追加センサーなしでここまで分かる インフォメティス「エネマネ診断レポート」のポテンシャル 

インフォメティスがスマートメーター活用のエネマネ診断を開始、センサ不要・AIで削減余地を金額化、と書かれたブログ記事のアイキャッチ画像。背景にスマートメーター、電力グラフ、オフィスビル、AI回路パターンのイラスト。

電気料金が高止まりしているのに、省エネは後回し。多くの中小企業が抱えるこのジレンマに対して、インフォメティスが新しい切り口を提示しました。2026年2月にリリースされた「エネマネ診断レポート」は、すでにある電力データだけで省エネの優先順位を見える化するAIサービスです。

目次

まず押さえておきたい3つのポイント

インフォメティスは2026年2月17日、伊藤忠エネクス向けに「エネマネ診断レポート」の提供を開始したと発表しました。要点は以下の3つです。

  • センサー不要──スマートメーターの30分値データと業種・料金プランなどの基本情報だけで分析が完結します。追加の計測器や工事は不要です。
  • AIが自動分析──需要ピーク、用途別の負荷(照明・空調・冷蔵冷凍など)、類似施設との比較、電力市場価格といった複数の切り口から、削減余地を金額ベースで試算します。
  • 具体策つき──業種・業態に応じた省エネアドバイスがレポートに含まれ、需要家が自分で動きやすい形で提示されます。

今後、伊藤忠エネクスと契約する法人顧客を対象に段階的に展開される予定です。

インフォメティスとは何をしている会社か

エネマネ診断レポートの流れ:スマートメーターの既存データをAIが分析し、削減余地を金額つきで見える化する
(出所:プレスリリース情報をもとに筆者作成)

インフォメティスは「エネルギーデータの力で、暮らしの未来を変えていく。」をミッションに掲げるエナジー・インフォマティクス企業です。もともとはソニーの研究開発部門で生まれた技術をベースに、2013年にカーブアウトして設立されました。2024年12月に東証グロース市場に上場しています(証券コード281A)。

同社のコア技術は「NILM(Non-Intrusive Load Monitoring=非侵入型負荷モニタリング)」と呼ばれるものです。分電盤の主幹を1か所測定するだけで、家電ごとの電力消費をAIで推定できます。各家電が使用時に発する固有の電流波形を機械学習で識別するという仕組みで、10年以上にわたって蓄積した膨大な「正解データ」が精度の源泉になっています。

2025年6月には、インフォメティスが推進してきたNILMに関する世界初の国際標準規格がIEC(国際電気標準会議)で正式に発行されています。

すでに家庭向けには、30分値データを冷暖房・冷蔵庫・待機電力・照明・その他の5カテゴリに分離して表示するサービスを電力会社経由で提供しており、今回のエネマネ診断レポートは、この技術ノウハウを法人向けに再パッケージしたものという位置づけです。

なぜ「30分値データだけ」で分析できるのか

日本ではほぼすべての事業所・家庭にスマートメーターが設置済みです。このメーターが出力する30分単位の電力使用量データは、電力小売事業者であればすでに手元にあるデータです。

エネマネ診断レポートの設計が巧みなのは、この既存データに乗っかっている点にあります。追加の計測器を設置する手間もコストもかからないため、需要家側の導入ハードルは極めて低い。電力小売事業者の側から見ても、自社が保有するデータを活用するだけなので、複数の顧客拠点に横展開しやすいのが特徴です。

さらに2026年以降、第2世代スマートメーターへの置き換えが全国で始まります。次世代メーターではより高精細なデータが取得可能になるため、NILM技術を活かしたさらに詳細な分析や、料金プランの提案といった付加価値サービスへの拡張が見込まれています。

従来の省エネ診断との違い

「すでに省エネ診断はあるのでは?」という疑問は当然出てきます。たしかに、資源エネルギー庁や環境共創イニシアチブ(SII)が用意する公的な省エネ診断メニューは充実しており、専門家が工場や事業場を訪問して設備を点検し、更新や運用改善を提案してくれます。費用の多くも公的支援でカバーされます。

ただし、こうした従来型の診断には2つの特徴があります。ひとつは、ボイラーやコンプレッサーといった大型設備を個別に点検するスタイルが中心で、対象が大規模な工場やプラントに寄りがちなこと。もうひとつは、申し込みから訪問・報告書の完成まで時間がかかることです。

