BYD中国国内販売3割減の一方で輸出は5割増 「中国で苦戦、海外で攻勢」の構図は続くのか

BYDの中国国内販売減少と輸出拡大を対比したイメージ

中国の新エネルギー車市場をけん引してきた比亜迪(BYD)ですが、減税縮小と価格競争の影響で中国国内販売の減速がはっきりしてきました。2026年1月の新エネルギー車販売は21万51台・前年同月比30%減となる一方、輸出台数は約10万台に達し、海外が成長の柱として目立ち始めています。

目次

3行サマリー

  • BYDは2026年2月1日に、2026年1月の新エネルギー車販売21万51台(前年同月比約3割減)の販売データを公表しました。
  • 純電動車は8万3249台、プラグインハイブリッド車は12万2269台と国内販売が軟調な一方、輸出台数は約10万台まで伸びています。
  • 中国の新エネルギー車向け車両購入税優遇は2026年から免税額が半減し、BYDは海外販売の拡大で成長ペースの鈍化を補おうとしています。

今回の発表の位置づけ

新エネルギー車(New Energy Vehicle、NEV)は、電気自動車やプラグインハイブリッド車など電動化された自動車の総称です。BYDが深圳証券取引所に提出した「2026年1月産銷快報」では、NEVの販売台数が21万51台(前年同月比30.11%減)だったことが示されています。前年同月を下回るのは5カ月連続で、減速傾向が数字として明確になりました。

乗用車の内訳を見ると、電気自動車(Electric Vehicle、EV)は8万3249台で前年同月比34%減、プラグインハイブリッド車(Plug-in Hybrid Vehicle、PHEV)は12万2269台で29%減でした。EVは電気のみで走る車、PHEVはエンジンとモーターを併用し外部充電もできる車ですが、そのどちらも前年割れとなっています。PHEVセダン「秦PLUS」シリーズなど主力車種の改良モデル投入もありましたが、販売増にはつながりませんでした。

BYDは2025年春ごろから国内販売が伸び悩み、2025年9月には約1年7カ月ぶりに月次の販売が前年同月を下回りました。2026年1月の数字は、この流れが一時的な調整ではなく、構造的な鈍化に近い可能性を示しています。競合との価格競争が続く中で、従来の「値下げでシェアを広げる戦い方」が限界に近づいていることも背景にありそうです。

一方で、同じ1月のデータでは商用車の販売が4533台と前年同月比で増加しており、全体としてはラインアップの多様化で下支えしている構図も見て取れます。ただし販売ボリュームの大半は乗用車が占めるため、乗用車NEVの減速がBYD全体の成長に強く影響している状況です。

BYDの販売構成と2025年までの実績

BYDは2022年に純ガソリン車の生産を終了し、NEV専業メーカーとして事業を展開しています。2025年の自動車販売台数は460万2436台(前年比約8%増)で、過去数年と比べると成長率は落ち着いたものの、中国メーカーとしてトップクラスの規模を保っています。

このうち、純電動車は約225万台とされ、世界全体でテスラを上回る水準に達しました。PHEVも同程度のボリュームを持ち、EVとPHEVの「二本立て」で台数を積み上げてきた構図です。NEV全体としては、中国国内のエンジン車からの乗り換え需要をしっかり取り込んだ形になっています。

ステージ上に展示されたBYDのEV3車種ATTO3・DOLPHIN・SEAL
日本市場参入時に紹介されたBYDのEV3車種。ATTO3、DOLPHIN、SEALなどグローバル展開する主力モデルが並ぶ。
(出典:Impress Watch「中国EV大手『BYD』が日本市場参入 ’23年に3車種投入」)

2025年の海外販売も特徴的です。乗用車とピックアップを含む海外販売はおよそ105万台(前年比140%超の伸び)で、販売エリアは欧州、東南アジア、中東、南米など110を超える国・地域に広がっています。BYDの成長ドライバーが中国から世界へとシフトしつつあることがうかがえます。

一方で、2025年の成長ペースは過去数年と比べて明らかに鈍化しています。中国国内のNEV市場が急拡大から「成熟モード」へ移行する中で、BYDの国内販売も2025年半ば以降は前年同月比でマイナスが続く月が増えました。今回の2026年1月の数字は、その流れが続いていることを裏付けています。

中国のNEV税制変更と国内市場環境

中国政府はNEV普及のため、長年にわたり車両購入税の優遇措置をとってきました。車両購入税は通常、車両価格(付加価値税抜き)の10%がかかる税金で、NEVについては2023年に「2024〜2025年購入分は最大3万元まで全額免税」「2026〜2027年購入分は最大1万5000元まで半額免税」という新しい枠組みが打ち出されています。

