GX-ETSついに価格レンジ決定!CO₂価格1,700〜4,300円を前提に今やるべきこと

GX-ETSのCO₂価格1,700〜4,300円をテーマにした炭素コストと都市シルエットのイラストアイキャッチ

カーボンプライシングを通じて企業の脱炭素投資を後押しする動きが、日本でもいよいよ数字ベースで具体化してきています。経済産業省は2025年12月、2026年度から始まる排出量取引制度(GX-ETS)のCO2価格レンジを1トンあたり上限4,300円・下限1,700円とする案を示し、2027年度秋ごろの市場開設に向けた準備段階に入りました。

目次

3行サマリー

  • 経済産業省は2025年12月、GX推進法にもとづく排出量取引制度(GX-ETS)の2026年度向けCO2価格レンジ案を公表しました。
  • CO2 1トンあたりの参考上限取引価格を4,300円、調整基準取引価格を1,700円とし、J-クレジット価格や燃料転換コストをもとに設定しています。
  • 年間10万トン以上排出する約300〜400社が対象で、GX推進機構が2027年度秋ごろに市場を開設し、国内排出の約6割をカバーする見込みです。

排出量取引制度(GX-ETS)の概要

排出量取引制度(Emissions Trading System、ETS)は、国が排出量の上限(キャップ)を決め、その範囲内で企業同士が排出枠を売買する仕組みです。日本では、GX(グリーン・トランスフォーメーション)を進める中核政策として、成長志向型カーボンプライシング構想の一つにGX-ETSが位置づけられています。

GX-ETSでは、排出量の多い事業者に対して国が毎年度の排出枠を割り当てます。実際の排出が枠を下回れば余剰分を売却でき、上回れば他社から枠を購入して不足分を埋める仕組みです。対象は直近3年平均で年間CO2排出量10万トン以上の約300〜400社とされ、鉄鋼、自動車、電力、化学などの大手企業が含まれます。

これらの企業が合計で国内CO2排出の約6割を占めると見込まれており、GX-ETSは日本全体の排出削減の「骨格」にあたる制度です。排出枠の取引市場はGX推進機構が開設・運営し、企業は排出量を算定・報告しつつ、この市場を通じて排出枠を売買していく流れになります。

GX-ETS排出量取引制度の全体像。対象企業、排出枠の割当て・報告、GX推進機構が運営する取引市場、上下限価格による価格安定化措置までを示す図。
GX-ETSの制度全体像。CO2直接排出量10万トン以上の事業者を対象に、国が排出枠を割り当て、GX推進機構が排出枠取引市場を運営する流れと、上下限価格による価格安定化措置までをまとめた図。
出典:経済産業省「産業構造審議会 排出量取引制度小委員会 中間整理(案)」資料3(2025年12月9日)。

今回示されたCO2価格レンジとその根拠

今回示されたのは、2026年度向けの「参考上限取引価格」と「調整基準取引価格」です。参考上限取引価格は市場価格が極端に高騰した場合の目安となる上限で、CO2 1トンあたり4,300円と設定されました。調整基準取引価格は、価格が低迷しすぎたときに市場調整を行う際の基準となる価格で、1トンあたり1,700円とされています。

省エネJ-クレジットの価格推移と、GX-ETS下限価格1,700円/トンの算定根拠(2023年10月〜2024年9月の加重平均値)を示すグラフ。
省エネJ-クレジットの市場価格推移。市場開設当初は1,600円程度だったが、2025年には5,000円超まで上昇。
GX-ETSの下限価格1,700円/トンは、2023年10月〜2024年9月の価格の加重平均値を「足元の省エネ対策コスト」として切り上げ設定している。
出典:経済産業省「排出量取引制度における上下限価格の水準(案)」資料3(2025年12月19日)。

排出枠の取引価格自体は市場で決まりますが、価格が上限を大きく超えたり、下限を大幅に下回ったりした場合には、GX推進機構が保有する枠の売り出しや買い入れを通じて価格の安定化を図る設計です。これにより、企業は異常な価格変動リスクを抑えつつ、中長期の投資判断に使える「おおよその価格帯」を持つことができます。

