂を取り除く」ことが対象です。
このうち、耐久型炭素除去(Durable Carbon Dioxide Removal: 耐久CDR)は、CO₂を数百年以上のスケールで固定する方式(地中貯留や鉱物化など)を中心に指します。森林などの自然吸収型は火災・管理不全などで吸収分が再び大気に戻るリスクが論点になりやすい一方、耐久CDRは「戻りにくさ(耐久性)」を重視します。
主な方式は次の通りです。
- 直接空気回収(Direct Air Capture: DAC)=大気からCO₂を分離・回収し、地中貯留などで固定する技術です。
- 鉱物化(Mineralization)=CO₂を岩石などと反応させ、炭酸塩などの固体として固定する技術です。
- バイオ由来+回収・貯留(Bioenergy with Carbon Capture and Storage: BECCS など)=バイオマス由来のCO₂を回収し、貯留してネット除去を狙う方式です。
耐久CDRは高コストですが、残余排出(どうしてもゼロにできない排出)への対応が重視されるほど、選好が強まる領域です。
1-2 AIとデータセンターが需要を押し上げる
国際エネルギー機関(International Energy Agency: IEA)は、世界のデータセンター電力消費が2030年までにおよそ2倍に増える見通しを示しています。増加要因のひとつがAI(特にAI最適化データセンター)です。
排出面でも、Googleは環境報告で総排出が増加していることを示し、その要因としてデータセンター電力需要やサプライチェーン等を挙げています。Microsoftも環境報告で、スコープ1〜3合計の排出が基準年から増加していること、増加の中心がスコープ3であることを説明しています。
このため両社は、削減努力を前提にしつつも、残余排出への対応として高品質(耐久型)のCDR購入を拡大しています。
要点: AIとデータセンターの電力需要増が、Big Techを「高品質かつ高耐久」のCDR購入へ押し出している構図です。
2. MicrosoftとAlphabetのCDR購入——「数字」をどう読むべきか
2-1 「累計◯◯ドル」の断定が難しい理由
CDRの議論で混乱しやすいのが、「契約済み(オフテイク)」「将来購入の表明」「ファンド拠出」「単価×数量の推計」などが、同じ“投資額”として語られがちな点です。企業や案件によって金額が非開示のことも多く、第三者が正確に合算するのは容易ではありません。
一方で、市場全体の規模感はデータベースや調査から読み取れます。たとえば耐久型CDRの取引を追うデータベースでは、市場全体の累計支出(推計)や累計販売量が公開されており、耐久型CDRが「まだ黎明期だが、金額はすでに大きくなりつつある」ことが分かります。
2-2 Microsoftは“最大級の買い手”である
耐久型CDR市場では、Microsoftが大きな買い手として繰り返し言及されています。分析では、同社が初期案件の「最初の大口買い手」になり、プロジェクトの資金調達(銀行性)を支える構図が示されています。
ただし注意点として、契約量が拡大している一方で、実際の「引き渡し(発行済みクレジット)」はまだ限定的とされ、契約とデリバリーのギャップが大きいのが現状です。これは設備建設・許認可・貯留インフラ整備に時間がかかるためです。
2-3 Google(Alphabet)もCDR調達を拡大している
Googleも、CDRの共同調達枠組みへの参画や、バイオチャー等の除去クレジット購入を進めています。大口の買い手という点ではMicrosoftが突出して語られがちですが、Googleも複数の案件を積み上げ、調達市場の形成に関与しています。
3. 耐久CDR市場の構造——「買い手集中」と供給制約
3-1 少数の巨大バイヤーに依存する
耐久CDRはまだ市場参加者が少なく、買い手・売り手ともに集中しがちです。特に初期案件では、少数の大口買い手が長期契約で支える構造になりやすく、価格も供給も少数プレーヤーの動きに左右されやすい状態です。
3-2 供給はまだ追いついていない
