【2025年版】LDESとは?方式とユースケースを技術/ビジネス視点で整理

太陽光や風力が電源の主役になっていくと、「昼は電気が余り、夜は足りない」という程度の話では済まなくなります。曇りや無風が2〜3日続けば、需要と供給のずれは日をまたぎ、ときには週単位にまで広がる。そうした長い時間軸のギャップを埋める技術群が、長時間蓄電(Long Duration Energy Storage、以下LDES)です。

本稿では、LDESとは何か、なぜ今注目されているのか、どんな技術があり、どう使い分けるのかを整理します。

目次

3行サマリー

LDESは、10時間以上にわたって電力や熱を供給し続けられる技術群のこと。再エネの比率が上がるほど、その出番は増えていく。

技術方式は大きく「化学・電気化学・機械・蓄熱」の4系統に分かれ、それぞれ得意な放電時間帯や用途が異なる。

リチウムイオン電池(LiB)に対抗するカギは、「貯蔵時間が長くなるほど安くなる」というコスト構造と、その価値を正当に評価する市場の仕組みにある。

そもそもLDESとは何か? なぜ今、必要なのか

「10時間以上」が一つの目安

LDESに厳密な定義があるわけではありませんが、本稿では連続10時間以上の放電が可能な蓄エネ技術をLDESと呼ぶことにします。数時間で充放電が完結するリチウムイオン電池とは、そもそも想定している「時間のスケール」が違う、という点がまず押さえるべきポイントです。

世界と日本の動き

海外では、米国エネルギー省(DOE)が「Long Duration Storage Shot」というプログラムを掲げ、2030年に向けたコスト低減と商用化の加速を推進しています(2024年詳細レポート2025年ファクトシート)。

日本でも、経産省(METI)が三菱総合研究所(MRI)と連携してLDESの技術動向と課題を体系的に整理した資料を公表しており、電気化学・機械・蓄熱・化学の4類型が示されています。LDESはもはや研究段階の話ではなく、政策レベルで「どう導入するか」が議論され始めている分野です。

なぜ「長時間」のギャップが増えるのか

再エネの比率がまだ低いうちは、「昼余って夜足りない」という日内のギャップが中心です。ところが比率が上がっていくと、天候不順や季節変動の影響がどんどん大きくなり、日をまたぐ、あるいは数日単位の需給ズレが無視できなくなります。

経産省/MRIの整理でも、変動型再エネ(VRE)が高普及するシナリオでは10〜24時間以上の電力移送やバックアップが求められるケースが増え、数時間の蓄電だけでは系統を安定させきれないことが指摘されています。

McKinseyの分析はさらに踏み込んでいて、再エネ比率が70%を超えると日間から季節間のギャップが急激に膨らみ、2030〜2040年代にかけてLDESの導入量は指数関数的に伸びると予測しています。火力の代替や季節をまたぐ電力の融通を担える技術はレジリエンスの面でも不可欠であり、容量市場や長期契約といった制度設計とセットで整備すべきだと指摘されています。

リチウムイオン電池だけでは足りない理由

「リチウムイオン電池をたくさん並べれば長時間蓄電もできるのでは?」と思うかもしれません。技術的にはその通りです。ただ、LiBには構造的な弱点があります。容量(MWh)を増やすには、セルをそのぶんだけ積み増す必要があるため、持続時間に比例してコスト(CAPEX)が直線的に膨らんでいくのです。

一方、多くのLDES技術は構造が違います。フロー電池なら電解液タンクを大きくする、機械式なら空気や重力の貯蔵量を増やす、蓄熱なら媒体を積み増すなど、出力設備(MW)とエネルギー容量(MWh)のコストを分離できるのが特徴です。つまり、追加1MWhあたりの限界費用を安く抑えられる。McKinseyの分析でも、おおむね8〜10時間を超えたあたりからLDESのほうがコスト優位になり、24時間を超えるとその差は決定的になるとされています。

まとめると、短中時間はLiB、長時間になるほどLDES。再エネが主力になっていく流れのなかで、日跨ぎから数日間のギャップを埋められる長時間蓄電の重要性は、確実に増しています。

