CrusoeがAIデータセンターで$14億調達|今週のクライメートテック資金調達 #014

今週は、〔スタートアップ資金調達〕に$2349.6m、〔M&A / Exit〕に$883m、〔プロジェクト・デット〕に$1991mが集まりました(合計$5223.6m、非開示は集計外)。

目次

3行サマリー

スタートアップ資金調達動向:
米Crusoeの$1400m Growthが突出しつつも、欧州の太陽光セル製造やEV充電、バッテリー材料、バイオ由来食品素材、森林の菌根ネットワークまで、残り約$950mがハードウェア寄りの脱炭素スタートアップに広く分散しました。

プロジェクト資金調達動向:
米DOE LPOによる原子力アップレート向け$1000mローン、ADBのインドネシア電力公社向け$470m、カナダ・トルコの鉄鋼・セメント向けデットなど、電力安定供給と重工業の移行を支える大型PFが$1991mに到達しました。

政策動向:
米エネルギー省ローンプログラム局の原子力ローン実行と、スペイン産業・観光省による産業脱炭素PERTEの追加採択が進み、公的金融を通じた排出削減投資の厚みが増しています。

今週の資金調達動向

サマリー(USD概算)

グループ件数開示額合計主な資金種別代表案件
スタートアップ/コーポレート(エクイティ/研究助成等)20$2349.6mGrowth、Series A、Seed、ファンド組成、上場後エクイティCrusoeがデータセンター向けインフラ強化に$1400mのGrowthラウンド
M&A / Exit4$883m完全買収POSCO Internationalによるパーム農園大手Sampoerna Agroの買収案件
プロジェクト系(PF/デット/資産売買)5$1991m政府系・MDBによるプロジェクトローン米Constellationが原子力発電所の出力増強にDOEローン$1000m

— 注:合計は概算・非開示を除く。為替目安:£→$1.33、A$→$0.68、€→$1.10、C$→$0.74、¥→$0.0067(端数は$0.1m未満切り捨て)。通貨併記は一次発表に準拠。

A. スタートアップ / コーポレート

企業/国金額/ステージ概要主な投資家
Crusoe/米国$1400m Growthフレアガスや余剰再エネを用いたデータセンター向けコンピューティングインフラを展開Mubadalaなどグロース投資家
Holosolis/フランス約$259m Growth欧州向け大規模太陽光セル工場を建設しサプライチェーンの自立度を高める計画欧州投資銀行や公的金融機関
RapidSOS/米国$100m Growth救急通報や災害時に位置情報などを統合する公共安全データプラットフォームを提供Apax Digitalなどテック投資ファンド
Nanoramic Laboratories/米国$55m Growthバインダーフリー電極など次世代リチウムイオン電池材料の商用化を進める自動車OEM系CVCやエネルギー投資家
Sortera Technologies/米国$45m GrowthAI選別と機械処理でスクラップ金属などのマテリアルリサイクル効率を高めるインフラ・循環経済特化ファンド
Moment Energy/カナダ約$5m GrowthEV用バッテリーを定置用に再利用する蓄電システムを開発クライメートテック系VCとインパクト投資家
Amperesand/スウェーデン約$88m Series A長距離トラック向け高出力EV充電拠点ネットワークを欧州で構築インフラ投資ファンドや物流系戦略投資家
Flocean/イタリア約$22.5m Series A海洋起源のソリューションでインフラや産業の脱炭素化に挑むスタートアップ欧州のクライメートテックVC
Biocentis/英国約$19m Seed+Grant遺伝子技術で害虫の繁殖制御を行い農薬や感染症対策の代替手段を開発Grantham Foundationほか気候・生物多様性系投資家
Hammerhead AI/米国$10m Seedエネルギーや産業向けにAIで運転計画や保守を最適化するソフトウェアを提供AI特化VCと産業系投資家
PIONIX/ドイツ約$8.8m Late SeedEV充電器向けのオープンソース制御ソフトで相互接続性と導入コスト低減を狙うInnoEnergyなどエネルギー系投資家
Voltrac/スペイン約$7.7m Seed商用車向けの高出力充電プラットフォームと制御ソフトを開発気候テックVCと物流関連の投資家
Chromologics/デンマーク約$7.7m Series A発酵プロセスで合成する天然由来食品色素を商用化し合成着色料の代替を目指すフードテック・インパクト投資ファンド
Rhizocore Technologies/英国約$5.9m Series A菌根菌を活用して森林の成長とレジリエンスを高める自然技術を提供自然資本系VCと森林関連の投資家
RIFT/フランス約$5.0m Seed個人投資家向けにインフラやエネルギー案件への投資機会を開くプラットフォームを運営フィンテック・クライメートテックVC
Eos Energy Enterprises/米国$78m Post IPO Equity亜鉛系長時間蓄電池の製造拡張と商用プロジェクト実装のための上場後エクイティ調達公開市場の株式投資家
Mulilo Energy Holdings/南アフリカ$75m Equity再エネ発電事業と自家消費向け電力供給を拡大するための成長資本Norfundなど開発金融機関
Brookfield EM Climate Solutions Fund/グローバル$100m Fund Commitment新興国の再エネやネットゼロインフラ向け投資ファンドに対する初期出資IFCなど開発金融機関
EIT Urban Mobility/EU約$48.4m Fund Commitment都市のモビリティ改善と排出削減に取り組むスタートアップ向けファンドに拠出EIT Urban Mobility自らがLPとして出資
Touchstone Partners/ベトナム$10m Fund Commitment気候テックや社会課題解決型スタートアップに投資する新ファンドを組成開発金融機関や地域機関投資家

