浮体式洋上風力を、実証から本格的な電源として使う動きが日本でも一気に進んできました。2026年1月、戸田建設や大阪ガス、ENEOSリニューアブル・エナジー、INPEXなど6社が長崎県五島市沖で出力16.8メガワットの「五島洋上ウィンドファーム」を商用運転開始し、五島市内への供給を始めました。
3行サマリー
- 2026年1月、戸田建設やENEOSリニューアブル・エナジー、大阪ガス、INPEXなど6社が長崎県五島市沖で浮体式洋上風力発電所の商用運転を開始しました。
- 日立製作所製2.1MW風車8基をハイブリッドスパー型浮体に載せ、総出力16.8MWを五島市内へ供給する「地産地消」型の洋上風力プロジェクトです。
- 政府は2040年までに浮体式洋上風力で1,500万kW以上の案件形成を目指しており、本案件は再エネ海域利用法第1号かつ国内初の複数基商用浮体式となります。
五島洋上ウィンドファームと制度の概要
五島洋上ウィンドファームは、長崎県五島市福江島・崎山沖の約7〜11km先、水深120〜135mの海域に設置された、総出力16.8MWの浮体式洋上風力発電所です。出力2.1MWの風車を8基並べ、発電した電気を海底ケーブルで陸上に送り、五島市内の家庭や事業者に供給する構成になっています。
この事業は、海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(いわゆる再エネ海域利用法)に基づく国内第1号案件です。再エネ海域利用法は、国が洋上風力に適した「促進区域」を指定し、長期占用を前提とした公募・選定の仕組みを整えることで、大規模な洋上風力投資をしやすくするための枠組みです。
五島市沖では、2019年の促進区域指定を起点に、公募開始、事業者選定、占用計画の認定、海上工事着工と段階を踏んできました。当初は2024年1月の運転開始を予定していましたが、浮体構造部の不具合対応などでスケジュールを見直し、補修と検証を経て、2026年1月5日に商用運転開始までたどり着いています。
発電設備の仕様と参画企業の役割
本発電所を開発・運営するのは、「五島フローティングウィンドファーム合同会社」という特別目的会社です。出資しているのは、戸田建設、ENEOSリニューアブル・エナジー、大阪ガス、INPEX、関西電力、中部電力の6社で、それぞれが建設やファイナンス、電力事業の知見を持ち寄っています。
風車は日立製作所製の2.1MW級洋上風力タービンを採用し、8基で合計16.8MWとなります。ローター径は約80m、全高は約176mと大型で、条件によって変動はありますが、年間を通じた発電量は1万数千世帯分に相当する規模感です。タービンはダウンウィンド型で、強風時の負荷を軽減しやすい設計になっています。
これらの風車を支えるのが、戸田建設が設計・施工を担った「ハイブリッドスパー型浮体」です。浮体上部を鋼構造、下部をコンクリート構造とすることで重心を下げ、3本の係留チェーンで海底に固定します。戸田建設は環境省の実証事業として2MW級の浮体式風車「はえんかぜ」を五島で運転しており、その経験をベースに、今回このハイブリッドスパー技術を世界で初めて商用プロジェクトに適用しました。
発電した電力は、海底ケーブルと陸上の変電設備を通じて五島市内の系統に接続され、地域の小売電気事業者に優先的に販売される方向です。離島である五島市にとっては、「電源を島の沖合でつくり、島で使う」というエネルギーの地産地消を進める試みでもあります。
浮体式洋上風力を巡る政策・地域・導入スキーム
浮体式洋上風力は、海底に基礎を固定する「着床式」と異なり、深い海でも設置できるのが特徴です。日本近海は沿岸からすぐに水深が深くなる場所が多く、着床式だけでは適地が限られてしまいますが、浮体式を組み合わせることで、大きく導入余地を広げられると見られています。
政府は「洋上風力産業ビジョン」などで、2040年までに洋上風力全体で3,000〜4,500万kW程度の導入を目安としており、そのうち浮体式については1,500万kW以上の案件形成を目標に掲げています。現時点では浮体式の発電コストは着床式より高い水準ですが、技術開発と案件の積み上げによって、コスト低減とサプライチェーン整備を進めていく方針です。
長崎県五島市は、以前から浮体式洋上風力の「実証拠点」として知られてきました。2016年には環境省の実証として2MW級浮体式風車「はえんかぜ」が商用運転を始め、漁業との調整や港湾・造船関連企業の参画など、地域ぐるみの取り組みが続けられてきました。今回の五島洋上ウィンドファームは、その延長線上で、実証から本格的な商用電源へのステップアップと位置づけられます。
