AIデータセンターの排熱でトマトを育てる?|ウナギやキノコにも広がる排熱利用の現在地

ブログのアイキャッチ画像。画像中央に白い大きな文字で「AIデータセンターの排熱でトマトを育てる? ウナギやキノコにも広がる排熱利用の現在地」というタイトルが書かれている。イラストの左側にはサーバーラックが並ぶデータセンターの建物があり、そこからオレンジ色の太い矢印とパイプで熱が右側へ供給されている。右側には、パイプが接続されたガラス温室で赤いトマトがたくさん実っており、その隣にはウナギが泳ぐ水槽と、キノコが栽培されている棚が並んでいる。背景は青と緑を基調とした落ち着いたフラットデザイン。

AIやクラウドの拡大で、データセンターの電力消費と排熱が急増し、その「熱の出口」をどう設計するかが世界共通のテーマになっています。カナダのCanaanやQScale、英国のHumber Tech Parkなどでは、この排熱を温室トマトや養殖、地域熱供給に活用するプロジェクトが立ち上がりつつあります。

その中でも温室トマト栽培は象徴的な事例であり、データセンター排熱利用という大きな流れの一つの形だと捉えると整理しやすくなります。

目次

3行サマリー

  • 2020年代に入り、カナダ・英国・オランダ・日本などでデータセンター排熱を温室や養殖、地域熱供給に回すプロジェクトが相次いでいます。
  • 温室トマト(いわゆる「データセンタートマト」)に加え、ウナギ・キノコ生産や地域の熱ネットワークなど、多様な低温熱の使い道が検討されています。
  • 直近ではCanaanの3MW実証やQScale・Humber Tech Parkの大型計画など、数万トン規模の農産物と数百MW級データセンターを一体で設計する事例が増えています。

データセンター排熱利用の概要

データセンター排熱利用とは、サーバー冷却で発生する30〜70℃程度の低温熱を、周辺の施設に再利用する取り組みです。多くのデータセンターでは水や空気でサーバーを冷やし、その結果として温水や温風が大量に生まれますが、従来は多くが大気中に放出されてきました。

この熱を熱交換器で回収し、配管で温室や養殖設備、住宅・公共施設などに送り込むことで、ボイラーやヒートポンプの負担を減らすことができます。データセンター側は冷却に必要なエネルギーを削減でき、受け取る側は燃料費とCO₂排出を抑えられるので、うまく設計すれば双方にメリットが出る仕組みです。

その出口の一つとして温室トマト栽培があります。ただ、実務的にはトマトだけに限らず、養殖やキノコ、地域熱供給なども含めた「ITインフラと地域産業の熱マッチング」として捉えたほうが、選択肢を広く検討しやすくなります。

主なプロジェクトの特徴

Canaan(カナダ・マニトバ州):ビットコイン3MWとトマト温室

Canaanはビットコインマイニング機器メーカーで、カナダ・マニトバ州で3MW規模のパイロットプロジェクトを進めています。液冷式マイニングリグから得られる75℃超の熱を回収し、隣接するトマト温室の暖房に使う構想で、24か月の実証期間を通じて熱回収効率や既存暖房との統合を検証する計画です。

同社は農業インフラ企業と組むことで、マイニング事業単体では批判されがちな環境負荷を、地域の食料生産に貢献するかたちで部分的にオフセットしようとしています。寒冷地でマイニングを行うビジネスモデルに、温室トマトという「熱の出口」を組み合わせている点が特徴です。

QScale(カナダ・ケベック州):80,000トン級の温室とAIデータセンター

QScale Q01キャンパスのデータセンターと温室の完成イメージ図
カナダ・ケベック州レヴィで建設が進むQScaleのQ01キャンパス完成イメージ。
AI向け高密度データセンターと温室を組み合わせ、8万トン規模のトマト生産を目指す計画です。(出典:QScale)

QScaleはケベック州レヴィで、AI向けハイパースケールデータセンターと温室群を組み合わせた大型キャンパスを開発しています。同社の説明では、隣接する温室で年間2,800トンの小さな果実と80,000トン超のトマトを生産できるポテンシャルがあるとされています。

ケベック州は水力発電を背景にAI・クラウド誘致と温室野菜の国産化を同時に進めており、QScaleはその両方をつなぐ案件として位置づけられています。「AIデータセンターの増加を、食料自給と循環型エネルギーの文脈で語る」象徴的な事例になっています。

Humber Tech Park(英国):386MW級キャンパスとトマト温室・地域熱供給

英国リンカンシャー州のHumber Tech Parkは、約386MWのAI向けハイパースケールデータセンターキャンパスを計画しているプロジェクトです。計画書では、データセンターの排熱を利用して約30万平方フィート(約2.7万㎡)のトマト温室と地域の熱供給ネットワークを整備する構想が示されています。

開発主体は、データセンターを単なるIT施設ではなく「地域インフラの中核」として捉えており、排熱利用も最初から計画の一部として組み込んでいます。今後は、再エネ導入や交通インフラ整備とあわせて、地域の雇用や食料供給とどのようなシナジーを生み出せるかが焦点になりそうです。