Crusoe — 特集

何が起きた?:Crusoeは、フレアガスや余剰再エネを活用してデータセンターインフラを運営するビジネスで、新たに$1400mのGrowthラウンドをクローズしました。資本効率が重い物理インフラと半導体を組み合わせるモデルとして、スタートアップとしては異例の規模です。

どこまで進んだ?:今回の資金で、米国内外の既存拠点の増強と新規サイト開発、次世代GPUクラスターの導入、自社の「デジタル・フレア削減」設備の展開拡大などが想定されます。AI向けコンピューティング需要の急増に応える体制を整えつつ、排出削減と収益性の両立を図る局面です。

なぜ重要?:AI向けデータセンターは電力需要と排出の新たなホットスポットになりつつあり、再エネ電源とのひも付けや負荷平準化が鍵になっています。Crusoeのように、本来は燃やされて終わるフレアガスや余剰再エネを活用するモデルは、追加的な排出を抑えながら計算資源を提供する一つの解となり得ます。

日本との接点:三井物産が2022年にCrusoeの親会社Crusoe Energy Holdingsに出資し、フレアガスや活用しきれていない再生可能エネルギーなどの余剰エネルギーをコンピューティングリソースに変える事業で戦略パートナーとなっています。日本でもAI向けデータセンター需要と電力制約が同時に高まる中で、同様のモデルは国内事業者にとって具体的なベンチマークになり得えます。

Crusoeについて

会社の概要

Crusoeは、油田などで発生するフレアガスや送電網に載せにくい余剰再エネを活用し、その場で発電してデータセンターやAI向けコンピューティングに使う会社です。従来であれば空気中に放出されるエネルギーを、コンピューティング需要に振り向けることで、排出削減と新たな収益源の両方を狙っています。

何ができるのか(イメージ)

油田や再エネサイトの近くにコンテナ型発電設備とサーバーラックを設置し、その場で発電した電力でAI推論や学習、ブロックチェーン処理などを走らせるイメージです。事業者は、フレアガスを減らす環境対策を実現しながら、追加の収入源としてコンピューティングリソースの販売益を得られます。

技術のしくみ

現地でガスを燃焼させて発電機を回し、その電力でGPUサーバーを動かすという構成自体はシンプルです。ポイントは、燃焼条件や電力制御、冷却を最適化しつつ、クラウドと連携した運用を行うことです。電力の変動に合わせて計算ジョブを配分する制御や、排出削減量のモニタリングも重要な要素になっています。

料金・導入の進め方

エネルギー事業者側から見ると、フレアガス削減や余剰電力の有効活用を目的とした長期契約が想定されます。一方、コンピューティングを利用する側からは、既存クラウドと同様にGPU時間や計算量に応じた利用料モデルが中心で、通常は長期の電力調達契約を意識せずにAIリソースを利用できます。

他社との違い
  • データセンターの新設場所を「余剰エネルギーのある地点」に合わせる発想で、電源制約を逆手に取っている
  • フレアガス削減など明確な排出削減効果があり、ESGやサステナビリティ報告と親和性が高い
  • 物理インフラとクラウドライクなGPUサービスを一体で提供し、AI需要の急増に合わせてスケールしやすい
どこで効果が出やすいか/日本での示唆