下限となる1,700円は、省エネや再エネ導入などで削減したCO2を証書化する「J-クレジット」の最近の取引価格を参考に決められました。省エネ系J-クレジットの水準を踏まえ、「このくらいの価格であれば企業が削減投資に動きやすい」というラインを下支えにしています。

一方、上限の4,300円は、石炭火力からLNG火力への燃料転換で1トンのCO2を減らす際のおおよその追加コストをもとに設定されています。企業から見ると、「少なくともこの水準までは国内での削減投資を検討する価値がある」というメッセージになります。

石炭火力からLNG火力への燃料転換によるCO2削減1トンあたり追加コストと、その中央値としての4,300円/トンを示すグラフ
燃料転換コストに基づくGX-ETS上限価格4,300円/トン。
出典:経済産業省「上下限価格の水準(案)」

さらに、これらの価格は固定ではなく、物価上昇に合わせて引き上げていく方針が示されています。具体的には、前年度の価格に当該年度の物価変動指数とプラス3%を加えた率を毎年掛け合わせて価格を見直す仕組みで、実質的な炭素価格を徐々に高めていく設計です。

あわせて読みたい
はじめてのGX-ETS:日本の「排出量取引制度」をゼロから理解する GX-ETS(ジーエックス・イーティーエス)は、企業ごとに「CO₂の排出予算(排出枠)」を設定し、余った枠は売り、足りなければ買うことで、日本全体の排出削減を最小コス...

GX-ETSのスケジュールと企業に求められる準備

GX-ETSは、一気に「本番運用」へ進むのではなく、数年かけて段階的に立ち上げるスケジュールになっています。2026年度は排出量の算定やデータ整備に慣れるための期間とされ、自社の排出実績を制度に沿って精緻に把握することが求められます。

そのうえで、2027年度に初回の排出枠割り当てが行われ、この年度に限って2026年度と2027年度の2年分の排出枠をまとめて申請する想定です。同じタイミングで、GX推進機構が運営する排出枠取引市場が2027年度秋ごろに開設され、実際の取引がスタートする流れです。

対象企業は、2026年度から毎年度の排出量を正確に算定し、報告・検証を受ける体制づくりが欠かせません。工場や事業所ごとのエネルギー使用量をどこまで分解して把握するか、スコープ1・2排出をどう集計するかなど、データ管理のやり方を2025〜26年度中に固めておく必要があります。

同時に、排出削減プロジェクトや設備投資の「候補リスト」を整理しておくことも重要になります。排出枠の売却収入や、未達時の負担金リスクを大まかに試算し、どの対策から着手すると効果が大きいかを事前に検討しておくと、制度開始後に意思決定を早く進めやすくなります。

他のカーボンプライシングとの比較と企業・人材への影響

GX-ETSの価格レンジを海外と比べると、日本は「現実的なスタートライン」ではあるものの、決して高い水準ではありません。たとえばEUの排出量取引制度(EU-ETS)では、直近のカーボン価格が1トンあたり80ユーロ前後で推移しており、日本の1,700〜4,300円(おおよそ11〜27ユーロ)の1/3以下の水準です。

国内では、既存の地球温暖化対策税(いわゆるカーボン税)が1トンあたり数百円台にとどまり、価格シグナルとしては弱いと言われてきました。GX-ETSはこのギャップを埋める役割を担い、将来導入予定の化石燃料賦課金とあわせて、段階的に炭素価格を引き上げていく「二本立て」の構成になっています。

企業から見ると、GX-ETSは単に「環境部門の制度対応」では済まず、投資判断や事業戦略に直結する性格が強い制度です。排出枠の価格は、将来のキャッシュフローや設備投資の採算性を左右するため、財務部門や事業部門も含めた全社的な対応が必要になります。社内で内部炭素価格を設定し、GX-ETSの価格レンジを前提にした投資採算のシミュレーションを回しておくと、制度開始後の意思決定がしやすくなります。

人材面では、排出量算定やクレジット活用に詳しい「カーボンマネジメント人材」の重要性が一段と高まります。エネルギー管理や環境報告に加えて、調達、営業、金融機関との対話を担う企画・IR部門などにも、GX-ETSの仕組みと価格レンジの意味を理解している人材が必要になります。こうした人材育成は、GX人材育成の各種検定や社内研修とも組み合わせやすい分野です。