LDESの4つの技術方式

LDESにはさまざまな技術がありますが、大きく分けると「化学・電気化学・機械・蓄熱」の4系統に整理できます。それぞれの特徴を見ていきましょう。

引用:経産省資料より

化学式──電気を燃料に変えて貯める

代表例はPower-to-Gas / Gas-to-Power(PtG–GtP)。余った電力で水を電気分解して水素をつくり、必要なときに発電に使うという考え方です。水素のほか、アンモニアやLOHC(有機ハイドライド)なども選択肢に含まれます。

最大の強みは、季節をまたぐような超長時間の蓄電ができること。燃料として輸送・貯蔵したり、化学原料に転用したりと、使い道の幅も広い。ただし、電気→ガス→電気という往復変換のロスが大きいため、短時間用途には向きません。

電気化学式──タンクで容量を自在にスケール

代表格はレドックスフロー電池(VRFBなど)や鉄空気電池です。リチウムイオン電池と同じ「電気化学反応」で蓄電しますが、大きく異なるのは設計思想。フロー電池は電解液を貯めるタンクを大きくするだけで容量を増やせるため、長時間になるほどスケールメリットを出しやすい構造です。

得意な領域は10〜24時間程度のシフト。一方で、LiBに比べるとエネルギー密度が低く、設置面積を取りがちな点は弱点です。

機械式──物理の力で大規模に蓄える

揚水発電はその元祖ですが、圧縮空気(CAES/A-CAES)、液体空気(LAES)、重力蓄電、圧縮CO₂など新しい方式が次々に登場しています。

大規模化しやすいのが共通の強みですが、方式によって事情はさまざまです。CAESは地下の塩洞窟などが必要で立地を選びます。重力式は景観上の制約を受けやすい。一方、LAESは比較的立地制約が緩く、英国ではすでに本格的な商用プロジェクトが進んでいます。

蓄熱式──熱のまま使えば効率は抜群

岩石や溶融塩、炭素ブロックなどに熱を蓄え、必要なときに取り出す方式です。PTES(ヒートポンプ併用型)も含まれます。

蓄熱媒体は安価なものが多く、大容量化しやすいのが利点です。ただし大前提として、熱として直接使える負荷が近くにあることが重要。産業プロセスの蒸気や温水、地域熱供給などに直結させれば高効率かつ低コストで運用できますが、電気に再変換しようとすると往復効率が30〜50%程度まで下がってしまいます。

放電時間×出力規模で見た技術マッピング

下図は、経産省(METI)資料に掲載された、各技術がカバーする放電時間と出力規模のマッピングです。

ざっくり言えば、電気化学式は数時間から十数時間の範囲で柔軟に対応し、機械式は数時間から日単位まで大規模にカバー。蓄熱式は日〜週単位の熱需要に強く、化学式は季節間や多日間のバックアップを担います。案件の要件に応じてどの技術が「得意エリア」にハマるかを見極めるのが、方式選定の第一歩です。

https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/storage_system/pdf/2024_004_04_01.pdf

どこに使うのか──ユースケースの考え方

LDESの導入を考えるときに最初にやるべきことは、「何のために蓄電するのか」を明確にすることです。想定される目的を整理すると、大きく次の5つに分けられます。

① エネルギー移送──昼間の余剰電力を夜間に回すなど、電力量を時間的に移動させる。
② 容量確保(ピーク供給)──需要が集中する時間帯に、十分な出力を確保する。
③ レジリエンス(非常時の自立運転)──停電や災害時に独立して電力を供給し続ける。
④ 系統安定化──周波数の調整や慣性力の付与など、電力網そのものの品質を維持する。
⑤ 低炭素熱供給──産業や地域に対して、低炭素な熱を安定的に届ける。

この5つのどれを優先するかによって、必要な持続時間も適した技術方式も変わってきます。以下、代表的なユースケースを見ていきます。

広域系統・再エネ併設(①②④)

日内から日跨ぎの電力シフト、ピーク時の容量確保、そして系統の安定化が主な目的です。持続時間は10〜24時間程度が目安で、機械式(CAES/LAES)やフロー電池、蓄熱が候補になります。

ただし蓄熱の場合、電気に変換し直すと効率が30〜50%程度に落ちるため、近くに熱需要がある場所で使うのが効果的です。

データセンター・重要施設(②③)

非常時に数時間から数日間の電力を確保しつつ、平時はピーク時の電力供給にも使うという二刀流が求められます。フロー電池は深放電に強く長寿命で安全性も高い。LAES/CAESは長時間の電力供給に加え、慣性力の提供など系統安定化の機能も兼ね備えています。