油田やガス田、再エネサイトが遠隔地にある地域や、系統制約の強いエリアで特に効果が出やすいモデルです。日本でも、再エネ比率が高い地域や将来の洋上風力クラスター周辺で、類似の「エネルギーの近くにコンピューティングを置く」発想は検討余地があります。

B. M&A / Exit

企業/国金額/資金種別・ステージ概要
Sampoerna Agro/インドネシア$883m 買収POSCO Internationalがパーム農園大手を買収しサプライチェーン統合とバイオマス活用を図る動き
Miyoko’s Creamery/米国非開示 買収植物由来チーズなどを手掛けるMiyoko’sが新オーナーに引き継がれ代替乳製品ブランドの再成長を目指す
JULIENNE BRUNO/英国非開示 買収プラントベースチーズブランドが食品グループに買収され流通網と製造基盤の強化が期待される
BrightLoop/フランス非開示 買収高効率電力変換技術を持つBrightLoopが大手電機メーカーに取り込まれパワーエレクトロニクスの電動化シフトが進む

C. プロジェクト系

企業/国金額/資金種別・ステージ概要
Constellation Energy/米国$1000m プロジェクトローン既存原子力発電所の出力増強や信頼性向上に向けDOEローンプログラム局から長期ローンを確保
PT PLN/インドネシア$470m プロジェクトローンアジア開発銀行からの融資で送配電や再エネ統合を含む電力システムの移行投資を進める
Algoma Steel/カナダ$400m デットカナダ政府系ファンドなどからの融資で電炉化などグリーンスチール投資を加速
Aukera Energy/欧州約$66m プロジェクトファイナンス欧州各国の太陽光や風力案件に対する長期借入枠を確保し開発パイプラインを前進させる
Cimsa/トルコ約$55m プロジェクトローン欧州復興開発銀行のグリーンローンでセメント工場の燃料転換や効率化投資を実施

政策・規制アップデート

原子力アップレート向け連邦ローン — 米国エネルギー省ローンプログラム局(LPO)

米エネルギー省ローンプログラム局(Loan Programs Office: LPO)は、Constellation Energyが保有する既存原子力発電所の出力増強や寿命延長に対し、最大$1000m規模のローンを承認しました。追加の化石燃料電源を増やさずにゼロエミッション電源を増強する狙いが明示されており、今後の原子力延命投資の資金調達モデルの一つと位置づけられます(米DOE LPO)。

産業脱炭素PERTEの追加採択 — スペイン産業・観光省

スペイン産業・観光省は、産業脱炭素を目的としたPERTEスキームの一環として、セメントや製紙などエネルギー多消費産業向けのプロジェクトを新たに採択しました。HYDUM PUERTOLLANOやALIER、CIMSA CEMENTOS ESPAÑAなどが支援対象となり、これまでのラウンドと合わせて約€570m規模・90件超の案件に資金を配分したとされています(スペイン産業・観光省)。

参考文献・出典リンク一覧

一次情報・企業プレス・公的資料

政策・統計・当局資料

CTVC

CTVC Issue #272(本稿は同号の「Deals of the Week(2025年11月中旬〜下旬)」を起点に、一次情報で裏取りし独自に要約・分析しました。先週号は#271)。

略語集

略語正式名称・説明
AI人工知能(Artificial Intelligence: AI)
EV電気自動車(Electric Vehicle: EV)
M&A合併・買収(Mergers and Acquisitions: M&A)
PFプロジェクト・ファイナンス(Project Finance: PF)
DOE米国エネルギー省(U.S. Department of Energy: DOE)
LPOローンプログラム局(Loan Programs Office: LPO)
ADBアジア開発銀行(Asian Development Bank: ADB)
IFC国際金融公社(International Finance Corporation: IFC)
EBRD欧州復興開発銀行(European Bank for Reconstruction and Development: EBRD)
CTVCClimate Tech VC(クライメートテック特化のニュースレター)

注:本記事は一次情報優先で整備し、各リンクは本文の主張を裏付ける目的で掲出しています。金額・通貨・ステージに媒体間で差異がある場合は、企業・当局の一次情報を優先しつつ、$0.1m未満は切り捨てた概算値として整理しました。

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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