「粉砕しない」PVガラスがオフィス家具に——イトーキ×日立×トクヤマ、CO₂最大50%削減の実証

オフィス家具大手のイトーキ、日立製作所、化学メーカーのトクヤマは、使用済み太陽光パネル(PV)から回収した板ガラスを「粉砕せず」そのままオフィス家具にアップサイクルする実証結果を公表しました。試作は金属フレームの会議・プライバシーブース向けパネルで、原料採掘や高温溶解工程を回避できるため、新規製造比でCO₂排出を最大50%削減できるとしています(各社試算)。

目次

何が新しいのか:ガラスを「そのまま」使うという発想

従来のPVリサイクルは、モジュールを粉砕してカレット化(路盤材やガラス原料へ)するルートが主流です。今回の取り組みは、板ガラスとしての形状を保ったまま家具部材に直行させる点が新規性です。再溶解を前提としないためエネルギー投入とCO₂排出を抑えられ、さらにガラス面に残る微細なムラを意匠として活用することで、循環素材ならではの価値を付与しています。

技術の要点:低温熱分解 × 非破壊評価 × 設計工夫

  • 分離回収(トクヤマ):EoLモジュールから低温熱分解で封止材等を除去し、基板ガラスを板状のまま分離します。セルや配線材も分別します。
  • 品質確認(日立):回収ガラスの微小亀裂・劣化を捉える非破壊の強度推定・評価手法を提示し、部材としての信頼性を担保します。
  • 製品化設計(イトーキ):安全性のための合わせガラス化や、ガラス+スチールのハイブリッドパネル構造により、剛性・耐衝撃性を確保します。

数字で見るインパクト

CO₂削減

新規ラミネートガラス製造比で最大50%のCO₂削減が見込めます(採掘・溶解工程の回避による効果です)。再溶解を前提としないため、電力・熱の投入が小さくなり、製品当たりの排出原単位を下げやすくなります。

  • ポイント:製造プロセスの高温溶解工程をスキップできることが削減の主因です。

廃棄ピーク

日本では2030年代に年50万トン規模のPV廃棄が見込まれ、構成比の約60%がガラスです。量的なピークに備え、再溶解ルートと併走する形で「粉砕しない」直行アップサイクルを増やすことが、受け皿の分散につながります。

  • ポイント:原料としての回収に加え、製品部材への直行が再溶解処理キャパシティのボトルネック緩和に寄与します。

用途拡張

会議ブース、パーティション、ドアパネル等への展開により、高付加価値リサイクル(アップサイクル)市場の創出が期待できます。微細なムラや色差を意匠に転換することで、循環材ならではのブランド価値を訴求できます。

  • 想定領域:オフィス内装(吸音・視線制御パネル)、商業施設(サイン一体型パネル)、公共空間(待合・個室ブース)など。
  • 拡張性:合わせガラス化×ハイブリッド構造により、安全・剛性要件を満たしつつ多用途化できます。

事業化の論点:規格・サプライチェーン・コスト

  • 規格適合:飛散・耐衝撃・防火などのJIS/建築基準への適合が鍵になります。
  • 歩留まり:回収→選別→合わせ加工までの歩留まりが重要です。
  • コスト構造:新品ガラス対比の材料・加工コスト内訳が収益性を左右します。
  • トレーサビリティ:由来表示とEPR(拡大生産者責任)との接続、再生材比率の第三者確認が求められます。

関連動向との位置づけ

ガラスメーカー各社では、分解後のカレットを再溶解して新ガラスに戻す検証も進んでいます。今回の「粉砕しない」手法は、再溶解ルートと補完関係にあり、素材から製品へ直行することでCO₂とコストのポテンシャルを高める選択肢になり得ます。

筆者の視点

私はこの実証に「妙手」を感じています。理由は三つあります。

第一に、再溶解を前提にしないことでエネルギー投入とCO₂を根本から削れる点です。

第二に、微細なムラや色の違いを欠点ではなく意匠に変えてしまう設計思想です。

第三に、JISや建基法の規格適合を正面から攻略しにいく姿勢です。

課題は当然あります。サイズ不揃いの在庫管理、歩留まり、そして量産時のコストです。とはいえ、PV廃棄がピークを迎える前に「設計段階から再利用を織り込む」実装例が出てきた意味は大きいと考えます。
私でしたら、自治体の公共空間や駅の内装等から案件化を狙い、評価・認証・LCAを束ねたサービス設計で収益化を試みます。

参考リンク

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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