米・住宅用蓄電スタートアップ「Base Power」がSeries Cで10億ドルを調達しました。
製品は25kWh/連続11.4kWの家庭向け据置型バッテリーで、UL1973/UL1741/UL9540/UL9540Aの各要件に適合する設計。テキサス市場では小売電気(PUCTライセンス#10338)と組み合わせ、ADER(分散電源アグリゲーション)/VPPで系統サービスへ本格参加する構えです。
(発表:2025年10月8日、主要報道:10月9–13日)。Business Wire/Energy-Storage.news
3行サマリー
- 10億ドルのSeries Cで製造・施工・地域展開を加速。一次発表/詳細報道
- 25kWh/11.4kW・UL適合設計の「全館バックアップ」志向機を量産、小売電気+会員制で導入障壁を下げつつVPP収益化。製品仕様/プラン
- データセンター需要増×送電制約で家庭蓄電の系統価値が上昇。テキサスのADER Phase 3進展が追い風。
Base Powerとは?
Base Powerはテキサス州オースティン拠点の「小売電気×家庭用蓄電」一体モデルの事業者です。
顧客は固定単価の電気料金(例:36か月・8.5¢/kWh+配電費)と、25kWh(2台で50kWh)バッテリーの全館バックアップを“抱き合わせ”で利用します。
事業者側は平常時にバッテリー群を系統支援(周波数・容量・価格応答)に活用して収益化。
なぜ今?(背景と時事性)
米国ではAI・データセンターの電力需要が急増。ERCOT(テキサス系統)はデータセンター由来の大口需要が今後の主因と整理し、2031年までのピーク需要の上振れを示しています。EIA見通しの報道(2025/10/07)
送電線の新増設には時間がかかる一方で、家庭・建物に分散した「即応できる蓄電容量」の価値が上昇。
テキサスではADERパイロットがPhase 3へ進み、分散蓄電の市場参加ルール(性能要件/測定・検証)が具体化しています。
資金調達の概要(10億ドルの意味)
今回の調達はSeries Cで10億ドル。リードはAdditionで、a16z、Lightspeed、Valor、Thrive、Altimeter、CapitalG、Lowercarbonなどが名を連ねます。
資金は(1)オースティンの製造拠点立ち上げ、(2)据付・施工体制の拡充、(3)小売電気×アグリゲーション事業の拡大に充当。Business Wire/Canary Media
製造拠点は旧Austin American-Statesman印刷工場跡を暫定活用。短期スケールアップと雇用創出をめざします。Austin American-Statesman(2025/10/13)
製品の要点(25kWh/11.4kW・UL適合設計)
- 容量・出力:25kWh(実効22.5kWh)、連続11.4kW。2台で50kWh/22.8kW。仕様一覧/単機仕様
- バックアップ:停電時は0.5秒未満で自動切替。使用削減前提で2台構成は最長48時間の目安。バックアップ時間ガイド
- 安全性:UL 9540A(熱暴走伝播評価)等の最新要件に対応する設計思想。UL 9540A解説/2025年アップデート
数値面のポイントは、「全館バックアップ」を現実的にする出力帯(11.4kW)と、大負荷(空調・IH・EV充電器)を止めにくい運用が可能なこと。設置安全はUL9540Aの最新改訂(2025年版)による評価枠組みが普及し、住宅密集地での標準化が進んでいます。
料金・会員モデル(小売電気×蓄電の抱き合わせ)
代表的なプラン(時期・地域により変動)
- 1台:設置費$695+月額$19会員費+8.5¢/kWh(36か月固定)+配電費
- 2台:設置費$995+月額$29会員費+8.5¢/kWh(36か月固定)+配電費
“抱き合わせ”により導入障壁(初期費用・機器選定・施工手配)を極小化し、平常時はADER/VPPで市場収益を上乗せ。料金ページ
ADER/VPP
ADERは「Aggregated Distributed Energy Resource」の略。家庭やビルの小さな蓄電池を束ね、発電所のように運用します。需要ひっ迫時に放電で供給し、余剰時は充電で吸収して系統安定化。テキサスではPhase 3に進展し、性能要件・測定検証(MRV)・メーター条件が整備中です。
競合の動きでは、テスラが小売電気(Tesla Electric)を運営し、Powerwall群のVPPでERCOTパイロットに参加。Baseの強みは「電力単価+大容量バッテリー」セットの標準化と、全館バックアップ前提での市場参加です。Tesla Electric/Tesla VPP(ERCOT)
他社と比べて何が違う?(ハード+モデルの両面)
Baseのユニークさは、(A)25kWh/11.4kWの大きめ単機性能と(B)小売電気+会員制の抱き合わせを、“制度前提(ADER)”で最初から設計している点。代表的な競合と主要指標を並べます(仕様は地域・改版で変動)。
