Fervoの大型EGSラウンドとHelical FusionのAラウンド 地熱と核融合の実装フェーズが一歩前進|クライメートテック資金調達 #017

次世代クリーンエネルギーのイメージ図。左側に拡張地熱システム(EGS)の地中断面と発電施設、右側に青く発光するプラズマを持つヘリカル型核融合炉を描写。中央に「Fervoの大型EGSラウンドとHelical FusionのAラウンド」「地熱と核融合の実装フェーズが一歩前進」というブログ記事タイトルを配置。

今週は、〔スタートアップ資金調達〕に$1,288m、〔M&A / Exit〕に$6,500m、〔プロジェクト・デット〕に$1,180mが集まりました(合計$8,968m、非開示は集計外)。

目次

3行サマリー

スタートアップ資金調達動向:
拡張地熱システムEGSを開発するFervo Energyが$462mのGrowthラウンドを調達し、今週最大のエクイティ案件になりました。Blue CurrentやBoom Supersonicなどの大型ラウンドに加え、日本発のFullDepthとHelical Fusionも合計$12mを調達しました。

プロジェクト資金調達動向:
プロジェクト・デットは合計$1,180mで、スウェーデンのElvyによる家庭向けエネルギーサブスク向けDebt$587mと、Potentia Energyの風力・蓄電PF$553mが存在感を示しました。eVTOL開発のEve Air Mobilityも運転資金向けに$40mのデットを確保しています。

政策動向:
EUが2040年までの温室効果ガス90%削減の法的拘束力ある目標で暫定合意し、タイでは初のClimate Change Act(気候変動法案)が閣議で原則承認されました。

今週の資金調達動向

サマリー(USD概算)

グループ件数開示額合計主な資金種別代表案件
スタートアップ/コーポレート(エクイティ/研究助成等)17$1,288mSeries A〜D、Growth、VCファンド組成Fervo Energy $462m Growth、Boom Supersonic $300m Series B
M&A / Exit6$6,500m(公表分1件)M&A、BankruptcyAlinta EnergyをSembcorpが$6.5bで買収
プロジェクト系(PF/デット/資産売買)3$1,180mPFデット、コーポレートデットElvy $587m Debt、Potentia Energy $553m PF Debt

— 注:合計は概算・非開示を除く。為替目安:£→$1.33、A$→$0.68、€→$1.10、C$→$0.74、¥→$0.0067(端数は$0.1m未満切り捨て)。通貨併記は一次発表に準拠します。

A. スタートアップ / コーポレート

企業/国金額/ステージ概要主な投資家
Fervo Energy/US$462m/Growth拡張地熱システムEGSでデータセンター向けのクリーンファーム電源を開発B Capital、Temasek、CPP Investments、DCVC、三井物産
Boom Supersonic/US$300m/Series B持続可能な航空燃料SAF対応の超音速旅客機Overtureを開発NEOM Investment Fund、Sanabil Investments、The Engine
Blue Current/US$80m/Series Dセラミック系全個体電池を量産向けに開発Koch Disruptive Technologies、Volta Energy Technologies、Northvolt
bound4blue/ES$44m/Growth船舶向けの自動展開式ウイングセイルで燃料消費と排出削減を支援Rubicone SPV、GTT Strategic Ventures、Shift4Good
Qargo/BE$33m/Series B貨物輸送向けの運行計画と積載効率を最適化するクラウドTMSを提供DST Global、Scale-Up Founders、BGF
Haven Energy/US$20m/Growth家庭向けのヒートポンプと蓄電池を組み合わせた電化パッケージを販売Giant Ventures、Neutral、Lazard Asset Management
FullDepth/JP$6m/Series D水中ドローンとセンサーで海洋モニタリングやブルーカーボン計測を提供Spiral Capital、環境エネルギー投資、凸版印刷
Veragrow/FR$5m/Growth昆虫と海藻由来の液体肥料で土壌改良と投入資材削減を両立IDIA Capital Investissement、bpifrance、Nord France Amorçage
Overview Energy/US$20m/Seed軌道上の衛星から赤外線ビームで地上の太陽光発電所に電力を送電Andreessen Horowitz、Breakthrough Energy Ventures、Construct Capital
Spoor/NO$9m/Series A風力発電所の映像解析で鳥類衝突リスクを検知し停止時間を最小化Investinor、Scale Capital、Nysnø Climate Investments
Orbital Marine Power/GB$9m/Growth海流タービンで潮流発電を行う浮体プラットフォームを開発Scottish National Investment Bank、Gresham House
Melt&Marble/SE$9m/Series A代替肉向けの発酵由来脂質で食感と風味を再現する原料を開発Lever VC、Astanor Ventures、Good Startup
Wakuli/NL$6m/Series A生産者と生活者をつなぐサステナブルコーヒーのD2Cサブスクリプションを展開Rubio Impact Ventures、ABN AMRO Ventures
Helical Fusion/JP$6m/Series A磁場閉じ込め方式の核融合炉と関連部材を開発する日本発スタートアップリオスキャピタルワークス、ユーグレナ、個人投資家
FoodLabs Fund III/DE$122m/VC Fund食品とクライメートテック領域に投資する第3号ファンドを組成機関投資家、ファミリーオフィス
Ada Ventures Inclusive Alpha Fund II/GB$80m/VC Fund多様な創業者にフォーカスしたインクルーシブVCファンド第2号を組成英国投資銀行、年金基金
Transition VC/US$77m/VC Fund産業脱炭素とクライメートテックに特化した初号ファンドを組成コーポレートVC、機関投資家