実際の設計では、LiBとのハイブリッド構成が有力です。瞬間的な停電にはLiBで即座に対応し、長時間のバックアップはLDESが担う──という役割分担が合理的でしょう。冷熱や廃熱をうまく活用できれば、収益性もさらに高まります。

マイクログリッド・島嶼地域(①③④)

本土の系統から独立した電力供給が前提となるため、要求は厳しくなります。再エネの変動を吸収し、停電時にはブラックスタート(ゼロからの再起動)もできなくてはならない。24時間以上の持続が求められるケースが多く、CAES/LAESや蓄熱との併用が適しています。

離島のように燃料の輸送コストが高い地域では、「LDES導入でディーゼル燃料がどれだけ減るか」を金額で示すことが、意思決定者を動かす有効なアプローチになります。

産業プロセスの熱利用(①⑤)

蒸気・温水・温風など、産業で使う熱を低炭素化し、時間的に平準化するユースケースです。炭素ブロックや岩石、溶融塩などの蓄熱技術は、熱として直接供給する限り、高効率かつ低コストで運用できます。

ただし、電気に戻す用途がメインなら効率は大幅に下がるため、機械式やフロー電池など他の方式と棲み分けるのが賢明です。

参考になる実例

具体的なスケール感をつかむには、いくつかの先行事例が参考になります。日本では、北海道で10MW級・60MWhのフロー電池が周波数調整用途で導入されています(住友電工の事例)。海外では、中国・大連で100MW/400MWh(拡張時200MW/800MWh)という世界級の大規模VRFBが稼働中です(EurekAlert!の発表)。国内の技術体系やユースケースの全体像を把握するには、経産省の検討会資料が一読に値します。

LiB vs LDES──今の勝ち負けと、逆転の条件

現状はLiBが圧倒的に強い

正直に言えば、現時点ではほとんどの蓄電案件でLiBが優位です。量産効果は絶大で、EPC(設計・調達・施工)の知見も広く蓄積されています。短中時間──おおむね8〜10時間以下──であれば、容量を直線的にスケールできるLiBの利便性は揺るぎません。

ただし前述のとおり、LiBは持続時間を延ばすほどセルを積み増す必要があり、コストが時間に比例して膨らむ構造的な課題を抱えています。

LDESの本質的な優位性

LDESの多くの技術は、出力(MW)と容量(MWh)のコストを切り離せます。タンクを大きくする、媒体を増やすといった方法で追加1MWhあたりの限界費用を低く保てるのが構造的な強みです。経産省の2024年資料でも、10時間超の領域からLDESの経済性が優位になると整理されています。

逆転に必要な3つの条件

では、LDESがLiBに対して「勝てる」状況をつくるには何が必要か。方式を横断して見ると、条件は大きく3つに整理できます。

① 技術・コスト面
追加MWhあたりのコストが、LiBのセル積み増しを明確に下回ること。特に10時間以上の帯域で、寿命や安全性、保険料まで含めたLCOS(平準化蓄電コスト)で優位を確立する必要があります。

② 市場設計
現在の容量市場は短時間の応答を重視する傾向がありますが、10時間超の持続時間を評価軸に組み込むことが重要です。レジリエンス価値や熱供給の価値も制度的に認定し、CfD(差金決済契約)やCap-and-Floor(収益の上下限設定)のような長期契約の枠組みで資本回収の見通しを立てられるようにする必要があります。

③ 案件形成
「そもそも長時間蓄電が本当に必要な場所」にフォーカスすること。データセンター、離島、産業熱需要地など、長時間の価値が明確なサイトに直結させ、電力差益・熱販売・系統サービスを組み合わせた複合的な収益スタックを構築するのが現実的なアプローチです。

方式ごとの活用戦略

ここからは、4つの方式それぞれについて、「どこで使うと強いか」「どこが弱いか」「ビジネスのポイント」を整理します。

化学式(PtG–GtP:水素・アンモニア・LOHCなど)

強い場面:数日から季節をまたぐ超長時間のバックアップ。燃料や化学原料への転用も可能で、使い道の柔軟性が高い。

弱い場面:電力の往復効率だけで評価される短〜中時間の案件。電解→貯蔵→再発電の各段階でロスが積み重なる。

ビジネスの要点:塩洞窟などの大容量貯蔵と組み合わせ、容量市場やレジリエンス契約で長期収益の見通しを確保するのが定石。

注目プレイヤー:Sunfire(SOEC電解)、Amogy(アンモニア→水素→発電)、Hydrogenious(LOHC)

