Boom Supersonicとは?超音速旅客機「Overture」で空の再発明を狙うスタートアップ

Boom Supersonicの超音速旅客機Overtureが地球上空を飛ぶフラットイラスト

コンコルド引退から20年以上たち、超音速旅客機をもう一度ビジネスとして成り立たせようとする動きが加速しています。米国デンバー発のスタートアップBoom Supersonicがマッハ1.7の旅客機「Overture」を2030年前後の就航に向けて開発し、すでに累計130機分の注文・事前予約と数億ドル規模の資金を集めています。

目次

3行サマリー

  • Boom Supersonicは2014年創業の米スタートアップで、マッハ1.7の超音速旅客機「Overture」を開発中です。
  • 技術実証機「XB-1」は2024年に初飛行し、2025年1月に音速の壁を突破して、民間主導の超音速旅客機開発で大きな節目を迎えました。
  • United・American・JALなどから合計約130機分の注文・事前予約を獲得しつつも、資金・規制・環境負荷など多くの課題を抱えるプロジェクトです。

Boom Supersonicとはどんな会社か

Boom Supersonicは米コロラド州デンバーに本社を置く、2014年創業の航空スタートアップです。元Amazonエンジニアのブレイク・ショール氏が「世界中の移動時間を半分にする」というビジョンを掲げて立ち上げました。既存メーカーではなく、ベンチャーが超音速に挑むという構図が特徴です。

同社の中心事業は、超音速旅客機「Overture」の開発と販売です。コンコルドのような一部富裕層向けではなく、「ビジネスクラス並みの運賃で乗れる超音速」を目標にしています。機体を航空会社に提供し、航空会社が自社ブランドで運航するビジネスモデルを取っています。

資金調達面では、ベンチャーキャピタルや戦略投資家から累計数億ドル規模の資金を調達してきました。出資者には、Bessemer Venture PartnersなどのVCに加えて、クレジットカード大手や中東の投資ファンドなども含まれます。これにより、研究開発と工場建設を同時並行で進める体制を整えています。

一方で、2024〜2025年にかけては人員削減や評価額の見直しが海外メディアで報じられており、事業の難しさも明らかになっています。民間スタートアップが大型機開発をリードすることは、資金面・技術面の両方で通常以上にハードルが高いテーマだということがよく分かります。

Boom Supersonicが開発中の超音速旅客機Overtureの公式イメージCG
oom Supersonicが開発する超音速旅客機『Overture』のレンダリングイメージ(出典:Boom Supersonic公式サイト)

主力機「Overture」と技術実証機「XB-1」の特徴

Overture(オーバーチュア)は、Boom Supersonicが開発中の超音速旅客機です。座席数は60〜80席クラスで、全席ビジネスクラス相当のプレミアムキャビンを想定しています。巡航速度はマッハ1.7、航続距離は約4,250海里(約7,900km)とされ、ロンドン〜ニューヨークを約3.5時間、東京〜シアトルを4〜5時間程度に短縮するイメージです。

機体はコンコルド同様のデルタ翼を持ちつつ、炭素繊維複合材を広範囲に用いて軽量化と燃費向上をねらっています。エンジンはアフターバーナーを使わない中バイパス比ターボファン4発構成で、騒音と燃費をバランスさせる設計です。さらに、100%の持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel、SAF)に対応することを前提とした設計になっています。

これに対し、XB-1はOvertureのための技術実証機です。XB-1は全長約19メートルの3発ジェット機で、炭素繊維複合材の機体、既存のJ85エンジン、最新の空力設計などを組み合わせています。目的は「民間企業単体で超音速機を設計・製造し、実際に飛ばせるかどうか」を検証することです。

XB-1は2024年3月に初飛行し、2025年1月にカリフォルニア州モハーベでマッハ1.1の超音速飛行に成功しました。民間企業が独自開発したジェット機として初めて音速を突破した例とされ、コンコルド退役以来途絶えていた民間超音速への道を、再び現実のものとして見せた出来事でした。

超音速旅客機Overtureの技術実証機となるXB-1。2025年1月にマッハ1.1での超音速飛行に成功した(出典:Boom Supersonic公式サイト)

XB-1の飛行データや設計ノウハウは、将来のOvertureにそのまま活かされていきます。小さな機体で超音速時の空力・構造・制御を確認し、その学びを量産機の設計に反映するという段階的なアプローチは、リスクを抑えながら開発を進めるうえで重要なステップになっています。

事業モデルとパートナーシップ、日本とのつながり

Boom Supersonicは、単なる機体メーカーではなく「超音速エコシステムの核」としてのポジションを目指しています。ノースカロライナ州グリーンズボロの空港敷地内には、自社組立工場「Overture Superfactory」を建設し、2024年に建屋が完成しました。ここで年間数十機規模のOvertureを組み立てる計画を掲げています。

航空会社との関係では、United Airlinesが15機の発注と35機のオプション、American Airlinesが20機の発注と40機のオプションを表明しました。両社とも「安全性・運航性・サステナビリティの要件を満たすこと」を条件に契約を進めるとしています。超音速という新領域に、メガキャリアが名乗りを上げている点は象徴的です。

日本とのつながりでは、日本航空(JAL)が2017年にBoom Supersonicへ1,000万ドルを出資し、最大20機の事前予約オプションを取得しました。JALは機体設計や客室コンセプトの検討にも協力しており、日本発の超音速旅客サービスを見据えたパートナーシップになっています。