Blockheating(オランダ):コンテナ型DCと温室の分散モデル

Blockheatingはオランダのスタートアップで、200kW級のコンテナ型エッジデータセンターを温室のすぐ横に設置し、50〜65℃の温水として排熱を供給するモデルを展開しています。1基で夏季は最大2ヘクタール、冬季は0.5ヘクタールの温室暖房を支援できると説明されており、中小規模の園芸経営向けにフィットするスケールです。

このモデルは、巨大なハイパースケールではなく、分散した温室地帯に合わせて小さなデータセンターを点在させるスタイルです。また、再生サーバー機器を活用することで、エネルギーだけでなくハードウェアの循環利用も前面に出している点がユニークです。

White Data Center(日本・北海道):雪冷却とウナギ・キノコの複合展開

イメージ図(生成AIで作成)

北海道美唄市のWhite Data Centerは、雪を使った自然冷却で知られるデータセンターです。ここでは、データセンターを雪解け水で冷やした後の約33℃の温水を利用し、ウナギ養殖やキノコ栽培を行う取り組みが進められています。トマトではありませんが、「データセンター排熱を地域の一次産業に使う」という意味で非常に近いコンセプトです。

実証ではシラスウナギの育成やキノコ栽培が進められており、今後はセンターの規模拡大とともに、野菜・魚介類など複数の用途に広げる構想も紹介されています。日本におけるデータセンター排熱活用の先行事例として、寒冷地での多用途展開のヒントになるプロジェクトです。

政策・市場文脈とビジネススキーム

データセンターの電力消費は、AI・クラウドの普及に伴い世界的に増加すると見込まれています。この流れの中で、各国は「省エネ化」と「社会的な納得感」の両方をどう確保するかを問われており、排熱利用はその打ち手の一つとして注目を集めています。

一方で、排熱は低温で遠くまで運びにくいという制約があります。そのため、温室や養殖設備、住宅・公共施設などの熱需要側は、基本的にデータセンターの敷地内か隣接地に配置する必要があります。また、データセンター側の発熱パターンと、需要側の熱需要が季節・時間帯でどの程度合うのかも、事業計画段階で丁寧に検討する必要があります。

ビジネススキームとしては、データセンター事業者が余熱供給インフラまで整備して農業・養殖事業者に熱を販売するモデルや、不動産開発会社がキャンパス全体を企画し、データセンターと温室・養殖・物流施設をワンパッケージで誘致するモデルなどが考えられます。QScaleやHumber Tech Parkは後者のイメージが強い事例です。

他の選択肢との比較と企業・人材への影響

データセンター排熱の出口としては、温室利用でのトマト栽培が最も分かりやすい象徴ですが、必ずしもすべての案件でトマトが最適というわけではありません。温室トマトは光やCO₂、労働力など多くの条件をそろえる必要があり、農業としての事業リスクも抱えることになります。そのためCanaanのように、温室運営の専門パートナーと組む形が現実的な分担になりやすいです。

これに対して、ウナギや魚の養殖、キノコやハーブの栽培、地域熱供給などは、必要な温度帯がトマトより低めでも成立しやすく、熱需要も比較的安定する傾向があります。White Data Centerのような事例は、日本の寒冷地における「多用途ポートフォリオ」の考え方を示しているとも言えます。

企業側の人材要件という意味では、IT・設備エンジニアだけでなく、施設園芸や養殖、地域エネルギーに詳しいパートナーとどう組むかが重要になります。データセンター事業者が農業や水産業をゼロから立ち上げるのではなく、「熱を長期的に買ってくれる事業者」との契約設計や、金融機関・自治体と連携したプロジェクトファイナンスの組み立てが、新しい仕事として立ち上がっていきます。

その意味で、「データセンタートマト」は単なる技術の話というより、ビジネススキームやパートナーシップ設計の先行事例として眺めておくと、自社案件への応用がしやすくなります。

筆者の視点

事業開発や技術戦略の立場から見ると、データセンター排熱利用は「やるか・やらないか」という二択ではなく、「どの拠点で、何と組み合わせてやるのか」が肝になりそうです。CanaanやQScale、Humber Tech Parkのような案件は、AI・クラウド投資と地域の一次産業振興を一体で語ろうとする象徴的なケースに見えます。

一方で、すべてのデータセンターで温室トマトを作る必要はありません。土地条件や熱需要が合う拠点ではトマト温室や養殖と組み合わせ、そうでない拠点では地域熱供給や産業プロセス向けの低温熱として使う、といった柔軟なポートフォリオ設計のほうが現実的です。日本で考えると、北海道・東北・北陸など寒冷かつ再エネポテンシャルの高い地域で、データセンター誘致と温室・養殖・地域熱供給をセットで設計する余地があります。

また、AI・クラウド需要そのものをどうコントロールし、IT機器や建設の環境負荷をどう抑えていくかという論点も忘れにくいところです。排熱利用は重要な工夫ですが、それだけでサプライチェーン全体の負荷が帳消しになるわけではありません。今後は、データセンター排熱利用を「余熱の出口づくり」として位置づけつつ、需要側の効率化やハードウェアの長寿命化とセットで議論していくことが、企業にとっても投資家にとっても大事になっていくと感じます。

実務で関わるとしたら、「どの地域・どのデータセンターで、どの用途がフィットするのか」を冷静に選び、温室トマトにこだわらず、養殖・キノコ・地域熱供給なども含めてポートフォリオとして整理しておくことが、次の一手を決めやすくしてくれそうです。

参考リンク集

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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