東電が「データセンター会社」になる日 電力会社の次の一手を読む

AI向けデータセンターの電力需要を取り込むために、発電所の近くにサーバー群を置く動きが世界で広がっています。2025年12月22日に報じられた、柏崎刈羽原子力発電所周辺での「電源近接型データセンター」構想と水素製造のニュースは、2034年度までにデータセンター新増設分だけで年間約440億kWhの需要増が見込まれる日本の電力事情とも重なり、注目を集めています。

目次

3行サマリー

  • 2025年12月22日、日本経済新聞が東京電力HDの柏崎刈羽原発周辺でのデータセンター・水素製造構想を報じました。
  • 東電は「当社が発表したものではなく、現時点でそのような事実もない」とコメントしつつ、新潟県向けの基金やGX投資の検討を進めています。
  • OCCTO試算では2034年度にデータセンター新増設分だけで年間約440億kWh・最大616万kWの電力需要が増える見込みで、原発や再エネ近接型データセンターの検討が加速しそうです。

今回の報道と柏崎刈羽原発をめぐる状況

今回の報道は、東京電力ホールディングスが柏崎刈羽原子力発電所の敷地内や周辺でデータセンターを開発し、AI向けの電力需要を取り込む構想を検討しているという内容でした。原発の電力を活用した水電解による水素製造や、地元企業と組んだ供給スキームもあわせて紹介され、原発再稼働後の新たな収益源として描かれています。

これに対して東電は同日、「本日の日本経済新聞電子版において、当社が『柏崎刈羽原子力発電所周辺でデータセンターを開発する方針』とする報道がありますが、当社が発表したものではなく、現時点でそのような事実もありません」との短いコメントを公表しました。東電自身は計画の具体化を公式には認めておらず、現段階ではあくまで報道ベースの構想という位置づけです。

一方で東電は、柏崎刈羽原発の再稼働を見据え、新潟県内での「安全・安心の向上」と「地域経済の活性化」に向けた取組を2025年8月に公表しています。原子力災害対策の支援やGX・DXへの事業投資を通じて、新潟に根ざした発電事業を続ける方針を示しており、その文脈の中で電源近接型データセンターや水素製造が検討されていると見ると全体像が整理しやすくなります。

電源近接型データセンターと「ワット・ビット連携」の概要

電源近接型データセンターは、発電所に近い場所にデータセンターを設置し、大容量の電力を安定的かつ効率よく供給するための枠組みです。長距離送電を減らすことで送配電網の混雑や投資負担を抑えつつ、発電所側から見ると大口で安定した需要を確保できるという利点があります。

背景には、AI活用を中心としたデータセンター需要の急増があります。電力広域的運営推進機関(OCCTO)の全国需要想定によると、データセンターの新増設分だけで、2024年度比で2034年度には年間需要電力量約440億kWh、最大需要電力約616万kWが増加すると見込まれています。これは産業部門の電力需要の一部を「丸ごと」上乗せする規模であり、電源とデジタルインフラの連携が避けて通れないテーマになりつつあります。

こうした状況を踏まえ、総務省と経済産業省は2025年3月に「ワット・ビット連携官民懇談会」を立ち上げ、電力(ワット)とデジタル(ビット)を一体で整備する方向性を議論しています。2025年6月の「取りまとめ1.0」では、データセンターの地方分散や脱炭素化、送配電網の高度化などが論点として整理されており、電源近接型データセンターは国の中長期ビジョンにも組み込まれつつあるテーマです。

電力インフラと通信インフラ、データセンターの連携を示すワット・ビット連携の概要図
ワット・ビット連携の全体像(電力・通信インフラとデータセンターの連携イメージ。
出典:経済産業省・総務省「ワット・ビット連携官民懇談会 取りまとめ1.0」)

東電が描くデータセンター・水素ビジネスのイメージ

報道ベースで想定されているのは、柏崎刈羽原発の再稼働電源を活用し、国内の通信大手や米テック企業などと組んでデータセンターを誘致する姿です。発電所に近接したエリアに事業者を集積し、専用線などで電力を供給すれば、AIデータセンターに求められる高い電力品質とレジリエンスを確保しやすくなります。送配電設備の投資も抑えやすく、長期の電力契約が組めれば、原発側には安定収入が期待できます。

