ダイキン×J-REITで既存ビルZEB Readyへ JPR心斎橋ウエストの空調ダウンサイジング改修

ダイキンとJ-REITが手がける心斎橋オフィスビルのZEB Ready空調ダウンサイジング改修をイメージしたイラスト

オフィスビルの省エネ改修で、空調だけを更新してZEB認証を取る動きが広がっています。日本プライムリアルティ投資法人が保有する「JPR心斎橋ウエスト」がZEB Readyを取得し、ダイキン工業の空調改修で一次エネルギー消費量50%以上削減を前提とした投資物件になりました。

目次

3行サマリー

  • 2025年10月、JPR心斎橋ウエストが既存ビルとして初めてBELS六つ星・ZEB Readyを取得し、同社の環境認証付き物件ポートフォリオに加わりました。
  • ダイキン工業は既設配管を活用した空調機の「ダウンサイジング改修」を提案し、夏のピーク時でも能力の約半分しか使っていなかった既存設備を最適容量に切り替えました。
  • 環境認証比率86.1%と国内空調売上6465億円(2025年3月期)を背景に、既存ビル市場を開拓する重要な一手になっています。

ZEBレディ制度の概要と今回の位置づけ

ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)は、建物の省エネと再生可能エネルギー導入を組み合わせて、年間の一次エネルギー消費量の収支ゼロを目指す建物の枠組みです。日本政府は「ZEB」「Nearly ZEB」「ZEB Ready」「ZEB Oriented」という4つの水準を定め、段階的な普及を目指しています。

「ZEB」「Nearly ZEB」「ZEB Ready」「ZEB Oriented」4つの水準(出典:環境省)

このうちZEB Readyは、再エネを除いた一次エネルギー消費量を基準建物比で50%以上削減していることが条件です。高効率空調や照明、制御の工夫だけで高い省エネ性能を示せるため、既存ビルの「現実的な第一歩」として採用が増えています。

政府はエネルギー基本計画で、2020年以降の新築公共建築物と2030年までの新築建築物全体でZEBを実現する方針を示しています。その中間ステップとしてZEB ReadyやZEB Orientedの活用を促しつつ、既存ストックの省エネ改修も進める考えです。

今回、JPR心斎橋ウエストがBELS評価で六つ星を獲得し、ZEB Readyとして登録されたことは、築年数のある都心オフィスビルでも空調改修を軸に高水準の省エネ認証を目指せることを示す象徴的なケースになっています。

ダイキンとJPR心斎橋ウエストの空調改修

JPR心斎橋ウエストは、大阪市中央区南船場四丁目に立つ1986年竣工のオフィスビルです。心斎橋駅から徒歩3分の立地にあり、基準階約200坪クラスのオフィスフロアに複数のテナント企業が入居しています。

同ビルにはもともとダイキン製の業務用マルチエアコンが導入されていましたが、夏場のピーク時でも能力の約51%程度しか使っていないことが、運転データ分析で明らかになりました。建設当時の負荷想定に余裕を持たせていたことや、テナントの利用形態の変化が重なり、結果として設備能力が過大になっていたかたちです。

ダイキンはこの結果を踏まえて、既設の冷媒配管はそのままに、室内機と室外機のみを更新する「ダウンサイジング改修」を提案しました。既設配管対応のビル用マルチエアコンを活用することで、テナントが入居したままでもフロア単位・ゾーン単位で短期間の工事に抑えながら、最適容量の空調システムへの切り替えを進めています。

こうした改修提案は、ダイキンが展開する「既存ビルESG価値向上ソリューション『グリーンビルサポートサービス』」と一体になっています。同サービスは、省エネ診断から改修支援、BELS・CASBEE不動産などの環境認証取得支援、運用改善までを5つのステップで提供し、代表的な案件では改修で56%、運用改善でさらに5%以上の電力削減を実現したと紹介しています。

ダイキンのグリーンビルサポートサービス5ステップ図
ダイキンの『グリーンビルサポートサービス』では、省エネ診断から改修・認証取得・運用改善までを5ステップで支援します。
JPR心斎橋ウエストのZEB Ready取得もこの枠組みの中で進められました。(出典:ダイキン工業)

JPR心斎橋ウエストのZEB Ready取得も、空調の見直しを起点にした省エネ診断と設備更新、そして環境認証取得の支援という一連の流れの中で位置づけられており、ダイキンにとっても既存ビルビジネスの重要なショーケースになっています。