導入スキームとしては、再エネ海域利用法に基づく促進区域の指定、公募占用指針に基づく事業者公募、公募占用計画の認定、海域占用許可といったプロセスを経ています。これにより、長期にわたる海域の利用が制度面で裏付けられ、金融機関も含めた資金調達がしやすい枠組みになっています。
他方式との比較と、企業・人材への影響
洋上風力の世界では、北海など水深の浅い海域を中心に着床式が主流です。一方、日本は深い海域が多いため、着床式だけではポテンシャルを十分に生かしきれません。浮体式は建設コストや保守コストが課題ですが、水深100mを超える海域も対象にできるため、「設置できる場所の自由度」という点で大きな強みがあります。
世界的には、ノルウェー沖の「Hywind」など先行案件が増えつつあるものの、浮体式はまだ全体の中では少数派です。その中で、五島洋上ウィンドファームのように複数基をまとめた商用ウィンドファームは、依然として先行事例のひとつです。日本企業が設計・施工・運転・保守までを経験できる場として、技術とプロジェクトマネジメントの両面でノウハウの蓄積が期待されます。
参画企業の顔ぶれを見ると、ゼネコンである戸田建設、石油・ガス系のエネルギー企業(ENEOSリニューアブル・エナジー、大阪ガス、INPEX)、電力会社(関西電力、中部電力)が一堂に会しています。設計・土木・洋上工事・発電事業・系統運用といった幅広い領域をカバーするため、海洋エンジニアリング、電力システム、再エネ事業開発など、異なる専門性を持つ人材の協業が不可欠です。
長期的には、こうしたプロジェクト経験が、各社の人材ポートフォリオや組織設計にも影響してきます。例えば、浮体や係留の設計・施工に強い技術者、港湾・造船と連携できる調整役、地域のステークホルダーと対話するコミュニケーション人材などが、これまで以上に重要になっていきそうです。
筆者の視点
技術戦略や新規事業の立場で見ると、今回まず目を引くのは「実証機ではなく、最初から商用電源として設計された浮体式洋上風力」が実際に動き始めたという点です。2MW級の単機実証だった「はえんかぜ」から、2.1MW×8基のウィンドファームへとスケールしており、日本でも浮体式を「実験テーマ」から「事業テーマ」に移しつつあることが伝わってきます。
事業会社の視点では、「どのレイヤーで自社の強みを出すか」を考えるよい題材になります。浮体構造や施工に強い企業は、ハイブリッドスパー型浮体などのプラットフォームを他案件にも横展開できるかもしれません。一方、電力・ガス会社や石油・ガス企業にとっては、発電事業そのものだけでなく、系統接続、需給調整、将来の水素製造や合成燃料との連携など、周辺のバリューチェーン設計も検討の余地があります。
地方自治体や地域企業にとっては、「再エネ×海洋産業」の新しい産業政策の選択肢として、五島モデルをどう応用するかがポイントになりそうです。浮体の建造ヤード、据え付け船のオペレーション、保守・点検の仕事など、地域に根ざした産業と組み合わせる余地があるからです。漁業や観光との共生のあり方も、次の案件で活かせる蓄積になるはずです。
企業の経営陣や事業開発担当の立場では、「市場が大きくなってから参入する」ではなく、小さくてもよいので今の段階でポジションを取っておくことが重要になってきます。設計・施工・発電・O&M・デジタルサービス・ファイナンスなど、どの部分で関わるのかを早めに決めておくと、2040年に向けた浮体式洋上風力の拡大局面で動きやすくなりそうです。
参考リンク集
- 五島フローティングウィンドファーム合同会社ほか(2026年1月5日)「国内初の浮体式洋上ウィンドファーム『五島洋上ウィンドファーム』の商用運転開始」大阪ガス公式サイト内プレスリリース リンク
- 五島フローティングウィンドファーム合同会社ほか(2026年1月5日)「国内初の浮体式洋上ウィンドファーム『五島洋上ウィンドファーム』の商用運転開始」PR TIMES掲載リリース リンク
- 戸田建設「浮体式洋上風力発電 特設ページ/五島洋上ウィンドファーム 事業概要」 リンク
- 経済産業省(2026年1月5日)「長崎県五島市沖に係る海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域において五島フローティングウィンドファーム合同会社の浮体式洋上風力発電設備が運転開始」 リンク
- 月刊事業構想(2026年1月6日)「国内初の浮体式洋上風力発電所 長崎・五島市沖で商用運転開始」 リンク
- Sustainable Japan(2026年1月9日)「戸田建設ら、五島の浮体式洋上風力がついに商業運転開始。再エネ海域利用法第1号」 リンク