この枠組みのもとでは、2025年末までに購入すれば実質購入税ゼロ、2026年以降は「購入税5%相当が復活」というイメージになります。大衆車セグメントでは数千〜1万数千元の負担増となり、価格に敏感なユーザーにとって小さくない差です。2025年のうちに購入を前倒しする動きが強まり、その反動として2026年初頭の販売が一時的に落ち込んだ可能性があります。

同時に、中国のNEV市場全体では激しい価格競争が続いています。BYDはPHEVセダン「秦PLUS」などで大幅な値下げを行い、「電動車がガソリン車より安い」水準を打ち出しました。他社もこれに追随し、2025年には規制当局が主要メーカーに対して「過度な価格競争の自制」を求める場面も報じられました。

政策の段差と価格競争が重なった結果、メーカー側はマージンを削りながら販売を維持する状態が続いています。BYDの1月の減速は、単に一社の問題というより、「補助と値下げに依存した成長」の転機が来ているサインとも言えます。ここから先は、単なる価格訴求だけでなく、ブランド力やサービス、ライフサイクル全体の価値でどう選ばれるかがより重要になっていきます。

他社との比較と日本企業への示唆

中国のNEVメーカー全体を見ると、BYDは依然として最大のプレーヤーですが、成長率という面では他社との差が出始めています。吉利汽車(Geely)や奇瑞汽車(Chery)などの自主ブランド、あるいは新興EVメーカーの一部は、2025年も2桁台の成長を維持しており、「規模のBYD」と「成長率の高い追い上げ組」という構図がはっきりしてきました。

この構図は、日本の完成車メーカーにとっても無視できません。中国国内では価格競争が厳しく、BYDを中心とする中国勢と同じ土俵で戦うのは簡単ではありません。一方で、東南アジアや中東、南米など第三国市場では、BYDの電動SUVやピックアップがトヨタや日産、ホンダなどの日系ブランドと真正面からぶつかり始めています。

部品メーカーや素材メーカー、インフラ企業にとっても、BYDの海外展開は重要な前提になります。海外工場の建設や現地販売ネットワークの拡大に伴い、電池材料・樹脂・熱対策材料・充電インフラなどに新しい需要が生まれます。その一方で、調達の意思決定はコストとスピード重視になりがちなので、日本企業側は「品質・安全性・アフターサービス・環境価値」を組み合わせた提案で差別化する必要があります。

電力・ガスといったインフラ事業者の目線では、BYDの動きは「EV普及と系統・インフラ投資をセットで提案するチャンス」とも捉えられます。たとえば中東や東南アジアでは、EV導入と同時に再エネ電源や蓄電池、充電ネットワークの整備が課題です。中国メーカーの車両供給と、日本企業の強みである系統安定化技術や安全規格、人材育成支援を組み合わせる余地も見えてきます。

筆者の視点

技術戦略やクライメートテックの観点から見ると、今回のBYDの数字でまず目に入るのは「国内減速と輸出拡大の二極化」です。中国国内ではNEV市場が一気に立ち上がり、その後の成長が落ち着き始めています。一方で、海外では同じNEVが「これから伸びる新市場」として受け止められており、BYDはその間をつなぐ存在になっています。

次に気になるのは、政策のタイミングが需要の山と谷を大きくしてしまうリスクです。車両購入税の優遇枠組みはかなり前から公表されていましたが、実際の市場では「免税が大きい期間に売り切る」インセンティブが働きやすくなります。その結果として、2025年の前倒し需要と2026年初頭の反動減が生じた可能性があります。日本の企業にとっても、自国と海外の補助・税制のタイムラインを1枚の絵で整理しておくことが、事業計画の前提としてますます大事になりそうです。

一方で、今回の販売減少だけをとって「EV市場は終わった」と結論づけるのは早いと感じます。むしろ、補助や値下げに頼ったフェーズが終わり、「どの地域で、どのセグメントで、どのプレーヤーが利益を出しながら伸ばすのか」を選び取る段階に入ったと見る方が、実務には役立ちます。輸出比率が販売のほぼ半分まで高まっている事実は、需要そのものが消えているわけではなく、需要の場所が移動していることを示しています。

実務で今回のニュースを活かすなら、まずはBYDの販売データを「中国NEV市場の成熟度を示す指標」として位置づけるところから始めると良さそうです。そのうえで、補助・税制、主要プレーヤーの投資計画、各地域の電力・インフラ事情を重ね合わせ、「どこでパートナーになり、どこでは競合として備えるのか」を整理しておくと、社内での議論が進めやすくなります。BYDの1月実績は、そうした整理のきっかけとしてちょうど良いタイミングの素材だと感じます。

参考リンク集

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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