ZEB×J-REITの文脈と導入スキーム

日本プライムリアルティ投資法人(JPR)は、「環境認証等の取得」をESG戦略の柱のひとつとして掲げています。BELSやCASBEE不動産といった第三者認証を積極的に取得しており、2025年6月時点で延床面積ベースの環境認証比率は86.1%まで高められています。

その中で、JPR心斎橋ウエストのZEB Ready取得は、同投資法人として初のZEB Ready事例です。これまではZEB Orientedレベルの物件が中心でしたが、一次エネルギー消費量50%以上削減という高い水準で評価されたオフィスビルがポートフォリオに加わったことで、ESG評価やグリーンボンドの裏付け資産としてもアピールしやすくなりました。

オフィスビルの消費電力は、空調・換気で約半分、照明で約4分の1を占めるとされています。特に空調は負荷が大きく、テナントが入居したままでも改修しやすい分野なので、J-REITにとって「短期に成果を出せる省エネ投資」として扱いやすい領域です。ZEB Ready認証は、その効果を投資家に伝えるうえで分かりやすい指標になります。

一方、ダイキンの国内空調事業は2025年3月期に6465億円の売上高(前年同期比1割増)を計上していますが、日本のオフィスビル新築件数は減少傾向が続いています。全国に多数ある1980〜2000年代竣工のオフィスビルや商業ビルの改修需要を、ZEBや環境認証を切り口に掘り起こすことは、空調メーカーにとっても重要な成長テーマになっています。

他の選択肢との比較・棲み分けと企業・人材への影響

ZEBを目指す改修では、窓の高断熱化や外壁改修などの外皮性能向上と、高効率空調やLED照明、BEMSによる全館制御、屋上太陽光などを組み合わせるケースが一般的です。特に新築や大規模リノベーションでは、建物全体の断熱性能と設備の高効率化をセットで計画することが多くなっています。

これに対して、JPR心斎橋ウエストのように空調のダウンサイジングと制御最適化を中心にZEB Readyを狙うアプローチは、テナントが入居したままでも実行しやすいのが特徴です。配管をそのまま生かし、室内機と室外機を順次入れ替えていく方式であれば、フロアごとの工事期間を短くでき、テナントの営業への影響も抑えられます。

一方で、空調だけに依存した省エネには限界があるため、長期的には照明や外皮、再エネとの組み合わせが必要です。今後は、総合建設会社やサブコンが中心になって進めるフルリノベ型のZEB改修と、空調メーカーや設備会社が主導する設備更新型のZEB Ready改修が棲み分けながら、それぞれの物件特性に合った形で広がっていきそうです。

企業側では、J-REITのアセットマネージャーやビルオーナーだけでなく、テナント企業の総務・設備担当も、ZEBやBELS、CASBEE不動産といった環境認証の基本的な仕組みを押さえておく必要があります。省エネ性能と認証レベルが、賃料や投資評価だけでなく、採用やESGレポーティングにも影響する場面が増えていく可能性があります。

筆者の視点

ビル分野の脱炭素という大きなテーマの中で、今回の事例でまず目に留まるのは「既存ビル×J-REIT×空調メーカー」という組み合わせです。新築に比べて制約の多い既存ビルで、配管を残したまま空調をダウンサイジングし、ZEB Readyまで一気に持っていくスキームは、同じようなストックを多く抱えるオーナーにとって現実的な選択肢になりやすいと感じます。

また、ダイキンのグリーンビルサポートサービスのように、診断から改修、認証取得、運用改善までを一体で支援するモデルは、設備メーカーのビジネスの幅を大きく広げています。単に新しいエアコンを販売するのではなく、「ESG評価を高める投資プロジェクト」としてパッケージ化することで、J-REITや金融機関との対話もしやすくなります。

一方で、空調だけに頼った省エネに過度な期待を持つことには注意も必要です。極端な猛暑日への備えやテナントのレイアウト変更への対応など、快適性や事業継続性とのバランスを取りながら設計・運用していく視点は欠かせません。その意味で、運用段階での計測と改善を続けるサービスがセットになっていることは、大きな安心材料になります。

今後、都心の中規模オフィスでは、「まずは空調と照明の更新でZEB Readyを目指し、その後のタイミングで外皮改修や再エネ導入も検討する」という二段構えの改修が増えていくはずです。自社ビルを持つ企業やREIT物件と取引のある事業会社は、こうしたスキームを押さえておくことで、自社の脱炭素戦略とオフィス戦略を結びつけやすくなります。

参考リンク集

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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