エネマネ診断レポートは、ここを補完する位置にあります。電力データに特化したリモート分析なので、オフィスビルや商業施設、中小規模の工場でもスケーラブルに対応できます。まず電気の使われ方を俯瞰して「どの時間帯・どの用途に山があるか」を把握し、そのうえで公的診断や補助金申請に進むための一次スクリーニングとして使いやすい──そういう立ち位置です。

ざっくり比較

従来型の省エネ診断エネマネ診断レポート
分析対象電力+熱・蒸気・燃料電力データに特化
方法専門家が現場訪問AIによるリモート分析
得意な施設大規模工場・プラントオフィス・店舗・中小工場
導入の手間申し込み→訪問→報告に数週間〜既存データで即時分析
コスト公的支援でカバーされることが多い追加計測器不要で導入コスト低

両者は対立するものではなく、エネマネ診断レポートで全体像を把握してから従来型の詳細診断に進む、という組み合わせが効果的です。

中小企業の省エネ支援にどうつながるか

中小企業の省エネが進みにくい理由は、やる気の問題ではなく「時間と情報」の問題であることが多いです。総務や設備担当者は本業で手一杯のなか、どの設備から見直せばいいかをゼロから分析する余裕がありません。

エネマネ診断レポートは、まさにこの最初の一歩を肩代わりするサービスです。

たとえば、レポートで「夕方から夜にかけての空調負荷と冷蔵設備の消費が大きい」と可視化されたとします。そうすれば、その拠点を優先して公的な省エネ診断に申し込み、詳細な計測や現場調査を行う判断がしやすくなります。さらにその先には、空調や冷凍設備の高効率化、インバータ化、断熱改修といった具体的な設備改修を、省エネ補助金を活用しながら実装するという導線が描けます。

つまり、想定されている流れはこうです。

中小企業の省エネ活用ステップを示す4段階のロードマップ図。診断レポートで全体を把握し、専門家の現場診断、補助金を活用した設備改修、運用改善による定着へと段階的に進む流れ。
中小企業の省エネ導線:エネマネ診断レポートを起点に、公的診断・設備改修・運用改善へとつなげる4ステップ(筆者作成)

中小企業を支援する側の立場から見ても、「電気の使われ方の全体像」と「削減余地のオーダー感」がまとまった資料は扱いやすく、顧客の関心が高まった段階で専門家の現場診断や補助金申請サポートにバトンを渡す橋渡し役として機能します。

ビジネスとしての広がり

電力小売事業者にとって、エネマネ診断レポートは顧客接点を深める武器になり得ます。プレスリリースでも、小売電気事業者がマイページ等で分析結果を提供することで、大きなコストをかけずに付加価値の高いサービスを提供できるとされています。

さらに先を見据えると、デマンドレスポンス(DR)メニューや料金プランの見直しと組み合わせて、「診断→料金最適化→設備改修→運用改善」の一気通貫モデルを設計する余地も出てきます。ESCO事業者や設備メーカーと連携し、LED・空調・冷凍設備の更新やEMS導入、将来的なZEB化までをパッケージにできれば、レポート提供はサブスクリプションや成果報酬を含む継続的なビジネスの起点になります。

電力データだけでは見えない領域もある

一方で、電力データだけでは見えない領域が確実に残ります。蒸気や燃料を使う熱源設備、圧縮空気のロス、プロセスの歩留まり改善、現場の作業フロー見直しなどは、やはり専門家が現場に入らないとわかりません。

エネマネ診断レポート単体ですべてを完結させようとするのではなく、「どの拠点・どの時間帯にプロのリソースを集中投入すべきかを選別するフィルタ」として使うのが合理的です。そう割り切れば、事業会社も支援機関もリソースの無駄打ちを減らせます。

まとめ──1枚のレポートで現場は動くか

スマートメーターの30分値データを、中小企業の電力コスト削減の入口として再設計した──エネマネ診断レポートの意義を一言でまとめると、こうなります。同じデータはこれまでもDRや家庭向けサービスで使われてきましたが、法人向け省エネレポートとして正面に出したことで、電力小売事業者と中小企業の距離が一歩近づきました。

最終的にこのサービスの価値を左右するのは、1枚のレポートが「現場が今日から動ける次の一手」をどこまで示せるかです。会議室でレポートを囲みながら「まずはこの3つから始めよう」と自然に議論が起きる状態をつくれるかどうか。そこが、中小企業の省エネを加速するうえでの分かれ目になりそうです。

参考リンク

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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