Fervo Energy — 特集

会社の概要

Fervo Energyは、米国発の次世代地熱スタートアップで、シェール開発で培われた水平坑井や計測技術を活用して拡張地熱システムEGSを商用化しようとしている会社です。本社は米国西部にあり、ユーティリティやテック企業向けに数百MW規模の地熱プロジェクトを開発しています。既に大手IT企業や電力会社との長期電力契約を獲得しており、クリーンで安定したベースロード電源を提供することを目指しています。

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何ができるのか

Fervo Energyは、変動の大きい太陽光や風力を補うクリーンなベースロード電源を供給できる点が特徴です。データセンターや大口需要家向けには、24時間365日分の電力を時間帯別に紐づける形で提供し、いわゆる「24/7カーボンフリー電力」ポートフォリオの一部として組み込まれています。従来の地熱が得意だった地域熱供給だけでなく、広域送電網につないで系統全体の安定化に寄与できる点も、ユーティリティから評価されています。

技術のしくみ

拡張地熱システムEGSは、地下深部の高温岩盤に複数の水平井を掘削し、水を循環させて人工的な熱交換層を作る技術です。Fervo Energyは油ガス業界で使われてきた多段水圧破砕や水平多枝掘削を応用し、地中に広がるき裂ネットワークを制御しながら熱を引き出します。さらに、坑井内に光ファイバーセンサーを敷設し、温度や流量をリアルタイムに計測することで、貯留層の状態をモニタリングしながら運転条件を最適化します。この組み合わせにより、掘削リスクと運転コストの両方を抑えつつ、長期間安定して発電できることを狙っています。

地熱発電の基本構造イメージ。EGS型は人工的に亀裂を作り、従来より広い地域での開発を可能にする
(出典:資源エネルギー庁『次世代型地熱推進官民協議会 中間取りまとめ』2025年10月)
他社との違い
  • 油ガス由来の掘削技術とファイバーセンシングをフル活用したEGS開発で、既に商用規模に近い案件を複数走らせていること
  • IT企業や大手ユーティリティとの長期契約を通じて、クリーンなベースロード電源としての実績と収益モデルを築きつつあること
  • 高温リソースに限定されないEGS技術により、世界各地で再現性を持ったプロジェクトパイプラインを構築しやすいこと
どこで効果が出やすいか/日本での示唆