耐久CDRは建設・運転まで時間がかかり、実際に発行されるクレジットが限られるため、需要増局面では供給制約が生じやすいと指摘されています。結果として、後発の買い手ほど、単価上昇や供給確保の難度が上がるリスクがあります。
4. 価格と規制——「高品質オフセット」の基準が動く
4-1 価格レンジ——数百ドル/tが中心、600ドル/t超も
耐久CDRの価格は、森林系などの自然由来クレジットや回避系クレジットより高い傾向が明確です。調査・サーベイでは、耐久CDRは数百ドル/tのレンジで語られることが多く、案件・方式によっては600ドル/tを上回る回答も示されています。
この価格帯は「CSRの小口予算」では吸収しづらく、調達する企業は中長期の事業計画・価格想定に組み込む必要があります。
4-2 認証・規制——「除去の品質」を制度が定義し始める
欧州連合(EU)は、炭素除去の認証枠組み(Carbon Removal Certification Framework: CRCF)を整備し、除去の品質基準(耐久性・追加性・MRVなど)を制度化する方向を示しています。耐久CDRは、このような枠組みの中で「高品質」基準の中心に位置づけられる可能性があります。
要点: Big Techの先行購入は、ボランタリー市場にとどまらず、各国制度や認証スキームの議論を通じて「高品質オフセット」の基準そのものに影響を与え始めています。
5. 日本:GX-ETS本格化で何が変わるか
5-1 GX-ETSはFY2026から本格運用へ
日本ではGX-ETS(GX排出量取引制度)がFY2026(2026年度)から本格運用に入ると整理されており、企業の準備が現実課題になっています。制度の詳細は段階的に明確化されますが、カーボンプライシングを中核に、企業の削減投資を促す枠組みとして位置づけられています。
5-2 日本企業のリスク——後発は「高い価格」で「薄い供給」を取りに行く
耐久CDR市場は、買い手集中と供給制約が同時に起きやすい構造です。日本企業が後発として参入する場合、価格高騰と供給不足、さらに「高品質クレジットの確保難」を前提に調達戦略を設計する必要があります。
要点: 「ボランタリー市場だから様子見でよい」という姿勢のままだと、制度対応やサプライチェーン要請が強まった局面で、高品質クレジットを確保できず、コストとレピュテーションの両面で不利になるリスクがあります。
6. 日本企業はどう動くべきか——長期オフテイクと共同調達
6-1 「買う」だけでなく、投資・優先枠を取りにいく
耐久CDRは設備投資とインフラ整備が必要なため、プロジェクト側は長期需要(オフテイク)を求めます。買い手側は、単なるスポット購入ではなく、長期契約や投資を組み合わせて価格と数量の見通しを確保することが合理的です。
6-2 共同調達——需要を束ねて交渉力をつくる
黎明期の市場では、個社で交渉するより、需要を束ねてボリュームを確保した方が条件を取りやすくなります。日本でも、航空・電力・素材・金融など残余排出が大きい業種が連携し、共同調達(長期オフテイク、共同投資)を検討することは現実的な選択肢です。
7. 筆者の視点——「断定できること」と「注意すべきこと」
断定できるのは、①AI・データセンター需要が電力消費を押し上げる見通しが国際機関から示されていること、②MicrosoftとGoogle(Alphabet)が近年の排出増を報告していること、③耐久CDRは高単価で、買い手集中と供給制約が起きやすいことです。
一方で「MicrosoftとAlphabetが耐久CDRに累計◯◯億ドル」といった金額の合算断定は、契約金額が非開示の案件が多い以上、根拠の出し方(契約済みだけか/表明や投資を含むか)を明示しない限り、事実としては言い切りにくい領域です。
日本企業の実務として重要なのは、Big Techの“数字”を追いかけることよりも、供給制約と高単価を前提に、自社の残余排出と調達手段(長期オフテイク、共同調達、投資)を具体化することです。GX-ETS本格化に向け、準備の早さが調達条件の差になって表れます。

