首都圏の幹線道路近くに、商用トラック向けの充電拠点が新しくオープンしました。乗用車とは違い、トラックは車体が長く重いため、駐車しやすいレーン設計や高出力の充電器が欠かせません。
今回の拠点は、商用EVトラック専用の急速充電を提供し、複数台が同時に利用できる構成です。さらに、6車室・3基6口・最大150kWの高出力という仕様で、実運用を前提とした機能が揃っています。
3行サマリー
- ENEOSが国内初の商用EVトラック専用急速充電拠点「大井充電ステーション」を開設。6車室・3基6口、単独時最大150kWに対応。
- トラック前提の商用専用設計(7m/9mレーン・予約・休憩一体)で、実運用に必要な“待たない・止めやすい”を実装。
- 拠点×V2G×系統サービスを初期設計から組み込み、車両OEM・荷主・電力の協業で多収益化と回転率最大化を狙います。
なぜ今なのか
背景にあるのは、企業の温室効果ガス管理の強化です。
最近は自社の排出だけでなく、物流などサプライチェーン全体の排出量(Scope3)も見られるようになりました。つまり、荷主企業も運送会社も、車両の電動化を避けて通れません。
また、電動トラックの車種が増え、実際の配送に使えるレベルになってきました。とはいえ、大型車の充電は乗用車と勝手が違います。レーンの長さ・動線、電力の契約、料金設計などが特殊で、現場に合わせた設計が不可欠です。
拠点のポイント
- トラックでも入出庫しやすい長いレーン(7m/9m対応)。9mクラスの車室を複数整備し、前進入・前進出しやすい導線です。
- 充電器は同時に6口まで利用可能。単独利用時は最大150kWの急速充電に対応します。
- 混雑を避ける予約システムと、ドライバー向けの休憩スペースを設置。「充電+休憩」をひとまとめにしました。
- 複数の物流事業者が共同で使い、日々の運行データをもとに運用の最適化を進めます。
どこが“初”なのか?
これまでも高速道路のSA/PAなどに急速充電器はありましたが、基本は乗用車向けの設計でした。今回の拠点は、はじめから「商用トラックの使い勝手」を優先しています。例えば長いレーン、複数台同時の高出力、予約と休憩設備のセットなど、運行計画に組み込みやすい要素を詰め込んでいます。ひと言でいえば、“商用専用設計”の第一号です。
筆者の視点
今回の拠点は、単なる「充電所」ではなく、私は“物流の時間を売る場所”に近いと見ています。
鍵は「高出力×レーン設計×予約UI」を1つの体験として束ね、遅延や行列という“現場の摩擦”を消すことです。成功指標もkWh販売量だけでなく、平均滞在時間の短縮と分散の縮小(バラつきの小ささ)、そしてSLA遵守率が効いてきます。
課金は車両ID連動で「誰に請求するか(荷主/運送/リース)」を柔軟に設計し、予約APIで運行管理ソフトとつながると、一気に実装が進みます。
商用EVの普及は「待たないこと」がUXの核心で、そこに収益モデル(時間帯料金・予約枠・系統サービス)を重ねる設計が勝ち筋だと考えます。
用語ミニ解説
- Scope3:自社の活動に伴う、仕入先や物流、使用時などサプライチェーン全体の排出。
- DR(デマンドレスポンス):電力が足りない時に、需要側が使い方を調整して系統を助ける仕組み。
- V2G:Vehicle to Grid。車の電池から電力系統へ電気を戻すこと。