Fervo Energy型のEGSは、既に油ガス開発の実績がある地域や、送電網に近い高温地帯で効果が出やすいモデルです。日本では地下資源の権利構造や温泉との調整が課題になりますが、AIデータセンターや産業用クラスター向けのクリーンファーム電源という位置づけは共通しています。日本企業にとっては、海外EGS案件への出資や共同開発を通じて経験を積み、国内の次世代地熱や高温岩体発電プロジェクトに応用する動きが現実的な一歩になりそうです。Fervo Energyのような大型ラウンドが成立していること自体が、クリーンなベースロード電源への投資マインドが世界的に高まっていることを示していると言えます。

B. M&A / Exit

企業/国金額/資金種別・ステージ概要
Alinta Energy/AU$6,500m/M&A豪州で発電所と小売を展開する電力事業者をSembcorpが買収
Shepherd Power/US非開示/M&A分散型電源とマイクログリッド開発事業がNatura Resourcesグループに参画
Kateri/US非開示/M&A自然資本プロジェクト開発プラットフォームがCultivoに買収されスケールアップ
Solar Choice/AU非開示/M&A太陽光案件開発と見積もりプラットフォームをFlow Powerが取得
ClearGen/US非開示/M&A分散型エネルギー資産の開発と保有事業がCBRE Investment Managementに売却
Primus Power/US非開示/Bankruptcyグリッド向けフローバッテリー開発企業が破産し資産整理プロセスに移行

C. プロジェクト系

企業/国金額/資金種別・ステージ概要
Elvy/SE$587m/Debt家庭向けエネルギーサブスクリプションモデル拡大に向けた長期デットファシリティを調達
Potentia Energy/CA$553m/PF Debtオンショア風力と蓄電池ポートフォリオ向けに長期プロジェクトファイナンスを組成
Eve Air Mobility/BR$40m/DebteVTOL機の開発継続と認証取得に向けた短期運転資金デットを確保

参考文献・出典リンク一覧

一次情報・企業プレス・公的資料

  • Fervo Energy — 資金調達およびプロジェクト概要(2025年12月)公式サイト
  • Boom Supersonic — Series B拡張ラウンドに関するニュースリリース(2025年12月)ニュース一覧
  • Blue Current — 全固体電池のSeries D資金調達に関する発表(2025年12月)公式サイト
  • bound4blue — ウイングセイル事業拡大のための成長資金調達リリース(2025年12月)公式サイト
  • FullDepth — シリーズD調達および水中ドローン事業拡大に関するお知らせ(2025年12月)公式サイト
  • Helical Fusion — シリーズA調達と事業計画に関するニュース(2025年12月)公式サイト
  • Overview Energy — Space solar powerプラットフォーム構想とSeedラウンド発表(2025年12月)公式サイト
  • Elvy — 家庭向けエネルギーサブスクリプション拡大に向けた大規模デット調達の発表(2025年12月)公式サイト
  • Potentia Energy — 風力・蓄電池ポートフォリオ向けPFデット組成に関する発表(2025年12月)公式サイト
  • Eve Air Mobility — 2029年までの事業計画を支えるデットファイナンスに関するリリース(2025年12月)ニュースページ
  • European Commission — 2040年に向けた90%温室効果ガス削減目標に関するプレスリリース(2025年12月9日)プレスコーナー
  • Royal Thai Government Public Relations Department — Cabinet Approved in Principle Draft Climate Change Act(2025年12月4日)政府広報

CTVC

CTVC Issue 275(本稿は同号の「Deals of the Week(2025/12/8–12/15)」を起点に、一次情報で裏取りし独自に要約・分析しました。先週号は #274)。

略語集

略語正式名称・説明
EGSEnhanced Geothermal Systems(拡張地熱システム)。人工的に貯留層を形成して熱を取り出す地熱発電方式。
PFProject Finance(プロジェクトファイナンス)。案件のキャッシュフローを返済原資とするノンリコースまたはリミテッドリコース型の資金調達。
eVTOLelectric Vertical Take-Off and Landing aircraft(電動垂直離着陸機)。電動化された次世代航空機の一種。
GHGGreenhouse Gas(温室効果ガス)。CO₂やメタンなど、地球温暖化に影響するガスの総称。

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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