| 項目 | Base Power | Tesla Powerwall 3 | Enphase IQ Battery 5P | sonnenCore+ |
|---|---|---|---|---|
| 単機容量 | 25 kWh(実効22.5) | 13.5 kWh | 5.0 kWh | 10–20 kWh(構成) |
| 連続出力 | 11.4 kW | 約11 kW | 3.84 kW | 型式により異なる |
| 安全・適合 | UL1973/1741/9540/9540A | UL9540 等 | UL9540/9540A | UL9540/1973/9540A 等 |
| 提供形態 | 小売電気+月額会員(抱き合わせ) | 機器販売+(TXで小売・VPPあり) | 機器販売(施工店ネットワーク) | 機器販売+コミュニティVPP |
| 想定価値 | 全館バックアップ+市場収益 | バックアップ+VPP | 自家消費/部分バックアップ | 自家消費+VPP |
筆者の視点
日本の現状:いまは“助走期”、商用の主戦場は2026年度から
日本の家庭用蓄電は、この数年で設置が伸びた一方、私の肌感ではまだ「自家消費+停電対策」中心です。低圧リソース(家庭用蓄電・EVなど)が需給調整市場に本格参加するのは2026年度が目安。経産省の資料でも、機器個別計測の導入や精度・運用要件の整備が「2026年度より順次開始」と明記されています。直近の有識者会合でも、次世代スマートメーターや基準(MRV)の詰めが続いており、制度・システムの準備が大詰めに入っている状況です(整理資料/最新報道/EPRXの規程改定予告)。
つまり今は“助走期”。DR(デマンドレスポンス)や地域実証で群制御・データ品質・可用性を作り込み、2026年度の商用参入で一気に投下する準備段階です。経産省の蓄電システム検討会でも、国内の家庭用は容量が拡大傾向にあり、全回路バックアップニーズの高まりが指摘されています(資料)。他方、法人向けVPPは既に動いており、テスラはまず企業向けに無償蓄電+遠隔制御でVPPを広げる方針を打ち出しました(Reuters)。家庭は「次」で、本番はやはり2026年度から——これが現時点の妥当な見立てです。
“抱き合わせは各社やっている”——それでもBase Powerが違って見える理由
確かに、電力小売と蓄電(や太陽光)の抱き合わせ自体は珍しくありません。日本でもPPA/サブスクや「電気料金+機器月額」の商品は定着しています。では、なぜBase Powerが目立つのか。私が重要だと思うのは、次の三点です。
① 1台あたりの“価値密度”が高い。 25kWh/11.4kWという素のスペックは、家庭の大負荷(空調・IH・EV充電)を止めにくい全館バックアップ前提です。これはアグリゲーション時の実効容量・応答性の源泉になります。日本の主流(5〜12kWh級)と比べて、1台で稼げる系統価値が厚い。少数でもMW級の束に近づけやすいのは運用上の強みです。
② 小売(REP)・会費・市場収益を“同一プラットフォーム”で回す。 多くの抱き合わせが「料金メニュー+自家消費最適」止まりなのに対し、Baseは小売の裁量とバッテリー運用を同じ器に載せ、電力単価+機器会費+市場収益の三層を同時最適します。顧客側の“停電レジリエンス体験”と、事業側の“系統サービス収益”を一体で設計している点が、見た目以上に大きい。
③ 制度を前提にした量の作り方。 テキサスではERCOTがADERパイロットを段階進行(Phase 3へ)。Baseは製造・施工キャパを先に立て、台数×可用性を短期に積み上げて制度の枠にきれいに載せています。結果、同じ“抱き合わせ”でも、収益設計とスケール設計が一段深い。ここが差です。
主要ソース(一次情報/高品質二次報道)
- Business Wire(2025/10/08):Base Power Raises $1 Billion Series C…
- Energy-Storage.news(2025/10/13):Base Power raises US$1 billion…
- Canary Media(2025/10/09):Base Power hauls in $1B…
- ERCOT ADER(2025/06/16):Phase 3資料(PDF)/公式ページ
- ERCOT長期負荷(2025/04/07):更新資料(PDF)
- Base公式(仕様・料金):Specs/Plans/Home Backup
- PUCT名簿:Retail Electric Providers(アルファ順)
- テスラのVPP・小売:Tesla Electric/Tesla VPP(ERCOT)
- Statesman(2025/10/13):旧新聞工場を暫定工場に