筆者の視点

制度設計を追っている立場から見ると、今回の価格レンジの提示は「量(キャップ)」だけでなく「価格」の射程もようやく見えてきたという意味があります。これまで日本の議論は、対象範囲や無償配分などの枠組み設計が中心でしたが、企業が本気で投資判断に使うには、やはり価格の目安が必要でした。上限4,300円・下限1,700円というレンジは、世界水準と比べると控えめですが、「ゼロではなく、確実にコストになる」ラインを打ち出した一歩だと感じます。

一方で、この水準だけを見ると「高くないから、しばらく様子見でよい」と判断する企業も出てきそうです。重要なのは、価格そのものよりも、今後も制度が見直されていく前提に立ち、「2050年カーボンニュートラル」や「2030年目標」といった長期目標と設備更新サイクルをどう重ねるかです。10〜20年スパンで見たときに、どこで大きな入れ替え投資を打つかが、各社の競争力を分けるポイントになっていきます。

また、GX-ETSには、GX関連の研究開発や設備投資を厚く行う企業に対して、追加の排出枠を割り当てる仕組みなど、イノベーションを後押しするメニューも組み込まれつつあります。これは、DAC(直接空気回収)やCCSといった次世代技術に取り組む企業や、サプライチェーン全体で排出削減ソリューションを提供する企業にとって、新しいビジネス機会の入口にもなり得ます。

企業としては、まず自社の排出プロファイルを正確に把握し、GX-ETSの価格レンジを前提にした複数のシナリオを描いておくことが、当面の実務的な一歩になりそうです。そのうえで、省エネや再エネ、プロセス改善、燃料・原料転換などの候補を棚卸しし、どの順番で進めると「排出削減」と「費用対効果」のバランスがよいかを整理しておくと、制度の詳細が固まったときに素早く動けます。GX-ETSの本格始動は2027年度からですが、価格レンジが見えてきた今こそ、社内での対話と準備を前に進めるタイミングだと感じます。

参考リンク集

  • 経済産業省「排出量取引制度小委員会 とりまとめ(2025年12月19日)」:GX-ETSの制度設計・対象企業・スケジュールを整理した公式資料。リンク
  • 経済産業省「第6回 産業構造審議会 イノベーション・環境分科会 排出量取引制度小委員会(2025年12月9日)」:価格安定化措置や参考上限・調整基準取引価格の考え方を説明した資料。リンク
  • 内閣官房GX実行推進室「GX実現に資する排出量取引制度に係る論点の整理(案)(2024年12月19日)」:GX-ETSの全体像や対象事業者、価格安定化措置などをまとめた論点整理。リンク
  • 東京証券取引所「カーボン・クレジット市場」:J-クレジットなどを扱う東証カーボン・クレジット市場の概要と最新情報。リンク
  • CarbonCredits.jp「経産省、排出量取引制度小委員会が意見とりまとめ GX-ETSが『義務フェーズ』へ」(2025年12月):今回のとりまとめ内容と価格レンジ、クレジット利用上限などを解説。リンク
  • Sustainable Japan「【日本】経産省、GX-ETS詳細設計とりまとめ。基準価格1トン1,700円・上限4,300円」(2025年12月21日):上限・下限価格や今後の引き上げルールをわかりやすく整理。リンク
  • EXRoad「GX-ETS第2フェーズとは?第1フェーズとの違いをわかりやすく解説」(2025年5月29日):ベンチマーク方式・グランドファザリング方式や未達時のペナルティの考え方を紹介。リンク

ニュースレターを購読する

NetZero Insights Japanの新着・注目トピックを週1で配信します。更新情報を見逃したくない方は是非ご登録ください。

 

※ 時々メールマガジン限定の情報も配信するかもしれません。

 

 

このフォームで取得したメールアドレスは、NetZero Insights Japanのニュースレター配信にのみ利用します。

ニュースレターの購読を申し込むことで、プライバシーポリシーに同意したものとします。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

目次