三井物産が米Fervoに出資 次世代地熱EGSでAIデータセンター向けクリーン電源を開発

三井物産は、米ファーボ・エナジー(Fervo Energy)への出資を通じて、次世代型地熱発電とデータセンターを一体開発する構想を進めています。AIの普及で世界的に電力需要が増えるなか、安定したクリーン電源を日本企業としてどう確保するかが焦点になります。

Fervo Energyがネバダ州で運転するEGS型地熱発電の実証プラントProject Redの写真
米ネバダ州で運転中のFervo EnergyのEGS実証設備“Project Red”。
グーグルのデータセンター向けにクリーン電力を供給している
(出典:Google Sustainability Blog, 2023年11月)」
目次

3行サマリー

  • 三井物産はファーボに数億円規模で出資し、次世代地熱の案件開発と協業を進めます。
  • ファーボはEGS型地熱で実証運転を行い、グーグルのデータセンター向けに電力を供給しています。
  • 日本は次世代地熱で約77GWのポテンシャルを持ち、導入が進めば数十兆円規模の経済効果が見込まれます。

三井物産がファーボに出資する狙い

三井物産は、ファーボ・エナジーへの出資で次世代地熱ビジネスへの足場を固めます。出資額は数億円規模とされ、今後はクリーン電力を求める企業の紹介や案件形成を通じて、国内外での発電所開発を共同検討します。

三井物産はこれまでも、データセンターや再生可能エネルギー案件への投資を世界各地で進めてきました。次世代地熱を組み合わせることで、「AIデータセンター向けの安定したクリーン電源」を自ら設計できる体制を整えようとしています。

まとめると、三井物産は次世代地熱を通じて、成長が見込まれるAI電源市場で主導権を握ることを狙っています。

ファーボのEGS型地熱:平地でも狙える次世代地熱

ファーボは、強化地熱発電(Enhanced Geothermal Systems:EGS)と呼ばれる次世代地熱技術を開発しています。これは、地下の高温岩盤に人工的に亀裂を入れ、水を循環させて熱水や蒸気を取り出し、地上でタービンを回して発電する仕組みです。

地熱発電の基本構造イメージ。EGS型は人工的に亀裂を作り、従来より広い地域での開発を可能にする
(出典:資源エネルギー庁『次世代型地熱推進官民協議会 中間取りまとめ』2025年10月)

従来の地熱発電は、温泉地や火山地帯など、自然の透水性がある地域に依存していました。EGSは、人工的に亀裂ネットワークを形成することで、従来は適さないとされてきた平地や新たな地域でも開発できる可能性があります。

ファーボは米ネバダ州で出力3,500kWの実証機を2023年から運転し、グーグルのデータセンター向けにクリーン電力を供給しています。さらに2026年には、出力10万kW級の商用機の稼働を計画しており、実現すれば世界初の本格的な次世代地熱の商業運転になります。

一言で言うと、ファーボのEGSは「地熱発電を特定の温泉地から、より広い地域で使える基盤電源に変える技術」です。

日本で高まる次世代地熱のポテンシャルと政策

経済産業省の試算では、日本の地熱資源は従来型だけでなく、次世代型を含めると大きく拡大します。従来型での開発ポテンシャルが約2,000万kW台とされるのに対し、次世代型を前提にすると約7,700万kWまで広がると整理されています。

日本全国の地熱資源ポテンシャルと高温域を示した地図。次世代型地熱で約7,700万kWを見込む
日本の次世代型地熱ポテンシャルと高温域マップ。従来型の約3倍となる約7,700万kWの資源量が見込まれている
(出典:資源エネルギー庁『次世代型地熱推進官民協議会 中間取りまとめ』2025年10月)

このうち1割にあたる約770万kWを開発できた場合、建設と運転を通じた経済波及効果は29兆〜46兆円規模になると試算されています。設備投資、地域雇用、関連産業への波及を考えると、日本経済にとっても大きなテーマです。

日本はもともと地熱発電の適地が多く、タービンなど主要機器では東芝や三菱重工業といった国内企業が高い世界シェアを持っています。風力発電や太陽光発電に比べて輸入部材への依存度が低く、エネルギー安全保障と産業競争力の両方に貢献する電源として次世代地熱の重要性が増しています。

政府は2030年代の実用化を目標に、資源量調査や掘削リスクへの支援など、企業が挑戦しやすい制度づくりを進めています。一方で、国立公園や温泉地との調整、誘発地震への懸念など、地域との合意形成は今後も大きな課題です。

他社動向:三菱商事・三菱重工も次世代地熱に布石

商社・重電メーカーの間では、次世代地熱への投資がすでに始まっています。三菱商事は2024年、深部地熱技術を開発する米クエイズ・エナジー(Quaise Energy)に出資し、超深部での地熱利用の可能性を探っています。

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クエイズ・エナジーはミリ波を使って岩盤を蒸発させる掘削技術により、より深く高温の地熱資源へアクセスすることを目指す企業です。三菱商事は、2020年代後半の米国での発電開始と、その後の日本への技術導入を見据えて、国内の電力会社などとの連携を進めています。

また三菱重工業は2024年にファーボへ出資し、グループの地熱タービン技術や有機ランキンサイクル(ORC)設備との連携を図っています。これにより、次世代地熱プロジェクトでの発電効率向上やプラント供給の機会を広げています。

三井物産、三菱商事、三菱重工業といったプレーヤーが異なるタイプの次世代地熱技術に投資していることで、日本企業は複数の技術オプションを確保しながら将来の事業機会を探る形になっています。

AIデータセンター電源としての次世代地熱

AIやクラウドの普及で、データセンターの電力需要は世界的に急増しています。一部の試算では、2030年代には世界の電力消費の数%をデータセンターが占める可能性も指摘されており、電源制約が成長のボトルネックになりつつあります。

地熱発電は、再生可能エネルギーの中でも出力が安定し、設備利用率も高いのが特徴です。24時間稼働が前提となるAIデータセンターにとって、安定したベースロード電源を長期契約で確保できる点は大きな魅力です。

実際に、ファーボはネバダ州での実証プラントからグーグルのデータセンター向けに電力を供給しています。また、米ユタ州では「地熱×データセンター回廊」の構想も進んでおり、地熱資源の近くにデータセンターを集積する動きが見られます。

一方で、EGSには誘発地震リスクや掘削コストの高さといった課題も残ります。日本で本格展開するには、技術検証と並行して、環境影響評価や地域との丁寧な対話を進める必要があります。

日本でも、北海道や東北、九州など地熱ポテンシャルが高い地域でデータセンター立地を模索する動きが出始めています。三井物産とファーボの連携は、地方の地熱資源と都市や海外のAI需要をつなぐ新しいモデルになる可能性があります。

筆者の視点

私は次世代地熱を、AIデータセンター向けのクリーン電源と日本の産業競争力を同時に高め得るテーマとして重視します。資源エネルギー庁の2025年試算では、日本の次世代地熱ポテンシャルは約7,700万kWとされ、その1割にあたる7.7GWを導入した場合でも経済波及効果は29兆〜46兆円規模に達します。

地熱タービンで世界シェア上位にある日本メーカーや総合商社が、FervoやQuaiseといった先端プレーヤーと組んで実証経験を積めば、2030年代の国内案件や海外プロジェクトで技術とファイナンスの両面から主導権を取りやすくなるはずです。その意味で、2026年前後に予定されるFervoの商用EGS稼働の成否と、日本政府が最終化する次世代地熱ロードマップに導入目標と支援策がどこまで具体的に書き込まれるかが、今後数年の投資判断を左右する重要なチェックポイントになると考えます。

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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