電気化学式(レドックスフロー・金属空気など)

強い場面:10〜24時間のエネルギーシフト。出力と容量を独立に拡張できるため、柔軟な設計が可能。

弱い場面:設置面積や重量に厳しい制約がある場所。短時間・高出力に価値が集中する市場では、エネルギー密度の低さがネックになる。

ビジネスの要点:LiBとのハイブリッド構成で「瞬発力はLiB、長時間はフロー/金属空気」と役割を明確に分けるのが効果的。

注目プレイヤー:ESS Inc.(フロー電池)、VRB Energy(フロー電池)、Form Energy(鉄空気電池)

機械式(LAES・CAES・重力式・CO₂バッテリー)

強い場面:6〜24時間(LAES・重力式)から100時間(CAES)まで、大規模な電力シフトを担える。

弱い場面:CAESは適地(地下空洞)が限られる。重力式は景観の制約を受けやすい。LAESは熱の統合ができないと効率が上がりにくい。

ビジネスの要点:LAESは冷熱・排熱の統合、CAESは蓄熱・排熱回収との組み合わせで効率を高めるのがカギ。

注目プレイヤー:Energy Dome(圧縮CO₂)、Energy Vault(重力式)

蓄熱式(岩石・溶融塩・PTES・炭素ブロックなど)

強い場面:産業・業務・地域熱供給など、熱需要への「電気→熱→熱」供給。蓄熱媒体が安価で大容量化しやすい。

弱い場面:電力供給がメインの案件。電気に再変換すると効率が30〜50%まで低下するため、電力用途では他の方式に劣る。

ビジネスの要点:熱需要地のすぐそばに設置し、ヒートポンプ(PTES)や電気ボイラと組み合わせて使うのが王道。

注目プレイヤー:Rondo Energy(レンガ/岩石系)、Antora Energy(炭素ブロック)

まとめ──LDESが勝つための「土俵」を選ぶ

どこで戦うか?
短中時間(8〜10時間以下)はLiBの独壇場です。正面からぶつかっても勝ち目はありません。LDESが狙うべきは、10時間超の日跨ぎ〜数日間の蓄電や、レジリエンス・熱需要が絡む案件です。

なぜ勝てるのか?
出力と容量のコストを分離でき、追加1MWhの限界費用が低い。時間が長くなるほど、このコスト構造の優位性が効いてきます。

どう勝つか?
まず、必要なサービス(エネルギー移送・容量確保・非常時対応・系統機能・熱供給)を明確にする。そのうえで、LiBとLDESのハイブリッドで「瞬発力はLiB、長時間はLDES」という役割分担を徹底する。LAESやA-CAESなら冷熱・排熱の統合、蓄熱なら「熱のまま届ける」ことで価値を最大化する。

「短い蓄電はLiB、長い蓄電はLDES」。この棲み分けを前提に、10時間超の価値が正当に評価される土俵を選び、長期契約と複合的な収益源でコスト構造の優位性を確実にマネタイズしていく──。それがLDESの勝ち筋です。


参考リンク集

注:ユースケース設計・適用判断に関する考察の多くは、筆者独自の分析に基づいています。

略語集

  • LDES ─ Long Duration Energy Storage(長時間蓄電)
  • LiB ─ Lithium-ion Battery(リチウムイオン電池)
  • LCOS ─ Levelized Cost of Storage(平準化蓄電コスト)
  • VRFB ─ Vanadium Redox Flow Battery(バナジウム系レドックスフロー電池)
  • LAES ─ Liquid Air Energy Storage(液体空気蓄電)
  • CAES / A-CAES ─ Compressed Air Energy Storage / Advanced-CAES(圧縮空気蓄電)
  • PTES ─ Pumped Thermal Energy Storage(ヒートポンプ併用の蓄熱)
  • PtG–GtP ─ Power-to-Gas / Gas-to-Power(電力→ガス化→発電で回収)
  • VRE ─ Variable Renewable Energy(変動型再生可能エネルギー)
  • CfD ─ Contract for Difference(差金決済型の価格保証契約)
  • Cap-and-Floor ─ 収益の上限・下限を設定する収益安定化スキーム

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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