東電は海外でも、シンガポールのデータセンター向けに再エネ電力を供給する20年のバーチャルPPA(仮想電力購入契約)に参画するなど、データセンター電源ビジネスの実績を積み始めています。海外データセンター向け20年バーチャルPPAへの参画は、今後の国内ビジネスモデル設計にも参考になる取り組みといえそうです。

水素については、柏崎刈羽原発の電力で水電解装置を動かし、地元の産業やモビリティ向けに供給するイメージが報じられています。水素は燃焼時にCO₂を排出しない次世代燃料とされており、原発や再エネの出力を吸収する「電力の逃げ道」としても期待されています。データセンターで使われなかった電力を水素製造に回すことで、需給バランスの調整と新たな収益源の両方を狙う構図です。

また、新潟県向けの基金については、「1,000億円規模の基金を提案」との報道に対して、東電は「当社が発表したものではない」と否定する一方で、地域経済の活性化やGX・DX投資に向けた資金的貢献を検討していると説明しています。新潟県内の安全・安心向上と地域経済活性化に向けた資金的貢献とGX投資を軸に、データセンターや水素製造を組み込んだ地域との共生モデルを模索している段階と見ると理解しやすいです。

他社・海外動向と、企業・人材への影響

国内では、JERAがさくらインターネットと連携し、首都圏のガス火力発電所構内にデータセンターを誘致する構想を公表しています。大量の電力を使うAIデータセンターを、都市近郊の大規模火力発電所とセットで整備しようとする取り組みで、電源近接型データセンターの代表例のひとつです。

さらに、電源開発(J-POWER)と日立製作所は、J-POWERが全国に持つ水力・風力・地熱・太陽光などのカーボンニュートラル電源を生かし、重要インフラ事業者向けのAI用データセンター(AI-DC)の構築に向けた協業を進めています。J-POWERと日立によるカーボンニュートラル電源×AI-DCの共同検討は、再エネ主体の電源近接型データセンターのモデルケースとして位置づけられます。

カーボンニュートラル電源とAI用データセンターを組み合わせたJ-POWERと日立の構想図
J-POWERと日立によるAI用データセンター構想(カーボンニュートラル電源とAI-DCを組み合わせたモデル。
出典:日立製作所ニュースリリース/電源開発「DX取り組み事例」)

海外を見ると、原子力発電とデータセンターを直接結びつける動きも進んでいます。米国では、既存の原発からの電力を長期契約で確保し、近隣のデータセンターキャンパスに供給する事例が登場しており、大量の安定電源を確保したいハイパースケーラーのニーズを反映したものだと理解できます。

こうした潮流は、電力会社・データセンター事業者だけでなく、企業のIT部門や経営企画、人事・総務にも影響してきます。たとえば、「どのクラウドを選ぶか」という判断に、電源の脱炭素度や供給元の電力会社の姿勢が組み込まれる可能性が高まりますし、GXとDXを両方理解する人材の必要性も一段と高くなります。

筆者の視点

事業開発の立場でこのニュースを見ると、まず「原発の再稼働ビジネス」を、AIデータセンターや水素製造といった成長分野とどう結びつけるかというテーマが前面に出てきます。単に再稼働させて電気を売るだけではなく、新潟という地域でどのような産業と雇用を生み、どのくらいの期間・規模でそれを続けられるのかが問われているように感じます。

次に気になるのは、電源近接型データセンターが「どこまで長期・大規模な需要」を引き受けてくれるかです。AIブームのピークアウトや技術の変化で需要が急減した場合、原発側だけでなく地域側にもリスクが及びます。長期の電力契約や、再エネ・水素との組み合わせ、データセンター用途の多様化など、リスクを平準化する仕掛けをどこまで織り込めるかが重要になりそうです。

また、JERAやJ-POWERのように、火力・再エネ・送配電など既存のアセットを持つプレイヤーが、データセンターやAI企業と組んで新しいエコシステムを作ろうとしている点も見逃せません。電力会社だけでなく、通信、クラウド、半導体、設備メーカー、施工会社、自治体金融など、多様なプレイヤーが「電源×デジタル×地域」という土俵に乗ってくる可能性があります。

企業としては、AIやクラウドの議論を「ITコスト」だけで終わらせず、自社の事業拠点・サプライチェーン・エネルギー調達・人材要件まで含めた中長期戦略として捉え直すタイミングに来ていると感じます。今回の東電の報道とコメントは、まだ構想レベルの話ですが、今後10年の「電力とデジタルの付き合い方」を考える上で、ひとつの象徴的な事例になりそうです。

参考リンク集

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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