これらの契約を合計すると、Boomが公表している注文・事前予約は130機規模に達します。ローンチ顧客はまだ限られていますが、United、American、JALといった大手航空会社の名前が並ぶことで、技術だけでなく「顧客の本気度」を示すサインにもなっています。

規制・環境負荷とサステナビリティ戦略

超音速旅客機が直面する最大のハードルのひとつは、騒音規制です。現在、多くの国では「陸上での超音速飛行」を制限するルールが残っており、コンコルドも当時は海上ルートに飛行が限定されていました。Overtureも当面は大西洋横断など海上中心のルートで、ビジネスとして成立させる必要があります。

米国ではNASAとロッキード・マーチンが低ソニックブーム実証機「X-59(Quesst)」の飛行試験を進めており、将来の騒音規制見直しにつながるデータを集めています。Boom自身も、気象条件とソフトウェア制御を組み合わせて「地上に可聴なソニックブームを届きにくくする飛行プロファイル」を研究しており、規制環境に適応しながら技術側からもアプローチしています。

もう一つの大きな論点が、温室効果ガス排出です。超音速機は物理的な制約から、どうしても旅客1人あたりの燃料消費が多くなりがちです。一方、航空業界全体は「2050年ネットゼロ」を掲げており、環境NGOや投資家からの視線も厳しくなっています。ここをどう説明し、どう改善していくかがBoomにとっての勝負どころです。

Boomはこの課題に対し、「Overtureを最初から100%SAF対応」にする方針を示しています。CO₂を原料とする合成燃料スタートアップなどと長期オフテイク契約を結び、試験飛行や初期運航で使用するSAFの調達を進めています。また、自社工場の運営にも再エネを積極的に使い、機体のライフサイクル全体での排出削減を打ち出しています。

とはいえ、SAFはまだ世界の航空燃料全体のごく一部にとどまり、価格も化石燃料より高い状態が続いています。超音速旅客機は「スピード」という魅力がある一方で、「環境負荷」「燃料コスト」というハンディキャップも抱えており、これをビジネスとして許容できる顧客層をどこまで広げられるかが、今後の焦点になります。

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他の超音速プロジェクトとの比較と航空業界へのインパクト

超音速分野には、Boom Supersonic以外にも複数のプレーヤーが挑戦してきました。過去にはビジネスジェット向けの超音速機を構想したAerionが資金難で撤退し、近年ではExosonicなども軍・政府向け案件を取り込みながら開発を進めようとしていましたが、事業継続の難しさが報じられています。超音速は技術だけでなく、長期の資金と顧客のコミットメントを必要とする領域です。

政府・研究機関側では、NASAとロッキード・マーチンによるX-59が、静かな超音速飛行データを規制当局に提供する役割を担っています。これとは別に、Hermeusのようにマッハ5級の極超音速機を軍事用途中心に開発する企業も出てきており、目的やビジネスモデルは多様化しています。用途が軍事か民間かによって、求められる仕様や採算条件は大きく異なります。

そうした中で、Boom Supersonicの特徴は「最初から民間旅客市場、とくにビジネスクラス需要にフォーカスしている」点です。United、American、JALといった大手航空会社と組み、国際線のプレミアム需要を狙い撃ちするポジショニングを取っています。ネットゼロ時代の航空市場で、どの程度の“高速移動プレミアム”が許容されるかを試す存在とも言えます。

航空業界全体で見ると、超音速旅客機が本格的に復活するかどうかは、単に飛行時間を短くするだけの話ではありません。企業の出張ポリシー、エグゼクティブの働き方、グローバル拠点の配置、さらには「どの都市同士が実質的に日帰り圏になるか」といった地政学的な距離感にも影響します。成功すれば、国際ビジネスの常識そのものを変える可能性があるテーマです。

筆者の視点

事業開発の目線でBoom Supersonicを見ると、「技術・資金・規制・環境」という難しい要素がすべて重なった非常にチャレンジングなプロジェクトだと感じます。通常であれば国家プロジェクトか大手航空機メーカーが担うようなテーマに、スタートアップが正面から取り組んでいる構図は、それだけで強いストーリー性を持っています。

一方で、報道されているような人員削減や評価額の揺れを見ると、資金繰りとマイルストーン達成のマネジメントが極めて厳しいことも想像できます。とくにネットゼロ目標が前提となった今の航空業界では、「超音速は時代に逆行していないか」「プレミアム需要にだけ環境負荷を上乗せしてよいのか」といった問いが避けられません。Boomは技術だけでなく、こうした問いへの答え方も含めて、ストーリーを組み立てる必要があります。

日本の企業にとって重要なのは、「超音速そのものに直接関わるかどうか」だけではなく、その周辺で生まれる技術・サプライチェーンの機会をどう捉えるかです。SAF、軽量複合材、エンジン部材、計測機器、空港インフラ、カーボンクレジットなど、周辺領域には日本企業が強みを持つ分野が多くあります。超音速がニッチ市場にとどまったとしても、その過程で育つ技術や人材は他の航空・宇宙分野にも波及していきます。

もしOvertureが計画どおり就航し、東京〜欧米主要都市のフライトが4〜5時間台になれば、国際ビジネスの前提条件が変わります。その一方で、仮に計画が遅延したり規模が縮小したとしても、SAFや低騒音技術、軽量構造などの要素技術は確実に次世代の航空機に取り込まれていきます。Boom Supersonicは、超音速という「見えやすい夢」を入り口にしつつ、その裏でさまざまなクライメートテックと航空技術が交差する実験場になっている、という見方をしておくと、ニュースを追いやすくなります。

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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